2022.09.29 / 更新日:2022.10.17
アステリアが目指す「つながる」社会とノーコード開発が実現するDX 平野洋一郎氏インタビュー
データ連携ツールのEAI(Enterprise Application Integration)やESB(Enterprise Service Bus)製品の国内市場において15年連続シェアNo.1である「ASTERIA Warp(アステリア ワープ)」を開発、販売しているアステリア株式会社は、1998年に創業されました。当時、世の大手IT企業は囲い込み戦略に走る中、平野洋一郎氏は異なるソフトウェアメーカーの製品同士をつなぐために独立したのです。
現在は、約1万社が利用するASTERIA Warpを筆頭に、モバイルアプリ作成ツール「Platio(プラティオ)」やエッジインテグレーションプラットフォーム「Gravio(グラヴィオ)」など大人気サービスをいくつも提供するほどに成長しました。
平野氏がどんな経緯で大企業から独立し、どんな想いでプロダクトを開発しているのか。そして、アステリアの考えるDX(デジタル・トランスフォーメーション)について伺いました。
アステリア株式会社 代表取締役社長/CEO 平野洋一郎氏
熊本県生まれ。熊本高校を卒業後、熊本大学工学部を中退し、熊本市内でソフトウェア開発ベンチャー設立に参画。1987年〜98年、ロータス株式会社(現:日本IBM)でのプロダクトマーケティングおよび戦略企画の要職を歴任。 1998年、インフォテリア(現:アステリア)株式会社創業。2007年、東証マザーズに上場。2018年、東証1部(現:東証プライム)上場。公職として、ブロックチェーン推進協会代表理事、先端IT活用推進コンソーシアム副会長、日本データマネジメント協会理事、MIJS理事、熊本同友会常任理事などを務める。
アステリア株式会社 https://www.asteria.com/
「つなぐ」というミッションを実現するためアステリアを創業
平野氏はアステリアを創業する以前に、ロータス株式会社で働いていました。1990年台にロータスは「Lotus Notes」というグループウェアが大ブレイク。富士通の「TeamWARE」、NECの「StarOffice」、マイクロソフトの「Microsoft Exchange Server」といった製品もあったのですが、全世界シェア50%以上と完全にLotus Notesの独壇場だったのです。
グループウェアにはチームで利用するメールやスケジュール、データベース、ワークフローなど、さまざまなツールが統合されています。もちろん、同じメーカーの製品同士ではつながっているのですが、メーカーが異なると互換性がなく、つなげることはできませんでした。ロータスでも他の会社でも、自社の製品で統一してもらえれば素晴らしい世界が実現できます、と陣取り合戦をしていたのです。
1990年代後半、インターネットが普及しはじめ、自社グループだけでなく、顧客や取引先にもインターネットが導入されるようになりました。それでも状況は変わらず、グループウェアのメーカーが異なれば、つながることはできませんでした。
当時、Lotus Notesのマーケティングは囲い込み戦略で全世界シェア50%以上を獲得し、とてもうまくいっていたのです。その状態で、「他につながる口を作る、というのはとんでもない」と考えられました。「ソフトウェアメーカー同士が変わらないなら、データ領域で互換性を取り、つなげるという方法がある」と平野氏は考えていました。そして1998年2月、XML 1.0が策定されました。XMLは拡張可能なマークアップ言語で、メーカーはもちろん、OSやアプリケーションソフトウェアにも非依存という特徴を持っています。平野氏はこの非依存性を活かして、さまざまなソフトウェアをつないでいこうと考えました。
しかし、XMLでつなげるというサービスを特定の大手メーカーが手がけると、どこであれ当然、我田引水的な動きをすることは予想できました。そこで平野氏はどこにも属さず、「つなぐ」というミッションに集中するため、独立したのです。創業はXMLがお目見えした同年、1998年9月でした。
「XMLでさまざまなアプリケーションをつないでいきたい、これが最初の念(おも)いです」と平野氏は回想します。
「グループウェア同士がつながらない」という課題に加えて、「エンジニアが何万人も足りない」という社会課題もありました。エンジニア不足は今でも言われていますが、23年前から同じ状況だったとは驚きです。しかし、平野氏はこの状況を予測していました。「今後もずっと社会はエンジニアが足りないと言い続けるのではないか」と感じたそうです。
ASTERIA R2をリリースすると、「システム開発の工数が減ると、売上も下がる」と、システム開発会社からクレームがあったそうです。それほど社会的インパクトのあるプロダクトだったということが伺えます。
当時もローコードで開発できる、超高速開発環境はありました。しかし、ローコードではコードを書く量が減っても、結局エンジニアしか使えません。あくまでも平野氏は、エンジニア以外でも使えるように、コードを書く部分を無くすことにこだわったのです。
初年度は風当たりも強く、契約したユーザー企業は20社。しかし、年々採用する企業が増え、今では約1万社が利用するほどになっています。
その後も、将来必要だと考えるツールを企画し、開発を続け、2009年にはモバイルコンテンツ管理システム「Handbook」、2016年にはモバイルアプリ開発ツール「Platio」、2017年にはエッジコンピューティング用ミドルウェア「Gravio」などの提供がはじまっています。
ヒットを連発し、長く使われるツールを生み出している秘訣は、開発時に市場ニーズを「聞かない」ことだそう。世の常識と逆になりますが、最初のバージョンを作るときには、「あえて顧客の意見は聞かないようにする」と平野氏は語ります。企画するメンバーで未来のことだけを考え、5年、10年と使える技術で開発するそうです。
いかにアステリアが先見の明を持っているかがわかる開発スタイルと言えるでしょう。
コロナ禍でアステリア製品の売上げが激増、Gravioは約2倍に
DXで最も大切なのは、データの連携です。よくデータはビジネスの血液と言われますが、血流をどうするのかが重要。分散するデータをきちんと流すのが、「ASTERIA Warp」であり、「Platio」であり、「Gravio」なのです。
コロナ禍でテレワークが広まるにつれ、データ連携のニーズが爆発的に高まりました。Platioにより従業員が検温の報告をしたり、Gravioにより店舗や会議室のCO2濃度を計測するといったことが可能になります。
アステリアでは、テレワーク中のオフィスに郵送物が届くと、部門ごとの箱に入れ、その際スイッチを押してもらうことで、メンバーにSlackで通知が飛ぶようにしています。また、オフィスの玄関に設置したGravioの顔認証カメラAIで認識し、社員の誰が出社したかをSlackで通知することもできます。
CO2センサーやCO2濃度の表示器は多々ありますが、Gravioというハブを介することで、リアルタイムの数値だけでなく、ログが取れます。複数のセンサーを設置すれば、経時変化やデータの分析もできるなど、コンピュータならではの使い方ができるのがGravioなのです。
コロナ禍で「ASTERIA Warp」の売上は前年比で40%アップしました。これだけでもすごいのですが、「Platio」は70%以上、「Gravio」は約2倍になっているそうです。
業績アップも素晴らしいのですが、コロナ禍でもう1つ先見の明が光るエピソードがあります。なんと、アステリアが全社員にテレワークを推奨したのは2020年1月31日なのです。緊急事態宣言が出たのは4月7日ですから、日本企業としてはとても早いタイミングと言えるでしょう。
なぜ突発的な事態にすぐ対応できたのでしょうか。これには2つ理由があります。1つ目が、テレワークの取り組みです。アステリアでは2011年の東日本大震災をきっかけにBCP(事業継続計画)対策としてiPadを配布し、テレワーク環境を整えました。
言ってみれば、長年テレワークの予行演習を行っていたので、スムーズに完全テレワークを実現できたのです。
もう1つが、中国・浙江省杭州市にオフィスを持っていたことで、現地の情報がリアルタイムで入ってきたことです。毎日届く状況報告を見た平野氏は、対岸の火事で済まないと判断したそうです。中国にアンテナがあるアステリアの強みと、そのレポートをきちんと分析し、対応できる平野氏の判断力がスピーディな対応を実現しました。
アステリアが目指すのは「4D」そして自律・分散・協調の社会
コロナ禍の影響が収まり始め、世間は徐々にウィズコロナ、アフターコロナといった雰囲気になってきました。すると、一定の割合で、元のビジネススタイルに戻るという人が出てきます。経営者の中にも相当数がいるそうです。しかし、平野氏は、そうじゃない、と首を振ります。
世の中が不可逆にデジタル化していく中、アステリアは「攻めの経営」を続けます。コロナ禍以前からずっと、先行投資型の経営をしているのです。受託開発であれば注文書をもらってから開発しますが、ソフトウェアのパッケージ開発には注文書はありません。自分たちのビジョンに沿って企画、開発します。
この原資には投資事業の利益が当てられているそうです。2019年からアステリアが知見のある4Dの領域へ投資しています。4Dとは「Data、Device、Decentralized、Design」です。データのみが企業のIT資産となり、デバイスが不可欠なインフラになります。分散して協調ができる「個」の時代、そして「デザインファースト」の時代になると未来予測しているのです。
2021年は売上も利益も予想以上となり、投資事業の利益は前年比で4倍になりました。そのおかげで前年度はマーケティングに4億円以上の先行投資をしたそうです。
今でこそ、ITトレンドのキーワードとなっている「自律・分散・協調」という言葉ですが、平野氏は創業時の23年前から言っていたそうです。組織があって仕事がある時代から、仕事があって組織がある時代になると考え、アステリアはそこに貢献するプロダクトをぶれずに作り続けています。しかし、今でもまだ不十分だと平野氏は言います。
アステリアは2015年、ブロックチェーンにコミットしましたが、これは日本の上場企業では第1号でした。その後、平野氏は「なぜブロックチェーンが流行るとわかったのですか」とよく聞かれたそうですが、「仮想通貨が流行ると予想したのではなく、自律・分散・協調の社会の中で、ブロックチェーンの役割が重要になると確信したのでコミットした」とのことです。
平野氏は、そう力強くインタビューを締め括ってくれました。
未来を予測する卓越した力で、これから到来する新たな社会を支えるプロダクトを作り続けているアステリア。今後もITの最前線で注目を集めていくことは間違いなさそうです。
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