転移学習とは?AI実装でよく聞くファインチューニングとの違いも紹介
最終更新日:2024/02/20
AIと機械学習の世界で、転移学習というキーワードが注目を集めています。これは、あるタスクで学習したモデルの知識を、別のタスクに転移・適用する学習方法で、データセットが少ない場合や学習時間を短縮したい場合に非常に有効です。
この記事では、以下について解説します。
- 転移学習の基本的な概念
- 具体的な活用方法
- ファインチューニングとの違い
また、画像認識や自然言語処理など、様々な分野での転移学習の活用例も紹介します。
機械学習について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
機械学習とは何か?種類や仕組みをわかりやすく簡単に説明
転移学習とは
転移学習は、機械学習の手法の一つであり、「別のタスクで学習された知識を別の領域の学習に適用させる技術」のことを指します。たとえば、大量の犬の画像データと少量の猫の画像データがあり、犬・猫それぞれの種類判別モデルを作成するとしましょう。
この場合、通常の機械学習では、犬・猫それぞれ別にモデルを作成することになります。犬の画像データは大量に用意されているため問題ありませんが、猫の画像データは高精度に分析するためのデータ量が整っていません。つまり、猫の判別に関しては精度が落ちてしまう可能性があるのです。
ただ、転移学習であれば、犬の種類判別によって得られた知識を、猫の種類判別モデルにも適応させることができます。そのため、画像データが少ない猫の判別も、高精度に行えるようになるのです。
転移学習のメリット
転移学習を導入することで得られるメリットとしては、主に以下のような点が挙げられます。
学習時間を短縮できる
転移学習では、同じ分野で学習されたモデルを活用していくことになるため、少ない量のデータでも高い精度を実現できます。0からデータを学習させる必要がなくなるため、学習時間の短縮にもつなげられるのです。
従来の方法では、さまざまなパターンのデータを学習させなければならないため、どうしても時間がかかってしまいます。サーバーのスペックにも影響されるため、スペックの低いサーバーを利用すると学習に数十日かかってしまうケースもあります。
転移学習を用いれば、学習時間を短縮し、よりスピーディーにAI導入を実現できるため、多くの企業にメリットをもたらす可能性があります。
応用範囲が広い
転移学習には、応用範囲が広いというメリットもあります。犬の識別モデルを猫の識別に活用するといった「同じ動物カテゴリ」への適用だけでなく、自動車、家といった「異なるカテゴリの識別」にも応用することが可能です。
これは、画像処理に限った話ではありません。自然言語処理や音声処理などの機械学習においても、同じように応用させることができるのです。そのため、転移学習を活用することで、より一層AI活用の幅は広がっていくと考えられます。
転移学習のデメリット
転移学習にはデメリットといえる部分も存在するため、あらかじめ把握しておく必要があります。それは、「知識を転移することによって精度が悪化してしまうケースもある」という点です。これは「負の転移」とも呼ばれるもので、転移元と転移先の関連性が低かったり、転移の方法が適切ではなかったりしたときに起きるものです。
そのため、負の転移を防ぐためにも、転移学習を行ったモデル・転移学習を行っていないモデルのそれぞれの精度を定期的に比較し、負の転移が起きていないかチェックしていくことが大切になります。
転移学習・ファインチューニング・蒸留の違い
転移学習に関連する手法として、ファインチューニングや蒸留といったものが挙げられます。これらの違いがよく分からないという人も多いのではないでしょうか。「別のタスクで学習されたモデルを再利用する」という点ではどれも同じですが、大きく異なるポイントも存在します。ここからは、それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
ファインチューニング
機械学習を進める中で、新たに学習する必要があるデータセットの量が多いケースもあるでしょう。このような状況で、そのまま転移学習を行ってしまうと、逆に時間がかかってしまう可能性があります。
よりスピーディーに学習を進めていくためには、「一度解いた設問の解法を別の設問にも活用できるように微調整する作業」が必要になるのです。この作業のことをファインチューニングと呼びます。ファインチューニングは、学習済みのモデルの一部と、新たに追加したモデルの一部を活用して微調整を行うというもの。この作業を行うことで、モデル全体のデータを再度学習し直し、汎化性能を高められるのです。
蒸留
蒸留とは、学習済みのモデルを使用してより軽量のモデルを生み出すことです。「学習済みの教師モデル」の出力を「生徒モデル」の学習に活用していきます。小さくて軽量でありながら高精度のモデルを作成できるため、大きくて深いモデルで学習した知識を蒸留(圧縮)することによって、小さく軽量なモデルの学習に活用していくことができます。
マルチタスク学習
転移学習に関連する手法としては、マルチタスク学習というものも存在します。マルチタスク学習とは、ソースとターゲットを区別せず、複数のタスクを並行に学習していくというものです。
転移学習は、ソースであらかじめ学習した後に知識を転移し、ターゲットの問題を解いていくという手法なので、アプローチ自体が異なるるのです。
転移学習と強化学習の違い
転移学習と強化学習は以下のように、目的や特性が異なります。
転移学習:既存のタスクで学習した知識を新しいタスクに適用する(知識の転移)
強化学習:エージェントが環境と相互作用しながら、報酬を最大化するような行動を学習する(行動の最適化)
強化学習は、エージェント(自己学習や自己判断を行うプログラムやシステムのこと)が環境と相互作用しながら、報酬を最大化するような行動を学習する手法です。つまり、試行錯誤を通じて最適な行動を見つけ出すことが目標となります。
例えば、チェスのAIを考えてみましょう。AI自体がエージェントとなり、チェスの盤面が環境となります。エージェントは自分の駒をどのように動かすと勝つ確率が高まるのかを学習します。この場合、エージェントの行動は駒を動かすことであり、報酬はゲームの勝敗によって決まります。
強化学習について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
転移学習の活用例
転移学習には、「学習時間の短縮」をはじめとした多くのメリットが存在するわけですが、実際にどのような場所で活用されているのでしょうか。ここからは、転移学習の活用例について詳しく見ていきましょう。
画像認識
近年は、画像認識に転移学習を活用している企業が多くなってきています。その一例として挙げられるのが、株式会社コーセーです。コーセーでは、電気通信大学 情報理工学研究科の庄野逸教授と共同で、熟練の美容専門家のスキルをAI化した「感性評価AI」を開発し、注目を集めました。
この「感性評価AI」とは、顔の感性印象の中でも特に重要とされている「活き活き感」を高めることを目的に開発された技術です。一人ひとりに合わせてカウンセリングを行う美容専門家のスキルを再現した技術として注目されており、将来的にはこの技術をオンラインカウンセリングのサポート、セルフ診断などにも応用していくといいます。
感性評価AIの開発では、まず10代から70代までの日本人女性377名の顔画像に対し、熟練のビューティコンサルタントが「活き活き感」の度合いを7段階で評価したそうです。そして、得られた評価値と顔画像を照らし合わせて、評価値を顔画像から予測していくという仕組みのAIが構築されていきました。
とはいえ、顔画像の評価基準となる特徴部位を一律に設定するのは決して簡単ではありません。そのため、「活き活き感」を評価する際の基準となる特徴部位を画像データから自動抽出していく深層学習や、学習の効率をアップさせる転移学習を活用することによって、より高い精度で予測できる「感性評価AI」の構築が実現したのです。
音声認識
音声認識の分野においても、転移学習は積極的に活用され始めています。最近ではバーチャルキャラクターやスマートスピーカーといった音声を活用するアプリケーションがさまざまな場面で活躍していますが、自分好みの声で好きな言葉を喋らせたり、男性の声を女性の可愛らしい声に変換したりすることも可能になっているのです。
これらが実現可能なのは、音声認識において転移学習が活用されているからに他なりません。たとえば、DeNAでは、エンタメやライブ配信といった音声認識との親和性が高いジャンルにおいて、音声生成技術(音声の合成と変換)を導入すべく研究を進めているそうです。
実際に、VTuberの生放送で音声合成技術を活用したり、セコム株式会社と共同でバーチャル警備システムの音声生成を行ったりと、さまざまな取り組みを行っています。今後、どのような形で転移学習が活用されていくのか、ますます期待が膨らみます。
自然言語処理
自然言語処理の分野においても、転移学習は積極的に活用され始めています。その一例として挙げられるのが、LINE株式会社がNAVERと共同で開発した「日本語特化型の超巨大言語モデル」です。
この超巨大言語モデルは、AIの活用によってより自然な言語処理・言語表現を実現するというもの。「日本語特化型の超巨大言語モデル」を開発したのは世界初となるため、大きな注目を集めました。
これまでの言語モデルは、Q&Aや対話といったユースケースに対して、自然言語処理エンジニアが個別に学習しなければなりませんでした。しかし、LINEが開発した「超巨大言語モデル」の場合、新聞や百科事典、コーディングといった膨大な量の言語データを学習した言語モデルを構築し、その上でコンテキスト設定を行うためのFew-Shot learning(ブログの書き出しをしたり、プログラミングコードの一部などを与えたりすること)を実行するだけで、さまざまな言語処理を行うことができるのです。
これはまさに、転移学習を活用したからこそ実現できている事例といえます。
転移学習の手法とモデルの選び方
今回は、機械学習の手法の一つである「転移学習」の特徴やメリット・デメリットについてご紹介しました。「学習時間を短縮できる」「応用範囲が広い」といったメリットがある一方で、負の転移に注意する必要があります。
現在はさまざまな企業がAIの開発・提供を行っているため、まずは自社の課題を明確にした上で、最適なAIを導入していくことが大切になります。AIの活用によって、サービスの品質向上や業務効率化といった目的を達成するためにも、最適なサービスの比較検討を行ってみてはいかがでしょうか。
アイスマイリーでは、AIサービスを簡単に比較検討できる資料を無料でお配りしています。AIサービスの導入を検討の際は、ぜひお気軽にご活用ください。
AIについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
AI・人工知能とは?定義・歴史・種類・仕組みから事例まで徹底解説
よくある質問
転移学習とは?
転移学習は、機械学習の手法の一つであり、「別のタスクで学習された知識を別の領域の学習に適用させる技術」のことを指します。
転移学習のメリットは?
転移学習のメリットとして、以下が挙げられます。
- 学習時間を短縮できる
- 応用範囲が広い
転移学習の活用事例は?
転移学習の活用事例として、以下が挙げられます。
- 画像認識
- 音声認識
- 自然言語処理
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