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HPCとは?基本的な仕組みから重要性や活用シーンまで解説

最終更新日:2024/03/12

これまで、大学や国立研究所のほか、一部大企業の研究開発分野でしか利用されていなかったHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)。しかし、最近ではビッグデータ分析や機械学習、AIなどに関わる業務を行う一般企業で活用されるケースも珍しくありません。

そこで今回は、AIやIoTを活用したサービス開発を行っている企業に向け、HPCの仕組みや活用のメリット、主な活用シーンなどについてお伝えします。HPCのサービス導入を検討している担当者の方はぜひ、参考にしてください。

機械学習について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
機械学習とは?種類や仕組み、活用事例をわかりやすく簡単に説明

HPC(ハイパフォーマンス コンピューティング)とは

HPCとは、ハイパフォーマンスコンピューティングの略称で、複雑な計算やデータ処理を高速で行うことが可能な機能、システムを指します。テレビのニュースや新聞などでよく耳にする、スーパーコンピューターはHPCソリューションの一つです。

これまで、一般的な企業ではあまり活用されることのなかったHPCが注目を集めるようになった理由の一つに5Gの普及があります。4Gから5Gへの移行により、通信速度の飛躍的向上が実現したことで、AIやIoTを活用したサービスも当たり前のように使われるようになりました。

しかし、AI、IoTの拡大に伴うデータ量の急増により、従来のデータ処理速度では対応が難しく、高精度のデータを高速で処理できるHPCに注目が集まるようになっているのです。

HPCの仕組みと一般的なコンピュータとの違い

HPCが一般的なコンピュータと比べ、高速処理が可能な理由の一つは、超並列コンピューティングである点です。一般的なコンピュータは、主に直列(逐次)処理で問題解決を行うため、仮に3つのデータを処理するには、1から順番に処理を行います。

これに対し、HPCは複数のコンピュータサーバーやプロセッサで、1~3のデータを並列、つまり同時に処理をするため、高速な処理が可能です。

またHPCは、大量のデータを複数のコンピュータにノードとして振り分け並列で処理しますが、この際、それぞれ異なるノードを一元管理するスケジューラーを備えています。これがコンピュータークラスターもしくはHPCクラスターと呼ばれるものです。

そして、HPCクラスター内のあらゆるコンピューティングリソースは、おしなべて高速、高スループット、低遅延の部品(コンポーネント)です。これにより、一般的なコンピュータに比べ、高速処理を実現しています。

HPCのメリット

HPCの活用は、ビジネスにさまざまなメリットをもたらします。なかでも主なものとして挙げられるのは次の2点です。

ビッグデータの効率的な活用

IT技術の進化により、これまでは取得が難しかった多くのデータも比較的容易に取得できるようになっていますが、ビッグデータは蓄積するだけでは意味がありません。

蓄積したビッグデータを効率的に活用するには、高速なデータ処理が求められます。HPCはこれまで時間と手間がかかりすぎてしまい難しかったビッグデータも高速に処理できるようになるため、競合に遅れをとることなく効率的な活用が可能です。

物理テストにかかっていたコストの削減

HPCを活用すれば、物理テストにかけていたコストの削減も実現します。たとえば、建設業で建物の耐震テストを行う場合、これまでであれば縮小モデルを作成し、実際の地震と同じ震度を起こしてテストをしなければなりませんでした。

しかし、HPCでシミュレーションをすれば、モデルを作成する必要も震度を起こしてのテストも必要なくなり、手間やコスト削減につながります。

HPCの重要性と将来性

現在、HPCが持つ大量のデータを高速に処理する能力はさまざまな分野で活用されています。代表的なものとしては、地震や台風、津波といった自然災害の被害予測、海水の温度上昇によりどのような影響が生まれるかといった地球環境問題。

そして、新型コロナウイルスの飛沫感染予測シミュレーションなど医療分野での活用が挙げられるでしょう。HPCはこれらの課題解決に、現在はもちろん将来的にはさらに重要な役割を担うと考えられています。

また、IT分野においてもHPCの活用が欠かせません。人々の生活をより豊かにするためのAIやIoTの進化には大量のデータ分析処理が求められますが、これもHPCなくしては難しいといえるでしょう。

HPCは、ビジネスにおいて競合他社に先んじて成果を上げるため、データの高速処理を行うといった企業の課題解決を実現させるだけのものではありません。

人々の生活や未来をより豊かにするうえで欠かせないものであるからこそ、重要なものであると同時に将来性を持った機能、システムです。

実際、株式会社グローバルインフォメーションが2020年12月に発表した、「HPCの世界市場-2025年までの予測」で、HPC市場規模は2020年の378米億ドルから2025年までに494億ドルまで拡大すると予測しています。

参考:株式会社グローバルインフォメーション「HPCの世界市場-2025年までの予測」

HPCとAI

AIを進化させるには、大量のデータを使い繰り返し学習させなくてはなりません。しかし、大量のデータを処理し、学習させるには多大な時間と手間がかかります。場合によっては数週間、数ヶ月とかかってしまう場合もあるでしょう。

たとえば、音声認識にAIを使う場合、データ量が少ないとエラーを起こす確率が高まり、正確な認識が難しくなりますが、大量のデータを使えば相応の時間を要します。しかし、HPCを使えばデータ量を10倍、20倍と増やしても短時間で認識を行え、エラーが起こる確率の低減も可能です。

この結果、これまでは難しかったさまざまな実験が可能になり、HPCによりAIは各段に進化していくと予測されています。

HPCの活用シーン

現在、HPCはさまざまな分野、業種で活用されています。ここではそのなかでも主な活用シーンを見てみましょう。

金融サービス

金融業界では、取引の自動化を実現するための株価動向リアルタイム分析や取引を行う際のリスク分析にHPCが活用されています。

また、クレジットカード取引のリアルタイム分析を行うことによる、不正取引の検出にもHPCの高速データ処理が欠かせません。

医療

前述した新型コロナウイルス飛沫感染予測シミュレーション以外にも、ワクチンの作成や薬の研究など革新的な治療法の開発により、迅速かつ正確な診断に貢献しています。

エネルギー

石油やガスの採掘現場において、正確にドリル位置の特定にもHPCによるシミュレーションが効果を発揮します。

また、地震データ処理や風力シミュレーションなど自然エネルギーにおいても、HPCにより無駄のない有効活用が可能です。

エンターテインメント

エンターテインメントにおいても、HPCの活用により新たな世界が生まれています。少し例を上げるだけでも、AIやVRを活用したゲーム開発や映像作品の制作、遠隔地からのライブストリーミング、映像での特殊効果レンダリングなど枚挙にいとまがありません。

HPCの主要コンポーネント

HPCの主要コンポーネントは、「コンピューティング」「ネットワーク」「ストレージ」の3つです。

コンピューティング・コンポーネントは、マザーボードやCPU、ハードディスクなどを指し、特定のタスクを完了させるために求められるパーツで構成されたコンポーネントです。

ネットワーク・コンポーネントとストレージ・コンポーネントは、高速処理を実現するため、常に同じ速度を維持し、処理を行っています。適切なデータの保持、ネットワークの接続により、アクセスした際には迅速な処理を実行。HPCインフラストラクチャ全体のパフォーマンス向上に寄与します。

HPCのシステム設計

HPCのシステム設計は、用途に応じていくつかの種類に分けられます。主なものとして挙げられるのは次の3点です。

  • 並列コンピューティング
    複数のコンピュータやプロセッサを使い、それぞれで同時にタスク処理を行うためのシステムです。
  • クラスタコンピューティング
    複数のコンピュータをネットワークで相互接続し、1つのシステムとしてタスク処理を行うものです。
  • グリッドコンピューティング
    基本的には、クラスタコンピューティングと変わりません。異なるのは、クラスタが数台のコンピュータを接続してタスク処理をするのに対し、グリッドは数百台規模のコンピュータを使ってタスク処理をする点です。

HPCのワークロード

ワークロードとは、一般的に稼働しているコンピュータにかかる負荷、仕事量などを意味します。HPCのワークロードで主なものは、並列ワークロードと密結合ワークロードです。

並列ワークロード

並列ワークロードは、並行して処理を行う細かく単純なタスクに分割しますが、それぞれの間での通信はほぼ行われません。

主な使用例としては、自動車衝突エミュレーション、地理空間シミュレーションなどです。なお、並列ワークロードは、驚異的並列ワークロードとも呼ばれます。

密結合ワークロード

密結合とは、細分化されているそれぞれのコンポーネントが密接に結合している状態を示すものです。密結合ワークロードは、大きな共有ワークロードを継続的に通信する細かなタスクに分割します。

主な使用例としては、計算流体力学、気象予測、油層シミュレーション、自動車衝突エミュレーション、地理空間シミュレーションなどです。

オンプレミスHPCとクラウドHPCとの違い

HPCのタイプは主に2つに分けられます。それは、オンプレミスとクラウドです。用途や予算などによりどちらかもしくは併用することになりますが、そのためにはそれぞれのメリットや注意点の把握が欠かせません。まずは、オンプレミスHPCのメリットと注意点を解説します。

オンプレミスのメリットと注意点

オンプレミスHPCのメリットは、サーバーやストレージなどを自由に選択、設置できる点にあります。自分たちの研究やシミュレーションに最適な構成を実現できる点は、オンプレミスHPCの大きなメリットといえるでしょう。

注意点としては、社内での管理が必要になるため、保守管理の手間やコスト、担当者が必要になる点です。また、すべてのコンポーネントを自分たちで揃え、アップデートも行わなければならないため、その分のコストもかかってしまいます。

また、急激な需要増があった場合に対応が難しくなる点も注意が必要です。サーバーやストレージを増強するにしても、設置するスペースの確保も必要になるため、場合によっては一旦、稼働を止めなくてはならないケースもありえるでしょう。

クラウドのメリットと注意点

オンプレミスHPCのメリット、注意点について把握したところで次はクラウドHPCのメリットと注意点について解説します。

クラウドのメリット

オンプレミスHPCに対し、クラウドHPCの主なメリットは次のとおりです。

常に最新のHPCを活用できる
クラウドHPCであれば自社でサーバーやストレージ、ネットワークなどのハードウェアやインフラを用意することもアップデートする必要もありません。常に最新のHPCを利用できます。もちろん、目的に応じて必要なときに必要な分だけ使えるのも大きなメリットといえるでしょう。

セキュリティリスクが軽減される
データのなかには、顧客データや機密データなど厳重なセキュリティで管理すべきものも少なくありません。自社で管理するとなれば、セキュリティ対策にも手間やコストがかかってしまうでしょう。しかし、多くのクラウドサービスは万全のセキュリティ対策を取っているため、自社で管理するよりもセキュリティリスクは軽減されます。

クラウドの注意点

クラウドHPCの主な注意点は次のとおりです。

カスタマイズ性は高くない
オンプレミスHPCであれば、ハードウェアやインフラの選択、カスタマイズを自由に行えます。しかし、クラウドの場合、基本的に用意されているものを利用するため、カスタマイズ性は低くなってしまうでしょう。

料金システムの確認が必要
クラウドHPCの利用料金は、利用した分だけ支払う従量課金制もしくは定額制のどちらかが一般的です。一見、従量課金制のほうがコストを抑えられると思われるかもしれません。

しかし、データ量が急増した場合や利用頻度が上がった際には利用料金が高騰してしまうデメリットもあるでしょう。

利用目的によって需要予測が難しい場合は、定額制の選択がおすすめになります。どのような用途、目的で使うかを明確にしたうえで選択することが重要です。

HPCの重要性は今後ますます高まる

5Gの普及もあり、企業が扱うデータ量は各段に増加しています。また、新たな技術であるAIやIoTを進化させていくには、大量データの高速処理が欠かせません。

価格面や使いこなせる人材が少ないことから一部の研究機関や大学、大手企業でしか利用できなかったHPCですが、現在はコストを抑えた利用も進んでいることから一般企業でもHPCが活用されるようになっています。

医療、金融、製造、エンターテインメント、小売などさまざまな業種でAI活用が求められるようになっている今、HPCの重要性はますます高まっていくでしょう。

HPCの環境構築やHPCを活用したAI環境構築を検討の際は、ぜひお気軽に資料請求ください。

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