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デジタルスキル標準(DSS)Ver.2.0とは?DX人材の定義からスキルの測り方・活用法まで

最終更新日:2026/10/26

dss

経営からの「DX人材育成」の指示に対し、育成計画の枠組みづくりでつまずいていませんか?

「自社のDX人材とは誰か」を定義しようにも、一般的な解説記事では抽象的な分類名が並ぶだけで、自社の実務にどう落とし込めばよいか見えてきません。おまけに、デジタルスキル標準は2026年4月に大きな改訂(Ver.2.0)が入っており、手元の資料が最新かどうかの判断も難しい状況です。

この記事では、最新版であるVer.2.0をベースに、デジタルスキル標準の全体像から改訂の変更点、そして企業での具体的なスキルの測り方や活用法までを一挙に解説します。「自社でどう使うか」に焦点を当てているため、読後すぐに育成計画の見直しに取りかかれます。

デジタルスキル標準(DSS)とは

デジタルスキル標準(DSS)は、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定した、DXを進めるために必要な知識・スキル・役割をまとめた指針です。

DSSはDigital Skill Standardsの略で、「ディーエスエス」と読みます。

政府から企業へ適用が義務づけられた制度でも、合格・不合格を判定する資格制度でもなく、人材の育成や採用におけるスキル証明として使うものです。

IPAは策定の目的について、次のように説明しています。

このDX推進における人材の重要性を踏まえ、個人の学習や企業の人材確保・育成の指針として、以下の2種類からなる「デジタルスキル標準(DSS)」を策定しました。 (デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的|IPA)

ここでいう2種類とは、全てのビジネスパーソンを対象とする「DXリテラシー標準(DSS-L)」と、DXを推進する専門人材を対象とする「DX推進スキル標準(DSS-P)」です。対象者も、書かれている内容の粒度も異なります。

全ビジネスパーソン向けのDXリテラシー標準(DSS-L)

DXリテラシー標準(DSS-L)は、職種や部署を問わず全てのビジネスパーソンが身につけるべき内容を定めたものです。経済産業省が2022年3月末に公開しました。

項目 内容
対象 職種・部署を問わず、組織に属する全員(営業・人事・経理・製造の現場を含む)
定めているもの DXがなぜ必要なのかを自分の仕事に引き寄せて理解し、行動できる状態
構成 マインド・スタンス/Why/What/Howの4要素
公開 2022年3月末(経済産業省)

技術の使い方そのものより、社会や顧客の変化を認識し、データや技術で何ができるのかを知り、扱ううえでのモラルやセキュリティを理解しておくという組み立てです。

DX推進人材向けのDX推進スキル標準(DSS-P)

DX推進スキル標準(DSS-P)は、DXを推進する専門人材の役割と、習得すべきスキルを定めたものです。職種ではなく役割を単位にしている点が特徴です。

項目 内容
対象 DXを推進する専門人材
定めているもの 役割(人材類型とロール)と、習得すべきスキル
構成 6つの人材類型/17のロール/全類型に共通するスキルリスト
公開 2022年12月21日(経済産業省・IPA)

IPAが経済産業省とともに有識者ワーキンググループを設置して検討し、DSS-Lと合わせてデジタルスキル標準Ver.1.0として公開しました。

なお、DX推進スキル標準はDXスキル標準と略して呼ばれる場合もありますが、資料上の名称は「DX推進スキル標準」です。

DSS-L・DSS-Pの使い分け

DSS-LとDSS-Pは、対象も使いどころも違います。

DXリテラシー標準(DSS-L) DX推進スキル標準(DSS-P)
対象 全てのビジネスパーソン DXを推進する専門人材
使いどころ 全社の底上げ 専門人材の役割の定義
主な用途 全社研修の設計、従業員の自己点検 育成計画、採用要件、スキルの可視化

DXの取り組みが部署をまたぐほど、社内の共通言語としてのDSS-Lと、担当者の役割を決めるDSS-Pの両方が必要になります。

デジタルスキル標準が策定された背景

デジタルスキル標準が策定されたのは、DXという言葉が広まる一方で、企業ごとにDX人材が指す範囲がばらばらだったためです。

例えば、ある企業が「データ分析をできる人材が欲しい」というニーズを持っているとします。
ところが現場では、求人票の段階で基盤構築の経験者を募集し、さらに応募者はさらに別職種の経験を持っているといったずれが起きてしまうのです。また、研修サービスを比較する際にも、比べる軸が社内にないため提案の良し悪しを判断できません。

策定から数年が経った現在も、DXを取り巻く課題は残っています。AI活用の効果が業務効率化に偏っていることと、DXを推進する人材が足りていないことです。

業務効率化に偏るAI活用の効果

IPAが2025年度に実施した調査では、AI導入による具体的な効果として「業務が効率化したり迅速化した」を挙げた企業が91.6%に達しました。

一方で「売上や利益が向上した」は3.9%、「顧客満足度が向上した」は4.5%にとどまっています。

参考:国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開|IPA

効率化には手が届いても、事業の成果に結びつくところまでは進んでいない状況が読み取れます。「どの業務をどう変えるのか」を決める役割を、社内のどの部署に置くのか。デジタルスキル標準が職種ではなく役割を単位に人材を定義しているのは、この問いに答えるための作りだといえます。

デジタル人材の不足

同じ調査で、DXを推進する人材の量について「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した企業は合計85.5%でした。人材が足りないという認識は、規模や業種を問わず広く共有されています。

ただし、不足を埋める手立ては採用だけではありません。社内にいる人材がどのスキルをどの水準まで持っているのか分からないままでは、採るべき人も育てるべき人も決まらないためです。デジタルスキル標準は、社内のスキルの現状を確認する項目を外から借りてくる資料として使えます。

DXリテラシー標準(DSS-L)の4つの要素

DXリテラシー標準は、マインド・スタンス、Why、What、Howの4つで構成されます。この4つは資格試験の出題範囲ではなく、社内研修を設計するときの観点や、従業員が自分の理解度を確認するためのチェック項目として使うものです。

要素 内容 含まれる項目
マインド・スタンス DXに向き合う姿勢・行動のあり方 変化への適応/事実に基づく判断/常識にとらわれない発想/反復的なアプローチ/コラボレーション/柔軟な意思決定/顧客・ユーザーへの共感
Why DXの背景 社会の変化/顧客価値の変化/競争環境の変化
What DXで活用されるデータ・技術 社会におけるデータ/データを読む・説明する/データを扱う/データによって判断する/AI/クラウド/ハードウェア・ソフトウェア/ネットワーク
How データ・技術の利活用 ツール利用/データ・デジタル技術の活用事例/モラル/セキュリティ/コンプライアンス

マインド・スタンス

マインド・スタンスは、知識ではなく行動のあり方を示す要素です。7つの項目が置かれており、いずれも「知っているか」ではなく「そう動けているか」を問う形になっています。

たとえば「反復的なアプローチ」は、計画を固めきってから動くのではなく、小さく試して結果を見ながら直していく進め方を指します。「事実に基づく判断」は、経験や勘ではなくデータを見て決める姿勢です。研修で扱いにくい領域ですが、ここが揃わないまま知識だけを入れても、現場の意思決定は変わりません。

Why(DXの背景)

Whyは、そもそもなぜDXが必要なのかを理解するための要素です。社会の変化・顧客価値の変化・競争環境の変化という3つの視点が置かれています。

Whyが独立した要素として置かれているのは、DXが単なるデジタル化の作業として受け取られないようにするためです。

自社の顧客が何を求めるようになったのか、競合がどう動いているのかを踏まえずにツールだけを導入すると、現場で使われないまま費用だけがかかる「お荷物」になってしまう恐れも。全社研修では業界の事例を交えてWhyから入ると、後続の内容が自分の仕事とどのようにリンクするのか分かりやすくなるはずです。

What(データ・技術)

Whatが扱うのは、DXで使うデータとデジタル技術の知識です。データについては、読む・説明する・扱う・判断するという4つの段階で項目が置かれ、技術についてはAI・クラウド・ハードウェアとソフトウェア・ネットワークが並びます。

技術の細かい仕組みまで理解する必要はありません。求められているのは、社内で技術の話が出たときに議論に参加できる程度の理解です。データと技術の知識を全社で底上げしたい場合は、デジタルリテラシーの考え方とあわせて研修内容を組むと、対象範囲を決めやすくなります。

How(データ・技術の利活用)

Howは、データや技術を実際に使うときの内容です。ツール利用と活用事例に加えて、モラル・セキュリティ・コンプライアンスが含まれます。

生成AIの業務利用が広がったことで、Howの重要度は上がっています。社外に出してはいけない情報を入力しない、出力をそのまま使わずに確認する、著作権の扱いを理解しておくといった内容は、全社員が対象になるためです。

DXリテラシー標準の各項目をどう研修に落とすかについては、DXリテラシーとはのページで詳しく紹介しています。

DX推進スキル標準(DSS-P)の6つの人材類型

DX推進スキル標準は、類型とロールという2階層で人材を定義しています。類型は役割のまとまりを示す大きな区分で、ロールはその中の具体的な役割です。Ver.2.0では6つの類型に17のロールが置かれています。

ここで定義されているのは職種名ではありません。1人が複数のロールを兼ねることも、1つのロールを複数人で担うことも前提に作られています。

自社の職務と一対一で対応させようとすると無理が出るため、どの役割が社内にあり、どれが欠けているかを確認する用途で使います。自社のDX人材像を考える前提としては、DX人材とは?必要なスキルや育成方法、求められている背景も解説もあわせて参考になります。

人材類型 ロール
ビジネスアーキテクト ビジネスアーキテクト/ビジネスアナリスト/プロダクトマネージャー
デザイナー サービスデザイナー/UX/UIデザイナー/コミュニケーションデザイナー
データサイエンティスト データビジネスストラテジスト/データサイエンスプロフェッショナル
データマネジメント データスチュワード/データエンジニア/データアーキテクト
ソフトウェアエンジニア フロントエンドエンジニア/バックエンドエンジニア/クラウドエンジニア/SRE/フィジカルコンピューティングエンジニア
サイバーセキュリティ サイバーセキュリティマネージャー/サイバーセキュリティエンジニア

ビジネスアーキテクト

ビジネスアーキテクトは変革の目的を定めて、それを実現する形に事業と業務を設計する役割です。DX推進スキル標準では次のように定義されています。

ビジネスや業務の変革で実現したい目的を定義したうえで、経営視点で最適なビジネスモデルと業務プロセスを設計し、戦略を行動に落とし込み、成長サイクルを生み出しながら、関係者をコーディネートしプロセス全体を牽引して成果を創出する役割

ロール 担うこと
ビジネスアーキテクト 組織や事業を俯瞰して変革のロードマップを立て、経営層の投資判断を支える
ビジネスアナリスト 業務・組織・システムを分析し、要求をまとめてエンジニアへ伝える
プロダクトマネージャー 特定の製品やサービスの責任者として、企画から改善までを通して見る

事業企画・経営企画・業務改善を担当している人が近い位置にいます。

デザイナー

デザイナーは、製品やサービスのあり方そのものを設計する役割です。定義は次のとおりです。

ビジネスの視点、顧客・ユーザー視点、コミュニケーション視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定するとともに、ブランドメッセージやタッチポイントを含むコミュニケーション設計を担い、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う役割

ロール 担うこと
サービスデザイナー 顧客価値を定義して製品・サービスの方針を決め、継続的に実現する仕組みまで設計する
UX/UIデザイナー 顧客・ユーザーの体験を設計し、情報設計や画面の要素をデザインする
コミュニケーションデザイナー ブランドの理念とビジョンを言語化し、接点を横断して一貫したメッセージを届ける体験を設計する

社内にデザイン部門がない企業では、商品企画やマーケティングの担当者が近い位置にいます。

データサイエンティスト

データサイエンティストは、データの分析を通じて業務変革や新規ビジネスにつなげる役割です。「DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データ解析やAIシステムに関する仕組みの設計・実装・運用を担う役割」と定義されています。

ロール 担うこと
データビジネスストラテジスト 事業計画に沿ったデータ・AIの活用方針を考え、その実現を主導する
データサイエンスプロフェッショナル データの処理や解析を通じて、業務の変革やビジネスの創出につながる知見を導き出す

分析業務の全体像については、データ分析とはのページで紹介しています。

データマネジメント

データマネジメントは、Ver.2.0で新しく設けられた類型です。分析するデータそのものを整え、安全に流通させる仕組みを作る役割にあたります。

データの安全性・信頼性の確保と継続的な流通の仕組みの設計・実装・運用を行い、組織全体の人材を巻き込んだデータの利活用、データによる価値創出を促進する役割

ロール 担うこと
データスチュワード 事業の知識をもとにデータの品質・信頼性・安全性を保ち、現場でのデータ活用を広げる
データエンジニア データの収集・統合・加工・提供の各過程を整え、データパイプラインを設計・実装する
データアーキテクト 組織全体のデータ構造や流れを俯瞰し、データライフサイクル全般を見据えて設計する

ソフトウェアエンジニア

ソフトウェアエンジニアは、デジタル技術を使った製品・サービスを実際に作り、動かす役割です。「DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う役割」と定義されています。

ロール 担うこと
フロントエンドエンジニア 利用者が触れるインターフェース側の機能に責任を持つ
バックエンドエンジニア サーバ側の機能を担う
クラウドエンジニア/SRE 開発・運用環境の最適化と信頼性の向上に責任を持つ
フィジカルコンピューティングエンジニア デバイスを含めて現実世界のデジタル化を担う

サイバーセキュリティ

サイバーセキュリティは、デジタル活用に伴うリスクを抑える役割です。「業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う役割」と定義されています。

ロール 担うこと
サイバーセキュリティマネージャー ビジネスの企画段階からリスクを検討・評価し、対策の管理と統制を主導する
サイバーセキュリティエンジニア 対策の導入・保守・運用を担当する

DX推進スキル標準の共通スキルリスト

DX推進スキル標準では、類型ごとに別々のスキル表があるのではなく、全ての類型に共通する1つのスキルリストが用意されています。そのうえで、類型やロールごとにどのスキルがどの程度重要かが示される仕組みです。

この構造を理解しておくと、複数の役割にまたがる人材も同じスキル項目で確認できます。ver.2.0のスキルリストは5つのカテゴリーに分かれ、その下にサブカテゴリーが置かれています。

カテゴリー サブカテゴリー
ビジネス変革 戦略の理解とアーキテクチャ設計/プロダクトのマネジメント/変革活動のマネジメント/デザイン
データ整備・活用 データ・AIの戦略的活用/AI・データサイエンス/データマネジメント
テクノロジー ソフトウェア開発/デジタルテクノロジー
セキュリティ セキュリティマネジメント/セキュリティ技術
パーソナルスキル ヒューマンスキル/コンセプチュアルスキル

ビジネス変革

事業や業務をどう変えるかに関わるスキル群です。ビジネスアーキテクトやデザイナーの類型で重要度が高くなりますが、他の類型でも無関係ではありません。

技術側の担当者がビジネス変革のスキルを持っていると、実装の判断を事業の目的に照らして下せます。反対に、事業側の担当者だけがこの領域を担う体制では、決めた方針が実現できるかどうかの見極めが遅れます。

データ整備・活用

データとAIに関するスキル群で、活用の方針を決める部分、分析そのものを担う部分、データを整えて管理する部分の3つに分かれます。ver.2.0で見直しが入った箇所です。

分かれ目になるのは、方針を決める側と手を動かす側のどちらを社内に置くかという判断です。分析の作業を外部に委託する場合でも、何を分析させるかを決める力は社内に必要になります。

生成AIをどう業務に組み込むかを決める力も、データ整備・活用に含まれます。各社のサービスの違いは生成AIのサービス比較と企業一覧から確認できます。

テクノロジー

開発の工程に関わるスキルと、クラウドやネットワークをはじめとする技術基盤の知識で構成されます。

ソフトウェアエンジニアの類型が中心になりますが、データマネジメントの類型でもデータパイプラインの実装で必要です。開発を外部に委託している企業でも、要件の妥当性や見積もりを判断する場面でテクノロジーの知識が要ります。

セキュリティ

組織としての方針や体制を作る側と、具体的な対策を実装・運用する側に分かれています。

サイバーセキュリティの類型だけが持っていればよいスキルではありません。ver.2.0ではAIの利用に伴うガバナンスの観点が加わったため、AIを業務に組み込む場面では他の類型にも関わってきます。

パーソナルスキル

関係者と協働して物事を進める力と、複雑な状況を捉えて筋道を立てる力にあたります。

技術的なスキルに比べて測りにくい領域ですが、DXの取り組みは部署をまたぐため、ここが弱いと計画が進みません。スキルの可視化では抜けやすい部分でもあります。

Ver.2.0で変わった点

デジタルスキル標準Ver.2.0は、2026年4月16日に経済産業省とIPAから公表されました。

参考:デジタルスキル標準ver.2.0(DSSver.2.0)を公表します|経済産業省

改訂の背景には、AI活用の進展でデータを整える役割の重要性が高まったことに加え、ビジネス変革や組織変革への対応があります。

策定当時からの経緯は次のとおりです。

バージョン 公表時期 主な内容
DXリテラシー標準 2022年3月末 全ビジネスパーソン向けの標準を公開
Ver.1.0 2022年12月 DX推進スキル標準を新たに策定し、デジタルスキル標準として公開
Ver.1.1 2023年8月 内容を更新
Ver.1.2 2024年7月 生成AIに関する記載を追加
Ver.2.0 2026年4月 データマネジメント類型を新設し、ロールとスキルを見直し

Ver.1.2までが既存の内容の補記や修正だったのに対し、Ver.2.0では類型そのものが増えています。手元の資料がVer.1.xの場合は、人材の区分から見直すことになります。

データマネジメント類型の新設

変更の中心にあるのが、データマネジメント類型の新設です。従来はデータを扱う人材がデータサイエンティスト類型にまとめられており、データエンジニアもその中に置かれていました。

Ver.2.0では、データを分析する役割と、データを整えて流通させる役割が別の類型に分けられています。

公表資料では「AI活用を進めるにはAIに処理させるデータそのものが整備されていることが前提になる」と改訂の理由が説明されています。データが部署ごとに散らばっていたり、定義が揃っていなかったりする状態では、分析人材を増やしても成果につながりません。

自社の育成計画では、これまで「データ人材」とひとまとめにしていた枠を、分析側と整備側に分けて考えます。すでにデータ基盤の運用を担当している情報システム部門の人材が、データマネジメント類型に該当する場合もあります。

ビジネスアーキテクト類型のロールの再定義

ビジネスアーキテクト類型では、ロールの分け方の考え方が変わりました。Ver.1.xで採用されていたのは、新規事業・既存事業といった事業の領域ごとの定義です。

Ver.2.0では職能ごとの定義に変わり、ビジネスアーキテクト・ビジネスアナリスト・プロダクトマネージャーの3つに再定義されています。

事業領域で分けると、同じ人が新規と既存の両方を担当している場合に当てはめられません。職能で分けたことで、社内の職務との対応がつけやすくなりました。

育成計画の面では、変革を構想する人と、要求をまとめて開発側に渡す人と、製品を通して見る人が、別のスキルセットとして扱われます。これまで1人に集中していた業務を分担する検討材料としても使えます。

デザイナー類型の見直し

デザイナー類型では、活躍する領域の見直しが行われました。グラフィックデザイナーが外れ、コミュニケーションデザイナーが新たに加わっています。

コミュニケーションデザイナーは、ブランドの理念とビジョンを言語化し、ユーザーとの接点を横断して一貫したメッセージを設計する役割です。

制作から運用までを統括し、顧客データやフィードバックをもとに施策を改善していく点も定義に含まれます。制作物を作る役割から、伝わり方そのものを設計する役割へと軸が移りました。

AI実装・運用のスキル新設とAIガバナンスの拡充

共通スキルリスト側にも変更が入りました。公表資料では改訂の内容が次のように示されています。

DXの実現に不可欠なテクノロジーとしてAI活用が進む。更なるAI・データ活用を推進するデータ整備やその仕組み化、企業内の推進を担うデータマネジメントのロール及びスキルを追加するとともにAI実装・運用やAIガバナンスに関するスキルを拡充。

Ver.2.0では「AI実装・運用」のスキルが新設されるとともに、AIガバナンスに関するスキルが拡充されています。カテゴリー名も「データ活用」から「データ整備・活用」に変わり、データマネジメントがサブカテゴリーとして入りました。

全社的な底上げの面では、AIの扱いに関する理解が管理側にも求められます。従業員のAIに関する理解度を高める考え方は、AIリテラシーとはのページで紹介しています。

デジタルスキル標準とITスキル標準(ITSS)の違い

デジタルスキル標準(DSS)とITスキル標準(ITSS)は、どちらもIPAが関わるスキルの指針ですが、作られた目的と対象が異なります。ITSSがデジタルスキル標準に置き換わったわけではなく、両者は併存しています。

デジタルスキル標準(DSS) ITスキル標準(ITSS)ほか
目的 DXの推進 IT技術者・情報システム担当者の育成
対象 全ビジネスパーソンとDX推進人材 主にIT技術者(ITSS)、そのリスキリング(ITSS+)、ユーザー企業の情報システム担当者(UISS)
スキルの示し方 人材類型・ロールごとの重要度 達成度のレベル

対象の広さが最も大きな違いです。ITSS群がIT部門の人材を中心に置いているのに対し、デジタルスキル標準は事業側の人材や全ビジネスパーソンまで広がっています。

スキルの示し方が違うため、両者の項目を一対一で突き合わせることはできません。IPAはDSS-PについてITSS+のレベル4とほぼ同等のスキル水準を想定しているとしたうえで、独自の詳細なレベル評価指標は用意していないと説明しています。

社内にITSSをもとにした等級制度がある場合は、デジタルスキル標準をそのまま重ねるのではなく、役割の定義を補う資料として使うことになります。

デジタルスキル標準の活用方法

デジタルスキル標準は、そのまま社内に配っても育成にはつながりません。自社の事業計画と標準の用語を突き合わせ、どの役割が必要なのかを決める作業が先にあります。

使い始める前に、標準が定めていない部分も押さえておきましょう。企業への適用は任意で、導入の義務はありません。

人事評価制度でもないため、ロール名をそのまま職位や等級に置き換えると、現場の職務と合わなくなります。標準はあくまで役割とスキルの共通言語であり、社内の制度に落とし込む段階では自社の事情に合わせた調整が必要です。

そのうえで、企業として人材を育てる場合と、個人が自分の学習内容を決める場合とでは、使う部分も進め方も変わります。

企業での活用

必要な役割を決め、現状を測り、育成と採用の計画に反映するという順序で進めます。

必要な人材類型とロールの選定

6つの類型すべてを自社に置く必要はありません。事業計画のなかで今後3年に何を実現するのかを書き出し、そこから逆算して必要な役割を選びます。

事業の方向 先に検討する類型
既存事業の業務改善が中心 ビジネスアーキテクト、データマネジメント
自社サービスの開発を進める デザイナー、ソフトウェアエンジニア

この段階で候補を絞っておかないと、次の可視化の作業が広がりすぎて終わりません。

現在のスキルの可視化

DX推進スキル標準には統一的な達成基準の一覧がないため、共通スキルリストの項目を使いながら、水準の判定基準は自社で決めることになります。

全社員を対象にすると負荷が大きいため、対象を該当しそうな部署に絞って始めるほうが進みます。ここで見えるのは個人の評価ではなく、組織としてどの役割が欠けているかです。
具体的にスキルを測る方法としては、目的に応じて複数の手段を組み合わせることが考えられます。代表的な計測方法は、次の3つです。

1.外部のアセスメントツールを活用する

民間企業が提供するDXスキル診断サービスやSaaSを利用し、社員や特定部門のスキルを共通の設問・評価基準で測る方法です。対象者が多い場合でも同じ条件で評価しやすく、部門別の傾向やスキルの不足領域を数値で把握できます。

ただし、サービスごとに評価対象やレベルの定義は異なります。DSS-Pのどのカテゴリーやスキル項目に対応しているのかを確認したうえで選ぶことが大切です。

2.業務やプロジェクト経験をもとに社内で評価する

現場のマネージャーとの面談や自己評価のフォーマットを設け、これまで担当した業務やプロジェクトをもとに判定する方法です。たとえば、データ分析をもとに施策を提案した経験、システム導入を主導した経験、複数部署を巻き込んで業務を改善した経験などを確認します。

試験では測りにくいパーソナルスキルやビジネス変革に関する能力を確認しやすい点が特徴です。一方で評価者によるばらつきが生じやすいため、「一人で遂行できる」「支援を受ければ遂行できる」など、社内で共通の判定基準を決めておく必要があります。

3.資格・検定を知識面の目安にする

関連する資格や検定の取得状況を、必要な知識を身につけているか確認する目安として使う方法です。たとえば、AI・ディープラーニングの知識にはG検定、データサイエンスにはデータサイエンティスト検定 リテラシーレベル(DS検定)、IT全般の基礎知識にはITパスポート試験があります。

資格の取得だけでDSS-Pのスキルを満たしていると判断することはできません。ただし、知識面のベースラインを揃える用途には有効です。外部アセスメントや業務経験による評価と組み合わせれば、知識と業務での発揮状況を分けて確認しやすくなります。

育成と採用の計画への反映

社内の人材で埋められる部分は研修や業務での経験に、埋められない部分は採用や外部委託に振り分けます。

研修を選ぶ際は、どのロールのどのスキルを埋めるためのものかを対応づけておきましょう。実施後に何が変わったのかを確認する手がかりになります。

研修サービスの選択肢はAI研修のサービス比較と企業一覧、社内での学び直しの取り組みはリスキリングのサービス比較と企業一覧からそれぞれ確認できます。

個人での活用

目指すロールを決め、不足を確認し、講座や資格と対応づけるという流れになります。

目指すロールの決定

17のロールから、自分の現在の業務に近いもの、あるいは今後担当したいものを1つ選びます。複数を同時に目指すと学習内容が広がりすぎるためです。

不足しているスキルの確認

選んだロールで重要度が高いスキルのうち、業務で使えていないものが学習の対象です。関心のある技術から手をつけるよりも、役割に必要なスキルから埋めるほうが、業務での成果につながりやすくなります。

講座や資格との対応づけ

経済産業省とIPAが運営するポータルサイト「マナビDX」では、デジタルスキル標準への対応を審査したうえで講座が掲載されているため、選んだロールに合う学習内容を探せます。

資格では、データ分析の領域にデータサイエンティスト検定 リテラシーレベル(DS検定)、AIやディープラーニングの領域にG検定といった選択肢があります。DS検定の内容や難易度については、データサイエンティストにおすすめの資格「DS検定」の難易度・受検メリットを徹底解説で紹介しています。

なお、デジタルスキル標準そのものは資格制度ではありません。資格や検定は、目指すロールに必要な知識を学ぶ際の選択肢として活用できます。

まとめ

デジタルスキル標準を使い始めるときは、自社のどの役割が6つの類型のどれに当たるのかを1枚に書き出すところから始めます。

既存の職務と標準の定義がずれている箇所こそが、社内で人材像の認識が揃っていない部分です。空欄のまま残った類型があれば、それが採用と育成の検討対象になります。

手元の資料がVer.1.xのままになっている場合は、人材の区分から確認し直しておきましょう。

アイスマイリーでは、生成AI のサービス比較と企業一覧を無料配布しています。課題や目的に応じたサービスを比較検討できますので、ぜひこの機会にお問い合わせください。

よくある質問

DSSは何の略ですか?

DSSはDigital Skill Standardsの略で、日本語では「デジタルスキル標準」と呼ばれます。読み方はそのまま「ディーエスエス」です。 構成する2つの標準にも略称があり、DXリテラシー標準はDSS-L、DX推進スキル標準はDSS-Pと表記します。社内資料では略称と正式名称が混在しやすいため、最初に対応関係を示しておくと混乱を避けられます。

企業に導入する義務はありますか?

導入の義務はありません。デジタルスキル標準は、企業の人材確保・育成と個人の学習のための指針として公表されているものです。導入を求める規定は置かれていません。 ただし、人材の役割を自社独自の言葉だけで定義していると、社外から人を採るときや、研修サービスを比較するときに条件が伝わりにくくなります。

資料はどこで入手できますか?

経済産業省とIPAのWebサイトから無料で入手できます。全体をまとめた本体資料に加えて、人材類型ごとの分冊版も公開されています。 全体像を把握したい場合は本体資料、特定の類型について詳しく見たい場合は該当する分冊版という使い分けになります。 育成計画を作る担当者は本体資料を読み、現場の担当者には該当する分冊版だけを渡すという配り方もできます。資料はIPAのデジタルスキル標準のページにまとまっています。

中小企業でも活用できますか?

活用できます。むしろ人数が限られている企業のほうが、どの役割を優先するかを決める必要性は高くなります。 6つの類型すべてに人を配置することは、規模の大きい企業でも簡単ではありません。中小企業の場合は、自社に必要な役割を2つか3つに絞り、1人が複数のロールを兼ねる形で使います。社内で埋められない役割を外部委託に切り出すとき、依頼内容を決める材料としても使えます。

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