2022.11.08 / 更新日:2022.11.08
川崎フロンターレが考えるニューノーマルな観戦スタイル! サッカー観戦に安心と快適を
コロナ禍により、この2年ほど大規模なイベントでは厳しい人数制限が課せられていたが、最近になってそうした規制が少しずつ緩和されてきている。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)においても、今シーズンからはスタジアム収容人数100%の有観客開催も再開している。
こうした規制緩和の動きは、もちろん喜ばしいニュースではあるものの、会場となるスタジアムでは、安心して観戦できるよう、密の発生を回避する感染対策がこれまで以上に求められる。
そうした背景を受け、株式会社川崎フロンターレと岡谷エレクトロニクス株式会社は、IoTエッジプラットフォーム「Gravio(グラヴィオ)」を利用した「トイレ利用状況可視化システム」を開発。川崎フロンターレのホームスタジアムである等々力陸上競技場にて実証実験を開始した(5月14日〜今シーズン終了までの計12試合の予定)。
今回は、川崎フロンターレ対湘南ベルマーレの試合が開催された5月25日に、等々力陸上競技場において実施された実証実験の様子をレポートする。
さらに、川崎フロンターレ営業部の宮沢 司氏と、岡谷エレクトロニクスの永畑直樹氏へのインタビューも実施。川崎フロンターレが創ろうとする「ニューノーマルな観戦スタイル」について詳しく伺った。
トイレ利用状況を可視化し混雑を避ける
今回の「トイレ利用状況可視化システム」とは、トイレの“個室”の利用状況をセンシングし、可視化するというもの。これにより観戦者は、自身のモバイル端末からリアルタイムで個室の利用状況を確認できるので、「密」を避けて安心安全にトイレを利用できるようになる。
特設サイト「等々力陸上競技場メインスタンド トイレ利用状況」
https://kawasakifrontalestorage.z11.web.core.windows.net/
今回の実証実験に活用されているのは、アステリア株式会社が提供し、岡谷エレクトロニクスが販売代理店をつとめるIoTエッジプラットフォーム「Gravio」だ。岡谷エレクトロニクスが川崎フロンターレのクラブパートナーであることから、今回の導入が実現した。
実験の対象となるのは、メインスタンドにある「メインスタンド北側女子トイレ」「メインスタンド南側女子トイレ」「メインスタンド北側男子トイレ」の3ヵ所。トイレ個室の合計 94ヵ所と大規模な実証実験である。
実際に、どのような機器によってセンシングが行われているのかご紹介しよう。
こちらは、メインスタンド北側女子トイレの様子。個室の利用状況は、ドア上部に設置されているセンサーによって検知されている。
ドア上部に設置されたGravioの開閉センサー。個室に利用者が入ってドアが閉まると、センサーがそれを検知して「使用中」というデータを送信するという仕組みだ。
なお、トイレ内にある授乳室にもセンサーが設置されており、同様にモバイル端末から空き状況を確認することができる。
各トイレフロアには1つずつ、このようなボックスが設置されており、中には産業用PCと、インターネットに接続するためのモバイルルーターが収納されている。
このPCがいわゆるゲートウェイの役割を担っており、各センサーが取得したデータは、このPCを経由して「Microsoft Azure」へと送られる。そして、そのデータベースを使ってモバイル端末で確認できるようになっているのだ。
スタジアム内には数ヵ所でポスターを掲示しており、QRコードをスキャンすることでも、観客自身のスマートフォンでの閲覧が可能となる。
🚾トイレの混雑状況可視化トライアル実施❗️
岡谷エレクトロニクス様ご協力のもとメインスタンド一部トイレの混雑状況可視化のトライアルを実施しています‼️
⏬混雑状況の確認はこちら📱https://t.co/B1V80TKpc4
⏬アンケートのご協力もお願いします📋https://t.co/PcjCG74ThY
【チケット】#frontale pic.twitter.com/nFiQ7IF1pz— 川崎フロンターレ (@frontale_staff) May 25, 2022
また、試合当日には川崎フロンターレの公式Twitterで今回のトライアルについて発信したり、試合前に大型ビジョンで映し出したりしており、告知にも力を入れている。
19時に試合が開始され、前半戦が終わるあたりからトイレの利用状況をスマホで確認してみた。
ハーフタイムが始まったタイミングでは「空き」ばかりだった個室も、徐々に「使用中」が目立ち始めた。また、トイレごとの混雑状況を見てみると、混んでいるトイレと空いているトイレとがあるのがわかる。
このように、リアルタイムに利用状況を確認することで、観客は混雑するタイミングを避け、空いているトイレをスムーズに利用することができるというわけだ。
なお実証実験が行われるのは、川崎フロンターレのホームゲームが開催される日のみ。今年の5月14日から始まっており、今シーズン終了までの計12試合で実施予定となっている。
元の観戦スタイルに戻すのではなく、新しい観戦スタイルをつくる
今回の実証実験について、さらにウィズコロナのサッカー観戦について、川崎フロンターレ営業部の宮沢 司氏と、岡谷エレクトロニクスの永畑直樹氏にお話を伺った。
──まずは「サッカー観戦」の現状について教えてください。新型コロナウイルスの感染拡大によって、一時期はリーグ中断という状況まで追い込まれていましたよね?
宮沢氏:はい、2020年2月下旬には、リーグの中断が決定されています。その後、同年7月には再開されましたが、スタジアムに観客を入れずに開催する「リモートマッチ」でした。
そこから入場者数の制限が徐々に緩和されていき、今シーズンからやっと制限付きでの100%収容が可能となりました。
応援スタイルに関しても、現在は声出し応援が禁止されているんですが、2022年6月からは段階的導入に向けた検証が始まる予定であり、少しずつ以前の姿に戻りつつあるという状況です。
──実際にスタジアムに足を運んで応援してくれる人が増えるのは嬉しいですね。
宮沢氏:そうですね。一方で、「安心して観戦できる環境を整えなければ」という責任感もより一層強くなりました。
やはり1万人以上の人を1ヵ所に集めることになるので、どうしても密は生まれてしまいます。特に、室内、かつ多くの人が集まるトイレでの感染対策は目下の課題でした。
これまでも、場内アナウンスで分散利用を呼びかけたりはしていたんですが、どうしても解決できない問題でした。そんなときに、クラブパートナーである岡谷エレクトロニクスさんからGravioを活用した施策の提案をいただいたんです。
トイレの混雑状況をリアルタイムに確認できるのは、ウィズコロナにおける「感染対策」はもちろんのこと、アフターコロナにおける「快適な観戦」を実現できると感じました。
──具体的には、どういうことでしょうか?
宮沢氏:もともとサッカー観戦にはトイレ混雑の問題がありました。サッカー観戦の性質上、お客様はハーフタイムにトイレを済ませようとするからです。
今回のシステムがうまく機能すれば、試合中でも「空いているから」という理由でトイレを利用する人が出てくると思いますし、ハーフタイムの中でも分散利用を促すことができます。
今後コロナが落ち着いて、感染を気にしなくなった状況においても、この仕組みによってお客様に快適性を感じてもらえるんじゃないかと思っています。
──元の観戦スタイルに戻すのではなく、新しい観戦スタイルを確立させるための実証実験でもあるんですね。
スタジアムにおけるGravio活用の可能性
──岡谷エレクトロニクスさんとしては、大規模な取り組みならではの難しさもあったのでしょうか?
永畑氏:そうですね。今回の実証実験では、ピーク時の利用者数が非常に多いという特徴があったり、公的な施設のため(註:等々力陸上競技場は川崎市が所有)注意すべきことがいろいろあったりと、特殊な条件下での導入でした。
とはいえ当社はインテルの正規代理店であり、比較的過酷な使用環境でも問題なく利用可能なPCの提案は得意ですし、Wi-Fiのない場所でも当社取り扱いのLTEルーターを利用して安定した接続環境を構築できます。つまり、当社の強みを生かして堅牢性の高い環境を実現しつつ、モバイルページの作成なども含めて、課題に対するワンストップサービスを提供できたのではないかと思います。
──今回の実証実験ではGravioの開閉センサーを使った「トイレの利用状況可視化」にフォーカスされていますが、今後、Gravioの活用方法として、どのような可能性がありますか?
永畑氏:すぐに実施できそうなのは、CO2のセンシングでしょうか。VIPルームや選手控室などの個室にセンサーを設置して、CO2濃度が高くなれば換気をするように注意喚起を行うなどのシステムは有効だと思います。
あとは、スタジアム内ではありませんが、川崎フロンターレさんが運営しているカフェ「FRO CAFE」があり、その店内に人感センサーやカメラAIを設置して、案内板に空席を表示させるといったシステムも面白いと思います。
──なるほど、Gravioを活用することで、いろいろとDXが進みそうですね。
宮沢氏:トライアルを開始してまだ間もないですが、すでにSNSでは「こういうサービスがほしかった」などの好意的な反応をいただいています。
今回の実証実験では、ご利用いただいたお客様にアンケートをとっているので、そこで寄せられたご意見なども取り入れながら、観戦体験のクオリティを向上させるための施策を考え続けていきたいと思っています。
そして、そのときには是非、岡谷エレクトロニクスさんにご協力いただきたいな、と。
永畑氏:何でもやりますよ(笑)。
スポーツのさらなる価値を提供するために
宮沢氏はインタビューの最後に、社会に提供するスポーツの価値として、川崎フロンターレのミッションを挙げた。「スポーツの力で、人を、この街を、もっと笑顔に」。
「スポーツのある日常が戻りつつある今、あらためてスポーツを通して感動し、喜びを感じて、笑顔になってもらいたい」。そう力強く話してくれた。
Gravioを活用した今回の実証実験は、これからのスポーツシーンを守り、より発展させていくための足がかりとなるだろう。トライアルはまだ始まったばかり。これからの川崎フロンターレと岡谷エレクトロニクスの取り組みに注目したい。
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