広告業界のAI活用事例。クリエイティブ制作やマーケティング最適化などメリットを紹介
最終更新日:2024/03/06
テレビや新聞、インターネットなど、さまざまな場所で広告を目にする機会があります。もともとは新聞やDM(ダイレクトメッセージ)などの広告がメインでしたが、インターネットの普及により、インターネット広告を活用する企業も非常に多くなってきている状況です。
そのような中で、広告業界においてAIが注目されています。理由の一つは、少子高齢化により働き手が不足しており、広告業界においても人材不足が深刻化しているためです。確かに、AIを活用して広告作成すれば人材不足を乗り切ることも可能ですが、肝心の「成果」は期待できるのでしょうか?
今回は、業界においてAIを活用するメリットや、実際のAI活用事例などを詳しくご紹介していきます。
AIの活用事例について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
AI・人工知能の利用例を解説!機械学習を活用した身の回りの実用例
インターネット広告費が4マス広告費全体を超える時代に
インターネットの普及により、さまざまな業界で積極的にインターネットが活用されるようになりました。それは「広告」においても例外ではありません。
インターネットが普及されるまでは、「新聞広告」「雑誌広告」「ラジオ広告」「テレビメディア広告」がマスコミ4媒体広告として知られており、日本の広告費の大半を占めていました。
しかし、2021年にはマスコミ4媒体広告費が2兆4,538億円であったのに対し、インターネット広告費は2兆7,052億円と上回っており、総広告費における「インターネット広告費」の構成比は39.8%を占めたのです。
この数字からも、インターネット広告費の影響力の高さ、そして期待度の高さがお分かりいただけるのではないでしょうか。
広告業界でAIを活用するメリット
そんな、インターネットの活用が進む広告業界において、AIを活用するとどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここからは、広告業界でAIを活用するメリットを詳しくみていきましょう。
クリエイティブ制作
広告を制作する上で重要視されるのは、「いかにターゲットからの反応を高められるか」という点です。そのためには、広告に独創性を持たせなければなりません。その独創性を求める上で、AIは大きなサポートをしてくれます。
たとえば、AIの一手法であるGAN(敵対的生成ネットワーク)を利用すれば、現実世界のデータを学習していくことにより、実世界に存在しないデータを量産することができます。そのため、本来であればハードルとなってしまう「人物写真の規制の手間(本人確認など)」がなくなり、制作作業をより効率化することができるのです。
オーディエンスターゲティング
これまでのインターネット広告では、ウェブサイトへの訪問履歴や滞在時間、商品購入履歴といったデータを手作業で収集し、分析しなければなりませんでした。しかし、AIを活用することによって、これらのユーザー属性を示すデータを一元管理できるようになります。
こういった、ユーザー属性を示すデータを一元管理して広告配信していく仕組みのことを「DMP(Data Management Platform)」と呼びます。適切なターゲットを分析していく「オーディエンスターゲッティング」には、これまで手作業での比較評価が必要でしたが、AIを活用することによって大幅に効率化を図れるのです。
広告運用の最適化
GoogleやYahooといった検索エンジンに掲載することができる、検索したキーワードに連動して表示されるタイプの広告のことを「リスティング広告」と呼びます。このリスティング広告の特徴は、検索ワードと関連性の高い広告を表示することによって、購買意欲の高いターゲットにピンポイントでアプローチできるという点です。
一般的に、リスティング広告用にキャッチコピーなどを制作していく場合、A/Bテストを毎日数百本単位で比較しながら適切なものを見極めていかなければなりません。そのため、労力と時間を費やす必要があるのです。
その点、AIを活用すれば、ビッグデータの分析結果をダイレクトに活用できるようになるため、文章の候補を効率的に生み出していくことができます。品質を高めながら量産できる点は、AIの活用によって得られる大きなメリットといえるでしょう。
広告業界でAIを活用するデメリット
広告業界でAIを活用するメリットは数多く存在しますが、決してデメリットが存在しないわけでもありません。たとえば、「最新のトレンドを学習することは苦手」という点は、AI活用におけるデメリットの一つといえるでしょう。
というのも、AIが得意とするのは「過去のデータを用いて傾向を抽出していくこと」であり、必ずしも過去のデータが「最新のトレンドを予測する材料」になるとは限らないからです。そのため、最新のトレンドを追っていく作業に関しては、人間が担当すべき領域といえるでしょう。
また、AIはネットワークを通じてさまざまなデータを扱うため、場合によってはハッキングのリスクが生じる点も忘れてはなりません。もちろん、注意深く対策をしておくことで、そのリスクを減らすことはできますが、ネットワークを利用する以上リスクが0ではない点は、あらかじめ把握しておく必要があるでしょう。
広告業界のAI活用事例
電通:15種類以上のAIをクライアントごとに提案
電通グループでは、クライアントの要望に応じて組み合わせて多彩なAIソリューションを提供する「CXAI」というサービスを提供しています。
クライアントごとの課題に沿って、適切なモジュールを選択し、カスタマイズしていくことができるのがポイントです。そのため、オリジナルの「クリエイティブ自動生成ツール」を素早く開発・提供することができます。
「CXAI」で利用することができるAIモジュールは、2021年5月時点で15種類以上。電通グループ内でも実際に使われているAIモジュールを中心に、以下のようなAIモジュールなども利用することができます。
- AIコピーライター「AICO」
- バナー自動生成&効果予測ツール「ADVANCED CREATIVE MAKER」
- 独自開発チャットボットツール「Kiku-Hana」
- 流行予測ツール「TREND SENSOR」
- ソーシャル広告効果予測ツール「MONALISA」
これらのツールを組み合わせることによって、商材やガイドラインに沿ってカスタマイズされた動画広告を制作できるツールや、メルマガのアウトラインを自動生成してくれるツールなど、目的に合ったオリジナルツールを開発できるようになります。
博報堂:AIが感情を認識し、最適な広告を配信
広告業界大手の博報堂は、業界の中でもいち早くAIの導入を検討し始めた企業として知られています。2017年3月、博報堂はクラウドAIと鏡を組み合わせたターゲッティング広告の配信システム「Face Targeting AD」を発表しました。この「Face Targeting AD」は、鏡の前に立った人の表情を読み取り、その人の表情を参考にして最適な広告を配信するという仕組みです。
マイクロソフトが提供するAzure AIというクラウドAIには顔認識や感情認識ができるAPIが用意されており、これを活用することで、喜んでいるのか、怒っているのかという細かな表情まで認識することができるといいます。
そのため、もし鏡に写っている人物の表情を「疲れている」と読み取った場合には、エナジードリンクの広告を出したり、「悲しそうにしている」と読み取った場合には感動的な映画の広告を出したりすることができるのです。
博報堂はAIの活用に積極的な姿勢を見せており、最近では広告用のアニメーション制作も手がけるなど、革新的な取り組みを続けています。
ADK:感情認識AIによる動画広告の最適化
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズでは、感情認識AIによって動画広告の最適化を図るソリューションを提供しています。動画広告を閲覧したユーザーにどのような感情を喚起するのか、また日本独自の感情パターンの理解促進と進めていくことによって、エンゲージメントを高めるためのクリエイティブを示唆していくというものです。
対象動画において、視聴者に各シーンでどのような感情を喚起させるのか詳しく分析していくと同時に、それがネガティブなのかポジティブかを判断していくことができます。また、検索意向や、口コミ意向、購入意向を確認することも可能です。さらに、ブランドイメージに関しては、分析最終レポートによって対象動画の評価と改良ポイントも示すことができます。
大広:デジタルクローンのオルツと独自CRMシステムを構築
株式会社大広では、2019年にスタートした新中期経営計画において掲げた「ブランドアクティベーション」の推進強化を目的に、パーソナル人工知能(P.A.I)の開発・提供を行っている株式会社オルツの株式を取得し、資本業務提携を行いました。
この資本業務提携によって、個人の高文脈な思考を反映したパーソナル人工知能(P.A.I.)を強みとするオルツと共同で、「一人ひとりに最適な顧客体験を提供する」独自CRMシステムを構築したことで、大きな注目を集めています。
今後はこの独自CRMを通じて、あらゆる顧客接点において企業と顧客との共創をサポートしている大広のブランドアクティベーションを、さらに推進していくといいます。
サイバーエージェント:「極予測AI」で広告クリエイティブを制作
株式会社サイバーエージェントでは、AI事業本部が提供している「極予測AI人間」において、老若男女さまざまなAI人物モデルの使い放題プランである「極予測AI人間使い放題プラン」を提供開始しました。また、この「極予測AI人間」におけるAI人物モデルの配信実績が600人を突破したことでも大きな注目を集めています。
「極予測AI人間」の広告効果実績は、実際に撮影されたモデル画像素材を使用したクリエイティブの配信結果と比較して「CTRが122%に向上」しており、広告効果の改善にも大きな貢献を果たしています。
老若男女さまざまな架空のAI人物モデルを無制限で利用できるようになることで、これまで人物モデル起用にかかっていた時間的コスト・金銭的コストの削減を図れることはもちろん、広告クリエイティブ制作においてより効率的かつ幅広い表現ができるようになることは、大きな魅力といえるでしょう。
セプテーニ:AIと人による効果の高いクリエイティブ制作
株式会社セプテーニでは、AIを利用して広告効果予測やCTR(クリック率)に起因する要素を可視化していくことができる広告クリエイティブソリューションツール「Odd-AI」を活用した「Odd-AI Creation」というディスプレイ広告クリエイティブ制作メソッドを構築し、ディスプレイ広告において運用を行っています。
AIによる事前効果予測、そして人によるデザイン品質管理、アイディア発想などを組み合わせることによって、高い広告効果を実現したクリエイティブを継続的に生み出していくことが可能です。本格運用に先立って行われたテストでは、通常の制作プロセスによって作られたディスプレイ広告と、「Odd-AI Creation」によって制作されたディスプレイ広告の効果を比較したところ、CTRは約1.1倍、広告配信量は約1.5倍という結果に至ったといいます。
オプト:広告レビューの考察をAIで自動生成
株式会社オプトでは、運用型広告の運用実績をAIが分析し、考察までの作成を自動化していく「Literalporter(リテラルポーター)」というツールを開発・提供しています。このツールを活用することで、広告運用実績のレビュー作成にかかる作業の多くを削減し、広告主への価値提供を最大化していくことが可能です。
オプトが独自に開発したLiteralporterは、AIを活用することで、大量かつ複雑な媒体データや広告運用実績の数値変動要因を自動抽出・分析し、広告運用実績の考察していく作業を自動化することができます。自動考察内容は、トップコンサルタントのナレッジをもとに数千通りを作成します。広告レビューのベースともいえる内容が瞬時に生成されるので、より戦略的な提案を生むための作業に力を注ぐことが可能です。
Video++(極鏈科技):動画広告に合わせてクーポンを配布
中国の動画配信サイトVideo++(極鏈科技)ではAIの活用により、動画に合わせた広告の配信を実現しています。動画を見ているときに「この有名人の名前がどうしても思い出せない…」となってしまった経験がある方も多いでしょう。そのような場合、動画の視聴画面を一度閉じて検索エンジンなどで検索するのが一般的かもしれません。
しかし、Video++は動画に出演しているタレントをクリックできるようになっており、クリックすることでタレントの情報が検索できます。そのため、わざわざ動画の視聴画面を閉じて検索する必要がありません。
Video++としても、タレントの名前を検索するためにサイトから離脱されるのはデメリットでしかありません。より長い時間動画を視聴してもらうためにも、「サイト内で悩みを解消する仕組み」にすることには大きなメリットがあるわけです。
また、Video++では、食べ物や化粧品、おもちゃなどのレビュー動画で紹介されている商品を動画内で購入することができます。これは、AIが動画で紹介されている商品を自動で特定し、その商品を販売しているECサイトと連動させるという仕組みです。AIが自動で商品の特定を行うため、効率的にユーザーを購買へとつなげていくことも可能になります。
さらに、Video++ではAIが広告に関連するクーポンを表示させる機能も備わっています。動画内の広告をAIが自動で認識してクーポンを出すことで、購入率の向上が期待できるのです。
動画を視聴していて「この商品気になる!」「この人が着ている服はどのブランドだろう?」といった興味が湧くケースは決して少なくないため、AIの活用によって広告の成約率を高められるという点は大きな魅力と言えるのではないでしょうか。
AIが広告業界の自動化&効率化を加速させる
このように広告業界におけるAIの導入は、業務の効率化を加速させていくと考えられます。特にAIは、蓄積されたデータにもとづいて最適な答えを見出していく作業を得意としますので、広告運用の費用対効果を高める上でも大きな期待が集まるでしょう。
しかし、広告の作成から運用までのすべてをAIに任せることは現実的ではありません。創造性を求められる業務においては、やはり人間のほうがさまざまなアイデアを柔軟に考案できると考えられるからです。
最近では、創造性が求められる「キャッチコピー」をAIが制作するというケースも出てきていますが、AIが制作したキャッチコピーの中から採用案を決定するのは人間に他なりません。つまり、仮にAIに任せるとしても「最終的な判断を下すのは人間」ということです。
だからこそ、今後は「AIに任せられる業務」「AIに任せるべきではない業務」の棲み分けをしていくことが大切になるでしょう。そして、人間がより創造性を求められる業務に力を注いでいく環境を整えることが、企業としての業務効率化につながっていくと考えられます。
今や広告業界に限らず、多くの業界においてAIの導入が進んでいる状況です。より身近な存在になったからこそ、今回ご紹介した事例を参考に「AIに任せるべき業務は何なのか」を見つめ直しつつ、広告運用を行ってみてはいかがでしょうか。
AIについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
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