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マテリアルズインフォマティクス(MI)とは?導入背景と企業の取り組み事例

最終更新日:2024/01/10

マテリアルズインフォマティクス(MI)は、AIによる情報科学を応用した材料開発技術で、製造業をはじめ各分野で導入が開始されています。日本や世界各国の政府も参画するMIは、各分野の企業における効果的な活用に注目が集まっています。

今回は、マテリアルズインフォマティクス(MI)の概要から活用の背景にある課題、日本政府や世界の取り組みまで詳しく解説します。各企業における導入事例についても紹介するので、MIに興味のある方や事業への活用を検討している方は最後までご覧ください。

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マテリアルズインフォマティクス(MI)とは?

マテリアルズインフォマティクス(MI:Material Informatics)とは、材料(マテリアル)の開発において情報科学(インフォマティクス)の手法を用いる取り組みのことです。材料科学と情報科学の融合と言われ、AIによる膨大なデータ処理やディープラーニング機能を材料開発に応用し、プロセスの効率化や最適化を促します。

ここ数年、材料科学におけるデータベースの大規模化やAI技術の高性能化により、MIの採用が急速に進みました。過去の実験や論文の解析にMIを活用することで、最適な材料の選定やテストにかかる時間が短縮されています。

製造業を中心にMIを導入する企業が増加するとともに、各分野への応用も推進されています。

マテリアルズインフォマティクス(MI)導入のメリット

では、そんなマテリアルズインフォマティクス(MI)を導入した場合、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここからは、具体的なメリットについて解説していきます。

マテリアルインフォマティクス(MI)と従来の材料開発とでは、開発プロセス全体のスピードやコストに違いが見られます。

従来の方法では、目標設定の後に類似事例の調査や研究者による選定、特性の評価といったプロセスが必須でした。一方、MIは蓄積された大量のデータの中から候補となる類似事例を、短時間で見つけ出します。また、材料設計に適した特性の物質も備えたMIによる自動選定が可能です。

高精度な計算が可能な材料データベースや情報処理技術を備えたMIにより、研究者の知識・直観と過去の膨大なデータの両方を使った材料開発が実現します。その結果、材料開発にかかる時間とコストの削減が期待できます。

材料開発のスピードアップとコスト削減

メリットの一つとしてまず挙げられるのは、材料開発のスピードアップとコスト削減を実現できるという点です。これまでの材料開発では、研究者の経験や勘に頼りながら大量の実験が行われていました。そのため、どうしても材料開発のスピードが上がりにくい傾向にあったのです。

しかし、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用すれば、試す価値のある実験は何かをAIが事前に分析・予測してくれるため、材料開発における最適解を見出すための時間を大幅に短縮できるようになります。

開発期間が短縮されれば、当然費やされるコストも削減されることになるため、効率的かつ低予算でも材料開発を行いやすくなるのです。

用途探索の効率化

用途探索の効率化を図ることができる点も、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入するメリットの一つと言えるでしょう。素材がどのような用途に用いられるか検討するプロセスが短縮されるため、より効率的にプロジェクトを遂行していくことが可能になります。

例えばトヨタ自動車の場合、自動車材料開発の知見・ノウハウを活用した自動解析アルゴリズムの導入支援までをソリューションの形で提供しており、積極的なAI活用で効率化を実現しています。

安全性評価の効率化

安全性を評価する作業が効率化されることも、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入するメリットの一つと言えます。化学物質が人間をはじめとする生物に対して毒性を持つかどうかチェックするためには、28日間にわたってラットに投与する「28日反復投与毒性試験」を行わなければならないため、どうしても長い期間を必要としていました。

しかし、新物質の化学構造から動物試験での毒性を予測するシステムの開発プロジェクト「AI-SHIPS」が2023年3月に終了し、4月からは活用促進に向けた取り組みが始まっています。「なぜ毒性が生じるのか」という情報を得られるようになれば、動物試験の削減が実現でき、かつ安全性評価の効率化にも繋げられるようになるため、大きな注目を集めています。

日本や世界各国で進むマテリアルズインフォマティクス(MI)

世界各国で、マテリアルズインフォマティクス(MI)に関するさまざまな取り組みがすでに始まっています。日本政府も推奨するMIの流れは、企業単位ではなく業界や分野ごとに広く採用されていることも事実です。ここでは、日本国内と世界各国におけるMI導入事例を紹介します。

日本の取り組み

日本国内では、2013年に材料設計や開発におけるデータ駆動型の材料設計の重要性について、JST研究開発戦略センターが政府へ提言しています。それをきっかけに、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」や、文部科学省の「材料科学と情報科学の調和」など、次々とMIへの投資を開始。続いて、国内大手企業もMIの導入に着手しています。

現在、政府の統合イノベーション戦略推進会議における「マテリアル革新力強化戦略」にて、取り組むべきアクションプランの1つに「データ駆動型研究開発の促進」が掲げられています。

材料データと製造技術を持つMIを活用し、先端共用設備を通して蓄積された良質なデータ収集、ノウハウや経験の蓄積、データサイエンスの融合による製造プロセスの高度化といった方策が示されています。

また、日本の製造プロセス技術は、バリューチェーンの中で密接な擦り合わせに基づく「技術者の経験とノウハウ」が多く蓄積され、それが日本の強みにもなっている一方、製品のニーズ多様化と寿命短縮化の傾向が高まったことに伴い更なる製造プロセスの高度化と開発期間短縮化が求められ始めている状況です。

そういった状況を踏まえ、文部科学省および経済産業省は、「マテリアル革新力強化のための戦略策定に向けた準備会合」を設置し、令和2年6月に「マテリアル革新力強化のための政府戦略策定に向けて」を策定しました。今後はよりマテリアル革新力の強化に力が注がれることが期待されています。

世界の取り組み

アメリカは、日本より一足早く本格的なMIの取り組みに着手している国の1つです。2011年に発表されたMGI(Material Genome Initiative)では、バイオ・インフォマティクスに関する新材料の発見から実用化までの時間を短縮化するために、約5億ドルの資金が投入されました。

2012年には、電池材料の論文データを使ったデータ分析のみで電池材料開発を行い、実験同等の結果を導き出すことに成功しています。

中国では、2016年3月に発表された科学技術イノベーションに関する計画で、「新材料技術」としてマテリアルズゲノムを取り上げました。この他、ヨーロッパや韓国などでも、MIに関するさまざまな取り組みが行われています。

マテリアルズインフォマティクス(MI)が求められる背景

マテリアルズインフォマティクス(MI)が求められる背景には、日本の輸出産業における工業素材や材料の重要性が挙げられます。輸出産業の約2割を占める工業素材には、世界的なマーケットで過半数のシェアを占める製品も含まれ、MIの最新技術を用いた新素材の開発や設計によって大きな影響を及ぼすでしょう。

ただし、日本だけがMIを用いた新素材の設計・開発を行っているわけではありません。世界各国でMIへの注目度は高まっているため、今後より解析技術の性能を高めていくためにも、公的機関・研究機関による「AI技術開発」への助成制度の整備や、民間企業との協業開発の推進といった取り組みの重要性が増していくでしょう。

マテリアルズインフォマティクス(MI)進展に向けた課題

多くの期待が寄せられるマテリアルインフォマティクス(MI)ですが、進展に向けた課題もいくつか存在しています。例えば、材料開発の分野における「データ量の少なさ」は大きな課題の一つと言えるでしょう。

どの分野においても、AIで高い精度の予測モデルを作るためには膨大なデータが必要となります。画像認識であれば、数千、数万といったデータを活用して初めて高い精度の画像認識技術が構築できるわけです。

しかし、材料開発分野の場合、企業がそれぞれ個別に取り組んでいたり、担当者によってはデータを保存していなかったりデータ形式を統一させていなかったりするケースが多いため、数十ほどのデータしか集められないという事態に陥ってしまうことが多いのです。

さらに、材料に関する高度な専門知識を持った専門家が少ないことも、大きな課題の一つと言えます。素材を構成する物質には個体差があるため、その個体差を考慮しながらうまく材料開発の学習データに落とし込んでいかなくてはなりません。企業連携や産学連携によって、それらの作業を行える専門家を多く育成していくことは、今後における重要な課題となります。

マテリアルズインフォマティクス(MI)の将来性

基礎研究における世界的な研究者や研究拠点を多数持つ日本は、国際社会での競争でも大いに活躍が期待できます。課題視されている研究データの活用や論文の国際シェアがMI導入により解決できれば、世界的なポジションの確立も見えてくると考えられます。

さらに、日本は学術研究とビジネスの融合による成功事例を多数持っていることも事実です。青色LEDなど社会的な影響を生み出した製品例も多く、今後どのようにMIを活かすかが1つのポイントと言えます。

マテリアルズインフォマティクス(MI)の取り組み事例7選

ここからは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入、活用している企業の取り組み事例について紹介していきます。日本政府のMIに関する見通しの公表から、IT関連の投資を拡大させる動きが大手企業を中心に始まっています。効果的なMI活用に向けて、ぜひ参考にしてください。

Materials Open Platform (MOP)

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)、旭化成株式会社、三菱ケミカル株式会社、三井化学株式会社、住友化学株式会社は、化学マテリアルズオープンプラットフォーム(化学MOP)からなる水平連携において、強度・脆さといった材料物性を機械学習で予測する際、材料の構造から得られる情報を有効活用して、より少ない実験回数で予測値と実値の誤差を小さくすることが可能なAI技術を開発しました。今回開発されたAI技術は、高分子材料をはじめとする材料開発の強力なツールになるとして、大きな期待が寄せられています。

今回開発された技術の有用性を示すための一例としては、高分子材料であるポリオレフィンのデータベースを利用。その結果、AI技術の利用によって無作為に材料作製を進める場合と比較して、作製回数を少なくしても機械学習による材料物性の予測精度を高められることを示しました。

ライオン×日立製作所

日用品大手のライオンでは、開発プロセスの1つである「組成開発」の期間を約半分に短縮する新手法を開発することに成功しており、2023年6月には、ハミガキの組成開発に適用し、想定の半分の期間で開発できたことを発表しました。

マテリアルズインフォマティクスに着手したものの研究データ不足が原因で行き詰まってしまう企業が多い中、ライオンでは開発経験者をMI人材へと育成し、研究現場の知見を効果的に組み込んでいます。

トヨタ自動車

トヨタ自動車では、材料分析・データ解析クラウドサービス「WAVEBASE」を開発・提供しています。これは、材料から取り出したデータをクラウドに上げ、“as a Service”の形で利用できるようにするというもの。データを投入して設定を入力すれば、自動でデータベースが構築されて解析が始まるという仕組みです。そのため、分析の結果に基いた材料開発をよりスムーズに進めることが可能になります。

WAVEBASEが材料開発にもたらす効果の一つとして、「その時点での最適値の予測がより簡単に行えること」が挙げられます。材料の数は無限であるため、どこまで研究を続ければいいかの判断も決して簡単なものではありません。しかし、データに基づく予測によって性能の最適値を把握することができれば、そこを目安に開発を切り上げることが可能になるというわけです。実際にトヨタ社内の事例では、従来比で1/5程度まで開発期間を短縮させることができたといいます。

旭化成

化学業界の大手である旭化成は、ほぼすべての材料開発においてMIを活用しています。2017年からMIの概念検証に着手しており、2018年にMIを使った高性能触媒の開発に成功しました。2019年の中期経営計画内では、デジタルトランスフォーメーションの一環としてMIの強化を掲げています。

以後、研究開発本部にインフォマティクス推進センターを、2020年には研究員のMI活用環境として「MI-Hub」をそれぞれ開設。デジタル領域のプロやMIを扱う人材を育成し、体制強化を目指しています。

MI活用により、在宅勤務中の研究員が低燃費タイヤ用の新規ポリマー材料を半年で開発するなど、コロナ禍でも成果を上げることに成功。

2022年には、MIに必要な多様な実験データを集約するデータ基盤や、MI・最適化により自律的に実験と探索を行うスマートラボが構築され、MI活用のコミュニティも生まれるなど、切磋琢磨し支え合う風土が醸成されつつある状況です。

三井化学×日立製作所

三井化学と日立製作所は2021年に共同で、材料開発におけるMI技術の実用化に向けた実証試験を行いました。素材企業に提供する材料データ分析支援サービス「材料開発ソリューション」では、各企業から預かったデータをAI分析に活用し、結果をフィードバックする仕組みです。

三井化学では、化学式を発案するAIが抱えていた大量の実験データの収集や実験回数の増加といった課題に対して、日立開発のディープラーニング技術を採用。少量の実験データから新材料に関する高性能な提案が可能となり、時間とコストの大幅な削減を実現しました。

実際の検証データでは、有機材料開発の実験回数を従来の約4分の1に低減でき、新材料開発のDXの実現が可能となりました。

なお、本件について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
参考:「AI技術の応用で材料開発のコスト大幅削減を見込む実証実験開始

住友化学

住友化学では、中期経営計画内で「デジタル革新による生産性の向上」を掲げ、データ駆動による研究開発の効率化・高度化に向けたMIの活用を示しています。データサイエンティストやデータエンジニアなど人材確保と育成、MIプラットフォームの構築やデータ解析といった課題に取り組んでいく予定としています。

実際にMI活用による成功事例も報告されています。耐熱性ポリマー(共重合体)の開発において、100万通り近くある組み合わせの中から、目標とする共重合体のモノマー組成比(量比)を見出すためにMIを活用。MI抽出により、10〜20回ほどの実験で最適解が見つかりました。

東レ

東レは2021年12月、MI技術を使った次世代の新プラスチックの開発に、短期間で成功したと発表しました。以前からデジタル活用やDXにおいてMIの活用に積極的だった同社は、デジタルものづくりによる先端材料研究において、MIによる研究と開発の効率化に取り組んできました。

開発に成功した航空機用途向け炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、航空宇宙分野での採用が増えている信頼性の高い素材です。耐衝撃性や導電性などのデメリットをカバーするために、MI技術を活用。従来よりも少ない実験回数で、CFRPに適したマトリックス樹脂の設計が実現しました。

従来は2〜3年かかっていた工程が1〜2ヶ月ほどで完了するなど、開発期間の短縮にも成功しています。自動車や一般産業用途での展開も視野に入っており、世界の航空事業や宇宙関連事業で東レのCFRPが活躍する日も近いかもしれません。

また、樹脂材料開発において収集・蓄積してきた質の高いデータと、物性予測AI技術に基づくマテリアルズ・インフォマティクス技術を活用し、樹脂物性データを予測する物性予測システムも開発。今後の動向もますます目が離せません。

まとめ

マテリアルズインフォマティクス(MI)は、製造業の材料開発に大きな影響を与えるAI技術です。世界各国をはじめ、日本国内でも政府を中心にMIの活用が推奨されており、分野や企業の垣根を越えて幅広い取り組みが行われています。

期間短縮やコスト削減といった効果が出ているプロジェクトも多く、今後さらなる進化とともに、MIの導入拡大が期待されています。今回紹介した活用事例を参考にして、自社のMI導入について検討してみましょう。

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