【インタビュー記事】「AIに勝つ!」AI研究の権威がかかげるAI for AI とは?
最終更新日:2024/01/18
AI・人工知能が将来人間の仕事が奪うという風潮がある一方で、日本の企業でAIの本質を理解している経営者は少ない。
AI・人工知能に関する著作を多数執筆し、メディアでも注目を集める日本の人工知能研究者の1人が、日本のAI開発企業「メタデータ株式会社」で代表取締役を務める野村直之氏だ。
野村氏は、1984年、東京大学工学部を卒業後、NEC C&C研究所に在籍する傍ら、マサチューセッツ工科大学人工知能研究所・客員科学者を兼務。
そして、ジャストシステム、リコー勤務など、研究者としてグローバルな活躍をしてきた野村氏だが、意外なことに日本で博士号を取得したのは40歳のとき。
――野村氏
「30歳くらいから国際学会で座長を任されたり研究会を創設したり、米国人の論文を査読して真っ赤に直して返したりしていました。
各地で「お前がPhDを持っていないとは。さっさととってくれ!」と言われて、39歳のとき半年の間に急いで論文を書いて博士号を取得しました。
日本は高学歴社会だといわれますが、大学受験のための教育
欧米、中国などに滞在中
博士は使いにくいからと敬遠する多くの日本企業と異なり、中国や欧米の超高学歴社会は、創造性を尊ぶ文化を育てているように思います。
九州大学に自然言語処理に関する論文を提出し、野村氏が理学博士号を取得したのは2002年3月、40歳になった直後のことだ。
その後、2005年にメタデータ株式会社を創業した。
現在、東京大学大学院で人工知能開発担当研究員を兼務し、人工知能研究者としてテレビ番組でも人気を集める野村氏。
誰もが羨むキャリアを築き上げながら、なぜ激動のAI業界で起業することを決めたのか。
今回の記事は、AI分野における権威の1人である野村氏にAIの本質についてお話を伺った。
AI・機械学習は万能ではない。AIの本質は、大量のデータを瞬時に分析する力
――野村氏
「機械学習は万能ではないし、AIが自らの意志で学習することはありません。
機械学習に必要な正解データやAIのモデルの方向性は、人間が考えるものなので、AIが万能というのは誤解です。
弊社でも、誰もが受けられないような複雑な案件を受けることがあります。
AIならコストをかけずにどんな課題でも解決できるというイメージが先行して、真面目に作ると数十兆円かかるというケースは少なくありません。」
突然、野村氏がテーブルに置かれたスマートスピーカーに話しかけた。
――野村氏
「アレクサ、いま来ているお客さんの名前は?」
――Alexa(アレクサ)
「わかりませんでした。すみません」
――野村氏
「今のは意地悪な質問だったかもしれませんが(笑)、もう少し上手い答え方が出来てもおかしくありませんね。
Amazonの有する数百人の技術者の手によって、超ビックデータがあるにも関わらずこの程度なんです。
もう少し気の利いたことができないのかと思うが、AIに対する期待値が下がっている今が好機だと考えています。」
数あるAIベンダーが企業の抱える様々な課題を解決するために玉石混交のデータを機械学習に投入し、何故そんな結果になったのかの理由を説明できないAIのPoC(概念実証)に失敗し続けた結果、企業のAIに対する期待値は少しずつ下がりはじめている。
大手企業からのAIプロジェクトだとしても、案件ベースではPoCを重ねるだけでビジネスにはならないのが現実だ。
そのためIBMやNECなどの大手IT企業がAI導入のためのコンサルティングビジネスを成功させる一方で、多くのAIベンダーがいかにPoC期間を有償化するかに躍起になっている。
成功事例の裏側には、機械学習のための正解データ作りに奮闘したAIベンダーやAI研究者の決して語られることない苦労があると言う。
そんな中、これから必要とされるのは「AI導入のためのAI活用」だと野村氏は語る。
メタデータ社がかかげる AI for AI とは?
――野村氏
「AIをうまく導入するための一つの考え方に AI for AI があります。
機械学習は万能ではなく、自らトレーニング用データの良否を吟味して篩にかけることができないということを大前提として、AI導入のための正解データを作るのが大変だから、そこにAIを使いましょうという工夫です。」
メタデータ社の提供する専門画像認識AI構築サービスでは、画像切り出しソフト「ANNON」が活用されている。
ANNONは、アノテーションツールの1つで、医療現場に使用される人間の臓器や細胞など超高解像度の画像のトリミングや注釈を可能にする。
アノテーションツールとは、データのタグ付けを支援するために用いられるソフトウェアのこと。
AIに必要なデータのタグ付け作業を効率的に行うことができる。
――野村氏
「ANNONの場合は、あまり精度が高くない深層学習がシステムの裏側で働いていて、AIが判定しきれない1割を人の手で修正することで生産性を高めようというものです。
AIのために使われるAIには2通りあり、ANNONのようなAIは専門用語でホモジニアスといって、完成品のAIモデルと同質のAIを使っています。
一方で、ヘテロジニアスと呼ばれるAIは、異質なAIのことを言います。
メタデータ社の提供する5W1H抽出APIは、日本語のアンケートやSNSを文字認識し、マーケティングに有用なメタデータを抽出するAI導入のためのヘテロジニアスなAIの1つだ。
イベントを表すメタデータである5W1H「いつ、どこで、何を、誰が、どのように、いくらほど」を日本語の文章から抽出し、数値化・正規化して出力してくれる。
――野村氏
「例えば、『多度津町』というテキストだけでは、『四国・香川県にある町だ』ということは分からない。
このままでは機械学習することができないので、5W1H抽出APIのようなヘテロなAIを使ってデータを補います」
適材適所でAI導入のためのAIを活用することで、生産性を上げようというのがメタデータ社の掲げるAI for AI の基本的な考え方だ。
AI for AI にはAI導入を効率化するほかにも、全てをディープラーニングに頼らないことで、説明可能なAIを作れるという大きなメリットがある。
説明可能なAIの勘所は、実在するデータに素直なモデリング
――野村氏
「辞書や知識ベースを作るのには機械学習を使いますが、AIが動作しているときには機械学習は使用しません。
実際、ディープラーニングに向いていないケースも多いんです。
ブラックボックス問題を抱えるディープラーニングと、全て説明可能なルールベースを比べて、結果的に半々の精度で迷ったなら説明可能なAIを使いましょうよというわけです。
説明可能なAIで産業界に貢献するには、実在のデータの在り方に素直なモデリングをすることが大切です。
AIは優秀な社員のマネに過ぎないのですから。」
つまり、優れた人間の社員がこれまで手作業で行ってきたデータ分析のノウハウをAIに代替させるというわけだ。
AIの本質から言えば、実在するデータを元に因果関係を考える力はAIにはない。
メタデータ社の提供する人材マッチングエンジンxTechは、データの質や量に大きく結果が左右され、原因分析や追加投資の予測が困難なディープラーニングとは異なり、数学的性質が解明済みで、計算結果が予測・シミュレーション可能なアルゴリズムを利用している。
そのため、機密情報をITベンダーに開示できない企業やステークホルダーに説明責任のある企業にとっては有益なサービスだ。
このようにAIは膨大な量のデータを記憶して、人間の指示通りに瞬時に答えを出すという得意分野を活かして、人間は論理的思考力とコミュニケーション能力を活かしていくことが大切だと語る。
(図表参照元:朝日新聞出版『月刊 ジュニアエラ4月号』特集 君たちはどう働くか )
『AIに勝つ!』人間がやるべき価値のある仕事とは?
AI人材教育にも力を入れている野村氏は、小学校・中学生向けに雑誌や学校講演を通して、「AIにできないことを得意分野にすることで、AIに負けない力をつけよう」と分かりやすい言葉で呼びかけ続けている。
――野村氏
「『なぜ?』と問い、どうしてそうなったのか因果関係について考える癖をつけることです。
創造的なアイデアを出すためには、論理的思考力が欠かせません。
もう一つは、コミュニケーション力をつけることです。
さまざまな考えに触れて、思いやりの心を学んだりするといいですね。
2019年6月、日本経済新聞出版から発刊を予定している野村氏の著書『AIに勝つ! 強いアタマの作り方・使い方』は、AIを推進する研究者・経営者として立場をものともしない、AIに仕事を奪われない将来のための指南書だ。
――野村氏
「私も常にアクセルとブレーキを踏んでいる状態で、「AIってすごいんだぜ!」という多くの企業が飛びついて行く中、「いや、人間のほうがすごいんだよ」という思いもあるんです(笑)。
AIに仕事が奪われるという話がありますが、1960年代頃、女性の職業の花形と言われた「電話交換手」の仕事が機器の登場でなくなりました。
しかし、いま現在「私は電話交換手になれなくて不幸だ」という人はいないでしょう。
10年後には今ある職業の30%くらいも同じようにみなされると思います。
人間はより人間らしく働けるようになります。
しんどいこと、つまらない、単調なことはAIにまかせて、人間が楽しく、笑って仕事ができる社会にしたいです。
”Eat your own dog food”
最後は、野村氏とのインタビューで印象的だった言葉をご紹介したい。
”Eat your own dog food”
直訳は「自分の犬の餌を食べてみろ」。
ドッグフードの良さを伝えるには、まず自身でその商品を使う必要があるという話で、IT業界では「まずは社員が自社製品を試してみる」という意味で使われている。
メタデータ株式会社の提供するサービスには、同社の開発したAPIの数々がAI for AI として実際に活用されている。
業務の課題解決に繋がる最新DX・情報をお届けいたします。
メールマガジンの配信をご希望の方は、下記フォームよりご登録ください。登録無料です。
AI・人工知能記事カテゴリ一覧
AI・人工知能サービス
- 生成AI
- 画像生成AI
- ChatGPT
- AI研究開発
- LLM
- DX推進
- おすすめAI企業
- チャットボット
- ボイスボット
- 音声認識・翻訳・通訳
- 画像認識・画像解析
- 顔認証
- AI-OCR
- 外観検査
- 異常検知・予知保全
- 自然言語処理-NLP-
- 検索システム
- 感情認識・感情解析
- AIモデル作成
- 需要予測・ダイナミックプライシング
- AI人材育成・教育
- アノテーション
- AI学習データ作成
- エッジAI
- IoT
- JDLA
- G検定
- E資格
- PoC検証
- RPAツール
- Salesforce Einstein
- Watson(ワトソン)
- Web接客ツール
- サプライチェーン
- メタバース
- AR・VR・デジタルツイン
- MI
- スマートファクトリー
- データ活用・分析
- 機械学習
- ディープラーニング
- 強化学習
- テレワーク・リモートワーク
- マーケテイングオートメーション・MAツール
- マッチング
- レコメンド
- ロボット
- 予測
- 広告・クリエイティブ
- 営業支援・インサイドセールス
- 省人化
- 議事録自動作成
- 配送ルート最適化
- 非接触AI
業態業種別AI導入活用事例
今注目のカテゴリー
AI製品・ソリューションの掲載を
希望される企業様はこちら