生成AI

最終更新日:2025/09/08
PCゲームを4Kや高画質設定でプレイしたいものの、フレームレートが低下してカクつきが気になる方も多いでしょう。DLSS(Deep Learning Super Sampling)は、AI技術を活用してこの問題を解決する技術です。
この記事では、高品質なゲーミング体験を求める方に向けて、DLSSの基本概念から設定方法、導入前に知っておくべき注意点までまとめて解説します。
DLSSの全体像を理解するために、まず基本的な概念から、その技術的な仕組みまで解説します。なぜDLSSがゲーミング体験の向上に有効なのか、その理由を理解していきましょう。
DLSS(Deep Learning Super Sampling)は、NVIDIAが開発したAI(ディープラーニング)を活用した超解像技術です。その名が示すように、深層学習によるサンプリング処理を通じて、映像品質を向上させています。
DLSSの役割は、「ゲームを軽い処理で動かしながら、見た目の画質をキレイにする」ことにあります。これまでのゲーム描画では、「高画質な設定を選ぶほどGPUへの負荷が増え、かえってフレームレートが低下する」という課題がありました。こうした課題に対して、DLSSは新たなアプローチで解決します。
具体的には、ゲーム内部では負荷の軽い低解像度での描画を行い、その後、AIによる高度な補正処理を施すことで、最終的には高解像度に相当するキレイな映像を出力するという仕組みです。
高画質設定でゲームが重くなる問題を解決するために、DLSSが必要とされる背景には、現代ゲームのグラフィックに対する水準の高さがあります。レイトレーシングや4K解像度などが標準化されているものの、これまでの処理方式では十分なパフォーマンスを確保することが難しくなっています。
DLSSの処理フローは、以下の3段階となっています。
この手順をスピーディに実行するために、GeForce RTXシリーズのGPUには「Tensorコア」という専用ハードウェアが搭載されています。TensorコアがAI計算を担当することで、通常のグラフィック処理に影響を与えることなく、リアルタイムでの画質を向上させています。
これまでの単純な「アップスケーリング手法(画像の引き伸ばし)」とは異なり、DLSSのAI処理では、モーションベクトルや前フレームの情報なども用いて、より自然で精細な画像を生成します。
DLSSの導入により得られるメリットは多岐にわたります。パフォーマンス向上、画質改善、システム負荷軽減という3つの側面から、その効果を見ていきましょう。
DLSSを使用することで、GPUの負荷が軽減され、フレームレートが向上します。DLSSを使っていないときと比べると、フレームレートは最大で2〜4倍も向上するのです。
設定 | FPS (フレームレート)の目安 |
---|---|
DLSS OFF | 約30 fps |
DLSS ON (品質優先) | 約70 fps |
DLSS ON (バランス) | 約80 fps |
フレームレートとは、「Frames Per Second」の略で、1秒間に画面が何回更新されるかを表す数値です。フレームレートが高いほど、4K解像度のような環境でも画面の動きがより自然で滑らかになります。
また、目の疲れを軽減したり、操作に対する反応がスムーズに感じられたりします。
DLSSはパフォーマンスを向上させるだけでなく、AIの補正によってネイティブ解像度と同等、あるいはそれ以上にシャープな画質を実現できる場合があることが特徴です。
特にDLSS 2.0以降では「画質の劣化がほとんど感じられなくなった」と言われるほど、DLSSの技術自体も進歩しています。
DLSSを利用することで、ハイエンドGPUが必要だった4K・高画質ゲーミングが、ミドルスペックGPUでも対応できるようになります。
例えば4K Ultra設定で、DLSS無しではRTX 4080が必要なところ、DLSS有りならRTX 4070でも快適にプレイできます。
内部で低解像度に描画してAIが補正するため、GPU負荷が軽減されるからです。結果的にハードウェアへの投資コストを減らしたり、既存の環境でも最新ゲームを高設定で楽しめたりします。
DLSSはさらなる進化を続けており、各バージョンで異なる特徴と機能を提供しています。現在利用できる機能は、使用するDLSSバージョンによって決まるため、その違いを理解することが大切です。
初期のDLSS 1.0が抱えていた課題として、特にテクスチャの細部表現やエッジの処理において期待された効果を得られないケースがよく見られました。
また、ゲームタイトルごとにAIモデルを個別にトレーニングする必要があったため、対応タイトルを広げることが難しいという実用上の問題もありました。
そこでDLSS 2.0では、「テンポラルフィードバック技術」を導入し、画質を向上させた経緯があります。テンポラルフィードバック技術は、現在のフレームだけでなく、前のフレームや動きの情報も同時に活用することで、より正確で安定した映像補正を実現します。
1枚の画像だけを処理するのとは異なり、時間軸の情報を組み合わせることで、モーションベクトルの処理精度が向上し、動きの激しいシーンで発生しがちな「ゴースト現象(残像)」や画質の不安定さも抑制されました。
また、DLSS 2.0からゲームごとの個別学習が不要になり、多くのタイトルで採用されるようになった点も重要な進歩です。汎用的なAIネットワークの採用で、開発者にとっての導入ハードルが下がり、対応タイトルが一気に増えました。
DLSS 3.0の最大の特徴である「フレーム生成(Frame Generation)」は、AIがフレームとフレームの間に新しいフレームを生成する技術です。これまでの画質改善とはまったく異なるアプローチで、表示フレームレートそのものを向上させる機能です。
具体的には、前フレームと次フレーム、およびゲームエンジンから提供されるモーションベクトル情報を解析して、中間に位置する自然なフレームをAIが予測・生成します。この結果、実際のGPU処理負荷を増加させることなく、見かけのフレームレートを倍増させることが可能になります。
フレーム生成はRTX 40シリーズ以降のGPUでのみ利用できる専用機能です。なぜなら、新世代の「Optical Flow Accelerator」という専用ハードウェアが必要なためです。
フレーム生成のメリット(フレームレートの大幅な向上)と、デメリット(わずかな遅延が発生する可能性)のどちらも理解して利用することが大切です。特に競技性の高いゲームでは、この遅延が操作性に影響を与える可能性があるため、用途に応じた選択が求められるでしょう。
DLSS 4.0で導入された「マルチフレーム生成」は、複数のフレーム情報を基に、より自然で滑らかな中間フレームを複数生成する技術です。従来のフレーム生成が1枚の中間フレーム生成だったのに対し、マルチフレーム生成では連続する複数のフレームを一度に生成することで、より高精度な映像補完を実現します。
DLSS 3.0のフレーム生成(1枚生成)とDLSS 4.0のマルチフレーム生成(複数枚生成)の違いを、精度や滑らかさの観点から比較すると、以下のような改善が見られます。
DLSS 4.0では、Transformerベースの新しいAIモデルが採用されており、従来の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)ベースのモデルから進化しています。
画面全体のピクセルの関連性をより深く理解し、複数フレームにわたる時間的な安定性が向上します。その結果、動きのあるシーンでのゴースト現象やシマリング(ちらつき)が削減され、全体的な画質が向上するとされています。
DLSSを実際に活用するためには、ハードウェア要件の確認、対応ソフトウェアの選定、適切な設定が必要です。以下では、導入から実際の利用開始まで具体的なフローを解説します。
DLSSを利用するにはNVIDIAの「GeForce RTXシリーズ」のGPUが必須であることをあらためて確認しておきましょう。重要なのは、利用したいDLSS機能に対応するGPU世代の把握です。
DLSSのバージョンごとに対応するRTXシリーズをまとめました。
DLSSの主要技術 | 対応するDLSSバージョン | 必須となるGeForce RTXシリーズ |
---|---|---|
超解像 (Super Resolution) | DLSS 2.0 | RTX 20, 30, 40, 50 シリーズ |
フレーム生成 (Frame Generation) | DLSS 3.0 | RTX 40 シリーズ以降 |
マルチフレーム生成 (Multi-Frame Generation) | DLSS 4.0 | RTX 50 シリーズ以降 (予定) |
GTXシリーズや他社製GPUではDLSSが利用できません。AMD RadeonやIntel Arcシリーズなどを使用している場合は、それぞれの代替技術(FSRやXeSS)を検討することになります。
現在使用しているGPUは、デバイスマネージャーやNVIDIAコントロールパネル、システム情報から確認できます。
DLSSはそもそもゲーム側が対応していなければ利用できません。そのため、プレイ予定のタイトルや現在プレイ中のゲームがDLSSに対応しているかを確認する必要があります。
「サイバーパンク2077」や「フォートナイト」など、DLSSに対応している代表的な人気ゲームタイトルは年々増加しており、特にAAAタイトルでは標準的な機能として実装されることが多くなっています。また、既存のゲームでもアップデートによりDLSS対応が追加されるケースも多いため、定期的な情報確認が有効です。
NVIDIAコントロールパネルでDLSS機能をグローバルに有効化する手順は、以下の通りです。
各ゲーム内のグラフィック設定メニューでDLSSを有効にし、「品質」「バランス」「パフォーマンス」などのモードを選択する具体的な手順は、ゲームによって多少異なりますが、一般的にはグラフィック設定の中にDLSS関連の項目があります。
DLSSモード | 優先項目 | 特徴(画質とパフォーマンス) | 推奨される利用シーン |
---|---|---|---|
品質 (Quality) | 画質 | ネイティブ解像度に最も近い映像を維持しつつ、フレームレートを約1.5倍に向上させる | 4Kなど高解像度で、最高のグラフィックを重視してゲームをプレイしたい場合 |
バランス (Balance) | 両立 | 画質への影響をわずかに抑えながら、フレームレートを約2倍に引き上げる | 通常のゲームプレイにおいて、画質と快適性のバランスを取りたい場合 |
パフォーマンス (Performance) | フレームレート | 画質の低下は認識できるレベルになるが、フレームレートを約3倍まで大幅に向上させる | 競技性の高いゲームなど、グラフィックよりも高いフレームレートを優先したい場合 |
ウルトラパフォーマンス | 最大限のフレームレート | 画質の低下は明確になるが、フレームレートの向上率は約4倍と最大に | 8K解像度など、極めて高い負荷の環境でゲームを動作させることを目的とする場合 |
DLSSはさまざまなメリットを提供する技術ですが、導入前に理解しておくべき制限事項やデメリットも存在します。これらを適切に把握することで、期待値の調整と最適な活用が可能です。
DLSSの利用には対応GPUと対応ゲームが必要です。NVIDIAのRTXシリーズGPU以外では利用できず、すべてのゲームタイトルで対応しているわけでもありません。
技術的な制約として、DLSS 3のフレーム生成機能では、AIによる予測処理のため入力遅延やゴースト現象(残像)を感じる可能性があります。
また、DLSSオプションがグレーアウトして選択できない場合は対応GPUの認識問題があり、ゴースト現象が目立つ場合はより高品質なDLSSプリセットへの変更が必要です。画面のちらつきが発生する際は、VSync設定の調整も有効です。
こうした問題は最新グラフィックドライバーを維持することで、そのほとんどを解決できます。
NVIDIA DLSS、AMD FSR、Intel XeSSの3つのアップスケーリング技術について、開発元、対応GPU、処理方式の違いをまとめました。
アップスケーリング技術 | 開発企業 | 動作する主なGPU | 技術的なアプローチと特徴 |
---|---|---|---|
NVIDIA DLSS | NVIDIA | GeForce RTX 20シリーズ以降 | AIと専用ハードウェアを活用
TensorコアというAI専用プロセッサを使用し、深層学習(ディープラーニング)によって高精細な映像を生成する |
AMD FSR | AMD | メーカーを問わず、ほぼすべてのGPU | ハードウェアに依存しない汎用性
特定のAIハードウェアを必要としない空間的アップスケーリング技術。オープンな技術で、非常に多くのグラフィックボードで利用できる |
Intel XeSS | Intel | Intel Arcおよび、他社製GPU | AIを活用しつつ、柔軟に対応
AIによるアップスケーリングを行うが、Intel製GPUだけでなく他社製GPUでも動作するクロスプラットフォーム対応が特徴 |
DLSSが専用ハードウェア(Tensorコア)を使用するのに対し、FSRは多くのGPUで利用できるオープンな技術です。FSRは対応ハードウェアが幅広いものの、専用ハードウェアを活用するDLSSと比べると、画質面で劣る場合があります。
画質面ではDLSSが優れている傾向にありますが、使用環境や優先する要素(対応性、画質、パフォーマンス)によって最適な選択肢は変わるでしょう。
DLSSは、NVIDIAが開発したAI技術により、高画質と高パフォーマンスの両立を実現する画期的な技術です。AI超解像処理によって、より軽い処理負荷でより高品質な映像を生成し、ゲームプレイ中に重くなる問題を解決します。
DLSS 2.0でのテンポラルフィードバック技術の確立から、DLSS 3.0のフレーム生成、DLSS 4.0のマルチフレーム生成まで進化を続けています。ゲーミング環境の改善を検討している方にとって、特に4K解像度やレイトレーシング対応ゲームでの効果を実感できるでしょう。
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