観光庁推進の観光DXとは？観光DXのメリットや取り組む上での注意点や事例を紹介

最終更新日:2024/09/24

観光DXとは？

観光業界におけるデジタル化の波が押し寄せています。本記事では、観光DXの概要と観光業界が直面する課題について詳しく解説します。観光DXに関心のある事業者や観光産業の未来に興味を持つ方々にとって、貴重な情報源です。

デジタル技術を活用した観光産業の変革について、その重要性と可能性を探ります。

観光DXとは

観光DXとは、デジタル技術を活用して既存の観光サービスの質を向上させたり、観光業界の課題を解決したりすることを目的とした取り組みです。DX（デジタルトランスフォーメーション）とは、進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革することを指します。

世界的に見て、日本はデジタル化が遅れていると指摘されています。さまざまな産業分野でDX化が進められる中、観光産業もその例外ではありません。観光産業においても、デジタル技術を積極的に活用し、サービスの向上や業務効率化を図ることが強く求められています。

観光DXが推進される理由

観光業界でDX化が推進される主な理由は、顧客ニーズの変化と業界の構造的課題への対応です。近年、旅行者のデジタル化が急速に進み、オンラインでの情報収集や予約が一般的になっています。一方で、観光産業は人手不足や生産性の低さといった課題に直面しています。

観光DXは、これらの課題を解決し、顧客満足度の向上と業界の持続可能性を両立させる手段として注目されています。

観光庁による観光DXの取り組み

観光庁は、観光DXを推進するための様々な施策を展開しています。具体的には、「持続可能性の高い観光地経営の実現に向けた観光DX推進緊急対策に係る実証事業」や「DXの推進による観光・地域経済活性化実証事業」などを実施しています。これらの事業を通じて、データ活用による観光戦略の立案や新たな観光体験の創出を支援しています。

また、観光事業者のデジタル化を促進するための補助金制度も設けており、観光DXの普及に向けた環境整備を進めています。

観光業界が抱える課題

観光業界が抱えている課題には、以下のものがあります。

• 定着率が低い
• 生産性が低い
• 他業界よりもデジタル化が浸透していない
• IT人材が少ない

これらの課題は互いに関連しあっており、観光業界の発展を妨げる要因となっています。しかし、これらの問題を解決する鍵が観光DXです。

定着率が低い

観光業界、特に宿泊業や飲食サービス業では、従業員の定着率の低さが大きな課題となっています。厚生労働省の調査によると、宿泊業・飲食サービス業の離職率は平均で25%を超えており、全産業平均の約15%と比べて著しく高い状況にあります。

この高い離職率の背景には、長時間労働や不規則な勤務体系、繁忙期と閑散期の波動性による雇用の不安定さなどがあります。また、接客業特有のストレスや労働に対する対価が十分でないと感じる従業員も多いのが現状です。このような状況は、サービスの質の低下や人材育成の困難さにつながり、観光産業全体の発展を阻害する要因となっています。

生産性が低い

観光業界の生産性の低さも大きな課題です。日本生産性本部の調査によると、宿泊業の労働生産性は全産業平均の約半分程度にとどまっています。具体的には、2019年の宿泊業の労働生産性は約300万円/人であり、全産業平均の約800万円/人を大きく下回っています。

この生産性の低さは、人手に頼る業務が多いことや設備投資の遅れ、繁閑の差が大きいことなどが要因として挙げられます。低い生産性は、従業員の待遇改善や事業の拡大を困難にし、産業全体の成長を妨げる要因となっています。

他業界よりもデジタル化が浸透していない

観光業界は、他の産業と比較してデジタル化の浸透が遅れています。総務省の「令和3年情報通信白書」によると、DXの取り組みを実施していると回答した割合が、情報通信業では51.0%だったのに対し、宿泊業・飲食サービス業ではわずか16.4%にとどまっています。

この差は、観光業界におけるデジタル化の遅れを如実に示しています。多くの観光関連企業が、予約管理や顧客データの活用、マーケティングなどにおいて、依然として従来型の手法に頼っているのが現状です。このデジタル化の遅れは、業務効率化の改善や顧客サービスの向上を妨げる要因となっています。

IT人材が少ない

観光業界におけるIT人材の不足も深刻な問題です。経済産業省の調査によると、2030年には日本全体で最大79万人のIT人材が不足すると予測されていますが、この傾向は観光業界でより顕著です。多くの観光関連企業では、デジタル技術を効果的に活用できる人材が不足しており、DX推進の大きな障壁となっています。

例えば、データ分析やAI活用、クラウドサービスの導入などを担当できる専門人材が極めて少ないのが現状です。この人材不足は、観光DXの推進を遅らせ、業界全体の競争力低下につながる恐れがあります。

観光DXを進めることで得られるメリット

観光DXを推進するメリットには、以下のものがあります。

• 観光客・観光業務の利便性の向上
• 集客の最適化・収益の最大化
• 新たな顧客体験・価値の創出
• 業務効率化と人材の有効活用化

観光DXの推進は、多くのメリットをもたらします。観光客と業務の利便性の向上、集客の最適化と収益の最大化、そして新たな顧客体験の創出が実現し、これらは、観光業界の競争力激化と持続可能な成長に直結します。

観光客・観光業務の利便性の向上

観光DXにより、観光客と観光業双方の利便性が大幅に向上します。例えば、AIを活用したチャットボットの導入により、観光客は24時間365日、多言語で観光情報や宿泊施設に関するお問い合わせができるようになります。JTBが提供する「JAPAN Trip Navigator」アプリは、AIを活用して訪日外国人旅行者を24時間サポートし、観光スポットやモデルプランの情報提供、困りごとへの対応を行なっています。

また、QRコードを活用した決済システムの導入も利便性向上に貢献します。岐阜県の「さるぼぼコイン」は、高山市・飛騨市・白川村で使える地域限定電子通貨で、簡単な決済や送金が可能となり、観光客の利便性向上と地域経済の活性化を同時に実現しています。

集客の最適化・収益の最大化

観光DXは、データ分析とAIの活用により、より効果的な集客戦略の立案と収益と最大化を可能にします。例えば、京都市が提供する「京都観光快適度マップ」は、リアルタイムの混雑状況を分析し、観光客に快適な観光ルートを提案すると同時に、混雑緩和と観光客の分散を実現しています。これにより、観光地全体の満足度向上と収益の最適化が図られています。

また、ビッグデータ分析を活用することで、観光客の行動パターンや消費傾向を把握し、ターゲットを絞ったマーケティング施策を展開できます。例えば、北海道ニセコ町・倶知安町・蘭越町で実施された「ALLニセコ 多様なデータ集約による消費行動促進事業」では、地域内の様々なデータを統合・分析することで、効果的な観光戦略の立案と収益向上を目指しています。

新たな顧客体験・価値の創出

観光DXは、従来の観光体験を超えた新たな価値を創出します。VRやARなどの最新技術を活用することで、物理的な制約を超えた観光体験を提供できます。例えば、神奈川県横浜市で実施された「KEIKYU OPEN TOP BUS YOKOHAMA-NAKED XR TOUR」では、XR技術を活用し、オープントップバスで横浜・みなとみらいエリアを周遊しながら、未来にタイムスリップしたり海底に沈んだりする幻想的な体験を提供しています。

また、LOCAL CRAFT JAPANの取り組みでは、オンライン・カンファレンスシステムやVR技術を活用し、海外からでも日本の伝統工芸や産業を体験できる「クラフトツーリズム」を実現しています。これにより、物理的な移動を伴わずとも、日本の文化や技術を深く理解できる新たな観光形態が生まれています。

業務効率化と人材の有効活用化

観光DXは、業務プロセスの自動化や効率化を通じて、人材の有効活用を可能にします。例えば、神奈川県秦野市の老舗旅館「陣屋」では、IoTを活用して車や利用客の入退場を自動で察知し、待機時間の削減を実現しました。また、宿泊客のデータ分析により、好みに合わせた料理提供や接客を行い、顧客満足度の向上と業務効率化を同時に達成しています。

さらに、デジタル技術の導入により人的ミスやトラブルを防止できます。予約管理システムのデジタル化により、二重予約や予約漏れといった人為的ミスを大幅に削減できます。また、キャッシュレス決済の導入により、現金の取扱いに関するトラブルや計算ミスを防ぐことができます。

これらの取り組みにより、スタッフにより付加価値の高い業務に集中でき、サービス品質の向上につながります。

観光DXを進める上での注意点

観光DXを進める上での注意点には、以下のものがあります。

• 観光DXで解決したい課題を明確にする
• 導入にかかるコストを計算し計画的に行う
• 結果が得られるまでに時間がかかることを理解する
• セキュリティ面を強化する

観光DXの導入と推進には慎重なアプローチが必要です。効果的な実施には、明確な戦略や適切な資源配分、そして長期的な視点が欠かせません。

また、デジタル化に伴う新たなリスクにも十分な注意を払う必要があります。これらの点に留意することで、取り組みをより効果的に、そして持続可能なものにすることができます。

観光DXで解決したい課題を明確にする

観光DXを推進する上で、まず重要なのは解決したい課題を明確にすることです。なぜなら、明確な目標がなければ、適切な施策を選択し、効果を測定することが困難になるからです。

例えば、観光客の滞在時間の延ばしたいのか、リピーター率を上げたいのか、それとも地域の魅力を効果的に発信したいのかなど、具体的な課題を設定することが大切です。これにより、必要な技術やツールを適切に選択し、効率的にDX化を進めることが可能になります。

導入にかかるコストを計算し計画的に行う

観光DXの導入には、システム構築や機器の購入といった初期費用だけでなく、運用にかかる人件費や保守費用などの継続的なコストも発生します。また、スタッフの教育や新しいシステムへの移行にかかる時間的コストも考慮する必要があります。これらを事前に詳細に計算し、計画的に進めることが重要です。

計画性を欠いた導入は、予算超過や想定外の運用コストの発生、さらには従業員の混乱や顧客サービスの低下などのリスクを招く可能性があります。そのため、短期的な視点だけでなく、中長期的な展望を持って慎重に計画を立てることが求められます。

観光DX導入には補助金が利用できる

観光DXの導入は、多くの利点をもたらす一方で、初期投資や運用にかかる費用が障壁となる場合があります。しかし、この課題を軽減するために政府や地方自治体が提供する様々な補助金や支援制度を活用することができます。

これらの制度を上手に利用することで、観光DXの導入をより現実的なものにできます。

結果が得られるまでに時間がかかることを理解する

観光DXの効果は、導入した技術や施策の内容によって異なりますが、多くの場合、即時に目に見える結果が現れるわけではありません。例えば、データ分析を活用したマーケティング施策の場合、十分なデータ量を集めるまでに時間がかかり、その後の分析や施策の改善にも時間を要します。

したがって、DX化の成否は中長期的な視点で判断することが大切です。短期的な成果にとらわれすぎず、継続的な改善と効果測定を行いながら、粘り強く取り組むことが成功への鍵となります。

セキュリティ面を強化する

観光DXにおいて、セキュリティの強化は非常に重要な課題です。特に、予約システムや顧客管理システムなどでは、個人情報を扱うケースが多く、その保護には最新の注意を払う必要があります。

近年、観光業界においてもサイバー攻撃による情報漏洩やシステムダウンなどの被害が報告されており、その対策は急務となっています。例えば、2018年には大手旅行代理店のシステムが不正アクセスを受け、約680万人分の個人情報が流出する事態が発生しました。このような事例からも、セキュリティ対策の重要性がわかります。

観光DXの成功事例

観光DXは、旅行者の体験を向上させ、観光地の魅力を最大限に引き出す様々な可能性を秘めています。以下に、3つの成功事例を紹介します。

• 観光マップとGPSの連携
• AIによる24時間サポート
• バーチャルツアー体験

次に、それぞれ具体的に見ていきます。

観光マップとGPSの連携

スマートフォンのGPS機能と連携した観光マップの導入により、旅行者の利便性が大幅に向上しました。例えば、京都市の「歩くまち・京都」アプリでは、現在地から目的地までの最適なルートを表示するだけでなく、周辺の観光スポットや飲食店の情報もリアルタイムで提供しています。

これにより、旅行者は効率的に観光地を巡ることができ、また、思いがけない発見をする機会も増えています。

AIによる24時間サポート

AI技術を活用したチャットボットの導入により、24時間365日の旅行者サポートが可能になりました。例えば、長崎県の「あじさいコンシェルジュ」は、観光情報の提供から宿泊予約まで、幅広い質問に対応しています。言語の壁を超えて多言語で対応できるため、インバウンド観光の促進にも貢献しています。

バーチャルツアー体験

VR（仮想現実）技術を活用したバーチャルツアーにより、実際に訪れる前に観光地の魅力を体験できるようになりました。例えば、奈良県の「バーチャル平城宮」では、1300年前の平城宮を3Dで再現し、当時の様子を臨場感豊かに体験できます。これにより、観光地への興味喚起や実際の訪問時の理解促進につながっていきます。

以上、観光DXの導入に関する注意点と成功事例をご紹介しました。適切な計画と実行により、観光産業に新たな可能性をもたらすことが期待できます。

まとめ

観光DXは、デジタル技術を活用して観光産業の課題解決と成長を目指す取り組みです。低い定着率や生産性、デジタル化の遅れやIT人材不足など、観光業界が抱える問題に対処するために推進されています。

観光庁も積極的に取り組んでおり、その導入により利便性向上・収益最大化・新たな顧客体験創出・業務効率化などのメリットが期待されます。ただし、導入にあたっては解決したい課題の明確化・コスト計算・時間の考慮・セキュリティ強化が重要です。

観光DXは、業界の変革と発展に向けた重要な戦略といえます。

AIsmiley編集部

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