生成AI

最終更新日:2026/03/05
OpenAIの「Prism」とは?
生成AIがさまざまな分野で活用されるようになり、社会に浸透しています。生成AIのモデルは日々アップデートされ、急速に進化しており、高度な推論システムを備えたモデルも次々に登場しています。それらの推論モデルは、科学研究でも広く利用されています。
一方、科学研究に欠かせない論文執筆の作業は、下書きや修正、数式の記述や引用の管理など多くの業務が今でも複数のツールに分断されたままの状況です。
そこで期待されているのが科学論文の執筆や共同研究に特化したクラウドベースのワークスペースである「Prism(プリズム)」です。本記事ではPrismの概要と使い方を解説します。

まずはPrismについての概要を解説し、なぜ科学者向けAIツールが重要となりつつあるのかを説明します。
「Prism(プリズム)」は、ChatGPTを開発するOpenAIが2026年1月27日に発表した、無料のLaTeXネイティブな論文作成ワークスペースです。研究者や大学院生などが、論文の執筆と共同編集をブラウザ上で進める用途を想定しています。
LaTeXは、主に科学論文や学術文書の作成に使用される文書作成ツールで、構成や書式の自由度が大きく、数式をきれいに出力できるメリットがあります。従来、LaTeXを利用するには各自のPC環境へ複雑なセットアップをする必要がありましたが、Prismはクラウド上で完結するため、環境構築の手間を省けます。
Prismは、OpenAIが買収したクラウドベースのLaTeXプラットフォーム「Crixet(クリクセット)」を基盤にしています。
ここにOpenAIのモデル「GPT-5.2」と「GPT-5.2 Thinking」を執筆ワークフローへ統合することで、本文、数式、引用、図表を同じ文脈で扱える支援機能を実現しています。
Prismの概要を以下の表にまとめました。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 料金 | 無料(今後、より強力なAI機能は有料のChatGPTプランを通じて段階的に提供予定) |
| 基盤プラットフォーム | Crixet |
| AIモデル | GPT-5.2(GPT-5.2 Thinking) |
| 発表日 | 2026年1月27日 |
| 利用 | ChatGPTの個人アカウント(無料プランを含む) |
OpenAIでは、2025年にAIがソフトウェア開発のあり方を根本から変えたように、2026年には科学の分野で同じような転換が起こると考えています。
AIが科学的発見を多角的に加速させている一方で、研究者の日常業務には依然として多くの手作業が残っており、作業の分断による生産性低下を招いています。OpenAIは、こうした課題を解決し、科学技術の進歩を加速させることを目的にPrismを提供しています。
科学研究の現場では、エディタ、PDFツール、LaTeXコンパイラ、文献管理ツールなど、複数のソフトウェアを併用するのが一般的です。これにより、ファイルの管理やコピー&ペーストが増え、非効率な作業が生じやすくなります。
Prismは、これらの機能を単一のクラウドワークスペースに統合します。ユーザーはローカル環境へのインストールや管理を行う必要がなく、ブラウザ上で下書き、コンパイル、プレビュー、共同作業までを一貫して実行できます。

Prismは単なるLaTeXエディタではなく、AIを活用した多彩な機能を備えた総合的研究支援ツールです。
具体的にどのような場面で活躍するのか、主要な7つの機能を見ていきましょう。
Prismでは、OpenAIの最新AIモデル「GPT-5.2 Thinking」と対話しながら論文を作成できます。研究者はチャット形式で具体的な指示を出し、アイデアの整理や仮説の検証、論理構成の改善が可能です。
例えば、「この実験結果から導かれる考察を補強する理論的背景を教えて」といった質問に対して、AIが論文全体の文脈を理解した上で適切な提案を行います。複雑な科学的問題について推論し、研究者の思考プロセスをサポートします。
論文全体の文脈を理解しながら、導入文の作成、セクションの整理、文章の修正などを支援します。単なる文章生成ではなく、数式、図、引用、構成を含めて一体として扱う点が特徴です。
具体的には以下のような指示に対応できます。
AIは単なる誤字脱字の修正にとどまらず、論理の抜けを指摘したり、セクションの明確さを改善する提案を行ったりします。
arXivなどの関連文献を検索・取り込み、現在の原稿の内容に合わせて引用を追加できます。Zoteroとも連携でき、現時点では個人ライブラリに対応しています(グループライブラリは未対応です)。引用管理の手間を削減できます。
「この主張を裏付ける関連研究を探して引用に追加して」「不足している関連文献を補って」といった指示にも対応できます。見つかった文献の内容を踏まえて、該当箇所の文章を修正することも可能です。
論文全体の文脈を理解し、論理の抜けや矛盾を指摘することが可能です。例えば「定理の証明で見落としている点はあるか」といった問いに対して、推論を行い回答します。
数式、引用、図を作成・再構成・推論する際に、それぞれが論文全体のどの部分とどのように関連しているかを把握した上で処理を行います。これにより、単に要素を追加するだけでなく、論文全体の一貫性を保ちながら編集を進めることができます。
手書きの数式や図を撮影してアップロードすると、LaTeXコードに変換できます。従来、TikZなどのコマンドを手作業で記述するには多くの時間を要していましたが、Prismのこの機能により作業時間を大幅に短縮できます。
研究ミーティングでホワイトボードに描いた図を、そのまま論文に取り込むことが容易になります。

共著者、学生、指導教員と同時に編集やコメントができ、修正内容が即座に反映されます。別々のツールを使い分ける必要がなく、共同研究の効率が向上します。
別々のエディターやチャットツール間でコンテンツをコピーすることなく、求めに応じてドキュメントを直接その場で修正できるため、コミュニケーションのロスを最小限に抑えられます。
音声で指示を出して文章の修正や追加ができるオプション機能も用意されています。執筆作業を中断することなく、自然な流れで編集を進められます。
例えば、論文を読みながら「この段落の2行目を削除」「次のセクションに移動」といった指示を音声で行えるため、執筆の流れを止めることなく編集作業を進められます。長時間の執筆作業で疲労している際や、アイデアを即座に反映したい際に特に有効です。
Prismの利用について、料金や制限事項を解説します。
2026年2月時点で、プロジェクト数や共同作業者数には制限がありません。ChatGPTの個人アカウントで利用可能です。
提供形態はクラウドサービスで、ローカル環境にLaTeXを構築する必要はありません。そのため、端末やOSに依存せず利用できます。
また、PrismはChatGPT Business、Team、Enterprise、Educationプランを利用する組織向けにも、近日中に提供開始予定とされています。将来的には、有料のChatGPTプランを通じて、より強力なAI機能が段階的に提供される見込みです。
現時点では、公式発表ではプロジェクト数と共同作業者数は無制限とされています。一方で、機能面では未対応の項目もあるため、用途によっては事前確認が必要です。
たとえば現時点では、次のような制限や未対応項目があります。
今後、有料プラン向けにより強力なAI機能が追加されると、プランによって利用できる範囲が分かれる可能性があります。最新の利用条件については、公式サイトで確認することをおすすめします。
Prismの使い方を順を追って解説します。
公式サイト https://prism.openai.com/ にアクセスし、OpenAIアカウントでログインします。ChatGPTのアカウントを持っていれば、そのまま使用できます。まだアカウントを持っていない場合は、無料で作成できます。

ログイン後、画面上の「+新規」ボタンをクリックして、新しいプロジェクトを作成します。
新しいプロジェクトを作成すると、既存のデモテキストが表示されます。左側のエディタ部分でLaTeXコードを編集し、右側のプレビュー部分でリアルタイムに仕上がりを確認できます。また、AIチャット機能を使って、執筆支援を受けることもできます。

すでに手元にあるLaTeX原稿を使う場合は、プロジェクトをZIP形式にまとめてアップロードし、取り込めます。作業後はプロジェクトメニューからエクスポートを選ぶことで、プロジェクト一式をZIPでダウンロードできます。
Prismと類似したサービスには、Overleaf、Authorea、Typstがあります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
以下の表にそれぞれの特徴やAIとの連携などをまとめました。
| サービス名 | Prism | Overleaf | Authorea | Typst |
|---|---|---|---|---|
| 特徴 | クラウドベースのワークスペース | Webブラウザ上で動作するクラウドベースエディタ | オンライン共同執筆・プレプリント投稿が可能なプラットフォーム | 高速かつモダンなマークアップベース組版システム |
| AIとの連携 | GPT-5.2と統合し、文脈理解・文献検索・推論に対応 | AI機能(Error Assist、Writefullなど)はあるが、利用回数の上限解除はAI Assistアドオンが必要 | 一部支援機能やテンプレートはあるが限定的 | コミュニティベースでAI連携ツールは存在するが、公式での大規模LLM統合は限定的 |
| 文書形式 | LaTeX | LaTeX | LaTeX・Markdown・HTMLなど | 独自マークアップ(Markdownライク) |
| 料金 | 個人利用は無料 | 無料プラン+有料サブスクリプションプラン | 無料枠+プレミアムプラン | コンパイラはオープンソース。Webアプリは無料プラン+有料(Pro) |
Prismと各ツールの違いをもう少し詳しく解説します。
Overleafは、Webブラウザ上で動作可能なクラウドベースのLaTeXエディタです。PCへの環境構築が不要で、すぐに論文や技術文書を執筆でき、PDF生成も容易です。そのため多くの研究者や学生に利用されています。
Prismとの主な違いは、AI機能の統合のしかたです。OverleafにもAI機能(Error AssistによるLaTeXエラー支援、Writefullによる学術文書向けの文章提案など)は用意されていますが、Prismのように論文全体の構造、数式、引用、図表までを同じ文脈で扱いながら推論と編集を進める設計とは、提供範囲が異なります。一方、Overleafは長い運用実績があり、豊富なテンプレートやジャーナルとの連携など、安定性と信頼性の面で優れています。
Authoreaは、研究者や学術関係者がオンライン上で共同で論文を執筆・編集し、プレプリント(査読前論文)として出版可能な、クラウドベースの共同編集プラットフォームです。Wiley傘下のAtypon社が運営・管理しています。
Authoreaの強みは、共同編集機能とプレプリントサーバーへの直接投稿機能です。研究成果をいち早く公開したい研究者にとって便利なツールです。一方、PrismはAI支援機能により、執筆そのものの効率化に重点を置いています。
Typstは、高速でモダンなマークアップベースのオープンソース組版システムです。LaTeXに代わるシステムとして期待され、数式や論文などの学術文書を、シンプルに記述でき高速で高品質なPDFへと変換が可能です。
TypstとPrismの最大の違いは、基盤技術とAI機能の有無です。Typstは新しい組版システムそのものを提供するのに対し、Prismは既存のLaTeX環境にAI支援機能を統合したものです。LaTeXに慣れた研究者にとっては、Prismの方が移行コストが低いと言えます。

Prismを使用するときの注意点やポリシーをまとめました。使用前に確認しておきましょう。
Prismは研究支援を目的としたツールであり、論文を一から自動生成するものではありません。あくまで「研究執筆の進め方を再設計するワークスペース」として位置づけられています。
つまり、Prismは研究者の執筆作業を効率化し、アイデアの整理や論理構成を支援するツールであって、研究者の代わりに研究を行ったり、論文を自動生成したりするものではありません。研究の本質的な部分は、依然として研究者自身が担う必要があります。
AIの提案内容が常に正確であるとは限りません。特に専門的な科学的内容については、AIが誤った情報を提示したり、不適切な推論を行ったりする可能性があります。
AIが生成した数式、引用、論理展開などは、必ず研究者自身が確認し、正確性を検証する必要があります。AIはあくまで「執筆支援ツール」であり、最終的な責任は論文の著者である研究者にあることを忘れてはいけません。
また、引用文献についても、AIが提案した文献が実際に存在するか、内容が正確に引用されているかを確認することが重要です。不正確な引用は研究倫理上の問題にもつながるため、十分な注意が必要です。
クラウドベースのサービスを利用する際には、セキュリティとデータの取り扱いについても留意が必要です。Prismは未公開の研究データや機密性の高い情報を扱う可能性があるため、以下の点に注意しましょう。
特に、企業との共同研究や特許出願前の研究など、機密性が高いプロジェクトについては、所属機関のセキュリティポリシーに従って利用することが重要です。
Prismは、LaTeX環境とAIを融合させた新しい研究支援ツールです。論文の下書き、修正、文献管理、共同作業などを一つのワークスペースに統合し、研究者の生産性を大きく向上させる可能性があります。
AIによる推論支援や数式生成など、従来のLaTeXツールにはなかった機能が備わっている点も大きな特徴です。今後、科学研究の現場における標準ツールの一つになる可能性もあります。研究者や大学院生にとって、Prismは論文作成の負担を軽減し、研究そのものに集中できる環境を提供する新しい選択肢と言えるでしょう。
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