『AI』AI・ChatGPTのビジネス活用を戦略立案から開発・運用までご支援
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株式会社TechArtist住友商事様では、2022年10月、量子コンピューティングクラウドサービス「業務最適化カスタムAIソリューション」を用いて開発された、物流センター向け「従業員最適配置システム(magiQanneal:マジカニール)」の稼働を開始しました。
量子コンピュータ技術活用のきっかけ、導入に至るまでの工夫、導入後の成果について、住友商事グループ 物流インフラ事業本部のデジタル変革(DX)および量子コンピュータ技術活用(QX)の推進リーダーである植田様と、業務最適化カスタムAIソリューション を活用したシステムの開発・導入の支援に携わった株式会社フィックスターズ(以下、フィックスターズ社)の土居氏にお話を伺いました。
住友商事 植田様 住友グループの事業精神の一つに、「進取の精神」というものがあります。これは時代の変化に際して、積極的に一歩先んじることの大切さを述べたものです。新技術を積極的に活用することで、広く社会への貢献を目指すという価値観も込められているのではと、私は考えています。 2018年頃、私はこの「進取の精神」でマーケットを探っていると、黎明期を迎えていた量子コンピュータ技術に出会い、この新技術を事業に適用できれば社会貢献に繋がるビジネスになるのではと感じました。とくに、物流業界はデジタル化やデータ化が比較的遅れている一方、配送ルートや従業員の配置等の最適解を求める現場が多く、最適解を瞬時に導く量子コンピュータ技術がうまく合致するのではと考えたのです。
しかし、当時社内には量子コンピュータの専門部署は当然なく、量子コンピュータ技術を議論できる場もありませんでした。そこで、まずは社内横断の「最先端技術によるビジネス研究会」を立ち上げ、総勢60名ほどの有志を集め、量子コンピュータ技術などの最先端技術のビジネス適用・事業化方法について議論を始めることにしました。この研究会は3年間に渡って月2回のペースで開催しましたが、有識者を度々呼んでおり、その中でフィックスターズ社にも議論に参加頂いたことがありました。
研究会活動を通じて社内での適用検討を深めてきた2019年の夏、当時の私の所属先の経営企画部が参画していた「MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム) 量子コンピュータ推進ワーキンググループ」にて、「量子コンピュータの産業応用実装に向けた実証実験」*1が行われることとなりました。これまでの机上の検討から一歩進めて実際の感触を掴んでみたいと考えていた私にとっては、この無償での実証実験の機会は非常にありがたく、私たちも参加することにしました。
プロジェクトメンバー企業9社が3チームごとに分かれて量子コンピュータ技術の共同研究を行うという活動でしたが、住友商事はフィックスターズ社と同じチームになりました。この実証実験がきっかけとなり、住友商事はフィックスターズ社と共に、量子コンピュータ技術活用の検討(物流センターにおける従業員配置最適化の検討)を始め、社会実装に繋げる取り組みを行うことになったのです。
労働集約型の代名詞である物流センターの従業員の配置最適を、最先端技術である量子コンピュータで導き出そうという取り組みは、当時誰もやったことのない挑戦でしたので、普段であれば交わることのない方々がそれぞれの立場を超えて皆で考え、議論することが極めて重要だと感じていました。現場の声や技術を集約し伝達する役割を私が担っていましたが、フィックスターズ社は決まった仕様に基づいた受託開発ではなく、対等な目線で専門的提案を積極的に行ってくれました。また、上流のコンサルティングから下流のシステム開発までの全工程において一貫して親身に併走してくれ、非常に安心感がありましたね。
例えば、当初は生産性向上の数値(例えば従業員の配置人数の最小化)に着目していましたが、フィックスターズ社との議論において「全員ができるだけ同じ量の仕事をしつつ、全体で最大の仕事をする(均等最大化問題)という方法が現場の最適化に繋がるのではないか?」という指摘を頂きました。確かに、「従業員の最小化」を目指しても、既に出勤中のスタッフを途中で帰宅させるわけにはいきません。「均等最大化」であれば、出勤中のスタッフ全員が早く帰宅できる可能性があり現場の活力の向上にも繋がるため、現実的なアイディアでした。 このように確かな技術に裏打ちされた形で現場の課題を的確に捉えてくれる提案は、大変ありがたいものでした。
2020年、MCPCの取り組みをさらに発展させ、内閣府のプロジェクトであるSIP*2の取り組みとして、フィックスターズ社とともに、従業員配置最適化の実証実験を行いました。さらに内閣府からは社会実装を期待されていることもあり、現実の物流センターを対象にしたビジネス化を目的に検討を進めました。
その結果、2022年10月、量子コンピュータ技術活用により開発された従業員最適配置システム「magiQanneal(マジカニール)」を、住友商事グループの物流センターに対して導入しサービスを開始しました。 具体的には住友商事で開発した、物流センター業務特化型のBI(Business intelligence)システム「Smile Board Connect*3」のオプション機能として展開しております。 このオプション機能を導入した物流センターのスタッフからは非常に好評で、その評判を聞いた未導入の物流センターの方から早期導入の要望の声があがっているほどです。私は今まで社内外で多くのシステムを導入してきましたが、これほどまでに利用者から喜ばれたシステムは初めてですね。
フィックスターズ 土居氏 システム導入が無事に完了しただけでなく、導入現場からの好評や次の導入予定もお聞きでき、非常に嬉しく思います。 現場スタッフの皆さんの声を伺うために倉庫へ足繁く通わせて頂いたこと、住友商事様との活発な議論の成果だと考えています。 現場の声を細やかに受け止め、ニーズや志向を正確に汲み取り、自然な形で現場に寄り添うシステムを作ることが成功の鍵でしたね。
住友商事 植田様 magiQannealは、物流センターにおける従業員(約100名)の働く場所・時間・グループを、その日の出荷量・グループが持つスキル・シフト時間・配置場所等の公平性を考慮し、量子アニーリングを使って最適解(従業員配置案)を瞬時に提案するというシステムです。 この開発にあたり、住友商事とフィックスターズ社の技術者は多くの検討と試行錯誤を繰り返しました。その中でも最も悩み議論を繰り返した点は、量子アニーリングで導き出す「最適解とは何か?」という基本的、かつ本質的な問題でした。
現場における最適というのは、その人の立場、その日の状況などによって変わるため、一つの物差しでは測れないものかと思います。例えば、繁忙期であれば「生産性の高いメンバーの組み合せ」によって可能な限り生産性を高めることを最適解とし、閑散期であれば「あえて普段担当していない業務を割り当てることによって、スタッフのモチベーションを刺激し成長を促す」という人材育成を最適解とするということになるかもしれません。このように状況に応じて最適解は変化していくため、複数の指標の重みをコントロールできることが重要ではないかと議論しました。
このようなアイディアは住友商事とフィックスターズ社とで物流センターの現場へ足繁く通い、現場スタッフが求めているもの、現場で真に大切な事柄を理解しようと努めたことで得られたものです。この結果、現場の方々にとって違和感の無い結果が出力できるようになってきました。この工夫こそが現場の皆さんに仕組みを受け入れてもらえ、さらに喜ばれて活用されるシステムの実現に繋がった理由だと思います。
住友商事が目指すのは、現場スタッフがロボットのように働いてもらいたいのではなく、働く一人ひとりの方々の成長や要望にできるだけ応え、活力とサステナビリティのある現場を実現することです。現場スタッフの皆さんがいつも笑顔でいられるようとの思いで「人と現場の幸せ指数」を最適解として定義し、量子コンピュータで解いていくという点が、このシステム開発におけるユニークなポイントだったように思います。
フィックスターズ 土居氏 magiQanneal開発の中では、植田さんのおっしゃる「幸せ指数」の考え方については何度も議論を重ねました。 人の感情への寄り添い方には様々な解釈がありますし、複雑に絡み合う要素の影響を色濃く受けますので、非常にやり甲斐のあるテーマでしたね。 様々な指標・可能性・優先順位などを考慮しながら高速計算するシステムというだけでなく、運用を通じて少しずつ学習し、柔軟に日々の現場の状況に合わせた姿へと成長していくような形を作り上げました。
住友商事 植田様 システムは毎日のように使われるものですので、実際に利用する現場スタッフから愛されるものであってほしいと思っています。 業務最適化カスタムAIソリューションを活用し、フィックスターズ社とともに開発したこのmagiQannealは、かつてないほどに現場の皆様から支持されており、また毎日大切に育てて頂いている感じがしています。
機械が最適な人員配置を指示するというと、「ロボットのようにあくせく働かされるのではないか」と、不安に感じる方もいると思います。 しかしmagiQannealが導き出すのは効率性のみを突き詰めた解ではなく、常日頃から配置を考える方が抱いている思い(例えば、仕事の割り振りの公平性や仕事を力の限りやってもらえるようグルーピングする)に配慮された解を導き出します。これは量子アニーリングという性質から導き出される「調和の取れた自然な解」だと思います。そしてこのような調和の取れた解は、無理が無いため、人々の納得感を得やすいものが多いのではないかと感じるのです。
さらにこの解は最終的には人の手によって完成されるものです。つまり、システムが出す解は80点程度のもので、人が最後に調整して100点にしていくといったイメージです。 完璧を期すためにかけるコストの問題もありますが、「最終的には人が必要」というシステム設計にすることで、現場に安心して受け入れてもらえるという効果があると思います。人と機械が強みを掛け合わせて協調して働く、不足の20点分をシステムが学習して毎日少しずつ育っていく…。このようなサイクルが理想的ですし、自然と今の現場ではできている感じがしますね。 自分の能力やスキル、要望に合った仕事がアサインされるので、働く従業員の感情や幸福感、現場の心地良さといったことまでをも考慮されるシステム設計が、現場スタッフのシステムに対する信頼感やシステムの活用意欲、最終的には活力ある現場の創出に繋がっていくのではないかと考えるのです。
また、ボタンを1回押すだけで従業員配置案が出力されるため、大幅な時間短縮が叶いました。従来は毎日三人時程度の労力がかかっていましたが、magiQannealの導入後には、人による最終的な調整作業を含めても10分程度におさまるようになりました。 また、この時間短縮により、状況の変化に応じて従業員配置計画の変更が柔軟に行えるようになったことも大きな効果の一つです。 さらに最も絶大な成果として、従業員配置案作成担当者の心的負担の軽減というものがあります。実は配置案作成担当者は、「様々な立場の方からの要望に応えた最適な従業員配置案を作成しなくてはならない」という強いプレッシャーがあり、日々の心的負担はかなり重いものでした。 例えば、ある真面目な従業員配置案作成担当者は、現場スタッフの皆さんから受けた様々な要望を逐一メモに取り、帰宅後もその要望に応えようと試行錯誤したり、最適な解を見つけられないのかもしれないということに悩んでいたりしていました。しかし、magiQannealの導入によって、解に対する責任や納得感をシステムが肩代わりすることになったため、従業員配置案作成担当者の心的負担は随分と軽減されました。
機械化・デジタル化の素晴らしい効用の一つに、「システムが職場の人間関係の潤滑油となって円満にまとめる」というものがあると私は考えています。 システムを介して現場に活気があふれ、現場スタッフ間の団結力や生産性がより一層高まっていくという好循環を生み出すきっかけになり、サステイナブル(持続可能)な現場作りに活かされるのではないかと期待しています。
magiQannealの物流センターでの稼働によって一定の成果を収めることができたこともあり、量子コンピュータ技術に対する住友商事内での関心や理解は高まっています。また共同研究活動において、量子コンピュータ技術の心強い専門家でもあるフィックスターズ社とは良い関係性が作れたことから、現在は次の社会実装に向けた構想を描いているところです。
住友商事 植田様 本件の社会実装の報道や住友商事の営業活動から、magiQannealは多くの引き合いを頂いております。 例えば物流業界だけではなく、工場の現場作業員の配置案作成、介護現場の介護士の勤務シフト作成などの、様々な業界の労働集約型ビジネスの企業様からお問い合わせがあり、対応させて頂いております。 「人の最適配置により生産性向上を図る」というシステムは汎用性が非常に高く、多くの業界で幅広く適用できるソリューションであると考えています。
物流分野では「最適解」を求めるニーズは多く存在しています。 例えば、2024年度に物流業界の働き方改革関連法案の施行により、ドライバーの勤務時間に配慮しつつ、トラックのより良い配車や荷物の効率的な積載、配送ルートの最適化手法が注目されます。私たちはフィックスターズ社と進めてきた最適化プラットフォームを用いて、この物流業界の変化を起点として生まれる新たなニーズに対応していきたいと考えています。物流業界ではこの手の最適化問題は枚挙に暇がなく、他にも多くのビジネス機会があると考えています。
私は「横展開」「奥行展開」という言葉で表現することが多いのですが、「横展開」は同業界の課題への展開、「奥行展開」は異分野の似た特性を持っている業界の課題への展開を指しています。 例えば、先ほどの「物流業界内の展開」は「横展開」、「労働集約型産業への展開」は「奥行展開」です。 一般的には横展開で進めることがビジネスでは求められがちです。横展開では会社組織における推進主体は明確であり、ドメイン知識が理解しやすいために社内では取り組みやすいという反面、仕組みとしては近接性が少なく、意外と応用が利かない。つまり、一からシステムを作らないといけないというケースが多い傾向にあります。
その一方で、奥行展開では業界を跨ぐ展開であるためにドメイン知識が異なり、推進主体が明確ではないというケースが多いのですが、課題が一般化しやすいために仕組みとしては似通ったもので構築しやすい傾向にあります。 現在のリソースと状況を見極めつつ、どちらの展開の優先度を高く取り組んでいくか、社会から今求められていることは何かについて、フィックスターズ社とはよく議論をしています。
ただし、横展開・奥行展開のどちらにせよ、裾野を広げてプラットフォームとして展開していくことが重要であり、業務最適化カスタムAIソリューションを活用することで、強みをもった量子コンピュータ技術による最適化プラットフォームの開発が行えるのではと思っています。 この実現には最先端技術の知識および実装力を持つフィックスターズ社と、住友商事のような様々な現場を持ち業界特有の課題やデータを持つ事業会社のタッグが不可欠だと思います。
今後さらに業務最適化カスタムAIソリューションを活用して、横展開・奥行展開で様々な業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)およびQX(クオンタムトランスフォーメーション)を進め、フィックスターズ社と一緒に社会貢献・ビジネス創出にチャレンジしていきたいですね。
フィックスターズ 土居氏 フィックスターズ社側にも様々な業界からのお問い合わせを頂いております。業界や企業様ごとにお悩みやご要望は少しずつ異なっているのですが、最新の量子コンピュータ技術活用に対する知見やコンピュータ高速化技術とともに、業務最適化カスタムAIソリューションを活用した柔軟なご提案を行っています。 フィックスターズグループはもともとソフトウェアやハードウェアの高速化技術を強みとしています。これからも量子コンピュータ技術活用を最良の形でお届けしたいと思いますので、お気軽にご相談頂ければと思います。
補足
*1 Fixtsars Amplify>ニュース>MCPCで実施した量子コンピュータの実証実験の成果報告(2020/6/26)
https://amplify.fixstars.com/ja/news/20200626
*2 フィックスターズ>導入事例>内閣府主催SIP公開シンポジウム2021:物流倉庫における人員配置最適化の社会実装開発
https://www.fixstars.com/ja/services/cases/amplify-logistics
*3 住友商事が開発した、物流センター業務特化型のBIシステム「Smile Board Connect」
https://lp-smileboard.jp/
*本記事の掲載内容は全て取材時(2023年5月)の情報に基づいています
magiQannealの開発は、日本におけるイジングマシン活用研究の初期から続く息の長いプロジェクトです。それが実稼働を迎えたタイミングで中心メンバーのお二人にお話を伺いました。いかに現場で使ってもらえるかに創意工夫を凝らした、とのエピソードをお二人が共通して語られていたのが印象的でした。
フィックスターズ社および業務最適化カスタムAIソリューションでは、量子コンピュータの導入や活用について、トレーニング・コンサルティング・システム開発などを提供しています。
また本格的なシステム開発については、住友商事様をはじめとしたパートナー各社様をご紹介することも可能です。
ぜひお気軽にお問い合わせください。
聞き手: 平岡 卓爾(株式会社Fixstars Amplify 代表取締役社長 CEO)
住友商事株式会社 物流インフラ事業本部 様が導入したサービス
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