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2022.10.12 / 更新日:2022.10.17

鹿児島県の病院が入院患者の無断外出にあまり気を払わなくてよくなった その理由は?

鹿児島県の鹿児島市にあるケアミックス型病院「一般財団法人 児玉報謝会 新成病院」は、通常外来から入院まで地域の幅広い医療ニーズに対応している。この規模の病院としてはめずらしく外科手術ができる設備や医師を備えているため、ワンストップで患者のあらゆるケアを提供できるのも特徴だ。

同病院には、認知症や外科手術のために入院している患者も多い。認知症や手術後の譫妄(せんもう)状態にいる患者の中には無断外出したり、院内を徘徊したりする人もいる。本来は安全上、看護師に申請して許可を得てから外出するルールだが、実際には無断外出しようとする患者は少なくない。

入院患者の無断外出や院内徘徊を防ぐために病院スタッフに負担がかかっていたものの、RFIDを使った行動監視ソリューションはコストや手間が多く導入が困難だった。中小規模の医療機関でも導入できる低コストかつ、短期間で構築可能なソリューションが求められていた。

同病院では、このような課題を解決した。その結果、「看護師をはじめとする院内スタッフが徘徊患者の無断外出に以前よりも気を払わなくてよくなった」という。はたして、その方法とは?

「これなら弊社でも扱える」と判断した

同病院はまず株式会社デンセツ工業に相談した。デンセツ工業は鹿児島市に本拠を構え、九州および沖縄エリアの顧客に電気設備や防犯カメラの設置・保守のサービスを提供している会社だ。

株式会社デンセツ工業 システムエンジニア 柳元貴久氏は「新成病院様からこのお話をいただいた当初は、患者さんが着用しているスリッパやパジャマなどにRFIDタグ(ICタグ)を装着することで行動を追跡・検知できないかと考えました。しかしコストやRFIDの管理工数などを考えるとあまり現実的ではないとの結論に至りました。そこでほかに何かいい手段はないかとさまざまな検討を重ねた結果、最終的にカメラを活用した顔認証AIソリューションに行き着きました」と当時を振り返る。

同病院が導入したのは、アステリア株式会社が提供する顔認証カメラAIソリューション「Gravio Enterprise AI Edition」だ。カメラを活用した顔認証AIソリューションは数多くあるが、なぜGravio Enterprise AI Editionを選んだのか?

デンセツ工業は10社以上のソリューションを比較検討して、最終的には3社に絞り込んだ。その中から最終的にGravio Enterprise AI Editionを選んだ1番の理由は、カメラで撮影した患者の画像データをクラウドに送信せずに、エッジコンピュータの中だけで処理できるからだ。

患者の画像は個人情報に当たる。情報漏えい対策を考えると、エッジコンピュータ内でAIの画像推論処理を完結して外部に画像データを送信しない本製品が望ましいと考えたのだ。

また、大手メーカーのAI顔認証ソリューションは極めて高額だ。中小規模の施設や医療機関が導入するにはとてもハードルが高い。その点、Gravio Enterprise AI Editionはコストを抑えて導入できる点が魅力的だった。

さらに、デンセツ工業にはプログラミング・スキルを持つ人員が少なかった。Gravio Enterprise AI Editionはプログラミングが不要で、ソフトウェアの設定作業と調整作業で簡単に構築できる。「これなら弊社でも扱える」と判断し、最終的に採用を決めた。

一からシステムを構築するのではなく、学習済み画像推論モデルやプリセットされたプログラムを利用することで手早く短期間で構築できる点にも惹かれた。もちろん、ソリューションそのものだけではなく、アステリアという会社にも導入したいと思う理由があった。柳元氏はこう語った。

「実は別の小規模なベンチャー企業の製品も選定候補に挙がってはいたのですが、やはりベンチャー企業は事業の継続性という点でリスクがあります。その点アステリアさんは豊富な実績をお持ちで、高い信頼感があります。また弊社はもともと防犯カメラの設置やネットワーク設計・工事に関して豊富なノウハウを有していましたから、そういう意味でもGravio Enterprise AI Editionは弊社の強みを生かせるソリューションだと判断しました」

患者がカメラの前を通ったら顔認証カメラAIが検知

デンセツ工業はまず2021年8月に社内で技術を検証した。その結果を新成病院に実際に確認してもらったところ、本格導入のGOサインが出た。

2021年9月、2回に分けてカメラとGravio関連デバイスの設置とネットワーク工事を実施し、9月末から本格稼働を開始した。徘徊の恐れがある患者の顔写真をデータベースに登録した上で、正面入口と通用口の2カ所にカメラを設置し、患者がカメラの前を通ったら顔認証カメラAIが検知できる仕組みを構築した。

この仕組みでは、顔認証カメラAIが患者を検知したら、患者の徘徊や無断外出を自動的に検知できるようになった。スタッフ・ステーションに設置したパトライトが点滅して警告音を発するとともに、看護師のスマートフォンのLINEアプリに通知メッセージとカメラで捉えた徘徊患者の写真がすぐに表示される。

一般財団法人 児玉報謝会 新成病院 前院長で、現在は医師会など院外との折衝業務などを手がける熊谷輝雄氏は「顔認証カメラAI搭載『Gravio Enterprise AI Edition』を導入したことで、患者さんに安心安全を提供するだけでなく、看護師が徘徊患者の無断外出に以前よりも気を払わなくてよくなり、業務の効率化に寄与しています」と効果を語る。

また、GravioはカメラAIのみならず、人感センサーやドア開閉センサーなど多数のIoTセンサーにも対応しており、AIとIoTを適材適所で組み合わせて利用できることが強みだ。

同病院では顔認証カメラAIに加え、院内の階段2カ所にGravioの人感センサーを取り付け、夜間に患者が院内を徘徊していないかどうかを自動的に検知する仕組みを追加導入した。ドア開閉センサーを導入することで、病室ドアの開閉も検知した。

熊谷氏は「この仕組みを導入したことで、看護師をはじめとする院内スタッフが認知症徘徊患者の無断外出に以前よりも気を使わなくてよくなりました。以前は外出する患者を常に気にかけていなければならなかったのですが、このソリューションを導入してからは何かあった場合はパトライトで警報が鳴るので、業務の効率化に寄与しています」と語る。

そのほか、同病院では密になりやすい待合室にCO₂(二酸化炭素)センサーと温湿度センサーを設置し、CO₂濃度と温湿度を測定する仕組みを設けた。患者やスタッフの目に触れる位置にLEDパネルを設置し、測定値を表示するのに加え、基準値を超えるとLINEに通知することで、施設管理者が適切なタイミングで換気可能になった。

「病院スタッフの業務効率をさらに向上できる」

現在、同病院では待合室にいる人たちをカメラAIで人数検知することで、混雑状況を自動的に判別できるのではないかと考え、待合室にも3台目のカメラ設置を試験的に導入・運用している。

また、GravioのCO₂センサーと温度・湿度センサーを待合室と応接室に設置し、その測定値を「Gravio LEDマトリックス」で表示している。滞在人数が多くなってきたときにスタッフがいち早く気づいて換気することで、感染症対策に貢献できる。

今後はさらに、徘徊の恐れがある患者の病室のドアにGravioの開閉センサーを取り付けて、夜間にドアが開いたことを自動的に検知できる仕組みの導入も検討している。現在、会議室に開閉センサーを取り付けて、実用性を検証しているところだ。

熊谷氏は「Gravioが備える機能をさらに有効活用することで、患者さんに提供するサービスの質や、当院のスタッフの業務効率をさらに向上できるのではないかと考えています。またGravioのような仕組みは当院のような小規模な医療機関だけでなく、多くのスタッフや患者さんが出入りする大病院でこそ威力を発揮するのではないかと思います」と話す。

「例えば病院職員の夜間の出入りや、院内の各施設への出入りの管理をIDカードやパスワードの代わりにGravio Enterprise AI Editionの顔認証で行えば、とてもシンプルでかつ強度の高いセキュリティ対策が実現できるのではないでしょうか」(熊谷氏)

「当院でもすでにデンセツさんにお願いして、夜間に緊急招集される医師や検査技師が顔認証で自動的に開錠・入館できるようにしてもらっています。これで入館時間も記録されますので、今後は職員すべてを登録して『働き方改革』にも活用出来るのではと考えています」(熊谷氏)

また、デンセツ工業はGravioに「とても大きな可能性」を感じ、2021年11月にアステリアと販売代理店契約を締結した。

柳元氏は「今後は新成病院様に導入した『徘徊検知ソリューション』を軸に、九州エリアの中小規模の医療機関やサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)でも導入可能な、カメラAIによる顔認証を活用した徘徊検知ソリューションを展開していきたいと考えています。また、同じく今回新成病院様向けに導入したCO₂センサーを使った3密検知ソリューションも、病院をはじめとしたさまざまなお客様のお役に立てると考えています」と、今後の展望を語った。

そのほか、一般財団法人 児玉報謝会 新成病院でのGravio活用におけるインタビューは、Gravioのウェブサイト上で公開されている。あわせて、チェックしてみてほしい。

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