生成AI

最終更新日:2025/12/08
広告業界のAI活用事例を紹介
我々は日々、様々な広告に触れて生活しています。90年代初頭までは、広告は雑誌やテレビなどのメディアを使って発信されていましたが、インターネットの登場以降、広告のデジタル化が顕著に進んでいます。
デジタルメディアを活用する広告業界では現在、AIが注目されています。その理由の一つは、少子高齢化により働き手が不足しており、広告業界においても人材不足が深刻化しているためです。。確かに、AIを活用して広告制作を行えば人材不足を乗り切ることも可能であるように思えます。しかし、肝心の「広告効果」は期待できるのでしょうか?
今回は、広告においてAIを活用するメリットや、実際のAI活用事例などを詳しくご紹介していきます。
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インターネットが普及するまでは、「新聞広告」「雑誌広告」「ラジオ広告」「テレビメディア広告」がマスコミ4媒体広告として知られており、日本の広告費の大半を占めていました。
2024年には、日本の総広告費は7兆6,730億円(前年比104.9%)となり、3年連続で過去最高を更新しました。インターネット広告費は3兆6,517億円(前年比109.6%)と大きく成長し、総広告費の47.6%を占めるまでに拡大しています。一方、マスコミ4媒体広告費は2兆3,363億円(前年比100.9%)となり、インターネット広告費との差はさらに広がっています。
特に注目すべきは、動画広告の急成長です。2024年のビデオ(動画)広告費は8,439億円(前年比123.0%)と最も高い成長率を記録し、ディスプレイ広告を上回りました。また、ソーシャル広告も1兆1,008億円と初めて1兆円を突破し、SNSを中心とした広告の重要性が一層高まっています。
この数字からも、インターネット広告費の影響力の高さ、そして期待度の高さがお分かりいただけるのではないでしょうか。

インターネットの活用が進む広告業界において、AIを活用するとどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここからは、広告業界でAIを活用するメリットを詳しくみていきましょう。
広告を制作する上で重要視されるのは、「いかにターゲットからの反応を高められるか」という点です。そのためには、広告に独創性を持たせなければなりません。独創性を高める上で、AIは大きなサポートをしてくれます。
たとえば、AIの一手法であるGAN(敵対的生成ネットワーク)を利用すれば、現実世界のデータを学習していくことにより、実世界に存在しないデータを量産することができます。そのため、本来であればハードルとなってしまう「人物写真の規制の手間(本人確認など)」がなくなり、制作作業をより効率化することができるのです。
これまでのインターネット広告では、ウェブサイトへの訪問履歴や滞在時間、商品購入履歴といったデータを手作業で収集し、分析しなければなりませんでした。しかし、AIを活用することによって、これらのユーザー属性を示すデータを一元管理できるようになります。
こういった、ユーザー属性を示すデータを一元管理して広告配信していく仕組みのことを「DMP(Data Management Platform)」と呼びます。適切なターゲットを分析していく「オーディエンスターゲッティング」には、これまで手作業での比較評価が必要でしたが、AIを活用することによって大幅に効率化を図れるのです。
GoogleやYahooといった検索エンジンに掲載することができる、検索したキーワードに連動して表示されるタイプの広告のことを「リスティング広告」と呼びます。このリスティング広告の特徴は、検索ワードと関連性の高い広告を表示することによって、購買意欲の高いターゲットにピンポイントでアプローチできるという点です。
一般的に、リスティング広告用にキャッチコピーなどを制作していく場合、A/Bテストを毎日数百本単位で比較しながら適切なものを見極めていかなければなりません。そのため、労力と時間を費やす必要があるのです。
その点、AIを活用すれば、ビッグデータの分析結果をダイレクトに活用できるようになるため、文章の候補を効率的に生み出していくことができます。品質を高めながら量産できる点は、AIの活用によって得られる大きなメリットといえるでしょう。
近年、生成AIの登場により、広告クリエイティブの制作方法が大きく変化しています。テキストから画像や動画を生成するAI技術により、従来は専門のデザイナーや映像制作者が必要だった作業を、短時間で効率的に行えるようになりました。
例えば、画像生成AIのMidjourneyやStable Diffusion、Adobe Fireflyなどを活用すれば、テキストによる指示(プロンプト)だけで高品質な広告用ビジュアルを作成できます。また、ChatGPTやClaudeなどの大規模言語モデルは、ターゲット層に合わせた魅力的な広告コピーを瞬時に生成することが可能です。
実際に、伊藤園は「お〜いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMにAIで生成したモデルを起用し、話題となりました。AIモデルの活用により、撮影スケジュールの調整や契約交渉などのコストを削減しながら、多様なクリエイティブパターンを迅速に制作できるようになっています。
このように、生成AIは広告制作の民主化を進め、限られた予算やリソースでも質の高い広告展開を可能にしています。
広告制作の現場では、さまざまなAIツールが活用されています。ここでは、用途別におすすめのツールを紹介します。
これらのツールを組み合わせることで、企画から制作、配信まで一貫したAI活用が実現できます。

広告業界でAIを活用するメリットは数多く存在しますが、決してデメリットが存在しないわけでもありません。たとえば、「最新のトレンドを学習することは苦手」という点は、AI活用におけるデメリットの一つといえるでしょう。
というのも、AIが得意とするのは「過去のデータを用いて傾向を抽出していくこと」であり、必ずしも過去のデータが「最新のトレンドを予測する材料」になるとは限らないからです。そのため、最新のトレンドを追っていく作業に関しては、人間が担当すべき領域といえるでしょう。
また、AIはネットワークを通じてさまざまなデータを扱うため、場合によってはハッキングのリスクが生じる点も忘れてはなりません。もちろん、注意深く対策をしておくことで、そのリスクを減らすことはできますが、ネットワークを利用する以上リスクが0ではない点は、あらかじめ把握しておく必要があるでしょう。

電通は2024年8月、コピーライターの思考プロセスを学習したAI広告コピー生成ツール「AICO2」を電通デジタルと共同開発しました。約1万作品のコピーを学習した初代「AICO」の課題を克服し、大規模言語モデル(LLM)を活用することで、多様で質の高い広告コピーを生成できるようになりました。人間のコピーライターとAIがパートナーとなり、属人的ではない多様な表現を実現しています。
また2025年5月には、AI戦略「AI For Growth 2.0」を発表し、1億人規模の高解像度なペルソナを仮想再現する「People Model」を開発しました。約15万人への大規模調査データを大規模言語モデル(LLM)でファインチューニングすることで、学習データのない未知の質問に対するアンケート調査やマーケットシミュレーションが可能になりました。
電通グループではその他にも、 日本語AI自然対話エンジン「Kiku-Hana(キクハナ)」も提供しており、チャットボットやカスタマーサポートなど、企業の顧客対応の自動化・高度化を支援しています。
博報堂は2024年3月、生成AIを活用した「バーチャル生活者」サービスを発表しました。30年近く蓄積してきた生活者調査データベース「HABIT」をもとに、AIで7,000タイプの仮想消費者を生成。2025年11月には、博報堂DYグループ全社員向けに、データに基づいた複数の生活者と常時対話できる機能として展開を開始しました。新商品やプロモーションについて、実際の市場展開前に消費者の反応を予測できます。
また博報堂DYホールディングスは2025年5月、統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」の一部として、AIを活用したディスプレイ広告制作支援ツール「CREATIVE BLOOM DISPLAY Ads」の提供を開始しました。構成案生成AI、素材検索AI、広告効果予測AIなどを搭載し、バナー広告制作の効率化と広告効果の最大化を実現しています。
ADKマーケティング・ソリューションズは、感情認識AIを活用した広告調査・分析を展開しています。2022年にはDAIVID社の感情認識AI広告調査プラットフォームの日本進出を支援し、広告視聴者の感情データを可視化する取り組みを開始しました。また、2025年7月にはブレインパッドとの「共創Labo」を通じて、感情解析と生成AIを組み合わせた広告クリエイティブ開発に取り組んでいます。
大広は2021年2月にオルツと資本業務提携を行い、AIを活用した独自CRMシステムの構築を進めてきました。2024年9月のリリースでは、子会社ディー・クリエイトとオルツが広告制作やTVインフォマーシャル制作の考査検証を支援する「考査AIシステム」を発表し、本システムを2024年7月から実用化したことを明らかにしています。
同じく2024年には、顧客ステージごとの施策を整理した「CRMサクセスマップ」開発により、顧客をアンバサダー化する新たなCRMモデルの提供を強化しています。
サイバーエージェントは2020年11月に「極予測AI人間」の提供を開始しました。このサービスは実在しないAI生成の人物モデルを広告に活用するもので、2021年6月時点で600人以上のモデルが利用可能となり、CTR(クリック率)が平均で約1.22倍(122%)に向上する成果を上げています。
2024年1月には生成AIによる商品画像自動生成機能を開発し、同年3月には「極予測やりとりAI」の提供を開始するなど、継続的にAI技術の進化を図っています。2024年12月にはAIクリエイティブBPO事業部を新設し、体制強化を進めています。
セプテーニは東京大学大学院情報理工学系研究科 山崎俊彦教授の研究室と共同で、広告クリエイティブのCTRを事前予測し、効果につながる要素を可視化する「Odd-AI」を開発しました。2021年1月に構築された「Odd-AI Creation」は、AIによる分析結果をもとにクリエイターがリデザインを行う共創型の制作メソッドです。
2022年1月には動画フォーマットに対応し、2023年4月にはBGMを自動生成する「Odd-AI Sound」、同年12月にはLP(ランディングページ)のCVR向上要因を可視化する「Odd-AI LP」を開発するなど、対応領域を拡大しています。2025年には「LPO AWARD FIRST HALF OF 2025」を受賞し、継続的に高い成果を上げています。

このように広告業界におけるAIの導入は、業務の効率化を加速させていくと考えられます。特にAIは、蓄積されたデータにもとづいて最適な答えを見出していく作業を得意としますので、広告運用の費用対効果を高める上でも大きな期待が集まるでしょう。
しかし、広告の作成から運用までのすべてをAIに任せることは現実的ではありません。創造性を求められる業務においては、やはり人間のほうがさまざまなアイデアを柔軟に考案できると考えられるからです。
最近では、創造性が求められる「キャッチコピー」をAIが制作するというケースも出てきていますが、AIが制作したキャッチコピーの中から採用案を決定するのは人間に他なりません。つまり、仮にAIに任せるとしても「最終的な判断を下すのは人間」ということです。
だからこそ、今後は「AIに任せられる業務」「AIに任せるべきではない業務」の棲み分けをしていくことが大切になるでしょう。そして、人間がより創造性を求められる業務に力を注いでいく環境を整えることが、企業としての業務効率化につながっていくと考えられます。
今や広告業界に限らず、多くの業界においてAIの導入が進んでいる状況です。より身近な存在になったからこそ、今回ご紹介した事例を参考に「AIに任せるべき業務は何なのか」を見つめ直しつつ、広告運用を行ってみてはいかがでしょうか。
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