GX(グリーントランスフォーメーション)とは?必要とされる背景や政府の対応、企業の取組事例を紹介
最終更新日:2024/04/05
排出量実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」が世界的に注目される中で、日本国内においても、経済産業省が主体となってGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する動きが加速しつつあります。カーボンニュートラルを達成するためには、国と企業が一体となってGXに取り組み、排出量削減を実現することが重要です。
本記事では、GXの基礎知識や必要とされる背景、政府の対応、企業の具体的な活用事例などについて詳しく解説します。
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GX(グリーントランスフォーメーション)とは?
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、経済産業省によって提唱された、カーボンニュートラルを達成するために必要な、社会や経済のシステム変革を指す言葉です。
カーボンニュートラルとは、「2050年までに温室効果ガスの排出をプラスマイナスゼロにする」という考え方のことです。工場で排出された温室効果ガスの総量から、植林や森林管理によって吸収された温室効果ガスの総量を差し引いて、実質的な排出量をゼロにすることが、カーボンニュートラルの基本的な考え方です。従来式の化石燃料から、再生可能エネルギーに転換することも大きな目標のひとつです。
日本では、2030年に温室効果ガスを46%(2013年度比)削減する目標を掲げています。また、2050年にカーボンニュートラルの達成を計画しており、そのためには、カーボンニュートラルにスムーズに移行するための社会全体のシステム構築が必要不可欠です。カーボンニュートラルの実現に向けて、政府・企業・個人が一丸となって取り組んでいくことが求められています。
GXとDXの関係性
近年では、IT技術を活用して企業のイノベーションを促す「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が多くの企業で注目されています。従来のような人間の手に頼った業務体制を大きく変革し、システムによる自動化や省力化によって新たなビジネスモデルを創出することで、顧客に新たな価値をもたらし、市場における産業競争力を維持できます。
DXの実現は、GXの推進にも大きく関わります。GXを達成するためには、事業全体の温室効果ガスの排出量を把握するために、サプライチェーン全体の動きを可視化しなければなりません。しかし、サプライチェーンの動きをアナログで捉えることは難しく、システム化によるデータ収集が求められます。
DXによってIT技術を社内に取り入れ、データを収集して可視化できる環境を整えることが、自社の温室効果ガスの排出量を可視化してカーボンニュートラルを実現することにも繋がっていくのです。
GXが必要とされる背景
GXが必要とされる背景には、地球温暖化対策を企業にとっての「成長機会」と捉える動きが加速していることや、カーボンニュートラルへの取り組みが世界中で進められていること、DX推進と親和性が高いことなどが挙げられます。
GXの推進は、単に温室効果ガスの削減によって環境問題を改善するだけでなく、企業の成長と切っても切り離せない取り組みとなりつつあるでしょう。ここでは、GXが必要とされる背景について詳しく解説します。
地球温暖化対策を「成長機会」と捉える時代に突入した為
地球温暖化対策は、今や企業にとっての「成長機会」と捉えられる時代になりました。近年では、SDGsなど環境問題や持続可能な開発に配慮した、いわゆる「サステナビリティ経営」を行える企業に価値が見いだされる傾向にあり、単に「品質の良い製品」を開発するだけでは、市場における産業競争力を維持することは難しくなってきています。
そこで、地球温暖化が進行している現状を悲観的に捉えるのではなく、自社のビジネスモデルを変革し、さらなる発展の機会と捉える動きが強まってきているのです。
この動きに先駆けて、経済産業省では、GXをきっかけに企業が成長していくための指針として、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を提唱しています。
世界規模でカーボンニュートラルへの取り組みが進行している為
近年では、世界規模でカーボンニュートラルへの取り組みが進行しています。世界中のあらゆる国と地域が温室効果ガスの排出量ゼロへ向けた施策を展開しており、2021年4月の段階で、126の国と地域が2050年までにカーボンニュートラルを実現する意向を示しています。
一例として、アメリカはカーボンニュートラルが法定化され、2050年までに少なくとも68%の温室効果ガスを削減(1990年比)することが取り決められました。また、世界的に温室効果ガスの排出量が多い中国では、2030年までに温室効果ガスの排出量を減少に転換し、2060年のカーボンニュートラル達成を目指しています。
他にも、EUは長期的な戦略として排出量の削減目標を設定するなど、世界を上げてカーボンニュートラルへの取り組みが本格化する中で、日本も足並みを揃えた取り組みが求められているのです。
DXの取り組みと親和性が高い為
前述のように、GXはDXへの取り組みから発展していく可能性が高い取り組みです。最新のIT技術を取り入れて業務効率化や人件費削減を達成し、既存のビジネスモデルに新たな価値を持たせることは、市場における産業競争力を維持・向上する上で欠かせません。
最新のIT技術を導入すると、社内のデータを統合的に収集・管理・分析できるようになり、全社的な生産や売上に関わる情報も高精度で把握しやすくなります。これにより、生産工程で排出される温室効果ガスがどのくらいの量になるのかを正確に捉えて、排出量の削減を目指すサステナブル経営に貢献します。
近年では、環境・社会・ガバナンスの3つの要素を重視して経営している企業に価値を見出し、積極的に投資する「ESG投資」を行う投資家も増えてきています。このような市場動向も併せて押さえながら、GXとDXの推進を両立させるための取り組みを行うことが大切です。
GXに対する政府の対応
GXに対する政府の主な対応として、経済産業省による「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の策定や、GX推進に向けたシステム変革を行う場である「GXリーグ」の設立があります。ここでは、2つの取り組みを紹介します。
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の策定|経済産業省
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略とは、2020年10月に日本が宣言した「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、企業が取るべき成長戦略の方針を示したものです。
地球温暖化対策を「経営上避けられないコスト」と捉えるのではなく、「自社の成長機会」と捉えて、ビジネスモデルの変革や社会の構造改革に役立てる政策のことを「グリーン成長戦略」と定義しています。
グリーン成長戦略では、政府が主導して、具体的かつ企業が取り組みやすい環境を作ることが重要であると述べられています。そこで、GXにおいて特に成長が期待されている14の分野について、政府としての具体的な取り組みを紹介しているのが「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の内容です。
電力部門における再エネや水素発電、産業・運輸・業務・家庭部門における電化政策など、カーボンニュートラルの実現過程で問題となる「電力の確保」を主軸にした数々の方針を打ち出しています。
「GXリーグ」の設立|経済産業省
前述の2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略と並行して経済産業省が創設したのが、GX推進に向けて社会構造やビジネスモデルの変革を推進するために、具体的なシステム変革について議論・実施を行う「GXリーグ」です。
GXリーグでは、GXを推進するために、官民一体となって新たな市場の創造に向けた取り組みを行うことを目的としています。
GXリーグの本格稼働は、現在のところ2023年4月以降を予定しています。この動きに先駆けて、GXリーグがどのような方針で活動していくべきかを議論する「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」が開催されました。この研究会では、GXリーグが目指す世界や参画企業の考え方、具体的な取り組みなどに関する基本構想がまとめられました。
GXリーグの本格始動に先駆けて、カーボンニュートラルを実現するために排出量を売買する「カーボン・クレジット」を含めた、いくつかの実証事業を2022年秋以降に実施する予定です。
GXリーグ参画企業に求められる取り組みとは?
GXリーグ参画企業には、「自社の排出量削減への取り組み」「サプライチェーンにおける炭素中立に向けた取り組み」「製品やサービスを通した市場における取り組み」の3点が求められます。
自社の排出量削減への取り組みにおいては、GXリーグへの賛同企業である自覚を持ち、従来の自社の排出量について具体的な削減目標を設定するとともに、削減に向けた施策を自ら行うことが重要です。場合によっては、カーボン・クレジットの活用も検討する必要があるでしょう。
サプライチェーンにおける炭素中立に向けた取り組みでは、自社が関わるバリューチェーンにおいて、温室効果ガスの排出量を削減するための行動を取ることが不可欠です。自社だけでなく、自社に関わる取引先を含めたステークホルダーに対し、カーボンニュートラルへの理解を促すことも大切です。
製品やサービスを通した市場における取り組みにおいては、開発過程や使用段階において、排出量を削減できるような製品やサービスを開発することが求められます。
企業のGXの取り組み事例
GXに対する認知度が高まってきた昨今では、さまざまな企業がGXに向けた具体的な取り組みを始めています。これからGXに取り組み始めるのであれば、既存の事例を参考にすると良いでしょう。ここでは、3つの企業におけるGXの取り組み事例を紹介します。
アビームコンサルティング
アビームコンサルティングでは、2030年までにカーボンニュートラルを達成し、排出量ゼロを目指す取り組みを行っています。具体的には、「 再生可能エネルギーの活用」と「省エネルギーの推進」の2つの取り組みを推進しています。
同社の拠点はテナントビルに入居しているため、直接的に排出量の削減に関わるのではなく、ビルオーナーとの連携による再生可能エネルギーの調達や利用に向けた調整を実施しています。また、本社ビルで使用している電力は、2021年4月に再生可能エネルギーに由来した電力へ切り替えが完了しました。
省エネルギー推進においては、エネルギー使用量や二酸化炭素の排出量をモニタリングし、夜間の自動消灯やエリア別の空調設定によって、実際にCO2排出量の削減効果が表れ始めています。
日産自動車株式会社
日産自動車株式会社では、経済産業省が提唱した「GXリーグ基本構想」に賛同し、GX推進に向けた取り組みを行っています。
同社では、2050年のカーボンニュートラル実現を目標として、2030年代早期から発表する予定の新型車を電動車両に統一する予定です。また、これに伴う電動化技術と生産技術の革新を推し進めています。
他にも、2030年に向けた長期ビジョンとして「Nissan Ambition 2030」を掲げ、電動化に5年間累計2兆円の投資を予定して最先端技術への取り組みを強化するなど、GXリーグの考え方と合致する点が多いことから、GXリーグ基本構想への賛同を決断しました。今後は他の賛同企業と協力して、GXの仕組みづくりに関わっていく構想です。
三菱ケミカルホールディングス
三菱ケミカルホールディングスでは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた方針を公表しています。同社の目標は、2030年までに温室効果ガスの排出量をグローバルで29%(2019年度比)削減することと、2050年までにカーボンニュートラルを達成し、温室効果ガスの排出量をゼロにすることの2点です。
同社は2020年2月に「KAITEKI Vision 30」という中長期経営基本戦略を策定しており、2050年の社会の在り方に「GHG(温室効果ガス)インパクトニュートラル」が達成されていることが条件のひとつであると述べています。
この目標の実現のために、自社だけでなくバリューチェーン全体を通した取り組みを進めてきた同社ですが、新たに「Scope1」と「Scope2」の2つのグローバルなGHG削減目標を設定しています。
AI技術を活用したGX支援ツール
企業のGXを支援するためのツールとして、AI技術を活用したものが数多く登場しています。ここでは、アイフォーコム・スマートエコロジー株式会社のエネルギー予測技術と、株式会社グリッドによる「ReNom Apps」の2つのツールを紹介します。
エネルギー需要予測|アイフォーコム・スマートエコロジー株式会社
アイフォーコム・スマートエコロジー株式会社では、さまざまなエネルギーの予測システムを提供しています。気象影響や外的要因、周期変動など、あらゆる要素で変動するエネルギー需要を、高度なAI技術で正確に予測可能です。
同社では15年以上に渡って5,000施設以上のエネルギー計測とマネジメントを行ってきた実績があり、豊富な知識と経験を活かして、単にAIを活用したデータ分析ではなく、専門性の高い分析を実現しています。
予測対象は電気需要量、熱量(熱負荷)がメインです。電気需要量は、工場やオフィスビル、教育施設、医療施設など、業種・業態を問わない電気需要量の予測できます。一般家庭でも利用可能です。
熱量予測は、ボイラーや冷温水発生機にも対応しているため、地域熱供給の予測に役立ちます。他にも、ガスや水道に関わるエネルギー需要にも対応できます。環境省が提唱している、快適な室内空間を維持しながら施設の一次エネルギー消費量をゼロにするための「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」実現にも活用できるでしょう。
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ReNom Apps|株式会社グリッド
株式会社グリッドが提供する「ReNom Apps」は、顧客の業務を仮想空間上に再現して、将来的なコストや二酸化炭素の排出量など、さまざまな経営指標を可視化するツールです。また、AIが自動的に計画を算出し、最適な二酸化炭素の削減計画を策定できます。
「CO2排出量シミュレーション」では、デジタルツインと呼ばれるプラットフォーム上に自社のビジネスモデルを再現して、複数のシナリオを再現することで、将来的な二酸化炭素の排出量をシミュレート可能です。何度でも柔軟にシナリオを変更できるため、経営層の意思決定を円滑にします。
また、シミュレーションによって生成されたデータを参考に、AIが最適な排出量削減計画を策定できるため、GX推進における業務効率化や コスト削減を図れます。
さらに、業務システムとの連携が可能であり、社内システムとAIが算出した排出量削減計画を連携したアプリケーションを開発することで、業種・業態を問わず社内のGX化を促進します。
まとめ|GX推進・AI活用はコンサルタントにご相談ください
GX推進は、経済産業省が主体となって官民一体で推進していくことが推奨されており、今後は「GXリーグ」などの新たな取り組みも開始される予定です。既にGXに取り組んでいる企業の事例も参考にしながら、自社としてのGX推進の形を築き上げていくと良いでしょう。
自社だけでGX推進やAI活用を進めていくのが難しいと感じる場合は、専門知識を持ったコンサルタントに相談するのも手段のひとつです。アイスマイリーでは、GX推進やAI活用のお悩みに対して無料相談を受け付けています。
「GXにどうやって取り組めば良いのか分からない」「AI活用が不安」など、GXに関する知識が全くない方でも、最適な計画やツールをご提案します。GX推進に向けた取り組みをご検討の際は、下記フォームよりお気軽にご相談ください。
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