第5回 AI×ドローンで農地パトロールを効率化する【澤田光の行政×AI最前線】
最終更新日:2023/12/20
人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになるSociety5.0を目指して、行政の情報化が進められています。しかし、自治体の現場では、「実際何に取り組んだら良いのか?」、「やれと言われてもどうしたらよいか分からない」、「そもそも何から手を付ければよいのか?」など、戸惑う声も多く聞かれます。どうしたら自治体でAIの活用が進むのでしょうか。
【澤田光の行政×AI最前線】では、実際にAIを活用した取り組みを行っている自治体の事例をご紹介し、そうした疑問に答えていきます。
今回は、人工衛星データを使ったAI診断システム「ACTABA(アクタバ)」とドローンを活用した全国初の「ハイブリッド型センシング」で、農地パトロールの効率化を実現した広島県尾道市の事例をご紹介します。尾道市農業委員会の市川局長と、高橋さんにお話を伺いました。
尾道市農業委員会 市川昌志事務局長
――導入のきっかけとプロセスについて教えてください。
――市川局長
農地法に基づく農業委員・農地利用最適化推進委員による農地パトロール調査は、毎年8~9月の酷暑の中、全ての農地を、紙の地図を使って現地調査で確認していました。ところが、委員の高齢化が進み、平均年齢は71歳であり、真夏の活動は体力的にもしんどくなっています。また、尾道市は北から南まで広いエリアで、急傾斜地や島しょ部などいろいろな条件の農地があるうえ、イノシシやシカなどの鳥獣被害を防ぐための防護柵があったり、西日本豪雨災害の影響で未だ侵入困難な場所があったり、真夏はマダニやマムシなどの被害もあるので、事故やケガなども心配です。何とか楽に農地パトロールをすることができないか、安全な場所からドローンで確認できないだろうかと考えたのが最初のきっかけです。
――市川局長
2020年に、ドローンの技術支援を行っている地元企業の大信産業株式会社さんに相談したところ、デモフライトをやっていただくことになりました。実際にやってみると、半日かけてやっていた調査が1時間で終わり、広大なエリアを見ることができて、体力的にも楽にやれることが分かりました。そこで、翌年(2021年)は、広島県のサンドボックス事業を利用して、尾道市をフィールドとして提供し、農地課題の解決に取り組むスタートアップのサグリ株式会社のAI診断システム「アクタバ」とドローンを併用し、効率的で安全な農地パトロール調査の実証実験を行いました。AIの診断を基に、耕作放棄地を対象に目視調査を行い、侵入困難な農地や急傾斜地の農地では、ドローンを飛ばしてドローンの空撮画像で、安全に目視調査を実施し、その調査結果をアクタバにフィードバックしてAIの学習精度を高めるものです。この実証実験で、効率的で安全な調査ができることが確認され、2022年度からは、本格導入をしています。ドローンの導入や、アクタバの導入をしている自治体は増えてきましたが、その両方を組み合わせてやっているのは、まだウチだけだと思います。
――具体的には、どのようなことをされているのですか?
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/archives/koushien/chiiki/pdf/34-4.pdf
――市川局長
人工衛星は、時系列で農地を1年通して見ています。それをAIが繰り返し学習することで、耕作放棄地を推定します。尾道市では70%以上の耕作放棄地率で示された農地を調査しており、事務局のパソコンで、AIが示した耕作放棄地70%以上のところを指定し、委員のタブレットに転送すると、委員がタブレットを持って現地を見に行き、目視で確認します。タブレットで、農地をタップして色をつけると、事務局のパソコンにフィードバック送信されるという流れです。上図のように、緑色は営農地、赤色の部分が耕作放棄地です。もし、急傾斜地などで、目視できないときは、ドローンを飛ばしてドローンの画像で確認するので、時間的にも体力的にも楽にできます。
今年の夏は、1週間かけていたものが3日で終わりました。最初は、委員の方々は、タブレットを使うことに対して抵抗があり、「わしら年寄りにこんなものは」と言われていましたが、「大きいスマホと同じです。」と説明し、農地パトロールに行く前にちょっと使い方をレクチャーして慣れていただくと、「もう、地図は使うとられん」となりました。委員さんからの気づきもあります。山の中は電波が届かなかったり、白地の地盤に白文字は見にくいとか、実際の耕作放棄地がAIの予測と違っていたり、そのようなことをAIにフィードバックして精度を上げてもらっています。
尾道市農業委員会
左:農地係長 高橋知佐子さん 右:市川昌志事務局長
――高橋さん
これまでは、こんなに大きい図面を作って、現場に行く度に広げて確認していたんですよ。今では近くまで行って、道が無かったり、入れそうにないときは、ドローンをあげてみて、「あーやっぱり荒れとるね。」「上がらんで良かったね。」「楽したねー。」と、安全かつ効率的な調査が可能になりました。
――高齢化している委員さんの負担に対応することができるだけでなく、農地パトロールの効率化が素晴らしいですね。今後はどのようなことを考えておられますか?
――市川局長
現在は、8~11月にタブレットをリースしていますが、農地法による農地の現地調査は毎月ありますから、通常の委員としての活動についても、タブレットで見て、データを入れ込んだり、できれば通年でやりたいと考えています。委員さんも使っていないと忘れるので、通年でタブレットに触っていただいたほうが良いですしね。
AIのデータについては、過去の調査結果を反映できないか、昨年と今年のデータをダブル画面で比較して見ることができると、もっと利用できるんじゃないかと思っています。そうした改善を重ねていくと、アクタバにもこちらにも、お互いにとって、もっとより良い調査ができると考えています。
市川事務局長のアイデアは、次々と新しい取り組みへと進んでいますし、サグリ社と大信産業のAIとドローンのハイブリッドセンシングは、農地パトロールの効率化だけでなく、衛星データ解析で広域的な農地ごとの植生状況や土壌状況を評価し、ドローン解析で局所的に詳細な解析、可変施肥などを行うことも実現しています。
尾道市をフィールドに始まった取り組みは、尾道市全域のみならず、尾道市周辺の市町村にも広がっており、今後は日本全体に広がっていくことが期待されます。
本連載で取り上げて欲しいテーマや事例がございましたら、お問い合わせフォームにご意見をお寄せください。読者の皆様に寄り添った連載を目指して参ります。
編集:AIsmiley 編集部 中村優斗
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