働き方改革のネックは紙問題?OCRが業務効率を変えた行政の導入事例
最終更新日:2024/04/04
少子高齢化による労働力の不足や2019年4月より「働き方改革法」が順次施行されることに伴い、オフィスワークの効率化に取り組む企業が増えています。一方で、働き方改革における最大のネックは大量の紙文書の存在だともいわれています。そこで近年、これまで紙ベースでしか保管されてこなかったデータの活用や、事務作業の効率化を目指すために取り入れられ始めている地方自治体のOCR(光学認識技術)導入事例についてまとめました。
多摩市と別府市の事例~特定期間の業務集中緩和にAI-OCRとRPAを導入~
OCRが積極的に取り入れられているのは、銀行や保険会社などの金融機関や、地方自治体などの行政、大学の事務などで、いずれも紙ベースでの申請書などがいまだに多く用いられている現場です。
東京都多摩市では、特定の時期に作業量が増加する業務があり、長時間勤務の一因となっていました。そこで、AIによる光学文字認識(AI-OCR)とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション、ロボットによる作業の自動化)によって定型業務を自動化し、作業効率を向上させる取り組みを開始しています。
対象業務は、特定の時期に作業が集中する住民税関連業務(課税課)、児童手当関連業務(子育て支援課)、保育園入所申請書入力業務(子育て支援課)の3つです。
通常のOCRでは、あらかじめ項目の位置を定義しなければならず、非定型帳票の正確な読み取りは難しいとされています。一方、AI-OCRはAIが項目に書かれている内容を抽出して紐づけするため、項目の位置を指定する必要がなく、非定型文書の読み取りも可能です。また、手書き文字の認識も可能なため、行政機関の各種申請書の読み取りなどにも向いているといえます。
大分県別府市でも、行政業務の効率化に向けてRPAを導入します。対象の15業務に関して、システム上でのデータ入力ミスの削減、入力結果確認作業の時間短縮や確認漏れの削減といった作業品質の向上を目指し、職員は軽減した作業時間を別の業務に振り向けます。将来的には対象業務を拡大し、多摩市と同様にRPAとAI-OCRの連携処理の実施も視野に入れるとのことです。実証実験では既に、作業時間の85.2%、年間1078時間の削減効果が認められたといいます。
(参照:IT Leaders 多摩市がAI-OCRとRPAの実証実験、住民税や児童手当など特定時期に増える作業を自動化)
(参照:クラウドWatch UiPath、別府市にRPAソフトウェアを提供)
福岡市や町田市などで行われたOCRの実用性検証では正読率93%を達成
福岡市、町田市、横浜市、郡山市、つくば市、市川市の「RPA先進自治体」は、株式会社NTTデータと共同で、実帳票を利用したOCRの実用性検証を2018年12月~2019年3月に行いました。
この検証では、AI inside株式会社が提供しているOCRソリューション「DX Suite」を利用し、実際に使用している帳票の読み取りが行われたそうです。その結果、正読率93%を達成し、自治体が大量に保管している紙帳票をデジタル化する上で有効な手段であることが確認されました。
この検証では、実用性を追求するために、雑字や癖字、悪筆など、さまざまなタイプのサンプルデータが用意されたといいます。また、OCRの操作に慣れてない人が利用することを想定した帳票定義によって読取検証を行ったところ、正読率93%を達成したのです。
ただ、やはり目視でも判読が難しい「雑字」「癖字」「悪筆」などは誤読となるケースも少なくなかったといいます。また、罫線や枠線と文字が重なってしまっているケースや、文字が枠からはみ出してしまっているケースなども、誤読となってしまう傾向にあったそうです。
ただし、今回「RPA先進自治体」が検証に用いたOCRにはAIが搭載されており、字の特徴などを学習していくことができるため、学習を重ねていけばさらに正読率は高まっていくことが予想されています。そのため今後は「雑字」「癖字」「悪筆」にもしっかりと対応できるようになる可能性は十分にあるでしょう。
また、帳票にあらかじめ印字されている日付の年月日を「.」で区切ったり、選択肢を示す「○」を設けたりといった工夫によっても、正読率の向上が期待できるそうです。AIによる学習と、帳票の改善を進めていけば、より効率的な読み取りが実現されるでしょう。
(参照:町田市、郡山市、市川市、つくば市、横浜市、福岡市におけるAI-OCR実用性の検証結果について | NTTデータ)
東京都足立区はOCRの活用で年間およそ1400時間の削減効果
東京都足立区は、総務省が実施する業務改革モデルプロジェクトに参画し、RPAとAI-OCRによる申請書類処理の自動化検証を行いました。この検証の対象となったのは「課税課」や「子ども施設入園課」などの5部署、「申告書のデータ入力業務」「受理簿作成業務」をはじめとする10業務です。
ソフトバンクが提供するRPAソリューション「SynchRoid」や、Cogent Labs(コージェントラボ)が提供するAI-OCR「Tegaki」が使用され、10業務中6業務において年間およそ1,436時間の削減効果が見込めたといいます。
残りの4業務に関しては削減効果が見込めなかったそうですが、今後の改善次第では削減効果が現れるかもしれません。少子高齢化による人手不足が深刻化する現代においては、前向きな結果といえるのではないでしょうか。
(参照:RPA導入事例まとめ7例【AI-OCR編】 | sweeep magagine)
「紙」問題の解決にはOCR導入後のシステム構築が重要
ペーパーレス化が叫ばれる現代であっても、いまだに多くの紙が飛び交っている現場も多いことでしょう。取引先ごとに違う形式で送られてくる大量の請求書やFAX文書など、OCRでデータ化しにくい非定型文書も数多くあります。
物理的なメディアである紙は、一覧性があるというメリットの一方で、保管場所をとる、過去のデータを参照しにくいといったデメリットがあります。また、紙の紛失によるデータ漏えいの懸念もあります。
ただ、紙媒体のデメリットを説き、「よしペーパーレス化だ!」と号令をかけたところで、成功に至らなかった例は枚挙にいとまがありません。
ペーパーレス化とは、単に紙をOCRなどによって電子化することではなく、電子化したデータを便利に利用するためのシステムを構築することに主眼があります。電子データの最大メリットは検索性の高さです。過去の書類を検索して内容を確認するだけでなく、テンプレートとして活用し、事務作業の効率化を図ることもできます。
また、電子データは複数の拠点から参照できる点も強みです。働き方改革やBCP(事業継続計画)の観点から、在宅勤務などリモートワークが広がりつつあります。紙データの電子化によって遠隔地からであってもデータにアクセスできれば、オフィス外からの勤務も容易になるでしょう。
働き方改革の最大ネックである「紙」問題の解決には、効率的にデータを活用するペーパーレス化が欠かせないのです。
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