建設業におけるAI・人工知能の活用事例と将来性
最終更新日:2024/04/11
近年、AIの技術は凄まじいスピードで進化しており、さまざまな分野でAIを導入する動きがみられます。それは建設業においてもいえることであり、AIによってさまざまな可能性が見出されているのです。
では、具体的に建設業においてAIはどのような形で活用され始めているのでしょうか。今回は、建設業におけるAIの活用事例と将来性について詳しくご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
建設業が抱えている課題
近年は第3次AIブームと呼ばれるほど、多くの業界でAIを導入するケースが増加しています。それはAIの活用によって、従来ではできなかったことを実現できるようになったからに他なりません。とくに「深層学習(ディープラーニング)」は、学習対象となるモノの特徴(教師データ)を事前に与えなくても、対象物の識別を自動で行えるようになりますので、建設業においても大きな可能性を見出した技術といえるでしょう。
とはいえ、AIはまだまだ発展途上であるため、深層学習においても多くの課題が残っています。とくに建設業においては、以下のような課題が認識され始めている状況です。
ハイパーパラメータの調整が難しい
特徴量の抽出を自動化することができても、人間が設定する必要があるハイパーパラメータの設定が難しいため、必ずしもデータを投入すれば自動的に最適な結果が出力されるというわけではありません。
大量の教師データを確保するのは簡単ではない
目的に沿った教師データを大量に集めることは簡単ではありません。膨大な学習データを保持している大企業であればAIサービスを提供できる可能性がありますが、それ以外の中小企業ではサービスを展開できず、大企業にサービスを牛耳られてしまう可能性も否めません。
結果の根拠を把握しにくい
AIによって導き出された結果は、「なぜそのような結果になったのか」といった根拠の把握が難しく、いわばブラックボックス状態になってしまいます。仮に想定外の結果が出た場合には、その解析を行う際に多くの時間を費やしてしまう可能性もあるでしょう。
風環境を瞬時に予測するAIの活用で業務効率化を実現
(参照:人工知能(AI)を用いた建物周辺の風環境予測技術を開発 | 2018年度 | 大成建設株式会社)
建設業におけるAI活用の課題についてお分かりいただけたかと思いますが、決して建設業においてAIを活用するのが不可能なわけではありません。すでにAIを活用することで業務効率化を実現しているケースも存在するからです。
その代表例としては、大成建設が開発した風環境を瞬時に予測するAIが挙げられるでしょう。これは、建物形状データを入力するだけで、風速や風向きといった情報を瞬時に予測することができるというものです。大成建設では、このAIを活用することで、設計の初期段階から風環境に配慮しながら建物の配置や形状を検討することができるようになったといいます。
このAIでは、ビルディング・インフォメーション・モデリングなどで設計した建物の形状データを入力し、その周辺の建物に関しては市販の3次元地図データを利用して入力していくそうです。
また、大成建設が過去に手掛けた市街地5平方キロメートル分の数値シミュレーション結果をもとに生成した約3,200万枚の画像を教師データとして活用し、ディープラーニングが実施されました。この学習を済ませたAIに、建物や周辺の形状を入力することで、歩行者への影響を評価する際に必要となる地上1.5mの予測結果を出力させることが可能になったのです。
このようなAIが開発されたことで生まれた大きな変化として、大成建設の技術センター都市基盤技術研究部の中村良平副主任研究員は「予測時間の短縮」だと述べています。入力も含めて予測時間は数分で行うことができ、計画中の建物付近では精度の高い結果が得られているそうです。
建設業においても少子高齢化に伴う人手不足は深刻化していますので、このような形で業務効率化を実現できることには大きなメリットがあるといえるのではないでしょうか。
「施工」「維持管理」といった領域でもAIが活用され始めている
(参照:山岳トンネル工事の切羽(掘削面)評価にディープラーニングを適用 | ニュース | 大林組)
施工現場の画像認識、人の稼働データをもとにした作業認識など、「施工」の領域においてもAIは積極に活用され始めています。ただ、この領域においてはある程度の学習データを集める必要があるため、建機メーカーやゼネコンなどが先進的に取り組んでいる状況です。
たとえば、株式会社大林組は既に30を超えるAI関連技術の開発を進めているといいます。また、株式会社小松製作所では、社内の研究開発費の15%〜20%をAI等の次世代技術の研究に充てており、東京工業大学やアメリカのマサチューセッツ工科大学と共同で研究も行っている状況です。
実際の活用事例としては、日本の山岳トンネル工事において、地質学の専門家と同等の評価を可能にする「切羽評価システム」の開発が進められており、近い将来本格的に実用化される予定だといいます。このシステムでは、深層学習(ディープラーニング)が活用されているため、切羽の画像と専門家の評価結果の学習を行い、スピーディーかつ高精度に地質状況を評価することが可能です。そのため、工事の安全性や経済性を飛躍的に向上させることができます。
(参照:山岳トンネル工事の切羽(掘削面)評価にディープラーニングを適用 | ニュース | 大林組)
そして、施工の領域だけでなく「維持管理」の領域においても、点検現場におけるひび割れの画像認識、漏水音の音認識など、さまざまな形でAIが活用され始めています。とく舗装路面の異常検出は、利用者の安全・安心を確保するという点でも重宝されており、今後AIを中心とした異常検出が主流になっていく可能性も高いでしょう。
より効率的かつ高精度の点検を実現する上でも、AIは欠かせない存在となりつつあるのです。
AI・人工知能が建設業の業務効率化をサポートする
今回は、建設業におけるAI・人工知能の活用事例や将来性について詳しくご紹介しました。まだまだ発展途上であるため多くの課題が残されているものの、すでにさまざまな領域でAIが活用され始めているということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
今後、少子高齢化の加速によって人手不足はさらに深刻化していくことが予想されます。そのため、AIによる業務効率化、生産性向上には大きな期待が集まるでしょう。どのような形でAIが建設業をサポートしていくのか、ますます目が離せません。
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