フードロスよ、さようなら!食品ロスを削減する需要予測AIの活用事例まとめ
最終更新日:2024/02/22
生活スタイルの多様化による嗜好の違いや商品サイクルの短命化、マス広告の衰退とソーシャルメディアの台頭などにより、どのような商品に需要が生まれるのかを予測しにくくなっています。一方で、節分の風物詩ともなった恵方巻の大量廃棄が社会問題化するなど、もともと消費期限の短い生鮮品など食品廃棄への視線は厳しさを増しています。
そこで今回は、食品・飲食業界におけるフードロス(食品ロス)問題を解決に繋げる需要予測AIの活用事例をご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
AIの活用事例について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
AI・人工知能の利用例を解説!機械学習を活用した身の回りの実用例
フードロス問題の背景
フードロス(食品ロス)とは、本来は食べられる食品であるにもかかわらず捨てられてしまう損失のことです。そんなフードロスには、大きく分けて2つの種類が存在します。一つが、食品製造や外食産業といった事業活動において発生する「事業系フードロス」。もう一つが、家庭で発生する「家庭系フードロス」です。
このようなフードロスが問題視されている背景としては、世界で起きている食糧難、環境への悪影響などが関わっています。例えば、発展途上国では食糧難が多発しており、毎日の食事を満足に得られないという人も数多く存在している状況です。そのような中で、先進国では本来食べられるはずの食品がそのまま捨てられてしまうケースが多くなっていることから、「食料資源を有効活用できていない」という点で問題の声が多く挙がり始めているのです。
さらに、経済への影響も問題視されているポイントの一つといえます。食品の廃棄は、決して無料でできるわけではありません。資源とともにコストもかかってしまうことは、大きな問題点といえるでしょう。また、焼却や埋め立てといった方法で食品廃棄を行う場合、環境にも悪影響を及ぼします。特に近年はSDGs(持続可能な開発目標)が注目されており、環境面に配慮した取り組みが重要視されているからこそ、フードロス問題に目を向ける人や企業も増加していると考えられるわけです。
AIで食品ロス削減を目指す事例
日本だけでなく世界中でフードロスが問題視されている昨今、さまざまな企業で食品ロス削減を目指した取り組みが実施されています。中には、AIを活用することで効率的に食品ロス削減を実現している企業も存在しているのです。
ここからは、実際にAIで食品ロス削減につなげている企業の事例をご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
スシローの事例、年間10億皿のすしの鮮度や需要予測をビッグデータで管理
回転寿司のチェーン店「スシロー」を運営するあきんどスシローでは、レーンを流れるすべてのすし皿にICタグをつけ、売上状況や鮮度管理を行っています。どんな店で何のネタがたくさん食べられていて、どれが廃棄されてしまったのか。こういったデータを数億件蓄積し、そこに店舗の込み具合や個々の利用客の着席時間などを加味することで、1分後と15分後の需要を予測しています。
以前はプログラムで抽出したデータをExcelのマクロで分析していましたが、毎年10億件以上ずつ蓄積されていくデータを分析するとなると限界があります。そのため、同社ではビッグデータをよりフレキシブルに分析できるプラットフォームを構築し、マーケティングや商品開発に役立てているわけです。
スシローは他社よりも圧倒的にレーンを流れるすしの量が多く、キャンペーンによるメニュー変更も頻繁に行われます。年商1,100億円規模のチェーンともなると、年間の廃棄量を1%減らすだけでも年間で数億円のコスト削減につながるのです。
(参照:アシスト ビッグデータの高速分析で、隠れていた課題や問題点を可視化)
ローソンは在庫数などの状況に応じた値引き額をAIが推奨
コンビニエンスストアのローソンでも、食品ロスを削減させるための取り組みとしてダイナミックプライシングが試験的に導入されています。試験的にダイナミックプライシングが導入されたのは東京都の「ローソンゲートシティ大崎アトリウム店」であり、電子タグを活用した実験が実施されました。
その仕組みとしては、商品に付けられている電子タグを用いて賞味期限間近の商品を特定し、その賞味期限に合わせた価格をデジタルのプライスカードに表示させるというものです。この商品情報は、実験として用いられているLINEアカウントでも表示されるようになっており、対象の商品を購入した場合にはLINEポイントが還元されるようになっています。
ユーハイムはバウムクーヘン専用AIオーブンで過剰生産を削減
株式会社ユーハイムは、フードロス削減に貢献するシステムの実証実験を期間限定で大日本印刷株式会社(DNP)とともに9月8日(水)から実施しました。今回の実証実験のコンセプトは、「必要なものを、必要なとき、必要な量だけつくり、より美味しい状態で商品を消費者に届ける」。DNPが提供するシステムから、来店前にバウムクーヘンの購入予約を受け、受取日時に合わせて受注数のみをユ―ハイムのバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO(テオ)」が生産することで、余剰生産を減らし、フードロス削減に貢献できるというものです。
また、予約日時に合わせて当日に焼成・梱包を行うため、通常は提供していない「できたてバウムクーヘン」を販売。その日のうちに持ち帰り、自宅などでフレッシュなバウムクーヘンを楽しめます。近年、売れ残りや賞味期限切れによる廃棄、需要を上回る余剰生産などが原因で、本来食べられるのに捨てられてしまう食品”フードロス”が食品メーカー、食品卸、小売業、外食産業など業界を横断した深刻な社会問題となっています。一方、食品の廃棄削減を見越して生産数を減らすことで、「欲しかったのに買えない」購入者が生まれるなど、販売機会の損失が発生する懸念もありました。
このような課題に対して、DNPとユ―ハイムは、DNPが提供する「需要を把握・管理できる仕組み」と、店舗に設置された職人と同等レベルでバウムクーヘンを焼き上げる「THEO」を連動させ、最適なタイミングで商品を提供する実証実験を開始することに至ったというわけです。
ちなみに「THEO」とは、株式会社ユーハイムが開発した、AIを搭載したバウムクーヘン専用オーブンのことです。職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化、無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼きあげることができます。ベテランの菓子職人のほか、ロボット工学の研究者、AIの専門家、デザイナーなど、様々なプロフェッショナルにご協力いただき、5年がかりで誕生しました。
実験の具体的な流れとしては、まず店舗にて本実証実験の対象商品となるバウムクーヘンの商品情報を、DNPが提供するシステムに登録します。購入者は、商品情報が掲出された専用Webサイト上を閲覧して、購入する商品や個数、受取日時を予約。店舗では、購入者が予約した日時にあわせてTHEOがバウムクーヘンを焼き上げ、梱包を行い準備していきます。そして購入者は、予約した日時に来店し、事前に予約した「できたてバウムクーヘン」を購入して持ち帰ることができるというものです。
従来、ユ―ハイムでは予め購入需要を予測し、工場で生産、各店舗へ商品を供給していますが、本実証実験を通じて「受注生産によるフードロス削減の効果」や「新しい販売方法の有効性」が検証されました。今後は、ユ―ハイムが活用する「THEO」のように製造効率を高めるものに加え、フードロス削減に繋がるAIシステムの導入も増加していく可能性が高いでしょう。
東京都は食品の需要予測AIシステム構築を主導
東京都は、官民連携で食品ロス削減への取り組みを始めています。都の主導のもと、食品メーカー、小売りなどの各業種が情報共有をし、需要の予測情報をまとめて製造過多を防ぐというもので、具体的には小売り店や卸、食品メーカーから売り上げや在庫の情報提供を受けて、需要予測を手掛ける企業に情報を一元化。予測会社は天候やイベントといった要素も加味して、食品の需要予測を提供します。
食品メーカーは、小売店からの発注情報をもとに食品の製造量を調節します。しかし、自前のシステム化が遅れている中小企業などは自社製品の売れ行きを地域、期間ごとに細かく把握していない場合が多く、廃棄が生まれやすい環境にあります。
今回の東京都の取り組みでは、こうした中小企業も活用しやすい仕組みを目指すとのことで、中小企業中心に数十社前後の参加を求め、2019年中に実証実験が開始されるもようです。
食品廃棄の大半は、小売店や飲食店、ホテルなどの事業系だとされています。そのため、フードロスの改善には、食のサプライチェーンでの情報共有が必須とされて指摘されてきました。
ただ、POS(販売管理システム)による売り上げデータなどは、企業のマーケティングや販売戦略の要ともいっても過言ではありません。都が仲立ちをするとはいえ、どれくらいの企業が情報提供に前向きとなるかは未知数といえます。
(参照:日本経済新聞 食品ロス削減 需要予測 都、メーカー・小売りと年内にも実験)
販売数や来客数予測で在庫管理を最適化して食品ロスを削減しよう
今回は、食品ロスを削減に繋げる需要予測AIの活用事例をご紹介しました。食品ロスは世界中で問題視されているものであり、今後もこの問題とは向き合い続けなければなりません。だからこそ、食品ロスの削減に繋げるAIへの注目度も高まりつつあるのです。
そのような中で、企業によるAI活用はしっかりと成果にも繋がっており、農林水産省及び環境省が発表した食品ロス量(令和2年度推計値)は522万トン、推計を開始した平成24年度以降で最少となっています。この成果に加えて、販売数や来客数を高精度に予測できるシステムが増加傾向にあることも踏まえると、今後さらに企業のAI活用は加速していく可能性が高いでしょう。ぜひこの機会に、SDGsという観点からAIの活用について見つめ直してみてはいかがでしょうか。
なお、AIsmileyでは用途に合わせて最適な予測AI製品をご案内しております。AIの導入をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
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