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第1回 必要は発明の母。チャンスは目の前の業務に転がっている。【澤田光の行政×AI最前線】

最終更新日:2024/04/05

人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになるSociety5.0を目指して、行政の情報化が進められています。しかし、自治体の現場では、「実際何に取り組んだら良いのか?」、「やれと言われてもどうしたらよいか分からない」、「そもそも何から手を付ければよいのか?」など、戸惑う声も多く聞かれます。どうしたら自治体でAIの活用が進むのでしょうか。

【澤田光の行政×AI最前線】では、実際にAIを活用した取り組みを行っている自治体の事例をご紹介し、そうした疑問に答えていきます。
第1回は澤田氏自身の経験を振り返ります。

子育ての相談は、いつでも、どこでも、だれでも、AIに「聞きなっせ」

まずは、私の体験談からお話ししましょう。私は2019年に、熊本県庁で「聞きなっせAI くまもとの子育て」(以下「聞きなっせ」)の開発業務に携わりました。「聞きなっせ」とは、熊本弁で「聞いてください」という意味です。「聞きなっせ」は、お子さんの子育てに寄り添い、応援し、見守るシステムです。

提供:熊本県 健康福祉部 子ども未来課

「聞きなっせ」は、主に就学未満のお子さんの子育てについての質問に、24時間365日“いつでも”AIが回答するアプリです。LINEに子育ての困りごとや相談を入力すると、AIが瞬時に回答を返してくれます。児童手当や予防接種、保育園の空き状況をはじめとした県内の全ての市町村の子育て支援情報だけでなく、「夜中に熱を出した」「夜泣きが止まらない」などの一般的な子育ての悩みにも答えてくれます。

また、お出かけ時に、急にオムツを替えなくてはならないとき、“どこにいても”おむつ替えの出来る場所を、AIが位置情報を使って探してくれます。さらに、子育てのイベント情報も配信してくれます。

子育てのアプリは、子育てをしている方に登録してもらうことが多く、一般の方は使えないイメージがありますが、「聞きなっせ」は、おじいちゃんやおばあちゃんでも、親戚でも、友だちでも、子育てに関心のある方が、“だれでも”使うことができます。

コロナ禍では、役所に行かなくても情報が簡単に手に入るツールとして活躍し、令和4年版の「少子化社会対策白書」でも紹介されています。

それでは、なぜ「聞きなっせ」を作ることになったのか、そのきっかけについてお話しましょう。

「ワンオペ育児」の負担感を軽減する環境を作らなければいけない

現在、日本では核家族化が進み、子育てが孤立するなかで、ほとんど全ての家事育児を一人で担う「ワンオペ育児」が問題になるなど、子育てを取り巻く環境は厳しさを増しています。そもそも、一人で子育てを行うのは難しく誰かの助けが必要不可欠です。

少子化対策の企画を担当していた私は、「使い慣れているスマホを使って、より子育ての負担感を軽くすることができるようにならないか」と考えあぐね、、悩んでいました。そんなとき、渋谷区がLINEを使って、AIによる子育て相談の自動応答システムの実証実験をしていることを知り、「これだ!!」とひらめきました。まさに目の前の業務がAI活用へと繋がった瞬間でした。

AIに必要なデータは、組織内外のデータをフル活用

「自分の業務にAIを使えそうという思いつきは良いけれど、AIにどんなデータを使ったらいいの?」 そのような心配をされる方も多いのではないかと思いますが、ご安心ください。行政には活用されていない膨大なデータが眠っています。「聞きなっせ」では、次のように手持ちのデータや外部のデータをフル活用しました。

  • 県内の全ての市町村ホームページの掲載情報
  • 県で作成済みの冊子の情報
  • 外部サイトのリンク
  • 「子育て応援の店」などの県ホームページの掲載情報

まず、ホームページに掲載している情報です。自治体のホームページには様々な情報が掲載されていますが、充分に活用されていません。最近ではホームページ上にチャットボットを搭載している自治体が増えましたが、それでもなかなか知りたい情報にはたどり着きません。ホームページに大切な情報を掲載しても、それが住民に上手く届けられていないのが実情です。子育て支援情報も同様です。

そこで熊本県子ども未来課では、県内の全ての市町村のホームページにある子育て関連情報をAIに学習させ、「聞きなっせ」を子育てに特化したチャットボットとして構築しました。そうすることで、「〇〇市の保育所の空き状況を教えて」などの個別の質問に対し、AIがピンポイントで情報を探してくることが可能になりました。

さらに表示された問い合わせ先の電話番号をタップするだけで、すぐに電話することも可能です。もし、すぐに電話ができなくてもLINEのトーク画面に検索履歴が残るので、時間の余裕があるときに電話すれば良いのです。このように、今あるホームページの掲載情報を最大限発揮させるために、「子育て支援情報」に特化してAIを活用することで、ユーザー側、自治体側双方にとって、貴重な情報を活かすことができます。

次に、「離乳食がすすまない」「夜泣きが止まらない」など、子育ての一般的な情報については、熊本県が作成した「子育てで困ったときの手引き」という冊子の内容を、AIに学習させました。加えて、「夜中に熱が出た」「嘔吐した」など、緊急の病気やケガについては、日本小児科学会が作られているサイト「子どもの救急」にリンクし、AIが対応方法を案内するように構築しています。

そして、お出かけ情報については、全国で展開している「子育て応援の店」のデータをAIに学習させて、今いる場所や行きたい場所から、AIが位置情報を確認して近い場所から10件表示させ、お店の情報や、地図情報を表示するようにしました。「子育て応援の店」は、おむつ替えの出来るお店や、子連れだと割引やクーポンを提供してくれる、子育てを応援する店として、全国の都道府県で取り組まれています。この「聞きなっせ」には、「子育て応援の店」だけでなく、役所や図書館、公園など子育てに関係がある公的機関も追加して、更に利便性を高めています。

さらに、イベント情報は、図書館の読みきかせ会のイベントや、子育てを応援するNPOや団体が開催するイベント情報を、「聞きなっせ」で配信しています。「聞きなっせ」は登録者にダイレクトに発信するため、一人一人に確実に情報を届けることができます。

目の前の業務の必要性からAI活用のきっかけが生まれます。しかも、AIに必要なデータは目の前に沢山転がっているはずです。あなたも早速取り組んでみませんか。


熊本県では、子育て問題に対してスマートフォンで気軽に相談できるチャットボットを導入しました。活用できていない手持ちのデータや外部データを利用することで、導入検討する際に「AIには大量のデータが必要」というイメージから脱却できるでしょう。

本連載で取り上げて欲しいテーマや事例がございましたら、お問い合わせフォームにご意見をお寄せください。読者の皆様に寄り添った連載を目指して参ります。

編集:AIsmiley 編集部 中村優斗


【澤田光の行政×AI最前線】バックナンバー

澤田光

安田女子大学 公共経営学科 准教授。奈良女子大学大学院人間文化研究科社会生活環境学専攻。博士(社会科学)。社会福祉士。福祉社会学の視点から少子化を研究。 熊本県庁で、児童相談所や福祉事務所、市町村の児童福祉主管課など現場での実践をはじめ、エンゼルプランの策定や少子化対策の企画立案実践、介護保険事業計画等を担当。

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