GX（グリーントランスフォーメーション）とは？意味やビジネスにおける取り組み事例を紹介

最終更新日:2024/12/25

地球温暖化が対策が世界的な課題となる中、産業界で注目を集めているのが「グリーントランスフォーメーション（GX）」です。これは、温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立を目指す、産業構造や社会システムの変革を指します。現在、従来の環境対策の枠を超えた企業活動の見直しがなされており、環境技術のイノベーションを通じて新たな成長機会を創出する動きが加速しています。

本記事では、グリーントランスフォーメーションの必要性や具体的な取り組みを解説していきます。

GXとはグリーントランスフォーメーションの略！意味をわかりやすく解説

GX（Green Transformation）は、グリーントランスフォーメーションの略称で、日本語では「緑の転換」や「緑への転換」と訳されます。これは、私たちの社会が長年依存してきた化石燃料中心の経済・産業構造から、再生可能エネルギーをはじめとするクリーンエネルギーを基盤とした持続可能な社会システムへと転換を図る取り組みを指します。

特筆すべきは、このGXが環境保護と経済発展を対立的に捉えるのではなく、両者の両立を目指している点です。環境技術の革新や新たなビジネスモデルの創出を通じて、地球環境の保全と経済成長の好循環を生み出すことを目標としています。

ビジネスにおけるGXの必要性

ビジネスにおいて、グリーントランスフォーメーション（GX）が求められるようになった背景には、以下の要因が複合的に絡み合っています。

気候変動への対応を企業も求められている
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて環境規制が強化されている
市場・消費者ニーズが変化している
投資家からの要請がある
新たなビジネス機会の創出になる

気候変動への対応を企業も求められている

ビジネスにおけるグリーントランスフォーメーションの必要性は、深刻化する気候変動問題と密接に結びついています。地球温暖化に起因する異常気象や自然災害の増加は、サプライチェーンの寸断や事業施設の損壊など、企業に直接的な打撃を与えており、気候変動対策は企業の事業継続性を確保する上で避けては通れない課題となっているのです。

さらに、パリ協定で掲げられた2050年カーボンニュートラルという国際目標の達成に向けて、企業には具体的な温室効果ガスの削減の取り組みが求められています。こうした環境変化は、企業に対して従来の事業モデルの抜本的な見直しと持続可能な形への転換を迫っているのです。

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて環境規制が強化されている

近年、気候変動問題への国際的な危機感の高まりを受けて、世界各国で環境規制の強化が進んでいます。特に、パリ協定以降、多くの国々がCO2排出量の具体的な削減目標を掲げ、企業に対してより厳格な環境基準の遵守を求めるようになりました。

日本においても、2020年に2050年カーボンニュートラル宣言を行い、この目標達成に向けて企業への規制が段階的に強化されています。これには、温室効果ガス排出量の報告義務化や、環境配慮型の製品開発の要請などが含まれます。

このような規制強化の流れは、企業にとってビジネスモデルの転換を迫る重要な要因となっており、環境対応は企業の存続に関わる経営課題となっています。

参考：環境省

市場・消費者ニーズが変化している

近年、ビジネスにおけるグリーントランスフォーメーションの必要性は、市場と消費者ニーズの大きな変化に起因しています。世界的な環境問題への関心の高まりを背景に、消費者の価値観や購買行動が劇的に変化し、環境に配慮した持続可能な製品やサービスへの需要が急速に拡大していきます。

特に、気候変動や環境問題に強い危機感を持つミレニアル世代やZ世代といった若年層を中心に、企業の環境への取り組みが購買決定の重要な判断基準となっています。

このような消費者の意識変化により、環境負荷の低減に真摯に取り組む企業が市場で選ばれる傾向が顕著になり、企業にとってグリーントランスフォーメーションは、単なる社会的責任ではなく、事業継続のための不可欠な経営戦略となっています。

投資家からの要請がある

近年、ビジネスにおけるグリーントランスフォーメーションの必要性は、特に投資家からの要請により高まっています。世界的にESG投資が拡大する中、企業の環境への取り組みは、単なる社会貢献だけではなく、企業価値を評価する上での重要な指標です。

投資家は、気候変動リスクを企業の長期的な成長や収益性に影響を与える重要な要因として捉えており、環境対策に消極的な企業は、投資対象から除外されるリスクに直面しています。こうした状況下では、積極的な環境対策の実施が資金調達の円滑化や企業価値の向上につながり、逆に対応が遅れた企業は、投資家からの資金調達が困難になる可能性があります。

新たなビジネス機械の創出になる

グリーントランスフォーメーションがビジネスにおいて重要視される背景には、環境配慮が新たな収益機会を生み出す成長分野として認識されてきたことが挙げられます。環境技術の開発や環境配慮型の製品・サービスの提供は、従来のビジネスモデルを超えた革新的な市場を創出する可能性を秘めています。

例えば、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギー事業、電気自動車向けの部品製造、環境負荷の少ない建築資材の開発など、様々な分野で新たなビジネスチャンスが生まれています。

さらに、環境意識の高まりを受けて、これらの市場は今後も持続的な成長が見込まれており、早期に参入する企業には大きな競争優位性をもたらす可能性があります。

GXとDXの違い

DX（デジタルトランスフォーメーション）とGXは、どちらも企業の大きな変革を指す概念ですが、その目的と焦点は異なります。DXは、デジタル技術を活用して業務プロセスを効率化し、ビジネスモデルを革新することで企業の競争力を高めることを目指します。

一方、GXは環境負荷の低減と経済成長の両立を目指し、持続可能な社会の実現に向けた事業構造の転換を図ることが主眼です。

	GX	DX
目的	環境問題への対応・持続可能な社会の実現・低炭素社会への移行	デジタル技術を活用し、ビジネスモデルやプロセスを革新し、競争力を高める
主な手段	再生可能エネルギー・省エネ技術・循環型経済・カーボンニュートラル技術など	AI・IoT・クラウドコンピューティング・ビッグデータ分析・ロボティクスなど
対象	エネルギー源・生産プロセス・製品ライフサイクル・サプライチェーン	ビジネスプロセス・製品・サービス・組織・顧客

ただし、これらは相互に補完し合う関係にあり、例えばデジタル技術を活用して省エネルギーを実現したり、環境データを効率的に収集・分析したりするなど、DXとGXを組み合わせることで、より効果的な企業変革が可能となります。

なお、DXについては以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。

政府によるGX実現に向けた取り組み

GXは、経済成長と環境保全の両立を目指す、世界的な潮流となっています。先述したように、日本政府も2050年カーボンニュートラルの実現を目指し、GXの推進に力を入れています。具体的にどんな取り組みを行なっているのか、代表的なものを紹介します。

GX実行会議

GX実行会議は、2022年に岸田政権下で設置された、日本のグリーントランスフォーメーション推進のための重要な政策決定機関です。内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚や産業界、学術界などの有識者が参加して、産業革命以来続く化石燃料依存型の経済構造から、グリーンエネルギーを基盤とした経済社会への移行を議論しています。

会議では、2030年に向けた具体的な行程表の策定や、成長志向型カーボンプライシングの導入検討、官民による大規模な投資計画の立案など、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた包括的な戦略が協議されています。

環境省を中心に、地域レベルでの脱炭素化の取り組みも促進され、日本全体でのグリーン化を加速させる司令塔としての役割も果たしています。

参考：環境省｜GX実行会議について

GXリーグ

GXリーグは、2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、企業が官学と協働しながらグリーントランスフォーメーションに取り組むプラットフォームです。参加企業は、自主的に温室効果ガスの削減目標を設定し、その進捗を開示しながら、企業間での排出量取引を通じて目標達成を目指します。

また、カーボンニュートラル時代における新たなビジネスモデルの創出やルール作りにおいても議論が行われています。製造業・サービス業・金融業・運輸業など多様な業種の企業が参画しており、産官学民の幅広いステークホルダーによって構成されるワーキンググループでは、持続可能な未来像とそれに向けた経済社会システムの移行について検討が進められています。

参考：GXリーグ｜GXリーグの概要

企業がGX実現に取り組むメリット

GXはもはや企業にとっての社会貢献という範疇を越え、自社の成長と持続可能性を確保するための不可欠な戦略となっています。具体的には、GXに取り組むことで以下のようなメリットが期待できます。

収益性を高められる
コスト削減につながる
補助金や税制優遇を期待できる

収益性を高められる

企業がGXに取り組むことで得られる重要なメリットの一つが、収益性の向上です。環境配慮型の製品やサービスの開発・販売は、新たな市場を開拓し、企業の収益源を多様化させる機会となります。例えば、省エネ技術を活用した製品や再生可能エネルギー関連のサービスは、環境意識の高まりとともに需要が拡大しています。

さらに、環境に配慮した製品やサービスは、消費者の環境価値への理解が深まることで、従来品よりも高い価格設定が可能となり、より高い利益率を実現できる可能性があります。

このようにGXへの取り組みは、環境保護への貢献と企業の収益向上を同時に実現する戦略的な投資となります。

コスト削減につながる

GXの取り組みは、企業にとって環境配慮だけでなく、重要なコスト削減の機会をもたらします。例えば、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへの転換は、初期投資は必要なものの、長期的には電力コストの大幅な削減につながります。

また、省エネ技術の導入により、工場や事務所での電力消費を抑制し、光熱費を削減することができます。さらに、製品の設計段階から廃棄物の削減を考慮し、資源の再利用やリサイクルを推進する循環方経済の構築により、原材料コストの削減だけでなく、廃棄物処理にかかる費用も大幅に抑制することが可能です。

これらの取り組みは、短期的なコスト削減と長期的な経営の持続可能性の両方に貢献します。

補助金や税制優遇を期待できる

GXへの取り組みは、企業にとって政府からの財政的支援を受けられる重要な機会の一つです。政府は脱炭素社会への移行を促進するため、GXに取り組む企業に対して様々な支援策を用意しています。例えば、省エネ設備や再生可能エネルギー設備導入時には補助金が活用でき、環境配慮型の事業転換を図る際には税制優遇措置を受けることができます。

また、GX関連の研究開発投資に対する税額控除や、環境負荷低減設備への投資に対する特別償却制度なども整備されています。このような政府の支援策を活用することで、企業は大規模な初期投資の負担を軽減しながら、環境配慮型のビジネスモデルへの転換を進めることが可能です。

参考：【2025年】IT導入補助金とは？活用するメリットや活用事例をわかりやすく紹介

企業のGX実現に向けた取り組み事例

GXの実現に向け、様々な企業が独自の取り組みを進めています。ここでは、具体的な事例を2つご紹介します。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて「トヨタ環境チャレンジ2050」を展開し、包括的なグリーントランスフォーメーションを推進しています。このチャレンジは、新車のCO2排出量を2010年比で90%削減する目標をはじめ、製造から廃棄までの全過程でのCO2排出ゼロ化、工場での再生可能エネルギーや水素エネルギーの活用による生産時のCO2排出量など、バリューチェーン全体での環境負荷低減を目指すものです。

さらに、水資源の効率的利用、資源循環の促進、生物多様性の保全にも取り組んでおり、自動車メーカーとしての事業活動を通じて持続可能な社会の実現に向けた総合的な環境戦略を展開しています。

参考：トヨタ自動車株式会社

マイクロソフト

マイクロソフトは、2030年までにカーボンネガティブ（温室効果の除去量が排出量を上回る状態）の達成を掲げ、さらに2050年までには創業以来の全CO2排出量の相殺という野心的な環境目標を設定しています。この実現に向けては、2030年までに直接排出およびサプライチェーン全体でのCO2排出量を半減させる取り組みを進めており、社内での炭素料金制度の導入やサプライチェーンへの拡大により、具体的な削減施策の資金を確保しています。

また、10億ドル規模の気候イノベーションファンドを設立し、CO2の削減・捕獲・除去技術の開発支援を行うとともに、サプライヤーや顧客のカーボンフットプリント削減も支援しています。これらの取り組みの進捗は、年次の環境サステナビリティレポートで透明性高く公開されています。

参考：マイクロソフト

まとめ

グリーントランスフォーメーションは（GX）は、温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立を目指す産業構造や社会システムの変革を指します。ビジネスにおけるGXの必要性は、気候変動への対応要請や環境規制の強化、市場・消費者ニーズの変化や投資家からの要請、新たなビジネス機会の創出などが背景です。

政府は、GX実行会議やGXリーグを通じて、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを推進しています。企業がGXに取り組むメリットとしては、環境配慮型製品・サービスによる収益性向上、省エネや資源の効率的利用によるコスト削減、さらに政府からの補助金や税制優遇を受けられる機会があります。GXは、今や企業の持続的成長に不可欠な経営戦略となっています。