暗黙知とは?定義や形式知との違いからAIとの関連性まで解説
最終更新日:2024/03/08
暗黙知、という言葉を聞いたことがあるでしょうか?個人が持っている知識や経験の中でも言語化が困難なものを「暗黙知」と呼びますが、「経験的知識」と呼ばれることもあります。
そして暗黙知の一つである、個人が長年積み重ねて得た「ノウハウ」や「コツ」は、近年、業務効率化と属人化防止の重要なファクターとして重要視されてきました。
この記事では暗黙知とは何か、暗黙知を生かす方法などを解説しながら、AIと暗黙知との関連性も見ていきます。
暗黙知とは
個人が保持している知識や経験を「暗黙知」と呼びますが、言語化が難しい故に他者と共有できないため、企業の資産として蓄えにくいのが特徴です。ナレッジマネジメントとの関係において、最近特に注目されています。
では、暗黙知とは具体的にどういう知識を指すのでしょうか?その語源など、暗黙知にまつわる情報を紹介します。
暗黙知の意味と具体例
暗黙知の代表として、職人が代々継いできた技や熟練の勘などが挙げられるでしょう。また、宴席で行われるコミュニケーションスキルや職場のOJTなど、暗黙知は日本企業で長らく重要視されてきました。
しかし、事業売却や非正規雇用者の増加、事業統合など、現在の経営環境は目まぐるしく変化しています。時代と共に、日本企業型の企業文化も近代化せざるをえません。そこで、暗黙知を人々に共有できる形にまとめる、つまり「形式知化」する必要性が出てきました。
暗黙知を、いかに形式知化するか。それが今後の経営のあり方に関わってくるのです。
暗黙知の語源
暗黙知の語源は、ハンガリーの社会科学者・物理化学者のマイケル・ポラニーが1966年に発表した『暗黙知の次元』にあると言われています。
ポラニー氏は「自転車に乗れること」や「人の顔を識別すること」を「知識」とみなし、科学哲学上の概念として暗黙知を掲げたのです。その「暗黙知」という言葉は1990年代初頭に一橋大学の経営学者、野中郁次郎氏が社会に広めました。
組織は「暗黙知」と「形式知」の2種類を保有していると野中氏は述べています。さらに、暗黙知を形式知に変換し、組織全体を知的に進化させるというナレッジマネジメントの基本的な考え方を提唱したのです。
暗黙知と対比される形式知
ビジネスの場において、暗黙知と共に「形式知」という言葉がほぼ必ず登場します。
形式知とは、個人の無意識下にある暗黙知を、図形や文章などを活用して言語化したものです。客観的で有益な知識として共有され、個人が経験で培ってきた営業手法などをマニュアル化したものが「形式知」として挙げられます。例えば「作業手順書」、「業務マニュアル」や「社内wiki」なども形式知です。
暗黙知を形式知にする作業を自動車の運転に例えて見ましょう。自動車運転は練習を繰り返して覚える、いわば暗黙知として体に蓄積されます。その自動車運転の基本を、口頭やマニュアルとして言語化・可視化し、誰でも意味が理解できる形式知にするのです。
形式知として、料理も良い例でしょう。経験や味覚などに頼る「母親の味」も、「砂糖〇〇グラム」や「強火で〇分」などレシピ化することで、形式知になります。
暗黙知を放置するリスク
- ナレッジを蓄積し、継承することが難しくなる
- 知識を活用しにくくなる
- 業務の生産性が低くなる
暗黙知は、そのまま放置すると企業にとってリスクです。
1つ目に、ナレッジを蓄積し、継承することが難しくなります。データ化や書類化すればすぐに他の社員に共有できるものですが、もし知識を所有している社員が退職などでいなくなると誰にも継承できません。業務を円滑に行うことが困難になり、問題が発生する可能性が生じます。
2つ目に、知識を活用しにくくなるのも問題です。知識を有している社員だけが活用できる状況ですと、少人数でしか業務を遂行できず、ノウハウの行使が限定的になります。
3つ目に、業務の生産性が低くなるのもリスクです。そもそも、暗黙知は業務に精通した個人が有していることが多く、周囲へ知識を継承する度にその人の時間とエネルギーがとられてしまいます。組織全体の生産性を上げるためには、彼らの知識を形式知化することが業務効率化につながるのです。
暗黙知を形式知化するメリット
優秀な社員の知識や経験を形式知化することで、以下のような3つのメリットがあります。
- 業務の質と向上や効率化
- 属人化の防止
- 社内のコミュニケーションの活性化
では、それぞれを具体的に見ていきましょう。
業務の質の向上と効率化
優秀な従業員の暗黙知を形式知化し、優秀な社員の暗黙知を継承することで、第二、第三の優秀社員が登場するでしょう。また、業務効率化だけでなく業務の質や生産性の向上にもつながります。
言語化されていない知識をデータベースやナレッジマネジメントツールに蓄積しておけば、全ての従業員がいつでも知識を得られる環境になります。ナレッジを検索し、不明点をすぐに解決することが可能になるでしょう。
ベテラン社員が後輩の育成や質問に返答する時間を費やす必要もなくなります。またマニュアルや動画などに形式知化しておけば若手社員の教育時間を一括にまとめられて効率的です。若手にとっても、仕事のコツや考え方が明確になる点においてもメリットになります。
属人化の防止
暗黙知を放置したまま業務を続けていると、その業務を暗黙知を有した個人しかできなくなる「業務の属人化(知識のブラックボックス化)」が起きてしまいます。そうなると担当者の急な休職や退職に対応できず、企業にとって大きなデメリットです。
しかし暗黙知を形式化すれば属人化を防止できます。知識や技術が将来にわたって担保できるのもメリットです。マニュアル化したり、ナレッジ共有ツールなどで知識をデータベース化したり、全社員に暗黙知をスムーズに引き継ぎできることが、これからの企業にとって必要不可欠となるでしょう。
社内のコミュニケーションの活性化
企業内でナレッジを共有することで、さまざまなメリットが挙げられますが、中でも重要なのは、社内でのコミュニケーションの活性化や組織力が強化されることです。
暗黙知はとある個人や少人数のグループが保有しているケースが多いので、形式知化する作業工程の中で、誰がどんな情報を持っているか、コミュニケーションを取る必要があります。さらに、知識を共有する際、別グループとのコミュニケーションが生じるはずです。
そのナレッジがどう利用でき、どのように業務活用できたか、多様な意見を集約したり、意見を交換したりすることもあるでしょう。
また、コミュニケーションから新しい知識が生まれ、企業全体のナレッジ向上に繋がる可能性も生まれます。
暗黙知を形式知化するナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントでは、個人の経験や知識、ノウハウを共有・活用して、新たな知識を創造することを目指します。経営学者の野中郁次郎氏によって提唱され、企業の意思決定や行動を促進するものとして注目されてきました。
具体的にナレッジマネジメントとは何か、そしてナレッジマネジメントに必要な手法と構成要素を紹介します。
SECI(セキ)モデルとは
前述した野中郁次郎氏は「SECI(セキ)モデル」というフレームワークをナレッジマネジメントの進め方として提唱しました。全部で以下の4ステップがあります。
共同化 | 暗黙知が、組織内で形成されている段階。この段階では、ほとんどの場合、暗黙知は個人単位、もしくは小規模なグループ単位で活用されている。 |
表出化 | 組織が暗黙知の存在を自覚し、顕在化させる段階。暗黙知がマニュアルなどを通して形式知化されている。 |
結合化 | 形式知化された暗黙知が、高度な方法で組織的に運用できる段階。運用されていく中で、知識同士が結合してさらなる知識に発展したり、相乗効果を高めたりする。新たな知識の創造。 |
内面化 | 新たな形式知が組織内に浸透し、再び暗黙知へと変化した段階。しかし、ここの暗黙知は形式知化を経ているので高い価値を有する。この暗黙知を再び顕在化して形式知化することで、企業のナレッジを発展させる。 |
「場」のデザインの重要性
場(ba)を創造することも、ナレッジマネジメントの手法です。場というと、空間的な場を想像してしまいますが、ナレッジマネジメントにおいては暗黙知や形式知が蓄積・共有されるコミュニティや機会を「場(ba)」と呼びます。
喫煙所や食堂で行う雑談の場はもちろんのこと、社内SNSやオンラインミーティングなど、場は一つに限りません。社員と社員の間でのコミュニケーションが活発化されることで暗黙知はより顕在化し、形式知化するチャンスが増えます。
意見交換が自由闊達に行われる場をデザインすることがナレッジマネジメントには不可欠です。また、ブレインストーミングやワールドカフェなど、アイデアを創造的な環境で生み出せる会議などの場も効果的でしょう。
知識資産として継承する仕組みづくり
ナレッジマネジメントのもう一つの手法は、知識資産としてナレッジを継承する仕組み作りです。
ナレッジマネジメントを一時的なものにせず、将来へ渡って継続的に続けるためには、得た知識を実際に活用する必要があります。知的な資産を社内データベースとして残したり、社内wikiにしてまとめたり、マニュアル化したりするのが知的資産継承の一例です。
発展的なナレッジを継承するためにも、会社の企業理念やビジョンを明確にすることも重要だといわれています。会社のビジョンに根付いた有用な知識情報を蓄積し、次世代が気軽に知識や経験を取得できる仕組み作りが大切です。また、ナレッジの継承を社員が自発的に行うための研修などを積極的に行うことも効果的とされています。
ナレッジリーダーシップを発揮する
さらに、ナレッジリーダーシップの発揮もナレッジマネジメントの手法です。
ナレッジ活用をどのように行うか、活用の目標やそれを推し進める人をナレッジリーダーと呼びます。暗黙知を形式知化するのは、口で言うのは容易いですが実際行うのは容易ではありません。
強みを失うことを恐れて暗黙知を共有したがらない個人との交渉や、どのような暗黙知が自社にとって価値があるのかを判断するのがリーダーの役目です。彼らを中心に、SECIモデルの4つのフェーズに沿ってナレッジマネジメントを進め、場を増やしていきます。
ナレッジリーダーの力が、ナレッジマネジメントの成功を左右すると言っても過言ではありません。経験の浅い社員や新入社員よりも、安心感を与えることができるベテラン社員の方が向いているといえるでしょう。
ナレッジマネジメントを効果的に行うポイント
ナレッジマネジメントは、これからの企業の成功を担う大事な経営手法です。SECIモデルの活用はもちろんのこと、取り組むべき課題がいくつかあります。
では、ナレッジマネジメントのメリットを最大限引き出すために、どんなことに気をつければ良いのでしょうか?ナレッジマネジメントを効果的に行うポイントを解説していきます。
ナレッジリーダーを決める
ナレッジリーダーをまず決めましょう。ナレッジ活用のビジョンを策定し、それを推進するための計画を行うため、ナレッジリーダーとなる人は積極的なコミュニケーションの場を生み出せる人が適任といえます。
リーダーがナレッジマネジメントの目標を明確化することで、社員各々が積極的にナレッジを共有しようとする空気が生まれるでしょう。
また、ナレッジ活用がどのように企業や個人を進化させるかを熟知したリーダーのもとであれば、全社員がナレッジマネジメントの大切さを認識するようになるはずです。
ナレッジを共有しやすい環境や仕組みをつくる
ナレッジは個人のもとに留めたまま放置するのではなく、社員と共有されることで進化していきます。そのためにもナレッジを共有しやすい環境や仕組みを作るのが大切です。
業務内のミーティングだけではなく、休憩スペースや禁煙所、食堂など業務と関係のない場で、フラットなコミュニケーションができる環境を整えましょう。廊下ですれ違ったときに気軽に話せる空気を作ったり、座席をフリーアドレス制にすることも効果的です。
気軽なチャットルームを作ることで、自由闊達なコミュニケーションが醸成されるケースもあります。また、部署横断のミーティングや合宿ミーティングなど、通常の業務内と少し変わったディスカッションを通してナレッジ共有を行うのも効果的でしょう。
ナレッジマネジメントツールを活用する
ナレッジマネジメントをサポートするツールである、ナレッジマネジメントツールを活用するのも効果的です。ツールには大きく分けて以下の4種類があります。
ヘルプデスク型 | ・文書ファイルを扱うことがほとんどなので、専門知識に関する情報が手早く得られる ・専門知識を持つ社員の負担を軽減することが可能 ・導入・利用のハードルが低い |
業務プロセス型 | ・特定の業務における知識の他に、業務の進め方も知ることができる ・回答プロセスを他者と共有できる ・問い合わせ内容が高度な場合、知識のある社員に交代可能 ・顧客の潜在的ニーズの解析 |
ベストプラクティス型 | ・従業員の業務の質向上が見込める ・ナレッジ分析、形式知化の方法論、システム構築に高度な処理が必要 |
経営資産・戦略策定型 | ・類似事例との比較検証を行うことで、経営判断に役立つ ・業務プロセス全体を検証し、改善余地やトラブル防止のための改良点の見直しに役立つ ・経営意思支援のためのグループウェアの一つとして提供されることが多い |
それぞれの特徴を理解し、目的や課題に合わせて導入することが重要です。
AIで暗黙知を代替させる実証実験も行われている
熟練者の暗黙知をAIで代替させる実証実験も行われています。三菱総研DCS株式会社と中島合金株式会社が共同して、純銅鋳造製造工程の熟練者の暗黙知をAIに学習させ、実業務に適応できるかどうかの実証実験を開始しています。
純銅鋳物は、JIS規格によって品質を一定水準に揃えなくてはなりません。しかし原材料や環境の状態によって製造工程を制御しきれないケースが純銅鋳造を難しくしています。
そこでAIの登場です。「製造時のばらつき状態」と「添加剤の投入量」の関係をAIに学習させ、熟練者の判断が再現できるようになりました。そして現在、AIの判定精度を向上させ、予測時間を実用的にし、現場技術者が操作可能なシステムにする実証実験を行っています。
AIをナレッジマネジメントに活用しよう
個々人が持つ暗黙知は、今まで企業を支えてきました。しかし、世界経済が大きく動き、技術が進化する中、業務の効率化が非常に重要になっています。暗黙知を形式知化し、あらゆる人が知識を共有していくことが、企業の進化に必要不可欠です。
ナレッジマネジメントはさまざまなステップ、手法があることを見てきましたが、今後はAIもナレッジマネジメントに大いに活用されていくでしょう。
既に多くの企業で活用されている、AIを活用したナレッジマネジメントツールの一つが「社内ヘルプ向けチャットボット」です。
社内ヘルプデスク用のチャットボット比較表を無料配布しておりますので、興味のある方は、ぜひ比較表資料をダウンロードし、ご活用ください。
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