生成AI

最終更新日:2025/05/30
NVIDIA が発表した「フィジカルAI(Physical AI)」は、3次元の物理世界を理解し、タスクを実行できる能力を備えたAI技術です。イベントCES 2025 のキーノートにて、NVIDIA のCEOJensen Huang(ジェンスン・ファン)氏が、フィジカルAIへのシフトを明確に示唆したことでも注目を集めています。
本記事では、フィジカルAIの特徴や仕組みをわかりやすく解説するとともに、活用シーンやパートナー企業での導入事例について紹介します。すでに幅広い用途で活用が始まっているAIの将来性や、今後の社会変動を知る上で役立つ情報をまとめていますのでぜひご覧ください。
NVIDIA の「フィジカル AI(Physical AI)」は、物理的AI技術のことです。生産ラインのロボットや自動運転車といった物理空間で稼働する自律型のAIシステム が、環境を把握した上で複雑なタスクを実行するためのAI技術と定義されています。
アメリカのラスベガスで開催されたイベント「CES2025」において、NVIDIA の創業者 Jensen Huang(ジェンスン・ファン)氏は、ロボットAIの基盤技術を無償で提供する予定であることを公表しました。また、近い将来ヒト型ロボットや自動運転技術の市場拡大が期待されると話し、これまでの生成AIとは異なる物理的なAI技術の見通しが明らかになっています。
フィジカルAIを知る上で重要な要素が、「Cosmos(コスモス)」プラットフォームと、Omniverse の高度シミュレーション環境です。それぞれについて詳しく解説します。
NVIDIAの「Cosmos(コスモス)」プラットフォームとは、重力や慣性、摩擦といった物理世界の法則を学習した大規模ファンデーションモデルです。AIエージェントやロボット、自律型システムなどの大規模AIモデルを、効率的に開発・応用するために設計されたエコシステムで、物理世界の法則や因果関係を学習、再現するためのモデルを提供します。
フィジカルAIとして物理空間で機能するためには、従来の情報空間とは別の新しい学習データが必要です。しかし、すべての新しいアクションに対して現実のデータを収集することは現実的ではありません。
そこで、Cosmos という大規模ワールドモデル基盤を用いることで、リアルなデータを生成できるようになります。例えば、自動運転車が異なる天候の路面を走行する合成データを生成することで、多様なシミュレーションが実現します。
また、理論的にはあらゆるシナリオをAIが学習できるため、これまで見落とされてきた致命的な事象やリスクへの効果的な対策もカバーできます。
前述のCosmosを活用したアプローチでは、仮想空間で生成されたデータのリアリティや整合性に課題が残されています。そこで、さらなるシミュレーションと組み合わせることで、より高精度なデータの創出を目指すために、物理シミュレーションプラットフォーム「Omniverse(オムニバース)」が使われます。
Omniverseは、仮想環境と物理世界のデータを結びつけ、複数のツールやデータと連携しながら物理的なシミュレーションを実行します。CosmosとOmniverse の連携により、ゲーム的な仮想空間を動かしながら、現実で通用するAI技術を育成できます。また、現実では危険、もしくは非効率な検証も安全かつ高速に試行でき、テスト検証が飛躍的に加速します。
実際に、NVIDIAが公開したデモ動画では、自動運転走行の映像を用いて複数のシナリオを展開しています。少ないデータからリアルな世界で有効な学習が可能になるため、ハードウェア開発や自律型プロダクトの普及を促すと考えられます。
フィジカル AI では、高精度なシミュレーション環境において、自律型AIに空間的な関係性と物理法則の情報を含む追加データを学習させます。そして、数千回もしくは数百万回ものトレーニングを通じて、安全かつ高速でスキルをモデルが習得できます。
強化学習を繰り返すことで、モデルは継続的に適応、改善し続け、最終的には新しい状況や予期しない事態にも適切に対応できるようになります。時間の経過とともに、現実世界でのアクションやタスク実行に必要な精細なスキルなど、本格的に運用できる性能を備えることが可能です。
フィジカル AIを使って自律型AIモデルを構築する際には、おおまかに以下の流れで進められます。
上記の過程において、複数の専門コンピューター間にまたがる協調的なプロセスを経由します。
NVIDIAによるフィジカルAIの普及は、単なるAI技術の高度化にとどまらず、ビジネスモデルや社会システムにおける変革をもたらす可能性があります。ここでは、フィジカルAIの具体的な導入事例を紹介します。
フィジカル AI は、さまざまな環境下で運用されるロボットの能力発展に貢献します。例えば、工場や物流倉庫で作業を行うAMR(自律走行搬送ロボット)では、センサーから直接フィードバックを受けて、より複雑な状況下でも人間を含む障害物を避けて移動できるようになります。
また、ヒト型ロボット(ヒューマノイドロボット)のトレーニングに導入することで、人間の動きに似た細かな作業を実現可能です。介護や接客に加え、リスクの高い危険区域での作業やクリーンルーム内のタスクにも役立つでしょう。
日本国内でも導入が進められている自動運転車を、フィジカルAIでトレーニングすることで、より柔軟かつ適切な運転を自律的にナビゲートすることが可能です。センサーが歩行者や障害物を正確に検知し、交通状況や天候に応じた車線変更など、多様なシナリオに対して柔軟に対応できます。
自動運転の精度が高まれば、物流業界においても移動にかかるコストや時間の削減、渋滞や交通事故の減少といった効果も期待できます。
医療分野では、手術支援ロボットにフィジカルAIを取り入れることで、医師の精細な手作業をロボットが実現できるようになります。例えば、極細の糸での縫合や、血管内のカテーテル挿入といった精密手技を、ロボットに自律的に学習させ、繰り返しシミュレーションすることで外科医の補助ロボットとして活用できるでしょう。
また、医療画像の自動撮影が可能な医療画像診断システムの研究も進んでいます。将来的には、医療業界における人手不足の解消や、遠隔診断による治療の促進などに貢献すると考えられます。
AI導入に関する安全基準や規制が整備されれば、人とロボットの協働によるスマートスペースが広がります。
また、ロボットをサービスとして提供する「RaaS(Robot as a Service)」モデルを活用した新しいビジネスの登場は、市場の活性化につながるでしょう。
NVIDIAのフィジカルAIは、すでに世界中の企業で導入や検証が進められています。ここでは、パートナーシップ企業における活用事例を紹介します。
製造業では、Omniverse とフィジカルAIを活用したスマートファクトリー化が進んでいます。フォックスコン(Foxconn)は、自社工場を仮想空間上に再現し、ヒューマノイドロボットの訓練環境を構築しました。
また、自動車メーカーであるヒュンダイやメルセデス・ベンツも、人型ロボットを仮想空間でシミュレーションし、生産ラインへの導入適合性について検証しています。ゼネラルモーターズ(GM)は、全工場へOmniverseを導入し、溶接や搬送といったのオペレーションの効率化を図っています。
物流業界では、ドイツのKIONグループや子会社の Dematic が倉庫内ロボットを仮想空間でシミュレーションしながら、新たな物流ソリューションを開発しています。また、BMW発のスタートアップ企業 idealworksは、複数の自律搬送ロボットを仮想空間で最適制御するシステムを構築しました。
倉庫内業務から配送まで、幅広い作業におけるAI自動化が進展しています。
前述したCES 2025では、NVIDIA の Cosmos プラットフォームをいち早く採用した企業として、1X(元Halodi Robotics)や Agility Robotics、倉庫作業用ヒューマノイドを開発する Figure、Uber などが紹介されました。
また、NVIDIA自身も、これらの企業への出資や他社企業との共同開発を通して、フィジカルAIの社会実装を牽引しています。
フィジカルAI の実用化が進む一方で、安全性や倫理面での課題も浮き彫りになっています。例えば、AIの誤作動による事故やセキュリティ面でのリスク対策は不可欠です。また、AIによる業務代替が進んだ際に、人材雇用や産業、社会への影響についても慎重な配慮が必要です。
さらに、特定企業による独占や市場競争に関する懸念もあります。今後は、競合企業のアプローチや規制当局によるルール整備も求められるでしょう。
NVIDIAのフィジカルAIは、物理世界におけるタスク実行や問題解決を目指して開発が進められているAI技術です。物理的な法則を理解した上で、環境や状況に応じて行動できるようになれば、より多くの場面で自律型のAIシステムとして活躍が期待されます。
世界中のさまざまな企業が、NVIDIA のフィジカルAIや Omniverse シミュレーション環境を取り入れ、革新的な技術開発を進めています。生成AI、AIエージェントの次の段階にあたるフィジカルAIの進化発展に注目が集まっています。
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NVIDIAがフィジカルAI分野をリードする一方で、世界中で同様の領域に注力する企業が登場しています。代表的な企業とその取り組みは以下の通りです。
日本国内でも、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)の開発に取り組む企業が増加傾向にあります。主な開発企業には、「Kaleido(カレイド)」や「RHP Bex」で知られる川崎重工業や、「ASIMO」を開発した本田技研工業などがあります。
また、安川電機や川崎重工業といった世界的な産業用ロボットメーカーも、ヒューマノイド技術や協働ロボットの研究、開発を手掛けています。
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