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国内産業への浸透を目指して──GENIAC第3期キックオフ、採択企業が挑む社会実装

最終更新日:2025/07/17

GENIAC 第3期 キックオフレポート

日本国内で生成AIの開発力と社会実装を推進する「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」が、いよいよ第3期を始動しました。経済産業省・NEDOが主催する本プログラムは、国内の産業競争力を高めるため、基盤モデルの開発支援やデータ活用の促進、ナレッジ共有など幅広い取り組みを展開しています。

今回のキックオフイベントは、採択事業者同士が顔合わせを行い、開発内容を共有することでコミュニティ内の結束を深め、今後の活動を円滑に進めることを目的に開催されました。本記事では、採択企業の発表内容のハイライトをレポートします。

社会実装と人材育成を両輪に──第3期で目指す生成AIの進化

会の冒頭では、経済産業省 情報処理基盤産業室長の渡辺 琢也氏が登壇。生成AIの持つ社会的・経済的インパクトに触れた上で、「私たちの暮らしや経済活動、さらには物理空間に至るまで、大きな変革をもたらす技術であることは、既に共通認識になりつつある」と述べました。

経済産業省 情報処理基盤産業室長 渡辺 琢也氏

これまで日本は生成AIを「利用する」立場に留まりがちだったものの、今後は開発力を確保し、幅広い分野で主体的に活用していくことが重要だと強調。データの多様性や非構造データの多さ、利用コストの制約など、現場で直面する課題に触れつつ、「特定の1つの基盤モデルだけに依存するのではなく、多様な技術が共存する環境を築く必要がある」と語りました。

本プログラムは、基盤モデルの開発や計算資源の調達、データ利活用、ナレッジ共有の支援を柱としており、これまで月1回程度のペースで勉強会や成果報告会を実施。コミュニティ形成や海外有識者とのネットワーク拡大にも注力してきたことを紹介しました。

今回の第3期では、第1期・第2期以上に社会実装を見据えた取り組みを重視しており、「開発だけでは社会実装は進まない。利用者自身が価値を生むデータを見極め、開発に参画することが重要です」と述べました。また、データを起点としたエコシステム形成に向け、データ提供者への適正な利益分配や信頼性の高いデータ流通を支援していく方針を示しました。

さらに、今後の政策として、人材育成とスキルの可視化、汎用性の高い先端研究の推進、海外展開の強化を重点課題に挙げ、「国内外の市場で競争力を高め、生成AIが全産業に浸透する未来をともに作っていきたい」と呼びかけました。最後に「失敗を恐れずに挑戦し、日本発のAI産業を育ててほしい」と参加者にエールを送り、挨拶を締めくくりました。

産業を変える生成AI活用──第3期から始まる次のステージ

第3期キックオフでは、第3期基盤モデル採択事業者と第2期データ実証採択事業者、全28社の採択事業者による事業計画プレゼンテーションが行われました。

第3期基盤モデル採択事業者

1.株式会社ABEJA
2.株式会社野村総合研究所
3.ONESTRUCTION株式会社
4.Zen Intelligence株式会社
5.Degas株式会社
6.AI inside株式会社
7.カラクリ株式会社
8.Direava株式会社
9.株式会社プレシジョン
10.株式会社AIdeaLab
11.NABLAS株式会社
12.SDio株式会社
13.楽天グループ株式会社
14.株式会社Kotoba Technologies Japan
15.Sansan株式会社
16.株式会社リコー
17.Nishika株式会社
18.ストックマーク株式会社
19.株式会社Preferred Networks(基盤モデル)
20.Airion株式会社
21.株式会社NexaScience
22.Turing株式会社
23.アリヴェクシス株式会社
24.SyntheticGestalt株式会社

第2期データ実証採択事業者

25.株式会社Preferred Networks(データ実証)
26.Visual Bank株式会社
27.株式会社HEMILLIONS
28.一般社団法人AIロボット協会 AIRoA

今回のレポートでは全28社の内、4社をピックアップして紹介します。

株式会社野村総合研究所(NRI)

野村総合研究所は、GENIAC第3期から新規で採択されました。今回の取り組みでは、中規模オープンLLMモデルを基盤に、金融業界を中心とした多様な産業でAI活用を支援する特化型モデルの構築を目指します。

背景には、汎用大規模モデルでは専門性が十分に発揮できない場合や、運用コスト、データ漏えいリスクなどの課題があることが挙げられています。こうした課題に対応し、より柔軟で実用的なAI活用を実現するため、中規模モデルの有用性に着目した取り組みを進めます。

NRIはすでに小規模モデルを用いて、保険営業におけるコンプライアンス支援などで高い性能を実証してきました。今回のプロジェクトでは、中規模モデルをベースに、金融業界特有の文脈や専門用語に対応できるモデルを構築し、コストパフォーマンスと精度の両立を目指します。

実証では、日本語金融ベンチマークを用いた継続事前学習により、ベースモデル比で5%以上のスコア向上を達成することを目標としています。さらに、証券・保険の実務タスクにおいてはGPT-4を上回る性能を示すことを目指し、ファインチューニングや検証を行います。

評価・検証の対象としては、保険業務における営業会話のコンプライアンスリスク判定や、証券業務での営業会話のコンプライアンス判定を実施します。また、保険領域では募集文書の文章校正を行い、証券領域ではシステム保守におけるRAGによる質問応答にも取り組む計画です。

株式会社プレシジョン

プレシジョンは、GENIAC第3期の取り組みとして、深刻な医療従事者の長時間労働や人手依存医療の問題を解決するため、生成AIを活用した医療用途特化型LLMの開発に取り組みます。医療現場では週60時間を超える勤務が常態化し、約3人に1人が燃え尽き症候群を訴えるなど、医師の健康被害や離職が深刻な課題となっています。こうした過酷な労働環境は、医療サービスの質の低下や医療エラーの増加にも繋がっていると指摘されました。

このような背景を踏まえ、同社は「人手依存医療問題を解消し、医療の在り方をアップデートする」ことを目標に掲げています。今回のプロジェクトでは、SIP-jmed-LLMをベースに、診療中の音声認識や知識支援機能を備えた特化型モデルを構築します。具体的には、診療音声をリアルタイムでテキスト化・要約しSOAPノートを自動生成する「校正支援」、ガイドラインや論文を検索して根拠付きの回答を即時提示する「知識支援」の機能を開発。これにより、医師の入力時間を半減させ、医療訴訟リスクの低減や均質な医療提供を支援することを目指します。

海外ではLLMの導入によって診療時間や負担が大幅に軽減された事例が報告されており、米国やカナダの医療機関では業務時間が1日最大1.6時間短縮され、燃え尽き状態の改善にも繋がったという実績が示されました。プレシジョンは、こうした海外の成功事例を参考に、日本の医療現場でも持続可能な働き方改革を推進していく考えです。

楽天グループ株式会社

楽天は、長期的な対話履歴を踏まえたパーソナライズ応答を可能にする新しい生成AI基盤モデルの研究開発を進めています。同社はこれまで、日本語に最適化したLLMを自社で一貫して開発しており、「Rakuten AI 2.0 8×7B」「Rakuten AI 2.0 MINI 1.5B」といった次世代モデルをすでに公開しています。

これらのモデルは、従来比で8倍の規模と高い日本語性能を備える一方、Transformerベースのモデルであり、業務利用における計算負荷や長文コンテキストへの対応、推論コストなど複数の課題も抱えていました。

こうした背景を踏まえ、第3期では「Factorized Memory」を採用した新たな基盤モデルの構築に取り組みます。長期記憶メカニズムと対話型学習を融合することで、従来のTransformerアーキテクチャでは難しかった長文入力や複雑なユーザー履歴の効率的処理を目指します。これにより、ユーザーが数ヶ月単位で積み重ねた情報や嗜好を反映しながら、高度にパーソナライズされた応答を提供できるAIエージェントの実現を図ります。

第3期の実証では、複数の観点から性能を評価する予定です。具体的には、日本語と英語での基本的な言語理解能力に加え、長文入力時の精度、パーソナライズ応答の質、出力までにかかる推論時間(推論コスト)の4つを主要なベンチマークとして検証します。また、学習コストの抑制や多様な業務への適応力も確認し、実用性の高いモデルを目指します。

ストックマーク株式会社

ストックマークは、企業内に眠る暗黙知を形式知化し、業務の高度化を支援することをテーマに、ビジネスドキュメント読解特化型基盤モデルの開発に取り組みます。同社はGENIAC第1期から第3期まで継続して採択されており、日本語の文書理解分野で着実に成果を積み上げてきました。

これまでに開発した「Stockmark2」モデルは、日本語のドキュメント理解において高い性能を示し、GPT-4oを上回る精度を達成しています。第2期では一般的な日本語文書だけでなく、図表やレイアウト情報を含むビジネスドキュメントの読解に特化し、国産モデルの中で最先端レベルの性能を実証しました。

今回の第3期では、さらに一歩踏み込み、製造業で頻繁に使用されるマニュアル、業務フロー、設計図、特許文書など、情報密度と専門性が高い資料を対象にした30B規模の特化型基盤モデルの開発を進めます。製造業特化のベンチマークで最高性能を目指すとともに、ドキュメントに内在する暗黙知を抽出し、ナレッジ共有や業務効率化、ビジネスアイデア創出に活用することを目標に掲げています。

社会実装本格化へ──進む実用化と今後の期待

GENIAC第3期キックオフイベントでは、日本発の生成AI開発を支える多様な取り組みが改めて示されました。各採択企業の発表からは、技術力の強化だけでなく、医療・製造・金融など産業固有の課題を深く理解し、社会実装に直結する具体的なユースケースへ展開する強い意志が感じられました。

また、モデルの長期記憶や省コスト化、高度な専門文書の読解など、実用化に向けた挑戦が着実に進んでいることも印象的でした。生成AIが「先端技術」にとどまらず、現場の業務変革や新たなビジネス創出を後押しする基盤へ進化している様子が伝わってきます。

今後、日本の生成AI開発力と競争力を高めるためには、引き続き官民の連携とコミュニティの結束が不可欠です。第3期を通じた技術の成熟と幅広い産業への定着に期待が集まる中、GENIACの取り組みが日本発のAIイノベーションを世界へ広げていくことが期待されます。

AIsmiley編集部

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