装置の故障予知とは?導入の流れや活用事例を紹介
最終更新日:2024/04/04
AI・人工知能やIoT(Internet of Things)の技術が進歩したことにより、最近では多くの商品やサービスにAIが用いられ、より高度な操作を行えるようになりました。そしてそれは、機械の異常を検知したり、故障を予測したりする場面でも活用されるようになってきています。
AIを活用した異常検知、故障予測とはどのような仕組みで成り立っているのでしょうか。また、異常検知や故障予測を行う際に注意すべき点などはあるのでしょうか。今回は、AIを活用した異常検知、故障予測の仕組みについて詳しくご紹介していきます。
異常検知について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
異常検知とは?機械学習の手法や活用事例を紹介
故障予知とは
故障予知とは、AIが計測値を機械学習することによって、故障や劣化を検知し、故障が発生する前の適切なタイミングで対応するための手法です。
大量の計測値を機械学習させることによって、仮にそれが未知のパターンであっても、複雑なパターンであっても、蓄積された過去のデータをもとに故障かどうかを検知することができます。
異常検知については、以下の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。
十分なデータが存在しない場合の故障予知の手法
十分にデータが存在しない場合には教師なし学習を用いることになるわけですが、この教師なし学習にもいくつかの手法が存在し、それぞれ異なる特徴を持っています。それぞれどのような特徴を持った手法なのか、詳しくみていきましょう。
SVDD
SVDDというのは、1クラス分類を目的とする場合の教師なし学習法です。学習する際に、少数派クラスのサンプルをほとんど得ることができないというケースにおいて有効な手法とされています。そのため、SVDDは異常の実例が少ないデータにおいてもうまく機能するのが特徴です。
これは、2つのデータ間の類似度を表すカーネル関数を活用することで、正常な状態の領域をモデル化していくというものになります。
PCA
PCAは、「主成分分析」というデータ解析手法のうちのひとつです。データが持っている情報を可能な限り損なわないようにしつつ、そのデータの全体的な雰囲気を可視化していくことができます。このPCAによる異常検知は、まず正常な領域のデータを定め、その領域から外れるデータを異常として検知するという仕組みです。異常検知だけでなく、パターン認識などの場面に活用することもできます。
RPCA
PRCAは、主成分分析というデータ解析手法のひとつであり、PCAにおける統計的基準に修正を加えたものです。特徴としては、他のデータとは大きく数値がかけ離れているようなデータにも対応することができるという点が挙げられるでしょう。そのため、異常検知や画像処理、行列圧縮といったものに活用されるケースが多くなっています。
AIによる故障予測・予知保全の導入フロー
では、AIによる故障予測・予知保全のシステムを導入するためには、どのような手順を踏んでいけば良いのでしょうか。ここからは、あくまでも一例ではありますが、実際の導入フローをご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
1.データの取得
取得したデータの有効性を検証していきます。また、通信方式やハードウェア構成、必要機材など、実際の運用時に合わせたデータ収集システムの検討を行っていきます。
2.外付けセンサーの検討
より質の高いデータを収集するためにセンサーを選定していきます。この際、センサーの種類やサンプリングレート、取り付ける場所といった情報の収集を行っていきます。
3.前処理
AI学習用のデータセットを作成していきます。具体的には、データの自動抽出や成形、学習に適したデータへの変換といった作業です。
4.学習
学習するための環境を整えていきます。環境が整ったら、学習結果の評価や、その結果をもとにした再トライなどを行っていきます。
5.実装・運用
そして最後に、AIを導入するハードウェアの検討を行っていきます。ハードウェアの構成が完了したら、運用が開始されます。
最近では、設備や工程だけでなく、工場全体の一元管理を支援している企業も少なくありません。異常検知、故障予測に関する知識をお持ちではない場合には、こういった一元管理の支援を行っている企業の利用を検討していくのもひとつの手段と言えるのではないでしょうか。
より効率的に業務を行うために機械を導入していても、その機械の故障を事前に予測する体制が整っていなければ、結果的に生産性を低下させてしまう可能性も否めません。そのような事態を避けるためにも、AIを活用した異常検知、故障予測のシステムは欠かせないものといえるでしょう。
■故障予知の導入事例
故障予知の仕組みや導入フローについてお分かりいただけたかと思いますが、この技術は実際にどのような場所で導入されているのでしょうか。ここからは、故障予知の導入事例をいくつかご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
・前川製作所
1924年創業の産業用冷凍機製造メーカー、前川製作所では、産業用冷凍機が故障により停止してしまった場合の「保管品の品質低下に伴う損失拡大」が大きな課題となっていました。前川製作所では、顧客により安心して冷凍機を使用してもらうためのサービスにも力を入れており、「早目の消耗品交換」などによって故障を防げるようにしていたそうです。
ただ、その保守コストも決して安くないため、より効率的に保守を行える仕組みを構築したいと考えた結果、予知保全の導入に至ったといいます。故障予知のシステムを導入することによって、必要な部品のみをピンポイントで交換できるようになったり、製造計画に合わせて保守を実行できるようになったりと、保守の大幅な効率化を実現することに成功しました。
・オムロン野洲工場
オムロン野洲工場の半導体生産ラインでも、故障予知は活用されています。オムロン野洲工場では、これまで半導体・MEMSセンサ製品のコスト競争力を維持しつつ、新たな機能を搭載した製品をリリースするために、既存の設備を最大限活用することによって多品種少量生産を行っていました。このような背景もあり、投資を抑えつつ、設備の老朽化によって増加してしまう突発故障を未然に防げるようにすべく、新たに故障予知のシステムを導入したのです。
振動データを活用し、いくつもの特徴量にリアルタイムで変換・監視する仕組みを構築したことで、突発故障の発生をゼロに抑えるだけでなく、メンテナンスコストを15%削減することにも成功しました。リスク低減とコスト削減を両立させることに成功したため、装置保全部門の長年の夢として掲げていた「CBM化」の実現にも一歩前進したといいます。
・Mondi Gronau社
世界有数の包装・製紙メーカーであるMondi Gronau社は、機械の故障によるダウンタイム、原材料の廃棄などに毎月数百万ユーロというコストが発生してしまうことが課題となっていました。そのコストを抑えながらプラントの効率化を実現すべく、Mondiでは故障予知アプリの開発に至ったそうです。
Mondiが開発したアプリでは、高度な統計と機械学習アルゴリズムが使用されており、機械の潜在的な問題を特定することが可能です。そのため、問題が深刻化する前の段階で従業員が適切な措置を行えるようになりました。
その結果、年間50,000ユーロを超える削減に成功したそうです。中断のない安定運用によって、今後も常時稼働が期待されているといいます。
業務用大型冷凍機製造・販売保守メーカー
業務用大型冷凍機製造・販売保守メーカーでも、積極的に故障予知は導入され始めています。その取り組み内容としては、センサからデータを取得し、AIによる分析によって季節変動等の不要なデータを除去し、正常状態をモデル化した上で「乖離度」から故障を予知していくというものです。
この仕組みを構築することによって、故障による保管品ロスを防止したり、保守コストを削減したりといった成果につなげることに成功しています。
AIによる故障予測・予知保全を実施する際の注意点
最近では、設備や工程だけでなく、工場全体の一元管理を支援している企業も少なくありません。異常検知、故障予測に関する知識をお持ちではない場合には、こういった一元管理の支援を行っている企業の利用を検討していくのもひとつの手段と言えるのではないでしょうか。
より効率的に業務を行うために機械を導入していても、その機械の故障を事前に予測する体制が整っていなければ、結果的に生産性を低下させてしまう可能性も否めません。そのような事態を避けるためにも、AIを活用した異常検知、故障予測のシステムは欠かせないものといえるでしょう。
なお、AIによる故障予測・予知保全を実施する際の注意点としては、AIの運用に関わる人的コストが発生する点が挙げられます。もちろん、AIの導入によって人的コスト以上の成果を生み出すことができる可能性はありますが、成果が出るまでに期間を要するケースも少なくありません。また、専門知識を持つ従業員も必要になるため、必要に応じて外部に委託するなどの選択肢も検討したほうが良いでしょう。
こういった点も踏まえながら、ぜひ故障予知の導入という選択肢も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
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