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最終更新日:2025/11/19
澤田光の行政×AI最前線 第15回
人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになるSociety5.0を目指して、行政の情報化が進められています。しかし、自治体の現場では、「実際何に取り組んだら良いのか?」、「やれと言われてもどうしたらよいか分からない」、「そもそも何から手を付ければよいのか?」など、戸惑う声も多く聞かれます。どうしたら自治体でAIの活用が進むのでしょうか。
【澤田光の行政×AI最前線】では、実際にAIを活用した取り組みを行っている自治体の事例をご紹介し、そうした疑問に答えていきます。

広島県神石高原町(じんせきこうげんちょう)は、広島県の東部、岡山県との県境に位置する高原の町です。標高はおよそ400〜500メートルで、中国山地の南端にあたり、豊かな森林と美しい渓谷に囲まれています。2025年9月時点の人口は7,636人。高齢化率は50.78%に達しており、深刻な高齢化が進んでいます。
こうした中、神石高原町ではドローンを活用したまちづくりに力を入れています。2025年7月には、全国で初めて町民自らが大型ドローンを操縦し、災害時に重さ30kgの物資を運搬するデモンストレーションが行われました。取り組みのきっかけは、2018年の西日本豪雨災害です。当時、町の職員は災害対策本部や避難所の運営に追われ、現場の被災状況を十分に把握できませんでした。その経験から、町では町民をドローンパイロットに養成する取組みを行っています。現在では、物資輸送にとどまらず、認知症の方の捜索、災害時の状況確認、害獣対策など、さまざまな分野でドローンの活用が進められています。
今回は、神石高原町が取り組むドローン活用の優先課題のひとつ、「宅配ドローンの戸配対策」へのアプローチとして実施された、AIによる地上の人物検知に関する実証実験をご紹介します。
神石高原町産業課商工観光係長の中野達也氏にお話を伺いました。

神石高原町 商工観光係長 中野達也さん
――神石高原町では、地元住民がドローンオペレーターとして活躍されているそうですね。
――中野さん
令和元年度から、地域でドローンを操縦する担い手の養成を始めました。町内を4つの地区に分け、それぞれに5人以上を配置する計画を立てており、現在は26人のオペレーターが活動しています。中心となっているのは30代・40代の住民で、全員が地元出身です。
ドローンの資格を取得するには、およそ20万円ほどかかりますが、その費用は町が負担し、最初の資格取得をサポートしています。また、オペレーターの皆さんには「ドローン活用研究会」に所属してもらい、町から年間10万円の予算を交付しています。これは移動費や消耗品の購入などに充ててもらっています。
――具体的には、どのような活動をされているのでしょうか?
――中野さん
主な活動は、行方不明になった認知症の方の捜索や、山林火災の際の出動などです。
認知症の方の捜索では、地元の消防団も出動しますが、池の向こう側や川の対岸、崖下など、人が入りにくい場所はドローンで確認します。また、飛び降りの多い橋で車や靴が見つかった際に、警察から要請を受けて橋の下100メートル付近を捜索したこともあります。山林火災では、延焼範囲を上空から確認し、「どの方向に火が進んでいるか」を消防本部や消防団に伝えるなど、現場支援の要請も増えています。
――ドローンオペレーターの訓練も行っているのですね。
――中野さん
はい。防災科学技術研究所が考案した訓練プログラムを取り入れています。
内容は、ドローンを使って「いかに短時間で正確に写真撮影を行うか」「どれだけ鮮明な画像を撮れるか」を競うものです。地上にプラスチック製のバケツを並べ、その中にアルファベットや記号を入れておき、それを決められた時間内に撮影して戻るという訓練を行います。各オペレーターには月2回の自主飛行訓練を義務付けており、飛行時間や撮影精度のデータを集計して、3回・5回の平均記録などを比較しながら技術の向上を図っています。こうした訓練を通じて、オペレーターの技術を“見える化”し、誰がどのレベルの操縦技術を持っているかを把握しながらやっています。
――まち全体を実証実験のフィールドとして提供している神石高原町ですが、AIを活用した取り組みも進めているそうですね。
――中野さん
はい。現在、物資搬送の実証実験を継続しています。ドローンは携帯電波が届く範囲であれば問題なく飛行できますが、安全性を確保するためには山の上を飛ばす必要があります。しかし中山間地域では電波が届かない場所が多く、それが大きな課題でした。
そこで、Wi-Fiの電波を発信できる小型装置「Wi-Fiフェロー」を活用し、ドローンの飛行ルート上に設置して通信を補完する実験を実施しました。その結果は成功し、これにより薬品などの重要物資の輸送も可能になりました。
――Wi-Fiで繋がっていないと、どのような問題が起きるのですか?
――中野さん
通信が途絶えると、ドローンが正常に飛行できなくなります。電波が切れると挙動が不安定になり、GPSを受信できなくなってしまうため、どこに飛んでいくか分からなくなるのです。NECさんと、そうした緊急時の安全対策についても実証実験を行っています。たとえば、飛行ルートから1〜2メートル外れた場合には、自動で電源を遮断し、同時にパラシュートが開く仕組みを検証しています。ドローンの重量によって必要なパラシュートの大きさも異なるため、パラシュートメーカーには30〜40kgの荷物を積載した状態に対応できる大型パラシュートの開発を依頼しています。
――ドローンの実用化には、さまざまな課題があるのですね。他にはどのような課題がありますか?
――中野さん
機体の性能自体は年々向上しており、積載量や飛行距離、ルートの最適化も進んでいます。
たとえば災害時に集落が孤立した場合、毎日薬を服用する必要のある方にドローンで薬を届ける体制まではすでに構築できています。しかし、現状ではオペレーターが現地にいなければならない点が課題です。
今後の実用化には、自動飛行・自動着陸の仕組みが欠かせません。AIを活用して、ドローンが自動で荷物を届け、「お届け物が到着しました」「ドローンから離れてください」「ボタンを押してください、帰還します」といった音声案内ができるようにする必要があります。特に高齢者の方にとっては操作が難しく、利用頻度が低いと手順を忘れてしまうことも多いため、AIによるサポートが重要です。ドローンに搭載するAIの精度を高めなければ、本格的な実用化は難しいのです。
こうした課題を踏まえ、私たちはその第一歩として「宅配ドローンの戸配(とはい)対策」に向けた実証実験を行いました。ドローン・ジャパン社、イームズロボティクス社、アドバンテック社、NECソリューションイノベータ社と協働し、地上の人物検知に関する実験を実施しています。
2024年3月には、神石高原ティアガルテンの芝グラウンドで実験を実施しました。NECソリューションイノベータ社が開発したAIプログラムを搭載したドローンを使用し、上空50m(真下・カメラ角度90°)や上空20m(斜め・カメラ角度60°)など、さまざまな高度・角度で検知性能を確認しました。実験では、「歩行者を検知できるか」「着陸時に人を検知して停止し、人が離れたら再開して着陸できるか」など複数のシナリオを設定し、いずれも良好な結果を得ることができました。

資料提供:神石高原「AIドローン実証実験計画書(NECソリューションイノベータ社)」
――AIがさらに向上すれば、宅配ドローンの実用化を後押し出来そうですね。ほかにもドローンを活用している事例はありますか?
――中野さん
中山間地域では農作物へのイノシシ被害が深刻なため、害獣対策にもドローンを活用しています。
赤外線カメラで夜間の動きを確認したり、群れの行動パターンを把握したりすることで、農家の方々の被害軽減に役立てています。生態調査ではイノシシの個体数を把握することはできますが、実際の駆除となると簡単ではありません。イノシシは夜に巣穴をつくり、朝5時から午前10時ごろまではその巣穴で眠っています。そのため、私たちはイノシシが寝ている時間帯にドローンを飛ばし、超音波を照射して驚かせ、逃げ出したところを猟友会の方々の協力を得て駆除しています。猟友会の皆さんの長年の経験と、ドローンのテクノロジーを掛け合わせた“ハイブリッドな駆除” を目指して実験を重ねています。

資料提供:神石高原町
――今、全国的に問題となっている熊の対策にも応用できそうですね。最後にドローンフィールドの活用について教えてください。
――中野さん
町内には「コスモドーム」というドーム型の施設があります。
この建物は屋根の構造上、屋内でもGPS信号を受信できるため、雨の日でもドローンを飛ばすことができるんです。屋外では雨天時の飛行が難しいため、コスモドームは訓練や合宿の頻度が非常に高く、ドローン操縦者の貴重な練習場になっています。宿泊施設も併設されており、ドームのすぐ横には広いフィールドグラウンドもあります。
また、神石高原町は高高度飛行の実証実験にも最適な環境です。上空に航空路が通っていないため、高度制限がなく、どの高さまででも安全に飛行できます。しかも、24時間365日利用可能で、使用料は1時間あたり1,000円と非常に安価です。さらに、「神石高原町と共同で実証実験を行う」旨を掲げていただければ、無料で利用することもできます。
事前の調整も少なく、希望すればすぐに使えるフィールドですので、ぜひ積極的に活用していただきたいと思います。

資料提供:神石高原町
中山間地域では、人口減少と高齢化が進み、地域の生活基盤をどう維持していくかが大きな課題となっています。人手不足は深刻で、流通や防災、害獣対策など、あらゆる分野で人の力だけでは限界が見え始めています。そうした中で、AI技術を活用したドローンは、地域の社会資源を支える重要な存在として期待されています。
神石高原町は、豊かな自然環境と広大な空域という地域資源を活かし、全国に先駆けてドローン活用に取り組んできました。住民を担い手とし、企業や研究機関と連携しながら進めている「ドローンによる地産地防事業」は、まさに地域の自立と未来への挑戦です。AIドローンの開発もその一環であり、今後、さらなる技術の進化と実用化が大いに期待されています。
中野さんはこう語ります。
「ネットショッピングでは、今や翌日や翌々日には物が届くのが当たり前です。しかし、5年後、10年後、神石高原町に一週間に何便も荷物が届くでしょうか。もしそうでない状況になったら、果たして誰がこの町に住みたいと思うでしょうか。だからこそ、今のうちにその課題を解決していかなければならないのです。」
中野さんは、そんな強い使命感を胸に、役場での取り組みにとどまらず、自らNPO法人(天空未来塾)を立ち上げ、神石高原町の未来のために日々活動を続けておられます。
本連載で取り上げて欲しいテーマや事例がございましたら、お問い合わせフォームにご意見をお寄せください。読者の皆様に寄り添った連載を目指して参ります。
編集:AIsmiley 編集部
【澤田光の行政×AI最前線】バックナンバー
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