AIでRCカーを走らせよう!Maker Faire Tokyo 2022 イベントレポート
最終更新日:2024/04/05
2022年9月3日(土)、9月4日(日)に東京ビックサイトで「Maker Faire Tokyo(以下、MFT)」が開催され、このイベントにおいて「AIでRCカーを走らせよう」という取り組みが行われました。
このイベントに株式会社エヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズ(以下、NTTPC)がAIコラボレーションプログラム「Innovation LAB」の取り組みの一つとして、参加しました。
イベントの様子を、メディアパートナー、AIsmileyが写真を中心にお届けします。
※新型コロナウイルス感染予防対策を行い、ソーシャルディスタンスを確保した上で撮影しています。
様々な企業のエンジニアが参加するコミュニティ
今回参加したコミュニティは、FBグループ「AIでRCカーを走らせよう!」と某自動車メーカーの「自動運転ミニカーバトル」チームなどで構成されており、大手自動車メーカーや模型メーカー、一般企業に所属する方々に加え、学生が参加しているコミュニティとなっています。
イベントの様子
当日、12時のイベント開始前からすでに入口まで長蛇の列ができていました。待っている皆さんの期待度の高さが伝わってきます!
シンプルなオーバルコース、直角カーブやシケインが設けられた高難易度コース、迷路のような最難関コースの3コースが用意され、参加者自慢のAIラジコンカーを待ち受けます。
ディープラーニングの学習結果で自動走行
今回、AIラジコンカーの仕組みについて、株式会社FaBo代表の佐々木 陽氏にお話を伺いました。
――AIラジコンカーについて教えてください。
――佐々木氏
AIラジコンカーは人工知能が運転者となっており、「Raspberry Pi」や「Jetson nano」のような超小型PCを内蔵した市販のRCカーに、googleのTensorFlowやfacebookのPyTorchなどの機械学習ライブラリを載せて走らせます。今回走らせているAIラジコンカーは、あらかじめプログラムを書いて自動走行させるのではなく、ディープラーニングの学習結果で自動走行させています。仕組みとしては、上についているカメラが取り込んだ画像を、AIが学習してコースを判断します。
AIと聞くとすごく難しいものと思われがちですが、こうして手に触って学べるものだとハードルは下がるのではないかと思います。
――どういう手法で動かされているんですか?
――佐々木氏
End 2 End Learningという手法で、カメラ画像と制御情報 (ハンドルの角度、速度)、いうなれば思考の入口と出口を直接学習させる事で、RCカーをAIで制御しています。通常なら、AWSなどのクラウドサービス上で学習させますが、このAIラジコンカーであれば内蔵コンピューター上で学習させることが可能です。ネットワークを介さずに機械学習が可能なので、短時間で対応ができます。
――RCカーにはどんなコンピューターが内蔵されているのですか?
――佐々木氏
私のRCカーには、米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)が開発したJetson Xavier NXが搭載されています。小さいのにとても優秀なGPUです。これを搭載したレース向けのAIラジコンカー「JetRacer」は、転移学習で効率的な学習が可能で、学習の方法次第では、人間を超える走りをする可能性があると見込んでいます。
実際に、ラジコンの世界チャンピオンとレースをした際には、なかなか良い勝負をしてくれました。相手が世界チャンピオンともなると走りの技術の部分では、まだまだAIラジコンは敵いませんでした。人とAIが競い合う部分は、エンターテインメント性があって面白い部分だと思います。
デジタルツインでマトリックスのような世界を目指す
NTT-PCでは、合計3台のAIラジコンカーを運用しています。今回、AIラジコンカーとデジタルツインについて、エンジニアのサービスクリエーション本部 主査 斎藤 健輔氏にお話を伺いました。
――今話題のデジタルツインについてはどのように考えられていますか?
――斎藤氏
デジタルツインに関しては、映画マトリックスのような現実とデジタルが融合した世界が実現されると見込んでいます。デジタルツインは、従来からある仮想の空間とまったく異なり、現実さながらの空間をリアルタイムに再現できることが特長です。
例えば自動配送・自動運転においてAIが学習を行う際、いちいち現実空間で様々な状況(気象・光源・渋滞・人流など)を整えることは実質不可能ですよね。
そこにデジタルツイン環境をうまく活用すると、現実空間では到底困難な様々な環境設定・リアルタイム変化もデジタル空間内で効率よく短時間で実装でき、かつAIに多くの事を学習させられるようになります。
NTTPCは、NVIDIA社が開発した物理的に正確なリアルタイムシミュレーションを実現する3D開発プラットフォーム「NVIDIA Omniverse™ Enterprise」の実行環境をクラウドで提供するサービスを、日本で初めて開始します。
並行して、Innovation LABのパートナーさまらと、様々な社会課題の解決を目指したデジタルツインの活用検証を屋内外で実施したいと考えており、今回のAIラジコンカーの取り組みはその第1弾となります。
――今回は、どのような手順で学習をされましたか
――斎藤氏
今回のデモにあたって実施した具体的な手順は、以下の通りです。
・現実空間にラジコンコースを用意する。
・上記コースの3Dモデルを3DCGソフト(仮想空間)に取り込む
・仮想空間上で照明等の各種パラメーターを設定し、AIの学習を実行し、学習モデルを作成する。
・仮想空間上で作成した学習モデルを、現実空間のAIラジコンにデプロイする
・AIラジコンカーを現実空間のコースで走行させる。
コミュニティ内においても、仮想空間で学習した内容を現実世界に転移して利用する初の取り組みとなり、大きな反響を頂くことができました。今回は、初手として3DCGソフトで本検証を実施しましたが、様々な制約がありました。次回に向けてNVIDIA Omniverse™ Enterprise での検証を実施し、走行精度・走行スピードの向上を実現したいと考えています。
――AIラジコンカーを始めたきっかけを教えてください
――斎藤氏
AIラジコンカーを知ったのは、2019年頃です。当時は、Donkey Carが出てきた頃となり、AIでRCカーを走らせる事が可能だと知りました。
その後、JetRacerやDeepRacer等の競技で走らせる機種が増えて、ますますやってみたいという気持ちが膨らんでいきました。
2020年のコロナ禍による世界的な状況変化により遠のいていたのですが、Innovation LAB のコミュニティ活動の一環としてAIラジコンカーに取り組むと聞き、それならばと、再び取り組み始めました。
――実際に取り組んで難しいところはどこでしたか?
――斎藤氏
AIが判断している特徴点と、人間が見ている箇所では、全然異なるものであると実感しました。
AIがどこを特徴点として見て動かしているか人が直感的に判断するのは難しいです。そのため、我々はどこに特徴ポイントがあるのか、仮説を立てながら取り組んでいきました。
会社に期間限定でコースを設置し、仮説を立てつつそのコースに合ったモデルデータはできたのですが、実際の会場では室内の光量等など会社内で設定したものといくつか微妙に異なっており、それによる速度やステアリングの値の微妙な調整が求められました。
教師が下手ならマシンの挙動も下手になり、学習するデータも重要
学習データの重要性について、個人参加で大手自動車メーカーの新規事業を担当されている竹中達史氏にお話を伺いました。
――AIラジコンカーを始めたきっかけを教えてください
――竹中氏
AIでラジコンを走らせたら、面白いのではないかということで取り組んでいました。
また、社内の有志団体でレースを行っておりレースを行っており、 2019年から毎年 開催し、今年も11月に開催予定です。MFTが今年 3年ぶりにリアル開催するのに合わせて、社内のイベントから派生する形で遠藤さん、佐々木さんとイベント実現に取り組みました。
――走らせてみて気づかれたところはなにかありますか?
――竹中氏
グレーのコースに関しては、会社内に置いてあるコースと同一のもので、壁に当たったらアウトという形で取り組んでいました。
まだまだ、イベントやマシンの方は改良する余地があるとみています。
データに関しても気づいたところがあり、やはり教師が下手ならマシンも下手で、下手な人が運転し、それを教師学習として学習させればやはり下手な走行になります。また、充電に関しても、本番と教師データを入れる際に電池の量などが違うと、うまく学習が反映されないことがわかりました。
――期待していることなどありますか?
――竹中氏
今は遊びみたいな感じでラジコンを走らせていますが、この走らせる技術は人の役に立っており、これが将来、人も役に立てるのではないかと期待しています。
世代とラジコンの相性が良いので始めてみた。
今回、個人で参加しており、特徴的なカエルのマシンで参加されている株式会社ロフトの浦川 敦史氏にお話を伺いました。
――AIラジコンカーを始めたきっかけを教えてください
――浦川氏
元々は、角川アスキー総合研究所の遠藤さんに誘われて始めました。
また、ラジコン好きな友人にボディなどを教えてもらい「Donkey Car」(※AIラジコンカーの1種)の仕組みを入れてみました。
――これから参戦される方などに何かアドバイスはありますか?
――浦川氏
最初は、知見がある人に教えてもらうのがファーストステップかと思います。特に、有識者に聞いてから始めるのが大切だと思います。
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我々は、車体に注力しています。
今回、模型メーカーのタミヤに所属されている瀧 文人氏に、車体の重要性などのお話を伺いました。
――車体の特徴などを教えてください。
――瀧氏
車体周りに関しては、去年とはあまり変化はありません。
ただ、GPUをJetson Xavierに変更しました。そのため、昨年より処理速度が相当早く、学習などに強いGPUとなっています。あと車体がカーボン製になりました。
なお、車体のサスペンションなどは、ラジコンのエキスパートにセッティングしてもらいました。
正直、タミヤとして、ソフトは専門外だと認識しています。そのため、AIラジコンカーの頭脳となるソフトウェアで試行錯誤するより、ボディなどで試行錯誤して勝負したいと考えています。
社内には、サスペンションや全体の車体構成など、細かいところを指摘する社員もおります。そのため、勝つとすれば、ソフトウェアでは勝てないので、車体周りで勝利しようと思います。
――学習などはどのようにやっているのかを教えてください。
――瀧氏
基本的に、あらかじめカメラで画像を撮り、教師あり学習でコースの画像を一枚一枚AIに見せ、どちらに曲がるかを教えていきます。あらかじめAIがチェックするポイントの位置を決めてあり、ハンドルを右に切らせたかったらポイントを右に打つ、左ならポイントを左にということを一枚一枚やっていきます。
それだけでは物足りなかったので、その都度操作しながら取り組みました。また、コースの判断には使わないY軸をスロットルとして再利用しています。そのため、動きが立体的な動きになっています。
ここに来るまでいろいろと難しいところを試行錯誤して取り組んできました。
――取り組みのきっかけを教えてください。
――瀧氏
社内での取り組みの一環としてこのようなAIラジコンカーの取り組みを行っており、今日は個人で参加しています。
元々、2018年のDonkey Carがきっかけで、私もDonkey Carを取り組んでみたのですが、期待していたものほどではありませんでした。その後、NVIDIAからJetson が出てきてJetRacerというウルトラマシンみたいなのが出てきました。
Donkye Carと比較して、学習が簡単でAIも理解しやすいのもあり、再びAIラジコンカーに取り組み始めました。
いざ本番!
イベントの様子と結果
メーカーフェア自体の開催が、12時からでしたが、12時から17時までは車両の調整などが行われていました。その後、17時から走行会が実施されました。
走行会では、21秒00のタミヤのマシンが見事1位を勝ち取りました!
また、壮行会では2台で実際のレースのように走るなどの光景が見られました。
実際に聞いてみた!
――やってみて気づいたこと、難しかったこと。
実際に走行会の前の試験走行などの中でやってみて難しかったこと、気づいたことを今回取材させていただいた方にお話を伺いました。
――取り組んでみて難しい点などはありましたでしょうか?
――株式会社ファボ 佐々木 陽氏
光量は、大事であると気づかされました。試験走行していた会議室と実際に走らせたコースの光量の違いなど、撮像環境に新しい気付きがありました。設営時は暗めでしたが、それもあって明るめの設定にしました。それに伴って、マシンの挙動も少し変化しました。そのため、上手く動いていたものも動かなくなり、その逆もありました。
ラジコン化と我々の世代は相性が良いのかなと感じました。また、もう少し人口が増えるとうれしいも思いました。
取り組んでみて思ったのは、ハードウェアとソフトウェア両方とも都度更新しないと上手くいかないので大変だということです。
偶々、私にはボディができる友人が居たので上手く対応できましたが、個人だと大変だと思います。最初は、非常に難しかったです。
今回のイベントに出て思ったのは、AI-RCはわかりやすいなというところです。特に実社会への応用という面でわかりやすいのではないかと思います。確かに、文字認識などは簡単ですが、実社会の観点では直感的でないと思います。仕事でも実社会の壁はどういうものかを常に考えています。
また、やはりイベントなどに参加していないと真に理解できないと感じました。
今後イベントをさらにわかりやすくするための準備は必要だなと思います。
ラジコンに関して、しっかりと学習させると様々なパラメーターなどが必要になり、値などがバーターしてしまいます。また、いったん車体の向きが変わると、学習が意図しない方向になって変な動きになってしまいます。その他にも、想定外の物体を見ると値が変動してしまいます。そこはAIの難しいところだし面白いところ、負の側面でもあります。
カメラの問題やフレームワークが出来てからまだ若いというのもあり、改善する点は様々あると思います。
実際に取り組んでみて、現実にわからないことは多いと気づかされました。考えることは誰でも可能ですが、形にすることは難しいと気づきました。取り組んでみて、これもできる、あれもできるけど、しかしなんもできないってことが分かりました。それを気づけることがよくわかりました。形にしてみることが大事だと思いました。
AIカーのハンズオンで学生が熱狂
今回、コミュニティの活動や今後の方針などについて、角川アスキー総合研究所 主席研究員の遠藤 諭氏にお話を伺いました。
――コミュニティの活動などについて教えてください。
――遠藤氏
AIラジコンカーは、趣味で株式会社ファボ代表 佐々木陽氏と一緒にやっているコミュニティとなっています。
イベントに関しては、今回のメーカーフェア以外でも様々ところで活動しています。
去年の11月に東京大学の生産技術研究所のIoT研究会とかの講演などを依頼され、佐々木さんと行ってきました。また、布教活動という形で金沢工業大学など講演を実施しました。
その他にも、東京みらいファクトリーという教育庁の活動で工業高校や工芸高校、サイエンスハイスクールなどの高校生たちにAIラジコンカーのハンズオンを行いました。高校生は24人くらいが参加しました。中には先生も見学されていました。その際には、佐々木さんなどの主要なメンバーにも講師に来てもらいました。
AIラジコンカーは、高校生が最初に出会うものとしてはいいかと思います。原理が簡単で、いわゆるMNISTで文字を覚えると同じくらいの、それなりの段数のあるネットワークにはなるのですが、文字認識と同じように、風景見たらハンドルの角度を覚えるっていうことを積み重ねる仕組みになります。
技術のレベルとして高校生が理解できるものでなおかつ実際に自分たちの手を動かして作ったものが走りますし、なんといってもAIラジコンカーは、早く動きますので、実験室でこんなゆっくり走って動きました、などよりインパクトは大きいです。そういう意味で高校生は自分が作ったものが早く動くということで、達成感や動いたときの喜びなどがあったのかと思います。
今回のイベントに参加してみて
Maker Faire Tokyo 2022で行われた「AIでRCカーを走らせよう」の様子を写真中心にお届けしました。イベントを通して、コミュニティの規模の大きさや多種多様な機械学習、またそれぞれのマシンの持ち味など取材させていただきました。
機体や学習など様々な手法があり、車体に注力されているかたやソフトウェアに注力されている方など、皆さん熱中して取り組んでおり、会場が活気に溢れて大きな勢いを感じました。
Innovation LABについて
「Innovation LAB」は、NTTPCが展開しているAIパートナープログラムです。
このプログラムのミッションは、先進的なAI技術を通して社会や産業にイノベーションを起こそうとしている企業・団体、そしてそれを支える多種多様な強みをもつ人々が集まり、「持続的なパートナーシップ」を形成することで、ひとつの企業によるそれを上回る、新たな価値を“共創”することです。興味がある方は、ぜひ下記のボタンからアクセスしてみてください。
インタビュー:伊藤 大樹
文:佐藤 正一
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