セールスイネーブルメントとは?メリットや利用ツール、導入ステップを解説
最終更新日:2023/12/28
自社における営業成績や売上の向上を達成するために、人材育成に力を入れている企業も多く見られます。ビジネスにおける長期的な成長を目指す上で、有効な手法にセールスイネーブルメントがあります。
セールスイネーブルメントでは、従来の営業トレーニングとは違ったアプローチにより、人材育成の仕組みの構築や属人化の解消といったメリットが期待できます。
本記事では、セールスイネーブルメントの意味やメリット、実践に役立つツール、導入方法などについて解説します。従来までの営業トレーニングとは異なる手法で、営業活動のスピードアップや組織の最適化を実現するために、ぜひお役立てください。
セールスイネーブルメントとは?
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業組織の強化・改善を目的として「テクノロジーを活⽤した売れる営業の仕組み化」を行うことです。各施策による売上への貢献度や目標達成状況を数値化し、測定・分析によって営業活動の最適化と効率化を目指します。
営業ツールの開発や導入、営業研修、営業プロセスの管理・分析といった、あらゆる施策が総合的に用いられます。ただ、人事採用や新人研修、システム管理、顧客流入経路など、各部署の業務も売上に対して影響していることは見逃せません。
そこで、売上を最大化するため、部署ごとに効果を測定するのではなく、部門横断的な仕組みを設計・構築するというのが、セールスイネーブルメントの取り組みです。
セールスイネーブルメントと営業トレーニングの違い
セールスイネーブルメントと従来の営業トレーニングでは、対象者や実施方法などに違いがあります。
従来の営業トレーニングは、営業組織全体よりも個人のスキルアップや成長を目的とし、座学やOJTでの学習が中心です。現場業務での実践よりも、新人を対象として配属前に行われる研修などの一般的な育成施策も多く見られました。
一方、セールスイネーブルメントは、既存社員を含む社内の営業組織全体を対象とし、実践的な内容を盛り込んだ育成プログラムを提供します。組織として達成すべき営業成果をもとに、人材育成のPDCAサイクルを回し、効果を営業成果で検証できる仕組みです。
セールスイネーブルメントの必要性
セールスイネーブルメントの必要性が高まっている背景には、テレワークやモバイル端末の浸透による働き方の変化や商品の多様化などがあります。それぞれの要因について詳しく解説します。
働き方の変化への対応
働き方の多様化とともに、テレワークの浸透やモバイル端末の普及が進んでいます。また、コロナ禍を経て対面からオンラインへの移行が急速化し、営業活動においてもITツールの導入・活用を余儀なくされました。
また、Webマーケティングの拡大やSFA、MA、CRMなどのITツールが、質の高いリードへのアプローチを後押ししたことで、効率的に対応できる営業組織の構築も重視されています。柔軟な働き方に対応しつつ、成果を達成できる組織やチームづくりを実現する上で、包括的な人材育成アプローチが可能なセールスイネーブルメントが有用です。
扱う商品の多様化
セールスイネーブルメントの必要性や需要の高まりには、営業が扱う商品の変化も影響しています。企業を取り巻く環境変化のスピードが速まっている現代、新商品や新機能がリリースされるサイクルも短縮化されています。
そのため、自分の担当する商品・サービスを充分に理解できないまま、商談やセールスに臨まなければならないケースもあるでしょう。セールスイネーブルメントにより、営業プロセスの標準化やナレッジ共有の仕組み化が進めば、業務効率の向上が期待できます。結果的に、組織単位で売れる営業を目指すことが可能です。
セールスイネーブルメントのメリット
セールスイネーブルメントによって、人材育成の仕組み化や営業の属人化の解消といったメリットが見込めます。セールスイネーブルメントを適切に導入・運用することで、情報共有やデータ管理がスムーズになり、人材育成のスピードアップが見込めます。
また、営業活動が最適化されることで、組織のパフォーマンスが向上し、会社の売上向上につながります。セールスイネーブルメントがもたらす2つのメリットについて、詳しく解説します。
人材育成の仕組み化
セールスイネーブルメントは、人材育成の仕組み化に貢献します。効果的な人材育成を行うためには、営業活動に関するデータを集め、分析を行って現状における課題やノウハウをあぶり出す必要があります。
具体的には、リード数や受注率、顧客単価などの情報に加えて、営業担当者への研修内容や評価といったものも重要です。セールスイネーブルメントは、テクノロジーを使ってデータ分析を効率化できるため、適切なKGI(組織の最終目標)やKPI(行動目標)が設定でき、目標達成を通した売上向上につながります。
また、営業テックによって個人の営業スキルや営業成績が見える化され、課題が明確になるため、必要な改善策にスムーズに取り組めます。課題の解消に役立つトップセールスの営業ナレッジやノウハウをマニュアルとしてまとめれば、新人育成の効率化が図れる上、営業組織としての底上げが期待できるでしょう。
営業教育の体系化や仕組み化、自動化によって、今まで新人育成に注いでいた時間を営業活動に回すことができるため、成果の向上が見込めます。
営業活動の属人化の解消
セールスイネーブルメントは、営業活動の属人化の解消にも役立ちます。組織において、本人しか対応できない業務や顧客、ハイパフォーマーに売上が依存した状態では、本人がいなくなると業務や業績に支障が出るリスクが高いでしょう。
また、個々のやり方やスキルにバラツキが生じている状態では、売上の予測が困難となり、中長期的な成長の実現から遠ざかってしまいます。
特に営業活動の場合、担当者と顧客のみのやり取りで完了できることも多く、属人化しやすい傾向にあります。そこで、セールスイネーブルメントを通じて、売れる営業マンが感覚的に行っていることを体系化し、仕組みとして落とし込みます。
個人に依存しやすい顧客への対処法や営業プロセスの進め方を、再現性の高い状態にまとめて共有することで、営業チームとしてのパフォーマンスの向上が期待できます。同時に、営業のスキルが標準化され、マネジメントコストの節約にもつながるでしょう。
セールスイネーブルメントを実現するツール
セールスイネーブルメントを実現するためには、営業ツールの活用が必須です。受注率や顧客情報や商談の履歴といった営業活動に関する情報に加えて、教育研修などさまざまな情報をデータとして蓄積・管理するために、適切なツールを選ぶ必要があります。
営業向けのITツールにはさまざまなものがありますが、ここではSFA(営業支援システム)とCRM(CRM)やMA(マーケティングの自動化ツール)について解説します。
SFA
SFA(Sales Force Automation)とは、顧客との関係性を集約、管理するためのシステムで、営業支援システムや営業支援ツールとも呼ばれます。多くのSFAは、顧客情報管理やスケジュール管理、見積もり作成、日報管理など日々の営業活動で必要となる機能を備えています。
SFAツールにより、案件の進捗状況や商談から契約までのプロセス、対応方法といった情報を可視化することが可能です。リアルタイムで把握できる上、課題の解決やフィードバックといった用途でも活用しやすいため、教育体制の仕組み化にも役立ちます。
また、成功事例やプロセスといった自社の営業ナレッジの蓄積・共有がスムーズに行えるため、属人化の解消や教育コストの削減につなげることが可能です。
MA/CRM
MA(Marketing Automation)とは、マーケティング施策を自動化するためのツールで、CRM(Customer Relationship Management)は、企業と顧客の関係性を集約・管理する顧客関係管理システムのことです。
MAツールは、新規顧客獲得におけるマーケティングを自動化・効率化することを目的としています。MAツールにより、購入意欲のあるリードを見つけ、商談へと進めていくリードナーチャリングが進みやすく、成約率の向上や成功事例の蓄積につながります。
CRMツールは、顧客の氏名や所属企業、役職などの個人情報から、商談や問い合わせ内容、購入履歴などをデータ化し一元管理します。潜在ニーズの可視化や提案内容のブラッシュアップなどもチーム全体で共有しやすく、属人化を防ぎながら顧客満足度の向上につなげることが可能です。
MAとCRMとでは顧客情報の活用方法は違いますが、連携により最大限の効果を得るためには、顧客情報がしっかり蓄積されている必要があります。
セールスイネーブルメントの導入ステップ
ここからは、セールスイネーブルメント導入の主な手順と各工程のポイントを見ていきましょう。
部門横断的に一貫して設計するセールスイネーブルメントのコンセプトに沿って、施策の数値化や可視化を行うツールを取り入れ、生産性の最大化を図るためには、計画的な実行が必要です。
要点を押さえて、現場でスムーズにセールスイネーブルメントを運用するためにもぜひ参考にしてください。
SFA・MA・CRMツールを用いたデータの収集・蓄積
まずは、営業データの収集および整備から始めます。SFA・MA・CRMツールを導入し、営業マンへのヒアリングなどを通して、これまでの営業活動データを収集・蓄積します。
特にハイパフォーマーの営業手法や対応方法は、営業部署全体の品質向上につながる重要な要素です。優先的に言語化し、ノウハウやナレッジを営業フローに取り入れられる状態を作っておくと、営業業務の標準化につながります。
SFAは進捗状況や個人の成果などの営業活動全般の情報管理、CRMは顧客情報の管理、MAは顧客別のマーケティング施策の自動化に主に使用します。ツールを用いたデータの見える化と共有を通して、営業フローや営業活動の管理項目、マネジメント層によるリアルタイム管理が可能な環境を整備します。
セールスイネーブルメント部門の立ち上げ
次に、セールスイネーブルメントを担当する専任(兼任)部門を社内で立ち上げます。チームの設置が難しい場合は、担当者を決めてアサインし、各プロセスを関連部門と連携する体制を整えます。
セールスイネーブルメントの取り組みには、営業ノウハウのマニュアル化やITツールを用いた情報管理、人材育成など幅広い業務が含まれます。実行体制の例を以下に示します。
- プロセス設計
- コーチング
- トレーニング
- ナレッジ管理
- コンテンツ管理
- システム整備
- 検証・分析
システム整備では開発部門と、トレーニングやコーチングといった人材採用の強化には人事部門と連携する必要があり、成功させるためにも統括責任者の存在が不可欠です。
セールスイネーブルメントの目的は売上・利益の最大化ですが、部門横断的な取り組みになります。そのため、可能であれば営業部門の兼任よりも、専門の担当部署と責任者を設置することが望ましいでしょう。
目的や運用について現場の理解と協力を得る上でも、営業・人事・システム開発・マーケティング部門などの各部門のキーパーソンを集めてチームを構築できると理想的です。
専任担当者による効果検証・トレーニングプログラムの開発
セールスイネーブルメントを実行し始めたら、効果検証のために専任担当者を決めておきましょう。セールスイネーブルメントの継続的な取り組みを成功させるためには、営業業務や人の成長に興味があることに加えて、分析思考力や体系化スキルなどが専任担当者に求められます。
パフォーマンスの高い営業担当の考え方や視点を分析し、他の社員に活かせるトレーニングや育成プログラムの開発を行います。商談化率の高い営業資料を集め、ナレッジ提供や行動パターン分析などをもとに、ラーニングコンテンツや教育ツールを作成します。
トレーニング内容は、現在の企業規模や営業指標により変わりますが、営業メンバーが誰でも使える汎用ツールを目指すことが大切です。
主な営業向けトレーニングには、立ち上がりのための「オンボーディング・トレーニング」と、商品や売り方について理解する「営業トレーニング」の2つがあります。他にも、成功事例の勉強会や顧客による事例共有会などのイベントもおすすめです。
PDCAサイクルの構築
セールスイネーブルメントを実施しながら、継続的に売上を向上していくために、PDCAサイクルを構築する必要があります。実際に育成プログラムで得られた効果を検証し、データとして蓄積・見える化した後、判明した課題や修正点を踏まえて育成プログラムを改善する、というのが一連のPDCAサイクルです。
育成プログラムの検証データは膨大になるので、KPIを設定し、必要なデータを優先的に蓄積できるよう工夫すると良いでしょう。構築したサイクルを経営層に共有し、会社経営に営業活動を取り込む仕組みを制作すれば、中長期的な売上向上につながっていきます。
また、より良い経営スタイルの確立や、自社の課題を解決する第一歩として活かすことができるでしょう。
セールスイネーブルメントの事例
ここからは、セールスイネーブルメントを実践している企業の事例を紹介します。営業部署だけでなく、全社的に人材育成の施策として取り入れている企業もありますので、自社におけるセールスイネーブルメントの導入を検討する上でお役立てください。
Sansan株式会社
名刺管理アプリをはじめ営業DXサービスを手掛けるSansan株式会社では、組織の生産性の向上を目指し、新入社員の教育に焦点をあてたセールスイネーブルメントを実施しています。最初に、SFAデータの整備と再定義に着手し、データ入力を定着させながら営業プロセスの改善に取り組みました。
続いて営業チームにて、目標の達成を起点とした人員計画に、人事部門やマネージャーも絡めて採用サイクルを作成しました。採用後1ヶ月ほどの間に、動画講義やロールプレイングなど多彩なコンテンツを通して集中的に業務に必要な知識を学ぶことが可能です。
現場に出るために営業部長とのロールプレイングに合格する必要があるなど、実践や応用にフォーカスし、新入社員が即戦力となる体制の構築に取り組んでいます。
株式会社セレブリックス
企業の営業活動全般を支援する株式会社セレブリックスでは、営業の標準化を実現するための売れる仕組みを構築しています。成功例を真似るのではなく「売れない理由を消していく」という考え方をもとに、営業活動のデータ化や分析、課題の設定と解決策につなげるツールの運用までを一貫して実施します。
PCDAサイクルを回すことで、営業活動における迷いが減り、業務効率化に役立っているといいます。また、データ分析は研修やトレーニングメニューにも反映し、セールスフローの最適化を実現しています。
さらに、多くの営業データが集まるポジションを有効活用し、500ページに及ぶ社外秘冊子やeラーニングとオフライン研修による反転式学習など、独自のメソッドを構築し、営業担当の習熟度を高めることにも成功しています。
NTTコミュニケーションズ
NTTコミュニケーションズでは、セールスイネーブルメントを活用し、社内の「ラーニングカルチャー(社員が自主的に学びあう文化)」の構築に成功しています。複雑化した商材をスムーズに販売、管理するために、営業組織の構築に役立つSFA・MA・インサイドセールスなどのツールを導入し、高精度なデータ収集を実行しました。
加えて、セールスイネーブルメント専門の部署を立ち上げ、成功事例など収集データの共有を実施しています。誰もが参加でき、学べる環境を作ることで、率先してメンバーが参加したくなる社内文化が構築されたといいます。
まとめ
セールスイネーブルメントは、ITツールを活用して組織としての営業力の向上を目指す取り組みです。セールスイネーブルメントを取り入れることで、属人化しやすい営業活動の最適化や、人材育成の仕組み構築といった良い変化が期待できます。
実際にセールスイネーブルメントを導入し、効果を得ている事例の中には、営業組織だけでなく全社的なラーニングカルチャーの構築を達成している企業もあります。できる限りセールスイネーブルメント専門のチームを設けて、ツールを利用した営業改革に取り組むことで、事業全体の業務効率化や事業拡大に貢献できるでしょう。
中長期的に営業力強化を目指すためには、関連する情報のデータ蓄積とその活用が欠かせません。とはいえ、自社の課題に合ったSFAやMA/CRMツールを選ぶ際に自社だけでは簡単に進まない場合もあるでしょう。
AIsmileyでは、セールスイネーブルメントサービスの提供企業を紹介しています。企業一覧レポートを以下より無料ダウンロードいただけますので、比較検討にぜひご利用ください。
よくある質問
セールスイネーブルメントの役割は?
セールスイネーブルメントは、営業活動における仕組み化を進めることで、データ活用や標準化によりチームとして成果を向上させる役目を担います。顧客管理ツールなどを活用し、営業担当の成果と能力の向上を実現します。営業に限らず、人材育成の手法として用いられるケースも見られます。
セールスイネーブルメントツールの比較ポイントは?
自社に最適なセールスイネーブルメントツールを選ぶために、以下のようなポイントを比較しましょう。
- 対応できる業務範囲や機能
- 既存のシステムとの連携性
- サポート体制の充実度 自社の課題解消に役立つ業務や機能が備わったツールを選ぶことが大切です。また、仕組みが定着するまでは伴走支援型サービスなども検討すると良いでしょう。
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