生成AI

最終更新日:2026/10/20
「庁内でAI活用を推進したいが、他市の事例は規模が違いすぎて参考にならない」「具体的な導入効果を示せず、財政課や議会を説得できない」——そんな悩みを抱える自治体担当者の方は多いのではないでしょうか。
本記事では、総務省の最新データに基づき、自治体のAI導入事例を「庁内業務・住民対応・防災」などの分野別、および「都道府県から小規模町村」までの規模別に徹底解説します。LGWAN環境への対応やセキュリティなど、導入前にクリアすべき課題と具体的な進め方まで網羅。
この記事を読むことで、あなたの自治体の規模に合った最適なAIの選び方と、スムーズに稟議を通すためのロードマップが明確になります。

自治体のAIというと生成AIを思い浮かべやすいのですが、庁内で動いているものはそれだけではありません。紙の申請書を読み取るAI-OCR・住民からの問い合わせに答えるチャットボット・水道管の異常を音で見つける仕組みなど、用途は多岐にわたります。
この記事でも、生成AIとそれ以外のAIの両方を対象にしています。導入が広がっている背景にあるのは、庁内側の事情と住民側の事情、そして国の後押しです。
多くの自治体において、行政改革によって職員数が長期的に絞られてきました。一方で担う業務には、給付金の支給や新しい制度への対応が上乗せされています。人員を増やして対応する方法が取りにくいため、1人あたりが処理する量をどう減らすかが大きな課題です。
会議の議事録作成・議会の想定問答づくり・紙の申請書からのデータ入力といった作業は、判断よりも手を動かす時間の比重が大きいものです。ここをAIに任せられれば、住民と向き合う業務に人を回せます。
総務省の調査でも、生成AIの用途は文案の作成と要約に集中しており、まず作業時間の削減から手をつけている団体が多いことがうかがえます。
民間のサービスでは、深夜でもチャットで問い合わせができ、手続きがスマートフォンで完結することが当たり前になりました。同じ感覚で行政の窓口に来た住民が、平日の日中しか受け付けていない、書類に何度も同じ住所を書かされるという状況に不便を感じるのは自然なことです。
外国人住民が増えている地域では、多言語対応の必要性も高まりました。窓口に通訳を常駐させる負担は大きく、AIによる翻訳や自動応答に一次対応を担わせる方法が取られています。
総務省は「自治体DX推進計画」でAI・RPAの利用推進を重点取組事項に位置づけ、自治体におけるAI活用・導入ガイドブックを継続的に改訂しています。2025年12月16日に公表された第4版では、AI導入時の法令の適用に関する記述が加わり、生成AIシステムの利用ガイドラインの様式も収録されました。
デジタル庁は、政府職員向けの生成AI利用環境「源内」を内製で開発し、2026年4月24日にその一部を商用利用可能なライセンスで無償のオープンソースとして公開しました。公開されたのはWebインターフェースのソースコードと構築手順・AIアプリの開発テンプレートです。自治体はこれをもとに自前のAI基盤を構築できます。

以下の数値は、総務省が2026年4月24日に公表した令和7年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」によるものです。令和7年10月31日時点の状況について、都道府県47団体と市区町村1,741団体の計1,788団体すべてから回答を得ています。
調査年次によって数値が大きく動く領域のため、参照する資料が何年度の調査によるものかを確かめておきましょう。
AIを導入済みの団体は、都道府県が98%、指定都市が100%、その他の市区町村が62%でした。RPAは都道府県98%・指定都市100%に対し、その他の市区町村は44%と差が開いています。AIとRPAの双方を導入している団体は738団体で、全体の41.3%です。
機能別に見ると、導入件数が最も多いのは音声認識の967件でした。次いで文字認識(AI-OCR等)が629件、チャットボットによる応答が続きます。会議録の文字起こしと紙帳票のデータ化が、規模を問わず取り組まれていることが分かります。
生成AIの導入率は、都道府県と指定都市がいずれも100%に達しました。その他の市区町村は45.6%で、過半数がまだ導入していません。小規模な団体では、人材と予算の確保が課題になります。
導入率の差を埋める方法としては、都道府県による共同調達や国が公開した基盤の利用が選ばれています。
活用されている業務として最も多かったのは「あいさつ文案の作成」で1,292件でした。以下、「議事録の要約」1,131件、「議会の想定問答の文案作成」1,085件、「メール文案の作成」1,052件、「企画書案の作成」997件と続きます。
上位を占めるのは、いずれも職員が文章を書く作業です。個別の判断を伴う業務ではなく、下書きを作る部分から使い始めている団体が多いことになります。
なお、133自治体を対象とした民間調査では、実証を含めて生成AIの活用に着手した自治体が78.2%、全庁的に活用している団体が54.9%でした。

AIは、用途によって使われる技術や製品が異なります。対象にしたい業務が決まれば、使う種類もおのずと決まるでしょう。逆に「AIを導入する」という決め方から入ると、適切な製品を比較しにくくなります。
自治体で使われているAIは、担う処理でおおむね5種類に分かれます。それぞれの製品や導入企業は自治体向けAIのサービス比較と企業一覧から確認可能です。
文案の作成・長い資料の要約・翻訳などを担います。既存の業務フローを大きく変えずに試しやすい種類です。
自治体で使う場合は、行政専用のネットワークであるLGWAN環境で動作するかどうかが選定の分かれ目になります。対応の有無は製品ごとに異なるため、自治体向けをうたう製品でも個別に確認が必要です。
また、生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあるため、住民に出す文書は職員が確認する運用とセットで使います。
手書きの申請書やFAXで届いた帳票を読み取り、データに変換します。紙の受付が残っている業務では、入力作業が職員の負担に直結するため、効果を時間で測りやすい種類です。
RPAと組み合わせると、読み取ったデータを基幹システムへ自動で登録できます。詳しくはAI-OCRのサービス比較と企業一覧で各製品の対応範囲を比べられます。
HPやLINEで住民の質問に答えるのがチャットボット、電話の一次対応を担うのがボイスボットです。ごみの分別・各種手続きの案内・休日の問い合わせなど、繰り返し寄せられる質問との相性の良い種類です。
あらかじめ用意した回答を返す方式に加えて、庁内の文書を参照して回答を生成するRAG方式を採用する例もあります。製品の一覧はチャットボットとボイスボットの各カテゴリから確認可能です。
写真や映像から対象を見つける、音の違いから異常を検知する、録音を文字に起こすといった処理を担います。生成AIが登場する前から自治体で使われてきた種類で、インフラ点検や会議録の作成が代表的な用途です。
独自の画像判定や異常検知モデルを構築する場合は、精度を確保するための現場データが必要になることがあります。一方、音声文字起こしなどは既存サービスを利用できるため、必要なデータや導入条件は用途によって異なる点に注意が必要です。会議録の文字起こしに使う製品は、議事録作成AIのサービス比較と企業一覧にまとまっています。
指示に対して答えを返すのではなく、複数の手順からなる作業をまとめて処理するタイプです。申請内容の確認から判定の支援、計算までを一続きで扱えるため、審査業務のように手順が決まっている領域で検証が進んでいます。
任せる範囲が広くなるぶん、対象業務の手順が明確になっているほど導入しやすい傾向にあります。手順が担当者の経験に依存している場合は、AIに任せる範囲や判断基準を定義する作業から始める必要があります。

庁内業務は削減した時間をそのまま効果として示せるため、効果を数値で確かめやすい領域です。総務省の調査でも、生成AIの用途の上位は文案の作成と議事録の要約でした。ただし全庁に配備して終わりにしてしまうと利用が一部の課に偏るため、対象業務を決めて効果測定する形式で進める自治体もあります。
横須賀市は2023年4月、自治体として初めてChatGPTの全庁的な活用実証を開始しました。実証後の職員アンケートでは、約8割が「仕事の効率が上がる」「利用を継続したい」と回答しています。
総務省が2024年7月にまとめた先行団体における生成AI導入事例集では、同市について「年間22,700時間の改善効果を見込んでいる」と紹介されました。同市は知見を他自治体へ公開しており、全国の自治体が参加する情報共有サイト「自治体AI活用マガジン」の運営元でもあります。
参照:横須賀市がChatGPT導入実証結果を発表、今後本格導入へ、先行団体における生成AI導入事例集
東京都は2026年4月、職員向けの生成AIプラットフォーム「A1(えいいち)」の本格運用を始めました。対象は都職員約6万人で、前年9月からの試行運用を経て利用環境と運用ルールを整えたものです。
特徴は、職員が自分の業務に合わせたAIアプリをノーコードで開発できる点にあります。契約仕様書案の作成支援・AI導入時の対応ポイントの案内・都議会議事録をもとにした答弁検討支援などが代表例です。
開発したアプリは庁内で共有でき、ほかの自治体でも再利用できるデジタル公共財としての展開が想定されています。
参照:東京都、職員向け生成AIプラットフォーム「A1(えいいち)」利活用開始
福井県は2026年6月24日、AI議事録作成ツール「YOMEL」を全庁で運用開始しました。対象は県職員約5,400人です。
導入の背景には、議事録や報告書の作成が職員の負担になっていたことがあります。高精度な文字起こしに加えて話者を自動で識別できるため、既存ツールでは手作業になっていた発言者の振り分けが不要になりました。ID数を制限せず利用時間で課金する形を取っており、部署によって使う量が変動する状況にも対応しています。
参照:PKSHA InfinityのAI議事録作成ツール「YOMEL」、福井県に全庁導入
群馬県は、クラウド版AI-OCR「SmartRead」で県民アンケートの入力作業を自動化しました。約2,200名分の回答をPDFにスキャンして読み取り、チェックボックス形式の回答と自由記述欄をあわせて処理しています。
導入前の平成30年に実施した際は、1,003名分を4人体制で対応していました。導入後はデータ入力時間が約75%削減され、体制も3人に減っています。作業時間にすると約150時間分にあたります。
大阪市は日立製作所と共同で、AIエージェントによる業務効率化を検証しました。対象は通勤届の申請・審査業務で、期間は2025年9月から2026年3月までです。
対象にしたのは次の4つの場面です。
これらでAIエージェントを使い、業務時間を将来的に最大約40%削減できる可能性を確認しています。
参照:大阪市と株式会社日立製作所、AIエージェントによる自治体業務効率化を共同検証
このほか総務省の事例集には、次のような効果が収録されています。
大分県別府市では、約2,600件の市民アンケートの自由記述を分類する作業が、職員1人で2週間程度かかっていたところ、生成AIとRPAの活用で2日間程度に短縮されました。紙の帳票では、岩手県久慈市がAI-OCRとRPAの併用で入力作業時間を約8割削減しています。

住民対応でのAI活用は、職員の負担軽減と住民の利便性向上の両方を目的にしています。設計で難しいのは、AIに任せる範囲と有人対応に引き継ぐ範囲をどこで区切るかという点です。区切り方は、庁舎の対面・Web・電話のどの接点かによって変わります。
豊島区は2026年6月15日から2027年3月31日まで、区役所本庁舎1階の総合案内ブース付近でAIアバターによる窓口対応の実証を行っています。デジタルサイネージに映したアバターが、来庁者の問い合わせに自動で応答する仕組みです。
英語・中国語・韓国語の翻訳機能を備えており、複雑な問い合わせは遠隔のオペレーターによる有人対応へ切り替えられます。AVITA社のアバター接客サービス「AVACOM」を使っています。
参照:豊島区、区役所本庁舎でAIアバターによる窓口無人対応の実証実験を開始
静岡市は2026年3月、公式ホームページとLINE公式アカウントで「AIコンシェルジュ」の提供を始めました。市のHPに掲載されている情報を、対話形式で案内します。
想定しているのは、制度の正式名称が分からない住民や、どのページを見ればよいか判断できない住民です。質問が曖昧な場合はAIが何度も聞き返して意図を特定し、案内内容の根拠となるページも併せて提示してくれるのが特徴です。
参照:静岡市、公式HPとLINEで「AIコンシェルジュ」提供開始
三次市は2026年7月1日から31日まで、音声AIによる電話対応の実証を実施しました。市民が専用ダイヤルに電話をかけ、「乾電池は何ごみ」といった質問を話しかけると、AIが分別方法と収集日を案内します。
24時間の自動応答に対応しており、AIが判断できない質問は三次環境クリーンセンターへ転送されます。市の公表によると、実証期間中の着信は394件で、そのうち195件(49.5%)が業務時間外でした。職員への転送に至った通話は20件(5.1%)です。
ごみの分別ではLINEでの案内もあり、静岡県焼津市が導入しています。窓口の受付そのものをAIに任せる例では、大阪府河内長野市が対話型AIを導入して市民と職員の双方の負担を減らしました。
参照:広島県三次市、音声AI活用の電話対応の実証実験を実施、ごみ出し問合せAI電話実証結果について(三次市)
名古屋市は国民健康保険料の催告業務で、生成AIと機械学習を組み合わせた実証を進めています。滞納者の属性データと交渉履歴を分析し、効果的な接触方法を検証するものです。
架電にはボイスボットを使い、電話がつながりやすい時間帯の特定・通話中のSMS連携・多言語での案内を組み合わせました。対応言語は英語・ベトナム語・やさしい日本語の3つです。
2025年11月にAIによる架電を開始し、2026年1月からは架電の時間と内容を対象ごとに変えて収納率の変化を見る段階に移りました。市の成果報告では、納期前に自動架電した世帯の納付率が、架電しなかった世帯を3か月間で4.4ポイント上回っています。
住民が庁舎まで足を運ぶ負担を減らす方向では、東京都の荒川区と大田区が自治体をまたいだ遠隔での区民サービスの実証を始めています。
参照:名古屋市、生成AIや自動架電を活用した国民健康保険料催告業務の効率化に関する実証を実施、生成AI・自動架電を活用した国民健康保険料の納付促進 成果報告(Hatch Technology NAGOYA)

相談業務は内容が一人ひとり異なり、機微な情報を含みます。AIに任せる範囲と職員が引き取る範囲を先に決めておかないと、住民に不適切な回答が届くおそれも否定できません。そのため、相談業務では、AIだけで完結させず専門職と組み合わせる運用が基本です。
山形市はLINEを使った相談支援「つながりよりそいチャット」を2024年7月から運用しています。相手の話に耳を傾けて反応を返す傾聴型の生成AIを開発し、専門スタッフとのハイブリッド型で相談に対応する仕組みです。
総務省の自治体DX事例集によると、開始から約8か月で相談は合計9,000件程度にのぼり、うち約7,500件を生成AIが対応しました。AIが対応した件数を人件費に単純換算した場合、年間約2,000万円相当と試算されています。庁内調整と業者選定から運用開始まで、およそ10か月で立ち上げています。
参照:自治体DX事例集
天草市は2026年5月、AIチャットボット「あまくさ子育て応援AIコンシェルジュ」の本格運用を開始しました。同年2月26日から3月17日まで実証事業を実施し、その結果を踏まえて本格運用に移しています。
子育てに関する手続きや制度の質問に、自然な文章のまま回答します。アプリのインストールは不要で、パソコンとスマートフォンのどちらからでも利用可能です。回答には関連するホームページのリンクと出典が表示されるため、住民が元の情報を確認できます。
参照:天草市、AIチャットボット「あまくさ子育て応援AIコンシェルジュ」本格運用を開始
出雲市は2025年7月にNAVER Cloudと業務協約を締結し、AI音声モニタリング電話サービス「NAVER CareCall」の検証を始めました。対象は一人暮らしの高齢者や中高年の単身世帯です。
AIが定期的に電話をかけ、相手に合わせたやりとりをします。通話中に異常の兆候を検出した場合は、福祉担当者や病院など地域の関係機関と即時に連携する仕組みです。市内の福祉事業者の協力のもとで高齢者約70名を対象に約9か月の検証を重ね、2026年4月から正式提供が始まっています。
参照:出雲市、韓国企業NAVER Cloudと業務協約を締結、高齢者向けAI音声モニタリング電話サービス「NAVER CareCall」島根県での実証実験を経て正式提供
横浜市は2025年9月に一般財団法人在宅がん療養財団と連携協定を結び、同年12月から生成AIによるがん相談サービス「よこはまランタン」の提供を始めました。生成AIを使ったがん相談サービスの自治体での実証としては日本初とされています。
生成AIと検索拡張生成(RAG)を組み合わせ、がん患者と家族に情報を提供する仕組みです。スマートフォンやパソコンから24時間匿名で相談でき、市の助成制度・がん検診・市内の施設情報など横浜市独自の情報も答えます。
福祉相談では東京都八王子市が生成AIを使った窓口「はちココ」を開設しました。相談を受ける職員側の負担に対しては、児童相談所での面談記録にAI音声認識を使う取り組みや、ケアプランの作成を支援するAIの開発も進んでいます。
参照:横浜市、自治体で日本初となる生成AIを活用したがん相談サービス「ランタン」の実証を開始、よこはまランタン(横浜市)

防災とインフラの分野では、現場の設備やデータが揃っていることが導入の条件になります。庁内業務のように「まず使ってみる」形では始めにくく、既存の点検体制や避難計画と組み合わせが必要です。導入までの期間も長く、複数年度にわたる実証として進む例もあります。
宇都宮市上下水道局は2025年3月から、AIによる漏水検知の実証を行っています。KDDIとwavelogyの2社と組み、漏水音のデータ収集と診断の効率化を進めるものです。
現場で集めた漏水音をモバイルネットワークで伝送し、wavelogyのAI漏水検知ツール「SuiDo」が解析します。狙いは、経験を積んだ技術者に依存せずに漏水音を集められる体制をつくることにあります。
つくば市は2025年5月12日から2028年3月まで、デジタルサイネージを使った避難支援の実証を実施しています。バカン社の技術で避難所などの混雑状況を検知し、サイネージに配信する仕組みです。
平時は気象情報と防災啓発を表示し、災害時には緊急情報と避難所マップに切り替わります。現在地付近の避難所の場所と混雑状況を地図上で確認できるため、住民が空いている避難所を選べます。将来的にはマイナンバーカードと連携した入退所管理や避難者名簿の作成にも対応する予定です。
参照:つくば市が災害時の避難支援を目的としたデジタルサイネージの実証実験を開始
災害対応そのものにAIを使う動きもあります。名古屋市は南海トラフ地震を想定した防災訓練で、SNSや気象データから被害状況を把握するAIリアルタイム防災・危機管理サービスを使いました。実際の災害時に情報がどう入ってくるかを、訓練の段階で確かめておく取り組みです。
野生動物による被害への対応にもAIが使われています。カメラの映像からクマの出没を検知して通知するサービスが提供されており、山形県朝日町ではデンソーと連携した害獣検知・防犯システムの実証が行われました。
ごみの分別精度を上げる取り組みとしては、東京都町田市がAIを活用した資源循環モデルの実証を始めています。

市区町村の過半数がまだ生成AIを導入していない背景には、単独では予算も人手も確保しにくいという事情があります。都道府県や指定都市と同じ進め方は取りにくく、導入の形そのものが変わってきます。単独調達を前提にせず、外部の枠組みに乗る方法があるかどうかが検討の分かれ目です。
埼玉県は2026年4月から、県内の公共団体を対象に生成AIの共同利用を始めました。県と県内全市町村で構成する「埼玉県市町村DX推進ネットワーク」に専門部会を設置し、シフトプラス社の「自治体AI zevo」をLGWAN環境で共同利用する形です。
共同利用するのは、以下15の自治体です。
個々の団体で調達と運用を行う場合に比べ、導入と運用の負担を抑えられます。
人口約4,000人の鳥取県日南町では、2時間の会議の議事録作成に3時間以上かかっていました。少人数の体制で通知文・広報・答弁の作成が重なるため、文章業務の集中が住民サービスの質に直結する状態だったそうです。
音声の自動文字起こしと要約を導入したことで、会議後の最終調整は約10分程度で済むようになりました。アンケート分析での第三者視点の提示、イベント名やキャッチコピーの案出し、町内放送や広報誌の原稿作成にも使っています。
宮若市はプレイネクストラボと共同で、デジタル庁の生成AI「源内」を活用した実証を2026年8月から2027年3月まで実施しています。庁内文書やマニュアルを使ったナレッジ検索・異動時の業務引継ぎ支援・業務情報へのアクセス時間の短縮が検証の対象です。
狙いは、経験年数による情報格差を減らし、組織として知識を蓄積・共有できる仕組みをつくることにあります。源内は政府職員向けに開発された環境ですが、その一部がオープンソースとして公開されており、自治体は同じ構成の環境を自前で構築できます。詳しくはガバメントAI「源内」とはを確認してください。
参照:プレイネクストラボ、福岡県宮若市と共同でデジタル庁生成AI「源内」を活用
小規模な団体の動きはほかにもあります。新潟県妙高市は対話型AIエージェントを使った実証を開始しました。大分県は県内の組織づくりを支援する拠点を設けて市町村を含めた活用を後押ししています。

導入後に起きる問題の多くは、製品の性能ではなく庁内の決めごとが揃っていないことに起因します。
自治体DX推進協議会が2026年6月から7月に41都道府県133自治体を対象に行った調査では、課題の最多が「職員のリテラシー不足」の82.7%でした。次いで「個人情報・機密情報の取り扱い」が63.2%、「利用ルール・ガイドラインの未整備」が40.6%と続きます。いずれも製品を選ぶ前に手をつけられる論点です。
自治体では「三層の対策」に基づき、マイナンバー利用事務系・LGWAN接続系・インターネット接続系を分けて対策しています。そのため、利用したいAIサービスがどのネットワークから接続できるのかを事前に確認する必要があります。
製品選定では、LGWAN環境での利用可否に加え、接続方式・扱える情報・庁内の情報セキュリティポリシーへの適合性を情報システム部門と確認しておきましょう。対応していない製品を使う場合は、インターネット接続系の端末を別に用意する、画面転送の仕組みを挟むといった運用が必要です。
どの系統でどの端末から使うのかを、情報システム部門と先に詰めておくと選定が進めやすくなります。
住民の個人情報を生成AIに入力できるかは、個人情報保護法や各団体の個人情報保護・情報セキュリティに関する規程、製品側のデータ取り扱い条件などを踏まえて判断します。入力したデータを学習に使わないことを明示している法人向けプランかどうかは、必ず契約前に確認しておきたい点です。
あわせて、入力を禁止する情報の範囲を庁内で明文化しておきましょう。氏名や住所だけでなく、公表前の政策情報や入札に関する情報も対象に含めます。
生成AIは、学習していない事柄について事実と異なる内容を出力することがあります。制度の名称や適用要件を尋ねると、実在しない制度をもっともらしく説明してしまいます。
対策は、庁内の文書を参照させて回答を生成するRAGの利用と、職員による確認の組み合わせです。横浜市のがん相談や宮若市のナレッジ検索でRAGが使われているのも、回答の根拠を庁内の資料に限定するためです。
住民に直接出す回答は、根拠となるページを表示させて住民自身が確認できる形にする方法もあります。
課題として最も多く挙がったのが、職員のリテラシー不足でした。使いこなす職員と一度も開かない職員に分かれると、全庁で導入しても効果が一部にとどまります。
有効なのは、業務に即した使用例を庁内で共有することです。東京都のように職員が作ったAIアプリを共有できる形にする、横須賀市のように他自治体へ知見を公開するといった方法があります。研修を一度実施して終わりにせず、部署ごとの使用例を持ち寄る場を定期的に設けるのも一案です。
次年度の予算要求では、削減できる時間を金額に換算した数字が説明材料になります。山形市が相談対応の件数から人件費相当額を算出したように、既存業務にかかっている時間を先に測っておきましょう。
予算が確保しにくい場合は、都道府県による共同利用や国の基盤の利用によって初期費用を抑えられます。小規模な団体では、単独調達以外の方法から検討すると選択肢が広がります。

対象にする業務が決まらないまま製品を比べても、判断の基準が定まりません。以下の順序で進めると、庁内の合意を取りながら範囲を広げられます。総務省の自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>にも同様の流れが示されており、様式類はそのまま利用できます。
各課の業務を棚卸しし、作業時間が長く手順が決まっているものを候補に挙げます。判断の要素が少ない業務ほどAIに任せやすく、効果も測りやすくなります。
優先順位を決める基準は、削減できる時間の大きさと導入の難易度です。紙の帳票が残っている業務や、同じ問い合わせが繰り返し寄せられる窓口は、最初の候補になりやすい領域です。
対象業務が決まったら、使ってよい情報の範囲・出力の確認方法・記録の残し方をルールとして定めます。ガイドブック第4版には生成AIシステムの利用ガイドラインの様式が収録されているため、ゼロから作る必要はありません。
国の考え方はデジタル庁が策定した生成AIの調達・利活用に係るガイドラインにもまとまっています。策定の進め方は生成AIガイドラインとはが参考になります。
いきなり全庁に広げず、特定の課で期間を区切って試行します。試行の段階で、導入前の作業時間と導入後の作業時間を同じ条件で計測しておきます。
測定していないと、次の段階で予算を要求する根拠が作れません。利用件数のほかに、次の3点まで記録しておくと全庁展開の判断材料になります。
試行の期間は、庁内の予算要求の時期から逆算して設定しましょう。要求に間に合う時点で結果が出る規模に絞ると、次年度の事業化につなげやすくなります。
試行の結果を庁内で共有し、対象部署を段階的に広げます。展開時には、使い方の研修とあわせて、実際の業務でどう使ったかの事例を集める仕組みも必要です。
利用が伸びない部署が出た場合は、研修不足なのか対象業務が合っていないのかを切り分けます。業務との相性が悪い場合、研修を重ねても利用は増えません。
ここまで紹介した取り組みは、対象にした業務も規模もそれぞれ異なります。
共通しているのは、製品を先に決めたのではなく、削減したい作業や応えきれていない住民の要望から入っている点です。庁内で候補を挙げるときも、どの課のどの作業を変えたいのかを1文で書けるかどうかがスタート地点になります。
対象が定まったら、同じ分野で複数の製品を横並びで比べる段階に移ります。
分野別の製品と提供企業は自治体向けAIのサービス比較と企業一覧から、他団体の取り組みは行政・官公庁・地方自治体の導入活用事例とChatGPT自治体導入事例カオスマップから確認が可能です。
アイスマイリーでは、生成AIのサービス比較と企業一覧を無料配布しています。課題や目的に応じたサービスを比較検討できますので、ぜひこの機会にお問い合わせください。
ChatGPTの個人向けワークスペースでは、設定によって会話内容がモデルの改善に利用される場合があります。一方、ChatGPT BusinessやEnterpriseなどでは、組織の入力・出力はデフォルトでモデル学習に使用されません。多くの自治体は、法人向けプランや自治体向けに提供されているサービスを使っています。 判断の分かれ目は、入力データを学習に使わないことが契約上明示されているか、そしてLGWAN環境で利用できるかの2点です。庁内のセキュリティポリシーに照らして、情報システム部門と確認したうえで決めます。
LGWAN環境に対応した生成AI・AI-OCR・チャットボット・ボイスボット・議事録作成ツールなど、自治体での利用を前提にした製品が各社から提供されています。データを国内で処理することを条件にしている団体向けの製品もあるため、自団体の要件に合うか確認が必要です。
製品の種類と利用規模によって幅があり、一律の相場は示しにくいのが実情です。生成AIは利用者数や利用時間による課金が中心で、AI-OCRは読み取る枚数によって費用が変わります。 予算を抑えたい場合は、埼玉県のような都道府県単位での共同利用や、デジタル庁が公開している源内のような国の基盤を使う方法も選択肢です。まず試行の範囲を絞り、効果を測ってから規模を広げると、要求できる予算の根拠も揃います。
生成AIやチャットボットには、専門知識がなくても使い始められる製品があります。東京都のようにノーコードでAIアプリを開発できる環境もあり、開発経験のない職員が業務に合わせた仕組みを作る例も出てきました。 一方で、ネットワーク構成の確認や個人情報の扱いの判断には情報システム部門の関与が必要です。使う側と支える側で役割を分けておくと進めやすくなります。
住民の権利義務に関わる判断や、個別の事情を踏まえた裁量が必要な業務は職員が担います。生活保護の要否判定や課税の決定のような法令にもとづく処分では、AIだけに最終判断を委ねず、職員が確認する運用が必要です。 AIが向いているのは、下書きの作成・情報の検索・繰り返し寄せられる質問への一次対応です。名古屋市の催告業務でも、AIが担うのは分析と架電までで、納付相談の内容や滞納処分の判断は職員が行います。
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