【インタビュー】AIの力で製造業・建設業の課題を解決~DATAコンシェルジュ「The ROOM4D」の役割とは~
最終更新日:2024/04/05
製造業や建設業の現場では、さまざまな課題に対してAIの利活用が検討されています。生産プロセスの自動化や、検品、危険検知、需要予測、人員管理などAIの実用化が進んでいます。
AIを実用化するためには、データの収集および解析を繰り返し、より精度を高めながらAIの構築に反映させていくことが必要不可欠です。そのためには、現場側と開発側の連携を強め、データを最適化させるためのDATAコンシェルジュの存在求められています。今回は、The ROOM4D株式会社(以下、The ROOM4D)が、DATAコンシェルジュとして、事業のどのような役割を担うのかお話しを伺いました。
<話し手>
・The ROOM4D株式会社
取締役
戸嶋 龍哉氏
・The ROOM4D株式会社
顧問
向川 博英氏
・株式会社大塚商会
PLMソリューション営業部
プロジェクトPLM2課 次長
辻 琢磨氏
・株式会社日本HP
パーソナルシステムズ事業本部
クライアントビジネス本部
ワークステーション市場開発
小俣 裕二氏
ビジネスデータを活用するデータのプロ集団
――まずは、The ROOM4Dの事業内容についてお聞かせください。
The ROOM4Dの主な事業は、データに関するコンサルティングとプロダクト開発です。コンサルティングは「ビジネスのデータ活用に関するコンサルティングおよびデータ分析」となり、プロダクト開発は「ビジネスのデータ活用に向けた人材育成やデータに関する機械学習システムの開発」を行います。これらの事業実績として多いのは、データの分析支援と、人工知能に基づく解析です。お客様は、製造業、建設業、メディア、調査系の企業様や研究所様など多方面に渡っています。2019年に設立してから約3年ではありますが、ビジネスデータ分析支援を中心に売上を伸ばしています。現在は、製造業の現場で求められるリアルタイムでの危険検知を、サーバーに頼らずエッジで処理できるような軽量かつ高速なアルゴリズムの開発などにも取り組んでいます。今後は、こうしたプロダクトをビジネスデータ分析と連携させていきたいと考えています。
――企業として目指すビジョンはどのようなものなのでしょうか。
弊社は代表取締役の酒巻隆治をはじめ、私も他の社員もデータの専門家です。「お客様がまだ見えていないものをデータを使って示していく」というミッションを掲げて、ビジネスサイドと開発サイド、その間を取り持つようなポジションでAIの構築や導入を支援しています。多くの企業は、ビジネスサイドが強い場合に開発側が弱かったり、逆に開発サイドが強い場合にビジネスサイドが弱かったりと、バランスが取れてない状態に悩んでいます。そのような状態を解決するための手段として、「弊社のメンバーと一緒に不足を補いながら『健全な組織』を作っていきましょう」というご提案をさせていただいています。
製造業・建設業におけるAI導入の可能性
――大塚商会との取り組みについて教えていただけますか。
The ROOM4Dは、株主でもある大塚商会様とのアライアンスを進めています。私はThe ROOM4Dの顧問に就任する前、長期に渡り大塚商会に在籍していました。大塚商会様は、かなり前から積極的にAI領域へのビジネス展開を図ってきました。そのような動きに私も参画し、パートナー企業を開拓していた際にThe ROOM4Dと出会ったのが、現在の立場に至るきっかけです。現在、The ROOM4Dと大塚商会が協業する取り組みの一つとして、AIの導入を模索する企業様向けのセミナーを開催しています。これまでにThe ROOM4Dの代表を務める酒巻が2回、戸嶋が1回、それぞれ講師として登壇していますが、直近のセミナーでは、100社様の枠に対して260社様ほどから応募をいただくほどの盛況になって参りました。また、直近のセミナーに参加された企業様のうち、50社様ほどから何かしらのご相談などをいただいております。今後は、セミナーを通して繋がった企業様へのご支援が活発化していくことが期待されます。
既に事業として形になっているケースもあります。兼ねてより大塚商会様のお客様である大手企業様で、原材料を加工するための生産設備のパラメータの最適値をAIで見つけたいというご要望があり、The ROOM4Dも参画させていただきました。加工を行う機械のパラメータの細かい調整は人間が行いますが、特にデリケートな扱いが求められる原材料の場合は、調整を行う担当者さんによってバラツキが生じてしまいます。それをAIを利用して最適値を見つけようという取り組みです。また、現在は製造業のお客様の設計の自動化をAIで実現する課題に取り組んでいます。第一歩としてお客様との共同研究開発をスタートさせる計画です。これまでにもThe ROOM4Dは製造業の課題解決を数多く手がけていますが、主な実績としては製品の需要予測やそれに基づく生産計画の策定、原材料の仕入れ数の自動計算、輸送経路の最適化などが挙げられます。
――建設業においてはどのような課題を解決できるとお考えでしょうか。
――戸嶋氏
建設業ですと、よく求められるのは危険検知の分野での課題解決です。たとえば、立ち入り禁止のエリアに人が侵入していないか、重機やクレーンのアームが動く範囲に人が近づいていないか、あるいは各場所で人がどのように作業を行っているのか、などをリアルタイムに検知することが求められています。そして、検知した情報を解析し、必要があればアラームを鳴らすことによってトラブルを未然に防ぎます。
その他にも、過去と現在の画像を比較して資材などの物が動いているかどうかを確認するというシステムを構築した事例があります。建設現場では「そこにあったはずの物が見つからない」というトラブルも少なくないことから重宝されています。このようなシステムは、もちろん工場など製造業の現場でも需要がありますし、既に検査や保全の分野で導入が実現しています。
――お聞きしたシステムは汎用性を持たせることができる印象ですが、実際はどうなのでしょうか?
基本的には全て個別のケースごとにシステムを開発する必要がありますので、汎用性が高いわけではありません。課題を解くためのフレームワーク(枠組み)は、どのような業界の課題でも共通性はありますが、扱うデータによって取り組むべきことがまったく異なりますので、結局は個別での開発となります。たとえ同じ業界の同じ物であっても業務プロセスは企業様によって異なりますし、何よりも人が違います。企業様ごとの人に応じてシステムを最適化すべきであると考えています。
ビジネスサイドと開発サイドを取り持つ存在に
――The ROOM4Dはビジネスサイドと開発サイドを取り持つという役目を自らに課しています。その理由について教えてください。
一般的にシステム開発を専門に請け負う企業は、発注元の企業の業務に対する深い造詣はありません。また、発注元の企業では、システムのプロが存在しない場合が多いでしょう。そのような状況でシステム開発が進めば、ビジネスサイドと開発サイドの考え方の違いが浮き彫りになるでしょう。そこで求められるのが、ビジネスサイドと開発サイドの両面に働きがけるデータサイエンティストの存在だと考えています。DATAコンシェルジュを標榜する弊社は、そんな存在を目標として日々の業務に取り組んでいます。
お客様の業務に精通していれば、それだけAIの構築や、前段階のデータ収集も早く進みますし、ビジネスサイドと開発サイドの両面での納得を得ることができます。そのような状態を実現すべく、私自身は不動産や建築に関わる分野について新たに学んでいる途中で、最終的には専門家としての知識を身に付けたいと考えています。新たな専門分野を学ぶのは決して簡単ではありませんが、諦めずにチャレンジしていきます。また、弊社には異なる業界からデータ分析に興味を持って、データサイエンティストになったメンバーがいます。さらに知的好奇心によって自動車業界や金融業界 に精通したデータサイエンティストもいます。このようなメンバーが揃ってお客様の業務を深く理解するために日々励んでおります。先ほど向川が申し上げたようにDATAコンシェルジュは、ビジネスサイドと開発サイドを取り持つ役割を担っています。自分たちの能力を余すことなく発揮して、よりお客様に寄り添ったDATAコンシェルジュ集団になっていきたいと考えております。
私は大塚商会様でコンサルの事業に従事し、AIのベンダー企業とは数多く接触を重ねて参りました。しかし、酒巻や戸嶋のような考え方のデータサイエンティストに巡り合ったのは初めてでした。まだThe ROOM4Dが立ち上がる前でしたが、彼らの周りにも同じような考え方のデータサイエンティストが存在することに驚くとともに、大きな可能性を感じました。前述の大手企業様も、本当に数多くのAI企業にご相談をされたと聞いています。その中で我々が最後まで残った理由は、課題解決に向けた提案が具体的にビジネスサイドに寄り添っていて分かりやすく、実現可能性を強く感じたとのことでした。
――大塚商会からは、これから新たにThe ROOM4Dと進めていきたい事業はありますか。
大塚商会では、製造業なら大手メーカーから中小の部品メーカーまで、建設業だと大手ゼネコンから中堅、中小、設計事務所、工務店などの幅広いお客様と取引をさせていただいています。どのような規模のお客様でも共通するのは、何らかの課題をお持ちであり解決に向けてはAIが活用できそうなケースが多いということです。そして、AIのパフォーマンスを最大化させるためには、The ROOM4Dが得意とするデータサイエンスの概念や技術が必要となりますので、積極的に一緒に取り組んでいきたいと考えております。
大塚商会様は、あらゆる業種のお客様を抱えていますが、The ROOM4Dとして最もお役に立てるのは、製造業や建設業のお客様の課題解決であると認識しています。それらのお客様のデータの中身には、技術のコアな情報や自社だけのノウハウ、または特許に関わるものもあるでしょう。当然ながらデータを外部に漏らしたくないと考えているはずです。そのため、「クラウドよりもエッジで運用したい」というニーズが高く、日本HP様のワークステーションに頼る場面が増えていくと予想しています。
日本HPのワークステーションが求められる理由とメリット
――The ROOM4Dと大塚商会の協業のなかでワークステーションが活躍する機会が増えていく。3社の協業がスタートするということですね。
大塚商会では、これまでもCAD用途としてHPワークステーションを導入してきました。既にお客様からは抜群の信頼を得ていますし、「AI用途でもHPのワークステーションを」というお客様はかなり増えてくることを予想しています。
ありがとうございます。
日本HPは1963年から日本にも拠点を置き、日本の企業や風土もよく理解しております。(当時は横河・ヒューレット・パッカード株式会社)直販中心ではなく、大塚商会様をはじめとした全国にあるパートナー企業様各社と連携し、パートナー企業様の提案や地域性を元にモデル展開などもおこなっております。
AI構築に不可欠な「役に立つデータ」
――実際のところ、お客様目線で「AI利活用でいちばん求められているもの」は何でしょうか。
現在、多くの企業様が「このまま業務を続けていくだけでは疲弊してしまう」「どうにかして人手不足を解消して生産性を高めたい」と模索しています。そのために「AIの力を借りて業務を標準化したい」というニーズが最も高いと感じます。
同感です。あくまでもAIは万能ではありませんので、求められる業務に特化することが精度を高めるためにも重要です。たとえば、飛び抜けた能力を持つベテランの社員さんを基準にした場合、その社員さんの8割くらいのレベルまでの自動化を目指し、誰でも扱えるようにする。そのような標準化が望ましいと考えます。セミナーなどを通して、AIの定義からお伝えするとともに、AIを構築する前段階が重要であることをお客様に知っていただきたいと考えています。収集したデータを俯瞰して分析することによって、AIへの反映が適切に進むのです。
――最後に、AI構築におけるデータの重要性について教えてください。
データは人間にとっても大切な判断材料となります。とあるサービスを運用するディレクターがAかBかの選択に悩む姿を見かけました。世の中的にはベテランのディレクターによって高い精度の選択ができると思われがちですが、実際にAかBかという究極の判断を迫られた人がたとえ対象のサービスに精通していたからといっても簡単に答えは出せないものです。このような場合、データ分析に携わる人間ができるのは、少しでも成功の確率が高い選択肢を導き出すことです。そのためには、どのようなデータを見るべきか、あるいは見ないべきかを見極め、収集すべきデータを絞り込むことが重要です。それこそが、人間にしかできない仕事であると考えています。
お客様の現場で、ビジネスサイドと開発サイドの間を取り持つDATAコンシェルジュを目指すThe ROOM4D。大塚商会、日本HPとの協業による製造業、建設業のAI導入、DX推進の駆動力となることが期待されます。
インタビュー:伊藤 大樹
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