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最終更新日:2026/06/08
PKSHA「Japan AI Index」発表
株式会社PKSHA Technology、松尾・岩澤研究室、Anthropicの3社は、国内のAI活用を次の段階へ進める産学連携の取り組みをスタートします。
2026年6月4日(木)に行われた記者発表会では、近年の急激なAIの進化とそれに伴う社会の不安を背景に、国内のAI社会実装を客観的なファクトに基づいて推進するための新しいデータ基盤「Japan AI Index」を発表。さらに、また、AIの最新動向から本基盤の構築、日本特有の課題を踏まえたAIの社会実装アプローチなども紹介されました。

株式会社PKSHA Technology 代表取締役 上野山 勝也 氏
PKSHA Technologyの代表取締役の上野山氏は冒頭、日々変化の激しいAI領域の最前線から見えている視点として「AIの進化における3つのステップ」を提示しました。

現在、AIのフロンティアモデルは、インターネット上の知識を圧縮しテキストを出力する「LLM」の段階から「指示に応じてアクション(行動)してくれる」という(Large Action Model)」のフェーズ、すなわちAIエージェントやフィジカルAIの領域へと入りつつあります。
この「出力が行動になる」という進化は、特にサイバー空間と物理(フィジカル)空間の双方で劇的な変化を起こしています。

例えば、サイバー空間においては、コーディングAIエージェントの台頭が著しく、ソフトウェアエンジニアの生産性が5から10倍に向上する一方で、15兆円規模とされる日本のソフトウェア産業の形そのものが変わり始めています。
さらに、サイバー空間上で極めて高い能力を持つ「Mytos」のようなAIの出現により、人間が見つけられないセキュリティホールが容易に発見されてしまうなど、日本政府を含めてどのように対応すべきか、深刻な問題提起が始まっているのが現状です。

AIエージェントの進化は、人間の働き方や仕事に大きな影響を与えます。上野山氏によると、同社に届く声の「7割が不安、3割がポジティブ」という比率であり、「自分の仕事はどうなってしまうのか」という漠然とした不安が社会を覆っていることが分かります。
LAMは劇的に働く形を変えていく一方で、「ファクトベースで議論する場やデータ、土台がない」という課題があります。そこで、働き方の変化や経済へのインパクト、AI教育の部分など、データに基づいた意思決定を行うための第一歩として、AIの日本での利用実態を定量的に捉える観測基盤「Japan AI Index(ジャパンAIインデックス)」を産学連携で立ち上げました。

松尾・岩澤研究室 教授 松尾 豊 氏
こうして始動する「Japan AI Index」の具体的な中身と構築背景について、続いて登壇した東京大学 松尾・岩澤研究室 松尾 豊氏が紹介しました。松尾氏は、現在の日本が直面している構造的な課題として、「AI領域におけるものさしの不在」を強く指摘します。

通常、国や企業は、GDPや消費者物価指数(CPI)など様々な統計指標を「ものさし」として見ながら、政策判断や経営評価を行っています。しかし、急速に進展するAI領域においては、これまでそうした客観的な指標が存在していなかったと松尾氏は述べます。

今回の3社協業は、この「ものさし」を形作り、日本の雇用、産業、経済、教育にどのような変化が起きているのかを継続的に定点観測するインフラとなることを目的としています。
学術的中立性と信頼性のある科学的基盤を実現するため、それぞれ異なる強みを持つ、東京大学 松尾・岩澤研究室、Anthropic、PKSHAの3者協業で推進する方針です。

「学術的中立性」を担保するために、分析の実施主体は東京大学松尾・岩沢研究室が担当。「産業実装の知見」として4,600社以上の導入実績を持つPKSHA Technologyが、現場での産業実装の知見を接続して社会浸透のための企画運営を担います。
そして観測基盤において最大の鍵となる「LLM利用実態データ」を提供するパートナーとして、米国のAIフロンティア企業であるAnthropic社が選ばれました。
安全で有益なAIの構築を掲げるAnthropic社は、プライバシーに配慮して匿名化されたClaudeの利用データを元に、AI活用の実態を分析する「Anthropic Economic Index」を公開しています。
Anthropic Economic Indexを含む、Anthropicの<「匿名化されたClaudeの利用統計データ」と、日本の公的な統計・調査データを突き合わせることで、「AIが日本の 雇用・産業・経済・教育 にどのような変化を与えているのか」を継続的に測定していきます。

松尾・岩澤研究室 准教授 岩澤 有祐 氏
東京大学 松尾・岩澤研究室の岩澤 有祐氏からは、本基盤を社会実装に活用していくための初期的なダッシュボードのサンプルが紹介されました。実際の会話データをタイムリーに分析するため、従来の社会統計では見えなかった「AI活用のリアル」が浮き彫りになります。
できることの例として、「職業ごとのAI利用度の国際比較」や「都道府県別のAI利用度の分析」を紹介しました。
例えば、職種別のAI利用度をグローバルと比較すると、日本では「コンピューター・数学」や「芸術・メディア」の領域で世界平均を超えて活用が進んでいる一方、「医療従事者」や「飲食業」ではまだ利用が進んでいないといった実態が分かります。

また、労働人口あたりのAI利用度を都道府県別にマッピングすると、東京都が日本平均の3倍以上活用するなど、現状は首都圏にAI活用が極端に集中しているという地域格差もデータから読み取ることが可能です。

3年間で社会・経済・教育の議論で利用されるデファクトスタンダードな指標となることを目指すとし、今後は四半期に1回程度の頻度で継続的なデータアップデートを行っていく方針です。
その最初のアクションとして、本年秋を目処に、第1回のレポートおよびダッシュボードの一般公開を予定しており、これらを起点としたメディア報告会も定期的に実施していきます。

株式会社PKSHA Technology CEO室 室⻑/AI HRカンパニー⻑ 大野 紗和子 氏
発表会の最後には、PKSHA Technology CEO室室長でありAI HRカンパニー長を務める大野紗和子氏が登壇。「Japan AI Index」から得られるデータを、いかにして「日本らしいAIの社会実装」へとつなげていくか、同社が持つ現場の知見を交えて具体的なインサイトを語りました。

大野氏はまず、未来の働き方の景色について、「仕事が残るか消えるか」という二元論ではなく、未来の働く形には4つの塁型があると述べます。
その中でも重要になるのが、AIによって人の能力が拡張・解放され、協働しながら仕事の形を変えていく「AIパワードワーカー(AI Powered Worker)」の領域です。多くの仕事は消失するのではなく、人とAIの協働によって新しく生まれる仕事が多いのではという考えのもと、国や企業、教育機関などのステークホルダーが同じデータを中心に据えて適切なアクションを起こしていく起点にこそ、この「Japan AI Index」を据えるべきだと訴えます。

そして、インデックスの初期データ分析から見えてきた非常に興味深いインサイトとして、大野氏は「日本のAI利用は世界と形が違う」という事実を提示しました。
日本のAI利用は、戦略の立案、分析、技術資料の参照や講義・商談の準備といった「考える仕事」において、世界平均よりも比較的高い比率でAIを活用している一方で、既存ソフトの修正・改修、顧客への質問対応、学習の補助といった、AIを使って「動かす仕事」においては、世界に比べて利用比率が低くなっています。
大野氏はこの結果について、単なるAI活用の「遅れ」ではなく、日本企業が持つ特有の社会構造が反映された結果であると位置づけます。

日本企業には、ボトムアップの”カイゼン”文化、低い雇用流動性による業務の個別化・暗黙知化などによる「企業・現場ごとの個別化・暗黙知化した固有のプロセス」が多く存在しています。
そのため、現場を動かす業務は組織固有のコンテクストに強く依存しており、汎用的なAIをそのまま導入しようとしても、現場の事情を踏まえない的外れな一般論ばかりをAIが返してしまい、結果としてDX担当者と現場社員の間で衝突が起き、事業インパクトにつながらないという深い悩みを生んでいました。
加えて、組織の固有情報をAIに与える際、企業のセキュリティポリシー準拠が壁(律速)となる「セキュリティの課題」も挙げられました。

そこで大野氏は、現場の固有のナレッジを暗黙知を含めて吸収し、世代を超えて寄り添う「組織知を持って伴走するAI」や、組織構築や文化醸成を促す「人による組織・文化支援」、加えてセキュリティ要件を満たし、既存システムと安全に接続する「セキュアなAI実行環境の確保」という「3点セット」こそが、日本におけるAI実装の現実解であると考えます。

実際にPKSHAが手がける製造領域の事例では、担当者が対話を通じて組織の目指す姿を共通認識化した上で、独自の対話技術を活かしたAIが既存マニュアルをベースにベテラン社員からマニュアル化されていない暗黙知をデータとして吸い上げ、その組織知を持ったAIが「先生AI」「先輩AI」として若手・中堅の設計や計画策定業務にプロセス横断で伴走するという、知識の世代間伝承を実現しています。

今後は「Japan AI Index」を日本のAI議論におけるデファクトスタンダードとすることを目指し、定期的なレポートやダッシュボードの公開を今秋を目安に開始し、四半期ごとにアップデートするとしています。さらに、教育・製造・金融・小売・不動産などの業界から10社ほどの業界リーダーを募集し、After AI時代の社会を共に議論するコミッティを設立する予定です。

今回の記者発表会では、AIの劇的な進化に起因する漠然とした社会不安をファクトデータによって解消し、日本の強みを活かした独自のAI社会実装を推進するための新基盤「Japan AI Index」の全貌と、具体的なアプローチが紹介されました。
今後は、レポートおよびダッシュボードの一般公開や、多様な業界からリーダーを巻き込んだコミッティの設立を皮切りに、日本のAI議論におけるデファクトスタンダード化への歩みが本格的に始動します。
単なる他国の成功事例の拙速な模倣に終始するのではなく、客観的なデータに基づいて「現場の組織知と伴走するAI」を実装していくことで、日本社会に最適化されたAIの導入と、未来の主役となる「AI Powered Worker」の育成が大きく加速していくことが期待されるでしょう。
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