AIを活用して特許調査の負担軽減!仕組み・解決できる課題とは?
最終更新日:2024/04/04
近年、AI・人工知能の技術はすさまじいスピードで向上しており、さまざまな業界でのAI導入も進んでいます。一見、AIとはかけ離れた分野のように思える「農業」や「水産業」といった業界においてもAIを活用するケースが見られるようになりました。
そんな中、同じようにAI活用の注目を集めているのが「特許調査」です。特許調査はこれまで、特許調査員による目視での確認が一般的でしたが、最近はAIを活用した効率的な特許調査が増えているといいます。今回は、このAIを活用した特許調査について詳しくご紹介していきます。
AIの活用事例について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
AI・人工知能の利用例を解説!機械学習を活用した身の回りの実用例
従来の特許調査が抱えていた課題
これまでの一般的な特許調査では、特許調査員が検索式を立案し、そこに該当する特許を調査員が自ら目視で確認していかなければなりませんでした。この「検索式の立案」「目視チェック」という2つの作業は決して楽なものではなく、調査員の負担を大きくしている原因とでした。当然、負担が大きいだけでなく時間も費やすため、決して効率良く特許調査を行えているとはいえなかったのです。
また、それ以上に大きな問題として「作業スピードが特許調査員の経験・スキルに左右されてしまう」という点があったそうです。当然、検索式の立案や目視チェックといった作業は、経験を積んだベテランの作業員のほうがスピーディーかつ正確に進められることが予想できます。
とはいえ、ベテランの特許調査員が転職したり退職したりするケースも想定しなければならなため、少なからず「新たな人材の確保」が必要になっていたわけです。そうなれば、その新たな人材が経験を積んでいくための期間も必要となるため、どこかで必ず業務の質にムラが生じてしまいます。
さらに、同じ程度のスキル、経験を持った特許調査員同士でも、それぞれ少しずつ異なるクセを持っているケースもあるため、そのクセによって調査結果が異なるという重大な問題も発生していたのです。
AIを活用した特許調査は個々のスキル・経験によるバラつき問題を解消
(参照:AI Samurai)
そんな中、特許調査員のスキルや経験、クセなどによる調査結果のバラつきを軽減させることができるとして、AIを活用した特許調査のシステムに注目が集まるようになりました。例えば、株式会社AI Samuraiが提供している「AI Samurai」というシステムでは、調査対象となる特許の「発明概要」「請求項案」を入力することによって、データベース内にある特許文献の分析を行い、その調査結果を出力することができます。
この「AI Samurai」の調査対象は「先行技術調査」「特許侵害調査」「無効資料調査」の3つで、日本国内はもちろんアメリカの特許も分析することが可能です。これら3つの調査対象について、詳しくみていきましょう。
先行技術調査
先行技術調査では、調査したい発明内容を入力することで、類似している文献の評価が行えます。なお、この際の調査結果はキャラクターを用いてフィールド上にマッピングされるため、視覚的にも非常に分かりやすく、より確実に知財状況を把握することが可能です。
特許侵害調査
特許侵害調査では、発明内容の入力を行うことで、類似度が高い特許を500件リスト化できます。類似度の高い順にリストアップされていくため、より効率的に調査を進めることができるでしょう。また、この際のリストはCSVファイルでダウンロードすることができるため、Excelでの詳細調査も可能です。
無効資料調査
無効資料調査では、無効にしたい調査の内容や広報登録番号、基準日の入力を行うことで、自動で無効化の可能性を評価できます。これらの調査結果は「調査履歴一覧」の画面でリスト化されていくため、後からでも簡単に見直すことが可能です。
(参照:Patentfield オープンAI特許検索・特許分析・特許調査データベース)
パナソニック、富士通、三菱電機は特許調査の「AI検索機能」を共同開発
特許調査業務におけるAIの活用は、大手企業においても積極的に進められています。2019年11月、パナソニックソリューションテクノロジー株式会社、富士通株式会社、三菱電機株式会社の3社は、企業の知的財産活動における特許調査業務をより効率的に行うことを目指すため、共同で「AIによる高精度な検索結果を抽出する機能」を開発したことを発表しました。
開発した機能というのは、「ユーザーが指定した文章の意味をAIが認識し、数千件単位の膨大な特許広報の中から、意味が近い文章を高精度で検索する」というものです。この機能を活用することで、特許調査を行う担当者はもちろんのこと、専門知識を持ち合わせていない製造現場担当者の意図する検索結果も精度を高め、さらなる特許調査業務の負担軽減が期待できるとしています。
また、各社の技術が結集しているという点も大きな特徴といえるでしょう。開発されたAI検索機能では、キーワードや分類コード、出願人といった検索条件を正しく組み立てる必要がありません。思いついた文章を入力するだけでも、数千万件という極めて大量の特許広報文書の中から、目的とする文書の抽出を行うことができるのです。そのため、特許の業務に関連する専門用語をよく知らない担当者であっても、比較的簡単に検索することができるでしょう。まさに、業務効率化に重きを置いた検索機能といえるのではないでしょうか。
特許庁で紹介されている知財インテリジェンスサービス
近年は、知財情報の分析・活用が重要視され始めています。さまざまな技術情報が蓄積されている特許情報を分析することで、企業の研究開発や提携先探索などにつなげられるからです。そういった作業を効率的に進められる特許情報分析サービスが特許庁のホームページでも紹介されているため、それらの特徴をここで詳しくみていきましょう。
TechRadar Scope
TechRadar Scopeは、先行技術調査やアイディア発想、顧客探索などを効率的に進められるサービスです。機能も極めてシンプルであり、簡単な操作で入力・検索が行える点は大きな特徴といえるでしょう。
操作方法としては、まず「技術内容を記述した文章」や「特許番号」を概念検索クエリーとして記載します。収集上限数も設定することができますが、最大1,000件までとなるため注意しましょう。そして、書誌情報による絞り込みを行う場合には、「書誌情報で絞り込む」という欄に「タイトル」「出願人」「発明者」「IPC」などを入力します。
また、特許番号リストを作成してシステムにアップロードすれば、そのリスト内に含まれる特許だけを可視化することも可能です。似通った特許の関係性を細かく調べたい場合などに活用すると良いでしょう。
(参照:VALUENEX)
知財ランキング(知財ラボ)
知財ラボの「知財ラボランキング」では、日本、アメリカ、ヨーロッパの三極特許庁が発行している公報情報から、業務や運営に役立てる分析データを検索できるサービスです。各年の特許や商標、実用、意匠といった公報の分析ランキングを表示させることができます。ユーザー登録を行う必要がなく、毎週最新のデータを閲覧できるのも大きな特徴といえるでしょう。
なお、表示されるランキングは「事務所」「出願人」「優先権」「IPC分類」の4種類であり、それぞれの上位100位が表示される仕組みです。個別のページにアクセスすれば、「公報件数」「優先権の主張国」「IPC分類」といった複数の観点で分析されたデータも閲覧できるため、特定の分野でのランキングを把握したい場合や、出願の傾向などを把握したい場合に便利なツールといえるでしょう。
(参照:知財ランキング 知財ラボ)
・Patentfield
Patentfieldは、AI・機械学習を活用したセマンティック検索が行えるサービスです。文献母集団の出願年度や、出願人やリーガルステータスの属性情報などを調べることができます。簡単なクリック操作で、最大120種類の属性情報を組み合わせてクロス集計分析が行える点は大きなメリットといえるでしょう。
(参照:Patentfield | オープンAI特許検索・特許分析・特許調査データベース)
Amplified
Amplifiedは、世界中の特許を学習したAIによって、高速で特許調査を行える特許調査プラットフォームです。大きな特徴としては、特許調査にかかる時間を85%短縮できることが挙げられるでしょう。
従来の出願前調査では、検索式の設定や調査結果のスクリーニングなどに多くの時間を費やさなければなりませんが、Amplifiedは特許番号か文章を入力するだけでAIが適切な文献をリストで表示してくれるため、大幅な時間短縮が実現できるのです。そのため、よりスピーディーに特許調査を進めたい人にとっては、大きなメリットがあるプラットフォームといえるでしょう。
(参照:Amplified公式)
AIの活用によってさらに効率的な特許調査が可能に
特許調査は、企業の知財戦略にも極めて大きな影響を及ぼすものであるため、高い精度が求められます。だからこそ、これまでは特許調査員のスキルや経験が重要視されてきたわけですが、スキルや経験に頼っていると調査結果の精度を一定に保てないというリスクがあったわけです。
その点、AIを活用した特許調査であれば常に一定の品質を保つことができるようになります。人間のように、体調やモチベーションなどで作業スピードに差が生まれることもありません。そういった点を踏まえると、導入の価値は極めて大きいといえるのではないでしょうか。
特に、働き方改革が進められている昨今においては、業務効率化にフォーカスしていくことが重要といえます。その一環として特許調査業務へのAI導入を検討していくことは、企業の将来を大きく左右する鍵となるかもしれません。
(参照:クラウド Watch パナソニック、富士通、三菱電機の3社、特許調査業務の効率化を実現するAI検索機能を共同開発)
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