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【インタビュー】全従業員の「生成AI活用の義務化」、その先へ ――LINEヤフーが挑む「AIエージェント化」の現在地

最終更新日:2026/07/31

LINEヤフー 全社AI活用への挑戦

生成AIの企業導入が加速するなか、経営方針として「AIエージェント化の推進」を掲げ、2025年7月には全従業員を対象に業務における「生成AI活用の義務化」を前提とした新しい働き方を発表するなど、全社を挙げたAI活用を推進しているのがLINEヤフー株式会社です。

トップのコミットによる教育の推進や社内イベント、ナレッジ共有の仕組みづくりを通じて、社員のAI活用は「当たり前」の状態となり、現在は活用のその先にある成果創出のフェーズへと移行しています。

今回は、同社で全社のAI戦略を担う経営戦略ドメイン 経営企画CBU CBUリードの小風守氏と、AI CBU AI Strategy & Enablementユニット ユニットリードの香川美菜氏に、全社でAI活用を推進する背景、浸透の工夫、そして人とAIのこれからの働き方についてお話を伺いました。

「生成活用の義務化」を掲げた背景

経営戦略と活用基盤づくり、両輪で全社のAIを推進

―― まずはお二人が取り組まれている役割や、部署のミッションについてお聞かせください。

―― 小風氏
私は経営戦略ドメインの中にある経営企画CBUというチームでリードを務めています。このチームは全社的な経営戦略の立案に加え、生成AIに関するパートナーシップの取りまとめや、全社へのAI導入も担当しています。

―― 香川氏
私はAI CBUという、AIに特化したエンジニアリングの組織におりまして、技術的な戦略の立案や、AIの活用基盤の構築をサポートしています。あわせて「イネーブルメント」として、社員にAIを使っていただくための教育や情報発信といった施策も担当しております。

―― 2025年には全従業員を対象に「生成AI活用の義務化」を前提とした新しい働き方を発表されるなど、全社的なAI導入を掲げていらっしゃいます。改めて、その背景と狙いをお聞かせください。

―― 小風氏
これだけAIが一般的になっている中で、私たちは検索・ポータル、eコマース、メッセンジャー、広告など、多様な領域において事業を展開している会社ですので、生成AIとは切っても切り離せない関係だと考えています。

そして私たちの場合、業務効率化のツールとしてだけではなく、サービスそのものをAIによって変えていくことが非常に重要です。それを会社全体としてどう推進していくかというところで、生成AI統括本部をはじめ、さまざまな組織を立ち上げてきた歴史があります。

社員にAIを使ってもらうのはもちろんですが、それを使ってどのようにサービスをAI化していくか。この点を全社で非常に重視して進めてきました。

―― 社員の皆さんがAIを使うのは当たり前の状態で、その先にサービスを生み出していくフェーズということでしょうか。

―― 香川氏
そうですね。1、2年前はAIを使う人と使わない人が分かれていましたが、利用の義務化や教育を通じて、今では社員のAI活用はほぼ100%という状態です。今度はそれをどう成果につなげるか、組織としてどう成果を出していくか、というフェーズに変わってきました。活用は当たり前の状態で、そこから何を生み出し、どうサービスの提供や利益につなげていくかです。

全社浸透のハードルと、うまくいった教育の工夫

環境整備だけでは人は使わない――教育の推進とナレッジ共有の場

―― ここからは、全社に浸透させるまでの道のりを伺います。苦労した点や、思った以上にハードルだった点はありましたか。

―― 香川氏
もともとデジタルやテック系のサービスが得意な方は、スマホが登場したときと同じように、新しい技術をどんどん自分で使っていきます。ただ「使いましょう」と呼びかけたり、環境を整備したりするだけでは、不十分だと思っています。特にコーディングにあまり詳しくない方には、かなり抵抗があります。

そこで、使いやすい環境を整えるのとあわせて、きちんと教育を提供するという施策を行いました。全社向けの「生成AI祭り」のようなイベントも何回も開催し、徐々に利用率を上げていきました。

―― 社内への浸透や教育育成に取り組みながら、なかなか標準化・浸透できずに悩んでいる企業は多いと思います。特にうまくいった教育の工夫はありますか。

―― 香川氏
いろいろ試行錯誤しましたが「生成AI祭り」はかなり反響が良かったですね。皆さん、ツールの単なる使い方というよりも、他の部署がどうやっているかという「事例」を知りたいんです。

ですから、ナレッジを共有する場をつくり、成果を出した社員に講師として登壇してもらう。登壇する本人のモチベーションになりますし、注目され、評価もされる。周りの社員にとっても学びになるという、良い循環ができていると思います。ワークショップも社員が講師を務め、それがきちんとアーカイブ化され、複数の言語で展開・発信される。この繰り返しが、うまく機能した点だと感じています。

―― ナレッジ共有の文化には、部署によって差もあるのでしょうか。

―― 香川氏
正直なところ、結構感じますね。当社は合併によっていろいろな文化が混ざっていますし、事業ドメインも幅広い。部署ごとに見ると、すごく共有する文化のところもあれば、属人化している文化のところもあります。

―― その部署ごとの差を埋めていくうえで、特にこだわって取り組まれたことはありますか。

―― 小風氏
まさに私が所属する組織である経営戦略ドメインも、人事・総務や経理などを含め、いろいろなチームに分かれています。たとえ各チームのトップの意識が高くても、それがチーム全体に広がるかには、かなりハードルがあると思っています。

まず最初の一歩として使ってみるところは、ある程度強制力を持ってやるしかない。最初は使い方に慣れず、多少作業が遅くなってしまうかもしれないけれど、まずは一歩やってみよう、ということは非常に強く声がけしています。

あわせて、ナレッジを共有する仕組みをある程度つくる必要もあります。ウェビナーにとどまらず、チーム全体で共有する会を設けるといったことは、積極的にやっていく必要があると思っています。

―― スキルやリテラシーの差は、定期的に計測されているのでしょうか。

―― 香川氏
AIの利活用度合いは定期的に測っています。昨年からアンケートや計測の仕組みを導入し、どれだけ使っているか、それによってどれくらい生産性が改善したのか、などの計測を試みています。スキルの差を比較するというより、うまくいっているところが見えるようにする、という位置づけです。

昨年は全社の底上げにフォーカスしていましたが、ベースができあがった今期は、先行している人にはどんどん突き進んでもらい、業務・職種ごとの個別利用を高度化してもらう。教育のフェーズも変わってきました。

―― 小風氏
利用率はあくまでステップだと考えています。その先に、同じ業務をどれだけ少ない工数でできるか、同じサービスをどれだけ短い時間で立ち上げられるか、というところが最終的には重要になるので、そこは結果として測っていきたいですね。ただ、個人差がどれくらいかという計測は難しいので、そこを追いすぎるようなことはしていません。

成果をどう測るか――「生産性向上」の中身を問い直す

工数削減の可視化から、選ばれるサービスへ

―― 続いて、成果の測り方について伺います。全員がAIを使って成果を生み出していく中で、特に大切にされている変化はどこにありますか。

―― 小風氏
おっしゃる通り、AIの活用によって業務がどれくらい効率化されたかは、まず土台として重要です。ただ、効率化されたことによって、各人がどのような付加価値のある仕事をできたか、サービスを受けていただくユーザーにとって良いものになっていったか、という点の方が重要だと考えています。

それは共通の尺度ではなかなか測りづらいのですが、結果として「選ばれるサービス」になっていくかどうか。最後はユーザーに判断していただくところなのかなと思っています。

―― 香川氏
正直なところ、生産性向上とは何か、それを何で測るかというのは、当社に限らず課題だと思っています。「AIを活用しました」「工数を削減しました」というところまでは可視化できつつあります。

ただ、それが本当に生産性を向上させたのかというと、当社はプロダクトをつくっている会社なので、AX(AIトランスフォーメーション)の指標をどう見ていくべきか、社内で継続的に議論しており、常によりよい計測のあり方を模索しています。

※AX(AIトランスフォーメーション):AIの活用を前提に、業務プロセスや事業そのものを変革していく取り組み。

ユーザーに届けるAI――「Agent i」が目指す体験価値

検索では気づけなかった発見を、当たり前のものとして届ける

―― ここからは、ユーザーに届けるAIについて伺います。社員のAI活用が当たり前になったその先で、LINEヤフーにとってのAIの役割を今どう捉えていらっしゃいますか。

―― 小風氏
ユーザーからすると、当社のサービスは当たり前に使っていただいているものですので、AIがその中でどう稼働しているかも、当たり前のものとして届けなければいけないと思っています。

当社では今、いろいろなサービスの中に「Agent i」という形でエージェントを組み込んでいるところで、それによってユーザーの体験価値がどう変わっていくのかを意識してサービスをつくっています。ただ、まだまだこれからサービスを立ち上げていく段階ですので、ユーザーの声も聞きながら改善していければと思っています。

※Agent i(エージェント アイ):LINEヤフーが2026年4月に提供開始した「LINE」「Yahoo! JAPAN」のAIエージェント機能を統合した新ブランド。

―― 「Agent i」は、単に利便性が高まるというより、もっと広い概念なのでしょうか。

―― 小風氏
もちろん便利になるのはその通りなのですが、従来の検索では気づけなかった新しい発見をユーザーに体験していただき、それによってユーザーがどのように豊かになっていくのか、というところを意識してつくっています。

―― 香川氏
ビジネスサイドとユーザーサイドをつなぎ、検索だけでなく、購買や決済といったこともすべてサポートできる「相棒」のような存在を目指しています。いろいろなビジネスとつながっていく、エージェントプラットフォーム的なものを目指しているんです。それに合わせて技術も、人の働き方も進化していくと考えています。

―― 検索だけでなく、購買や決済までサポートしてくれる「相棒」というと、昔の言葉でいえば「ドラえもん」のような存在ですね。

―― 香川氏
そうですね。最終的には、使っていただくユーザーにとって、楽しい体験、ワクワクするような体験になっていくことだと思います。

コーディングエージェントの浸透と、スピードに負けないガバナンス

コーディングに馴染みがなくても社員がアプリをつくる時代に

―― 今はエージェント時代とも言われます。社内の活用で、最近変化してきたことはありますか。

―― 香川氏
チャットベースの生成AIは昨年から皆さん使っていましたが、最近の大きな変化は、コーディングに馴染みのない方でもコーディングエージェントを利用するのが当たり前になってきたことです。実際にエンジニア以外の社員が、簡単なアプリケーションをつくったり、データを取得してダッシュボード化したり、というところまでは簡単にできるようになりました。

一方で、エンジニアリングに馴染みのある方には自明なセキュリティ・リスクなどもみんなが使うとなるといろいろなことが起きます。何のデータを取り込んでいいのかも含めて、セキュリティ面の整備は急いで進めています。こうした変化もあり、実は当社では最近「非エンジニア」という言葉を使わないようにしているんです。職種の境目がなくなっていきますから。

※コーディングエージェント: 自然言語の指示をもとに、コードの生成・修正や実行などの開発作業を支援するAIエージェント。

―― ルールを先に固めるのではなく、まずやってみて、問題が起きたらガイドラインを整備していく。アジャイル的な進め方なのでしょうか。

―― 香川氏
若干アジャイルになりますね。そうしないと進まないんです。当社はガードレールがしっかりしているので、絶対にNGなことは起きないようになっています。

ただ、ツールの進化の方が早いこともあり、それだけでは拾いきれない部分は、ルールやガイドラインを急いでつくり、セキュリティの設定も整備しています。AIの進化は本当に凄まじく、1日単位で進化していきます。使ってみる速度を落としてはいけない。一方で、最低限のところは押さえていく、というバランスです。

―― 技術的な観点では、データ連携の面はいかがですか。

―― 香川氏
当社はマルチベンダーの方針をとっているので、いろいろなところに情報があるんです。AIは読み込ませるデータが大事なので、すべてのコンテキストを読み込ませようとすると、つなぐのが結構大変です。

そこは裏側でエンジニアが頑張って環境を整えていて、社内MCPをきちんとつくり、各ツールをつなげられる環境を整理することで、ようやく利便性を担保できると思います。

※MCP(Model Context Protocol):AIと外部のツールやデータソースを接続するための標準的な仕組み。

―― リモートワークや育児など、多様な働き方に対するAIの使い方で、変わってきた部分はありますか。

―― 香川氏
先日、育休中の社員向けにAI活用のセミナーを開催しました。育休中の社員は会社から少し離れてしまうので、会社がAIでどんどん進んでいく中で、復帰したらどうなるんだろうと不安な方が結構多いんです。そこで、今の会社のAIの状況を伝えるパートと、育児でAIを使うとこんなに便利になるというパートで構成したところ、40人ほどの社員が参加してくれました。

中小企業へのアドバイスと、人とAIのこれから

AIで1人の力が何倍にもなる――「うちにはできない」を解決する

―― 「当社は大企業ではないので、そうした制度はつくれない」という企業も多いと思います。中小企業がAIに取り組んでいく際のアドバイスはありますか。

―― 香川氏
AIを使えば、1人の力が何倍にもなります。ですから「うちには教育の担当がいない」「うちにはセキュリティガバナンスの担当がいない」という場合でも、AIをうまく使えば教育プログラムをつくれますし、ガバナンスやセキュリティで気をつけなければいけない観点も出てくる。それをシステムの担当者と一緒につくれば、本当に1人で何人分もの仕事ができると思います。

―― 先ほどの「ドラえもん」ではないですが、担当者がいないなら、逆にAIにつくってもらえばいい、ということですね。一方で「AIがホワイトカラーの仕事を奪う」といった論調もあります。LINEヤフーの中では、人とAIのあり方をどうお考えですか。

―― 小風氏
人の工数が減ること自体はポジティブですが、それによって人がいらなくなるわけではありません。いろいろな判断や「ユーザーはどう考えるだろう」という想像は、最終的にはやはり人が感性を持って判断していくことが大事だと思っています。

もう少し広く社会という視点で言うと、単純作業をAIに任せられるようになれば、余暇の時間が増えたり、新しいビジネスが生まれるチャンスもある。そうした時代の変化を捉えながら、私たちも提供していくサービスを変えていくのだろうと思います。衰退という意味合いよりは、豊かになっていくことでどう変わっていくのか、むしろ楽しみな世界だと思っています。

―― 香川氏
まさに社内でもテーマになっていますが、AIが人を代替するというより、人間の仕事のあり方を変えていくと捉えています。レビューやチェックのように、むしろ増える仕事もあるんです。

これまでコードだけを書いていた人、テストだけをやっていた人が、全体を見て、AIにどう指示を出し、どうチェックするかという役割に変わっていく。逆に人がやることが増える側面もありますし、人とのコミュニケーションや関係性の構築は、AIには代わらない部分です。

一方で、AIがある時代に育つ新卒などの若い世代が、どうやってクリティカルにレビューできる基礎体力をつけるか。そこは社内でも課題として議論しているところですね。

―― そう考えると、人手の限られる中小企業やスタートアップにとっては、むしろチャンスの時代とも言えそうです。

―― 小風氏
ここ4、5年でできた会社はこの変化をチャンスと捉え、AIネイティブな組織になっており、大きく成長していると感じます。

―― 香川氏
効率化した分、新しいビジネスに力を入れていくことになると思いますし、当社として「Agent i for Business」のようなサービスを提供していくことで、飲食をはじめとした中小企業の皆様のご支援に力を入れていきたいと考えています。私たちがそうした方々のインターフェースをより使いやすくしていくことで、ユーザーの皆さまがこの時代の変化に乗れるような形をつくりたいですね。

まとめ

「使いましょう」という呼びかけや環境整備だけでは人は動かない――。LINEヤフーの取り組みは、トップがコミットして教育を推進していくことと、社員が講師として登壇しナレッジを共有する「場」の設計を両輪とすることで、社員のAI活用をほぼ100%の「当たり前」にまで引き上げました。

そして今、同社の視線は活用率の先にあります。工数削減の可視化にとどまらず、付加価値のある仕事、そして「選ばれるサービス」へ。コーディングエージェントや社内MCPの整備、育休社員向けセミナーまで、変化のスピードに合わせて仕組みを進化させ続ける姿勢が印象的でした。

「AIで1人の力が何倍にもなる。教育やセキュリティの担当がいなくても、AIと一緒につくればいい」という言葉は、リソースに悩む中小企業にとって大きなヒントになるはずです。AIは人の仕事を奪うのではなく、仕事のあり方を変えていく。『AIエージェント化』を推進するLINEヤフーの取り組みは、これからAI活用に取り組む企業にとって、多くの示唆を与えるものといえるでしょう。

AIsmiley編集部

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