ChatGPT連携サービス

最終更新日:2023/10/27
マテリアルズインフォマティクス(MI)は、AIによる情報科学を応用した材料開発技術で、製造業をはじめ各分野で導入が開始されています。日本や世界各国の政府も参画するMIは、各分野の企業における効果的な活用に注目が集まっています。
今回は、マテリアルズインフォマティクス(MI)の概要から活用の背景にある課題、日本政府や世界の取り組みまで詳しく解説します。各企業における導入事例についても紹介するので、MIに興味のある方や事業への活用を検討している方は最後までご覧ください。
機械学習について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
機械学習とは何か?種類や仕組みをわかりやすく簡単に説明
マテリアルズインフォマティクス(MI:Material Informatics)とは、材料(マテリアル)の開発において情報科学(インフォマティクス)の手法を用いる取り組みのことです。材料科学と情報科学の融合と言われ、AIによる膨大なデータ処理やディープラーニング機能を材料開発に応用し、プロセスの効率化や最適化を促します。
ここ数年、材料科学におけるデータベースの大規模化やAI技術の高性能化により、MIの採用が急速に進みました。過去の実験や論文の解析にMIを活用することで、最適な材料の選定やテストにかかる時間が短縮されています。
製造業を中心にMIを導入する企業が増加するとともに、各分野への応用も推進されています。
マテリアルインフォマティクス(MI)と従来の材料開発とでは、開発プロセス全体のスピードやコストに違いが見られます。
従来の方法では、目標設定の後に類似事例の調査や研究者による選定、特性の評価といったプロセスが必須でした。一方、MIは蓄積された大量のデータの中から候補となる類似事例を、短時間で見つけ出します。また、材料設計に適した特性の物質も備えたMIによる自動選定が可能です。
高精度な計算が可能な材料データベースや情報処理技術を備えたMIにより、研究者の知識・直観と過去の膨大なデータの両方を使った材料開発が実現します。その結果、材料開発にかかる時間とコストの削減が期待できます。
世界各国で、マテリアルズインフォマティクス(MI)に関するさまざまな取り組みがすでに始まっています。日本政府も推奨するMIの流れは、企業単位ではなく業界や分野ごとに広く採用されていることも事実です。ここでは、日本国内と世界各国におけるMI導入事例を紹介します。
日本国内では、2013年に材料設計や開発におけるデータ駆動型の材料設計の重要性について、JST研究開発戦略センターが政府へ提言しています。それをきっかけに、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」や、文部科学省の「材料科学と情報科学の調和」など、次々とMIへの投資を開始。続いて、国内大手企業もMIの導入に着手しています。
現在、政府の統合イノベーション戦略推進会議における「マテリアル革新力強化戦略」にて、取り組むべきアクションプランの1つに「データ駆動型研究開発の促進」が掲げられています。
材料データと製造技術を持つMIを活用し、先端共用設備を通して蓄積された良質なデータ収集、ノウハウや経験の蓄積、データサイエンスの融合による製造プロセスの高度化といった方策が示されています。
アメリカは、日本より一足早く本格的なMIの取り組みに着手している国の1つです。2011年に発表されたMGI(Material Genome Initiative)では、バイオ・インフォマティクスに関する新材料の発見から実用化までの時間を短縮化するために、約5億ドルの資金が投入されました。
2012年には、電池材料の論文データを使ったデータ分析のみで電池材料開発を行い、実験同等の結果を導き出すことに成功しています。
中国では、2016年3月に発表された科学技術イノベーションに関する計画で、「新材料技術」としてマテリアルズゲノムを取り上げています。この他、ヨーロッパや韓国などでも、MIに関するさまざまな取り組みが行われています。
マテリアルズインフォマティクス(MI)が求められる背景には、日本の輸出産業における工業素材や材料の重要性が挙げられます。輸出産業の約2割を占める工業素材には、世界的なマーケットで過半数のシェアを占める製品も含まれ、MIの最新技術を用いた新素材の開発や設計によって大きな影響を及ぼすでしょう。
また、基礎研究における世界的な研究者や研究拠点を多数持つ日本は、国際社会での競争でも大いに活躍が期待できます。課題視されている研究データの活用や論文の国際シェアがMI導入により解決できれば、世界的なポジションの確立も見えてくるでしょう。
さらに、日本は学術研究とビジネスの融合による成功事例を多数持っていることも事実です。青色LEDなど社会的な影響を生み出した製品例も多く、今後どのようにMIを活かすかが1つのポイントと言えるでしょう。
今後のマテリアルズインフォマティクス(MI)の方向性として、日本政府はデータ共有の基盤整備や、研究領域の抽出などの仕組みづくりへの注力を示しています。
MIの有効活用には、各企業や研究施設の研究者が良質な材料データを扱える仕組みが必要です。政府は、データの取り扱いに関する共通指針の策定、データの創出・活用に使える施設や設備の整備などを進めるとしています。
各国政府が手動で投資を進めてきたMIですが、材料メーカーとIT企業が共同で取り組むプロジェクトなど、業界や分野を越えた企業間の連携も増えています。ユーザーのニーズ多様化や国際競争への対応に向けて、研究開発の高度化や高速化といった課題に対して効果的なMIの導入・活用が期待されています。
ここからは、マテリアルズインフォマティクス(MI)を導入、活用している企業の取り組み事例について紹介していきます。日本政府のMIに関する見通しの公表から、IT関連の投資を拡大させる動きが大手企業を中心に始まっています。効果的なMI活用に向けて、ぜひ参考にしてください。
化学業界の大手である旭化成は、ほぼすべての材料開発においてMIを活用しています。2017年からMIの概念検証に着手しており、2018年にMIを使った高性能触媒の開発に成功しました。2019年の中期経営計画内では、デジタルトランスフォーメーションの一環としてMIの強化を掲げています。
以後、研究開発本部にインフォマティクス推進センターを、2020年には研究員のMI活用環境として「MI-Hub」をそれぞれ開設。デジタル領域のプロやMIを扱う人材を育成し、体制強化を目指しています。
MI活用により、在宅勤務中の研究員が低燃費タイヤ用の新規ポリマー材料を半年で開発するなど、コロナ禍でも成果を上げることに成功。
2021年8月には、新素材の組成検討から評価までの一連のプロセスを自動化した「スマートラボ」の2022年度稼働を発表しました。MIと自動実験設備の組み合わせが、化学業界のデジタルトランスフォーメーションを促す先駆的な取り組みになると注目されています。
ENEOSでは、実験やシミュレーションにAIを融合させることで、再生可能エネルギーや潤滑油などにおける物理・化学法則と統計解析の両面からの提案を目指しています。世界規模の課題である低炭素社会の実現に向けて、SDGsにも配慮した革新的素材の発見・開発にMIを活用しています。
近年は、国内でディープラーニングの研究と開発を行う株式会社Preferred Networksと共同で、汎用原子レベルシミュレーター「Matlantis™」を開発。水素エネルギーなど低炭素社会の実現に向けた新素材の探索と開発に力を注いでいます。
他にも、高機能触媒設計での活性化エネルギーの算出結果をAIに学習・分析させて、高性能な触媒の設計に役立てています。また、高性能ポリマー収率の向上を目的として、独自の予測モデルを構築。実験データをAIに学習させ、膨大な仮想実験を実行することで収率向上の加速化を図っています。
横浜ゴムも旭化成同様、国内では早い時期からMI技術を導入している企業です。2015年の段階で、ゴム材料の仮想モデル化と力学特性の予測シミュレーションを行う専用技術を開発。2017年に、インフォマティクス技術を使ったタイヤ設計技術を構築しています。
2021年12月には、AIを活用したゴムの配合物性値予測システムを独自開発。タイヤ用ゴムの配合設計において実用をスタートするなど、材料開発における工数削減や新しい開発アプローチの発見といった多くのメリットを得ています。
トーヨータイヤは、2018年から予測技術の検証などでMI技術を採用しています。技術制度の向上に伴い、2019年には外部情報との紐付けも開始。蓄積された保有データを有効活用する環境を整備し、新しい解析方法や予測データの活用を通して、製品開発の高機能化とコスト削減の両立に取り組んでいます。
2020年4月には、データ分析のリーディングカンパニー「SASJapan」との協業で、データマイニングと機械学習を採用。MIを使ったゴム材料の特性予測技術や、材料構造の最適化技術の開発も発表しています。
今後は同社の主軸であるゴム材料開発基盤技術「ナノバランステクノロジー」においてMIを応用し、新材料の開発や適用拡大を図るとしています。
三井化学と日立製作所は共同で、材料開発におけるMI技術の実用化に向けた実証試験を開始しました。素材企業に提供する材料データ分析支援サービス「材料開発ソリューション」では、各企業から預かったデータをAI分析に活用し、結果をフィードバックする仕組みです。
三井化学では、化学式を発案するAIが抱えていた大量の実験データの収集や実験回数の増加といった課題に対して、日立開発のディープラーニング技術を採用。少量の実験データから新材料に関する高性能な提案が可能となり、時間とコストの大幅な削減を見込んでいます。
実際の検証データでは、有機材料開発の実験回数を従来の約4分の1に低減でき、新材料開発のDXの実現が可能としています。
住友化学では、中期経営計画内で「デジタル革新による生産性の向上」を掲げ、データ駆動による研究開発の効率化・高度化に向けたMIの活用を示しています。データサイエンティストやデータエンジニアなど人材確保と育成、MIプラットフォームの構築やデータ解析といった課題に取り組んでいく予定としています。
実際にMI活用による成功事例も報告されています。耐熱性ポリマー(共重合体)の開発において、100万通り近くある組み合わせの中から、目標とする共重合体のモノマー組成比(量比)を見出すためにMIを活用。MI抽出により、10〜20回ほどの実験で最適解が見つかりました。
近年は、研究チームからもMI採用の申し出があるほど、社内でもMIの活用が浸透してきているといいます。
東レは2021年12月、MI技術を使った次世代の新プラスチックの開発に、短期間で成功したと発表しました。以前からデジタル活用やDXにおいてMIの活用に積極的だった同社は、デジタルものづくりによる先端材料研究において、MIによる研究と開発の効率化に取り組んできました。
開発に成功した航空機用途向け炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、航空宇宙分野での採用が増えている信頼性の高い素材です。耐衝撃性や導電性などのデメリットをカバーするために、MI技術を活用。従来よりも少ない実験回数で、CFRPに適したマトリックス樹脂の設計が実現しました。
従来は2〜3年かかっていた工程が1〜2ヶ月ほどで完了するなど、開発期間の短縮にも成功しています。自動車や一般産業用途での展開も視野に入っており、世界の航空事業や宇宙関連事業で東レのCFRPが活躍する日も近いかもしれません。
キシダ化学は2018年5月、MIを活用した材料開発支援サービスを扱うMI-6株式会社と共同で、リチウムイオン電池の性能向上のための電解液の組成予測を行いました。結果、電池の性能発現に有効な難燃性電解液組成を発見。MIによる性能向上や材料開発期間の短縮への有用性を示しました。
商用のリチウムイオン電池に求められる性能追求とさらなる安全性の両立を確保する上で、課題となっていた電解液の可燃性解消のためにMIを活用。電解液を難燃化する材料を配合しても電池性能をキープできる、新しい組成の電解液の設計を実現しています。
マテリアルズインフォマティクス(MI)は、製造業の材料開発に大きな影響を与えるAI技術です。世界各国をはじめ、日本国内でも政府を中心にMIの活用が推奨されており、分野や企業の垣根を越えて幅広い取り組みが行われています。
期間短縮やコスト削減といった効果が出ているプロジェクトも多く、今後さらなる進化とともに、MIの導入拡大が期待されています。今回紹介した活用事例を参考にして、自社のMI導入について検討してみましょう。
AISmileyでは、AI関連のさまざまな製品やサービスをまとめた一覧資料を無料で配布しています。コンサルタントへの相談も無料ですのでまずはお気軽にご相談ください。
AIについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
AI・人工知能とは?定義・歴史・種類・仕組みから事例まで徹底解説
業務の課題解決に繋がる最新DX・AI関連情報をお届けいたします。
メールマガジンの配信をご希望の方は、下記フォームよりご登録ください。登録無料です。
AI製品・ソリューションの掲載を
希望される企業様はこちら